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<side家元夫人>

「あら、お義母様・・・本日はお出掛けのご予定がありましたかしら?」

私が訪問着に着替えて玄関に向かう途中、紫さんに声を掛けられた。

相変わらず表情の無いこと・・・。
この屋敷に住むようになってからずっとそう思ってきたけど、結婚したら少しは変わるのかと思えばそうでも無い。むしろこれで新婚なのかと思うほど冷めた表情なのが気になっていた。

いえ、それは総二郎さんがこの人を避け続けているのだから仕方が無い・・・家元が決めたから仕方なく従ってきたけれど、本当はこの人が苦手だった。
「お義母様」と優しく言ってくれている声の何処かに冷たさも同時に感じてしまう。それが何故なのかよく判らないけれど、西門に対する「反発」のような感情を抱いてるような気がしてならなかった。


「あぁ、今日は少し時間が出来たので美作に昨年のお詫びを言いに行こうと思って。夢子さんはお仕事で居ないはずだけど、あきら君の奥様ならいつも自宅に居るって聞いていますからね」

「・・・あぁ、あのお誕生日の時のですか?総二郎さんが病院に運ばれたという・・・」

「えぇ、あなたも妻としてご一緒します?」

「いえ・・・今日は少し頭痛がするので止めておきますわ。それに美作様の奥様に余計な言葉をお出ししてもいけませんので」

「余計な言葉?あら・・・どんな?」


本当は妻であるあなたがする事では無いのかしら、と思うのを言葉には出さなかった。

私自らが美作家に出向く理由に、総二郎さんの同級生の様子を見てみたいという気持ちがあったから・・・その為に紫さんに言わなかっただけ。
あきら君は昔からの親友であの子が1番心を許していた人。そのあきら君の家庭の様子・・・どんな風に奥様と暮らしているのか知りたかった。

その奥様に「余計な言葉」・・・この人は一体何を言い出すのかと、草履を履こうとした足が止まった。


「美作様の奥様はご病気のためにお子様が望めなくなったそうですから。同じ立場になったものですからその辛さが良く判りますの。そのようなお話しになったら言葉を選びにくいのでまだご遠慮しておきます。
もう随分と年数が経っていますから落ち着かれてるかもしれませんけれど・・・」

「えっ?そんな事があったの?美作からは何も聞いてはいないけど?」

「奥様のご病気のことは隠していらっしゃらないようですが、公表もしていないようですわ。最近では余計に周りの方々が気を遣って何も聞かないのじゃないかしら・・・焦らせてしまうでしょう?
そのお気持ちは私にも判るのです。私達の場合は総二郎さんが私の事を気に入らないからですけれど・・・」

「あ、あら、そんな事はないと思うのよ?気難しい子だからそう思うだけよ。ごめんなさいね、紫さん」

「・・・でもお会いしてからもう4年ですもの。私も世間では何と言われているのかと思うと外出も恥ずかしゅうございます」


そう言って私に背を向けて奥に行ってしまった。
その後ろ姿に掛ける言葉なんてなかった。

この家に嫁いだ者として、妊娠の報告が出来ない事の苦しさはわかる気がする・・・。
幸い私はすぐに祥一郎さんが産まれたからそんな思いはしなくて良かったけど、紫さんは婚約時期からもう3年以上経つのだもの。入籍したという事で離れに若夫婦の住まいを用意したけれど、総二郎さんの様子から2人に夫婦としての関係があるのかどうかは疑わしかった。


「家元夫人、如何されました?」
「え?あぁ、志乃さん。お待たせしましたわね、参りましょうか」

「はい。お車はもう表に来ておりますわ」


同行する志乃さんに声を掛けられて、漸く私は玄関を出た。


**


「久しぶりですわね、美作様のお屋敷に足を運ばれるのは数年ぶりですねぇ」

「・・・そうね。総二郎さんがまだ高校生ぐらいの時に来て以来かしら」
「そうでしたかしら?でも、連絡もせずに宜しかったのですか?突然家元夫人がご訪問となると若奥様、驚かれますよ?」

「ほほほ・・・長居などしませんし、お詫びの言葉を出したらすぐに帰ります。心配しなくても大丈夫でしょ。それに総二郎さんがご迷惑かけてからもう1ヶ月ですもの、仰々しく連絡して行くのも変だから」

「あら、もうお屋敷が見えてきましたわ」


志乃さんが言うように大きな洋館が見えてきた。
明るく華やかな造りの建物に開放的な庭・・・昔のままの美作家。

美作家は昔から大らかで明るい、うちとは正反対のイメージ・・・羨ましいと思う気持ちも少しはある。
だから夢子さんにも対抗心のようなものがあって意地を張った時もあった。
彼女は気が付いて無いかもしれないけど、自由な家風よりも西門のような伝統を守り続ける家の方が格が上なのだと・・・自分の中だけでそう思うことにして見下した態度も取ってきた。

それなのにあきら君の方が早くに結婚して、夫婦仲の良さは私の耳にも入っていたから余計に悔しかった。でもさっきの紫さんの言葉で、何処の家にも思うようにならない苦労はあるのだと・・・そう思うと自分の中の闘争心のようなものは無くなってしまった。


でも、やっぱり見てみたい。
どんな人なのかしら・・・あきら君とは本当に仲良くしているのかしら。


幸せ・・・なのかしら。


そして美作に着いた時、志乃さんがインターホンで用件を伝え、門が開くのを待っていた時・・・可愛らしい声を聞いた。


「しょーーん!ここにもあったよ~!」
「どこぉ?かのん、どこにあったのぉ?!」


小さな子供が2人・・・お屋敷の中庭に続いている場所で遊んでいるのが見えた。




**********************




研修所の休憩室で数人のおばさんが集まっているのを見付けた。
その横を通り過ぎる時にチラッと見てしまったのは結婚式場のパンフレット・・・この中の誰かの子供さんの結婚が決まったんだって思った。

その類いの話は私にとって辛いものだったから、話し掛けずに取り過ぎようとしたら逆に捕まってしまった。


「ねぇねぇ、春ちゃん!春ちゃんの意見も聞いてみたいわ!」
「・・・は?私の意見?」

「そうねぇ、田中さんなら歳も近いしねぇ!」
「宮島さんの息子さんが結婚するんだって。その披露宴の事なんだけどさ、相手が九州のお嬢さんらしくて風習が違うって揉めてるんだって」

「あら、おめでとうございます!お相手が九州の方なんですね?」


私の前に差し出された披露宴の写真・・・そこに写る幸せそうな新郎新婦の笑顔と総が重なった。

真っ白なウエディングドレス・・・確か式は11月だったけど、年が明けたら披露宴を盛大にするんだって言ってたっけ。その日程なんて総は私には言わないけど、そんなに遠い日じゃないだろう。
茶会の多い春を迎える前・・・そう思うけど怖くて確認していなかった。


こんなタキシード着るのかしら・・・隣に奥さんを連れた総が?


「・・・・・・だと、思わない?ねぇ、春ちゃんったら!聞いてる?」

「・・・・・・」

「やだ、春ちゃん?どうしたの?」
「・・・あっ、ご、ごめんなさい!聞いてなかった・・・えっと、なんでしたっけ?」

「あははは!年頃だから憧れるんでしょ?大丈夫よ、春ちゃんもそのうち着られるって!」
「あは・・・ははは!そうだといいんですけど」

この後も披露宴の話は続いたけど、私は意見なんて出せなかった。
おばさん達の会話に適当に頷くだけで上の空・・・頭の中には総が紫さんの腕を取ってみんなに祝ってもらっている姿が浮かんでいた。

嬉しそうじゃない総の顔・・・だけど、間違いなくそれは披露宴なんだ。

そんな日が近づいてる。
また私の所に来る時間が減っちゃうんだと思うと、おばさん達に見せてる笑顔が引き攣りそう・・・。


「うわっ、このドレス可愛いわねぇ!春ちゃんならこんな感じが似合うんじゃない?」
「・・・え?どれ・・・あぁ、これ?あはは!可愛いですねぇ!」

「本当ね!春ちゃんはどっちかって言うと幼い顔立ちだからこんなフワッとしたのが似合いそうねぇ!」
「・・・そうかなぁ?でも、彼はどっちかって言うとオトナっぽい感じが好きなんだと思うけど・・・」


「あら!そんな話が出てるのぉ?」なんて言うおばさん達の言葉は耳に入ってなくて、雑誌の中の花嫁さんを見ていた。

私ならこんなレースの長袖にプリンセスラインのドレスがいいな・・・。
スタイルなんて良くないからスレンダーラインなんて無理だわ。後ろがこんなに長いと動けないかも・・・もしかしたら膝丈のミニドレスでもいいかも。あぁ、それはもうこの歳じゃ無理?

ふふっ・・・馬鹿だなぁ、そんなの全然予定無いのに。


総がドレスを選ぶのかしら・・・。
こんなのを彼も見てるのかしら・・・紫さんに似合う物を探しながらページを捲るの?


もし、そうなら・・・嫌だなぁ。





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