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plumeria

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<sideあきら>

新年を海外で過ごして戻って来たのは1月5日。
明日は仕事始めだから早く休もうと自分の部屋で寛いでいた。

子供達はとっくに夢の中、仁美はバスルームから出てきたばかりでドレッサーの前で就寝準備中・・・俺はベッドに座ってスマホの画面を眺めていた。

それは家族旅行の最中にあった総二郎からの連絡で、司と類に紫音たちの事を話したと言うメッセージ。2人は牧野の事でもかなり怒っていたから次に会う時は覚悟しておけ、と・・・。


「・・・ったく、なんで俺がここまで責められないといけないんだよ・・・助けたって何回も説明したのに」

「あら、どうかしたの?あきらさん」

「いや、幼馴染みに双子の話をしたんだ。もう総二郎にも知られたから隠せなくてね。でも、口止めしてあるから噂が広まることはない。心配しなくていいよ」

「・・・そうなのね。でもいずれは判るんですもの、怖がっても仕方ないわ」

「まぁな」


仁美もベッドにやってきて、もう寝ようかと思った時、庭の方でザワザワと人が動く気配がした。
こんな時間に何事だ?と窓を開けて見ると警備員達が庭を走っている。それと同時に部屋をノックされ、仁美が慌ててガウンを羽織った。

急いでドアを開けると立っていたのは警備室の責任者で「遅くに申し訳ありません」と低い声で話しかけてきた。


「どうした?何かあったのか?」
「はい。実は監視カメラに不審な人物が映り込みましたので確認中なのですが、あきら様のお部屋には異常はございませんか?」

「あぁ、特に何も無い。親父達に確認したのか?」
「はい。社長のお部屋にも異常はございません。お子様のお部屋も使用人に確認しましたが何もありませんでした」

「屋敷内に侵入したのか?」
「念の為確認はしていますが侵入の形跡はございません。ただ、最近頻繁にこのような事がありまして」


警備責任者の言葉に眉根を顰めた。
俺自身は初めてそれを聞いたが、後ろに控えていた仁美は知っていたようで、ガウンの前を握り締めて俺の横に立った。


「またですか?」
「・・・またって?」

「はい、昨年末にも夕刻にそのような事がありました。若奥様もご覧になっていますが、その時はイルミネーションの見物だろうと思いましたのであきら様にはご報告していなかったのですが」

その時の仁美の表情・・・何故かすごく怖がっていた。
警備の人間が目の前にいるのに俺のガウンの袖を持って震えている、そんな態度を他人の前で取ることがない女性だったから驚いた。


「頻繁にと言ったが、その日と今日だけ?」

「いえ、それが皆様が海外へお出掛けの時も2~3度あったんです。モニターにチラッと映るだけでしたから特定できなかったのですが、背格好が似ている気がしまして。もしかしたら同一人物かもしれないと思い、明日になったら社長とあきら様に報告書を提出する予定でした」

「それなのにたった今も映ったって事か?」

「そうなのです。明日から暫くの間、門前に警備員を立たせます」
「あぁ、そうしてくれ。何かあってからじゃ遅いからな」


同じ事を今から親父達に報告すると言って警備責任者は俺達の部屋を後にした。
もう大丈夫だと言うのに震えている仁美・・・彼女はハッと顔を上げたら子供達の部屋に向かって走っていった。

その顔は3年前に戻ったかのよう・・・俺も慌てて仁美の後を追いかけた。


紫音と花音のベッドの横に座って小さな寝顔を覗き込んでいる。
そっと髪を撫でて頬を撫でて・・・その時の微笑みは少し悲しそうに見えた。


「どうしたんだ、仁美・・・何かあったのか?」

「・・・いいえ、何も無いわ。ただ、この幸せを壊したくないだけ・・・」

「・・・・・・?」


わざわざ壊したりはしない。
壊したりはしないが、前から話してあるはずだ。

もしかしたら紫音と花音は西門に・・・総二郎の手元に返す日が来るかもしれないと。

本当にそんな日が来るかどうかはまだ判らない。
ただ2人が出会ってしまったんだ・・・少し運命が変わるかもしれない、それは感じていた。


さっきの不審者と双子の事を結び付ける仁美の心の内は見えなかったけど、俺も漠然とした不安に駆られた。




*********************




新しい年になってから数日後の夜、私は久しぶりに「夢の屋」に電話を入れた。

総と再会した事を報告してもいいだろう、そう思ったから。
女将さんには西門の話もしていたし、あれだけ心配掛けたんだもの・・・世間に堂々と話せない関係でも今は幸せだと伝えたかった。

その電話のコールは数回・・・ちょっとドキドキした。


『もしもし・・・?』
「あ、女将さん?ご無沙汰しています、牧野です。牧野つくしです」

『・・・あぁ、驚いた!本当につくしちゃんなんだね?どうしたの、元気してるの?』
「はい、元気にしています。新年、明けましておめでとうございます。女将さんはお元気ですか?」

『あぁ、おめでとうだねぇ!もうっ・・・驚きすぎて挨拶も忘れてたよ!』

電話の向こうの懐かしい声・・・もしかしたら泣いてるのかもしれないと感じさせる鼻水を啜る音につられて、私まで目頭が熱くなった。今は忙しくないかと聞けば、丁度今日の仕事が終わって部屋に戻ったところだと言われた。
肝心な事を言う前に美紀さんや料理長の事を尋ねると「誰ひとり変わりはないよ」と明るい口調で言われ一安心・・・。

私の住んでいた部屋にはあれから誰も来てくれないと淋しそうに言われた。

どのくらい喋っていたんだろう。
掛けたのは私なのに女将さんの話が止まらない。でも、それも懐かしくて相槌を打ちながら黙って聞いていた。それこそ今日のお客さんの愚痴まで・・・自分のペースでお構いなしに話すのを聞いていたら可笑しくなって、女将さんに聞こえないように口を押さえて笑ってしまった。
女将さんの興奮も治まった頃に、やっと自分の事を話そうと電話を持つ手に力が入った。


「あのね、女将さん・・・ご報告があるんです」
『・・・どうしたの?何かあったの?・・・あっ、もしかして子供を引き取ったのかい?』

「あっ、子供達は元気だけどあのままです。本当に大きくなりました・・・でも、美作のままです」
『あぁ、そうなのかい・・・じゃあ、なんの話・・・あ、まさかそっちで見掛けたのかい?』

「え?何の事?」

『・・・あぁ、いや何でもないよ。ごめんごめん・・・で、何の報告なの?』


・・・・・・?女将さんは何を言いかけたのかしら?

女将さんの言い方が慌てた感じでおかしかったから思わず電話を持ち直した。でも、すぐに頭の中は伝えたい話で一杯になったから、女将さんの様子が変わった事は吹き飛んでしまった。

何処から話そう・・・色々考えて掛けたつもりなのにいざとなったら言葉に詰まる。
『どうしたんだい?』って面白そうに笑う女将さんの声が、この先どう変わるかと思うとちょっとだけ怖かった。

「実は・・・子供達の父親の西門さんに再会したんです。去年の12月・・・偶然美作さんの自宅に居た時に彼が現れて・・・」
『・・・え?あ、あの茶道の人かい?』

「はい。今、私の住んでる場所にも来てくれています。気持ちは変わらないからって・・・」
『でも、その人は確か・・・』

「えぇ・・・結婚しちゃいました。奥さんが・・・居ます」
『・・・・・・・・・』


女将さんが黙った・・・『それはいけないよ、つくしちゃん』って言いたいのを我慢してるんだろうと思う・・・。
多分女将さんはそういうの、許せない人だろうから。

たとえ気持ちが無い夫婦でも、問題が起きたら私が責められる、そう言いたいんだろう。だけどこれまでのことを全部知っているから何も言わずに黙ってるんだ。
それでもいい・・・呆れられてもいいから報告しておきたかった。


『・・・それで、子供の事はどうするって?』
「子供達の事は話していません。でも、美作さんの家に子供が居ることもバレてしまったから変だとは思ってるみたいですね。気が付いてるのかしら・・・それも確かめられないから聞いてはいないけど」

『話してないって・・・!だってその人の子供だろう?その男にも責任はあるんだよ?それに教えないのも罪だよ?!』
「うん・・・判ってます。でも突然すぎて言えなかったんです。それに子供達は本当に幸せに暮らしてますから、それを守りたかったって言うのはあります」

『言わないつもりなの?それで、この先はどうするの?あんたの事は・・・あんたの事はどう考えてるの?』
「いずれ奥さんと離婚するつもりだって言ってます。もともと私を見付けたらそうするつもりだったって・・・でも、難しいと思うんだけど」

『つくしちゃんの事は大事だって言ってくれてるの?守ってくれそうかい?でも、今はその・・・会ってたりしたら・・・』
「はい。不倫・・・って言われればその通りです。私、愛人って呼ばれるんでしょうね」


電話の向こうから何も聞こえなくなった。
小さなため息が掠れた音で私の耳に届く・・・私も何も言えなくなった。

もう1人のお母さんのように思っていた女将さんをここまで悲しませた・・・先日のお母さんの涙を思い出してしまう。私の恋はどれだけの人を泣かせてしまうんだろうかと、心が締め付けられるように痛かった。


『・・・・・・それでも良かったのかい?』


やっと出た女将さんの言葉・・・怒鳴るかと思ったのに優しい声。
それを聞いた瞬間、私の頬には涙が流れていた。




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