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<side家元夫人>

この家に小さい子供の声がする・・・それに驚いて車の中から奥の庭に目を向けた。
志乃さんも同じように声のする方を覗きこみ、その後に私の方に振り向いて、庭を気にしながら車に戻って来た。

「どなたかお客様でしょうか?やはり連絡してきたら良かったのでは?」
「そうね・・・まぁ、ご挨拶だけしたら帰るからいいでしょう」

「こちらで遊び慣れているお子様のようですわね」
「本当ね」


この会話の最中に門は開けられ、車を敷地内に入れて私は久しぶりにこの屋敷の玄関前に立った。

どことなく温かい空気を感じる・・・西門の張り詰めた空気とは違う、優しい雰囲気。この洋館のせいだろうかと見上げていたら、小さなボールが足元に転がってきた。

志乃さんがそれを拾うと奥の方から現れた小さな身体。
さっきの子供達だわと目を向けると、男の子と女の子が元気よく走り寄って来た。


あら・・・この子達は何処かで見たことがある?


何故かそう思ってしまった。
この顔立ち、あの笑顔・・・どうしてそう思ったのだろう、この子達は凄く・・・似ている。


「こんにちはぁ~!」
「おばちゃん、ボール・・・あっ!こっちまで来てたぁ?」

「えぇ、はい、どうぞ」
「「ありがとう~!」」

「・・・あなた達は・・・」
「いらっしゃいませ、西門様」


私が子供達に声を掛けようとした時に扉が開き、美作家の執事が顔を出した。
その人に目を向けた時には子供達はまた走って奥の庭に向かい、そこに居た若い小柄な使用人が私に頭を下げた。「小夜ちゃん!」って聞こえたのはその使用人だろうか・・・。

そう呼ぶと言うことは美作の子供?
でも、あきら君の奥様はご病気のせいで、と紫さんに聞いたばかりなのに・・・?


「西門様、如何されましたか?」
「家元夫人?」

「え?あぁ・・・申し訳ございません。あの、若奥様はご在宅かしら?昨年総二郎がご迷惑をお掛けしたものですからご挨拶を、と思って参りましたの」

「それはご丁寧に畏れ入ります。それが若奥様、仁美様は本日ご気分が優れなくて朝から伏せっておいでなのです。西門様がお見えになった事をお伝えしたのですが、お休みになっていらっしゃったので少しお待ち下さいと・・・」

「あら、それでしたらお気になさらずに、私共はこれで失礼しますわ。何も言わずに来てしまって逆に申し訳ございませんでしたとお伝えくださいな」

「総二郎様はあの後も問題なくお過ごしでしょうか?結構な高さから落ちてしまわれたので気になっておりましたが」

「ほほほ、元気ですからご心配なく。年末年始の行事が多くてお詫びが遅れましたの。どうぞそのようにお伝えください」

「畏まりました」

そう言いながら視線は子供達の方に・・・使用人があの子達の手を引いて消えて行くのをずっと見ていた。
志乃さんも不思議そうな顔で同じ方向を見ている。この人も私と同じ事を考えたのかしら・・・?


「あの、変な事をお尋ねしますがあの子達は・・・どちらの?」
「・・・美作のお身内筋のお子様としか私にはお答えが出来ません。何か気になりましたか?」

「いえ、そうではないのですが、あきら君にもお子様がいるとは聞いておりませんでしたし、お嬢様はまだご結婚されていないでしょう?だからどなたのお子様かと・・・随分このお屋敷に慣れているように見えましたし」

「小さなお子様は順応性が高いですから・・・」

「・・・そうですわね」


執事の説明も歯切れが悪い事に違和感を感じた。
それよりもやっぱりあの目元はあの子に似ている・・・それが頭から消えなかった。

やはり中に入って待たないかと言う執事の言葉に断りを入れて、志乃さんが手土産だけを渡した。もうそれで引き上げようと車に向かって歩き出した時・・・ふと思い出した。


あの日、牧野さんは急に吐き気に襲われてキッチンに走った。
私には嘔吐下痢症に罹ってしまったと説明したけど、もしかしたら本当は・・・?

さっきの子供達は何歳だろう・・・3歳ぐらい?それなら・・・それなら計算が合うの?まさか・・・まさか、今の子供達は・・・


「家元夫人、どうしたんです?さっきから変ですよ?具合でも悪いのですか?」
「えっ?・・・いえ、そんな事はないわ。大丈夫です、帰りましょう」

「はい・・・」


いえ・・・そんな事があるはずはないわ。
もし、そうだとしてもここに居るはずがない・・・。彼女を美作が匿う理由がないし、総二郎さんの子供をあきら君に渡す訳がない。

そんな馬鹿なこと・・・ある訳がない。
この想像は忘れなければ・・・総二郎さんの妻は紫さんなのだから。


それでもまた振り向いてしまう。
さっきまでそこにあった小さな姿をもう1度見たい・・・それは正直な気持ちだった。




*********************




本邸の事務所では披露宴に向けての準備で気忙しくなってきた。
今度は身内だけじゃなく、あらゆる業界から錚々たるメンバーが顔を揃えるもんだからそいつらの席のことや祝辞、演出なんかで毎日がドタバタだった。

事務長が練り上げた内容を親父が確認し、また訂正が入りやり直し・・・可哀想に俺じゃなくて事務長が死にそうな顔をしてデスクで頭を抱えていた。

招待客は軽く500人を超え、勿論司や類達もブツブツ言いながら「出席」で返事があった。
まぁ・・・来るかどうかなんて判りゃしない。もしかしたらあきらだけって事も充分に考えられた。


「総二郎様・・・どうしましょう?お2人の記念写真がお迎えスペースに必要だそうですが・・・」
「そんな事言っても撮ったことねぇし。やらなくてもいいんじゃね?」

「・・・プロポースの言葉の紹介欄がありますがどうします?」
「悪いが言ってねぇし。それも極秘事項だからって公開不可だな」

「紫様は1度だけお色直しをされますが、総二郎様もお願いしますね?えっと・・・白いタキシードから・・・」
「そんなもの着る訳無いだろ?俺に白のタキシード?冗談じゃねぇっての!」

「総二郎様、誰の披露宴ですか!!」
「・・・気が乗らねぇんだわ」


事務長には親父達と紫の気の済むようにしてくれと言って部屋を出た。

ウエルカムスペースに置く写真・・・そんなものある訳がない。1度だって2人きりで出掛けたことがないんだから。
シャンパンタワーだとか、天井まで聳え立つウエディングケーキにキャンドルサービス・・・俺と紫が並んでするのか?
オープンキッチンのシェフのライブパフォーマンスにプロフィールムービー・・・やりたきゃ勝手にすればいい。

俺にはその時の想像すら出来ない。


真っ白なウエディングドレスは紫を美しく魅せるだろうし、それを誰もが認めるだろう。すげぇ拍手の中を並んで歩き、何処の誰かも判んねぇ奴等に笑顔を振りまく。
「おめでとう」「お幸せに」なんて言葉は雑音として俺の耳に届き、あいつは幸せそうに演技して俺は無言で横に立つだけ・・・それを考えただけでもゾッとした。


嘘っぱちな披露宴に何の意味がある?
本当は紫もそう思ってんじゃねぇのか?

あの能面のような顔の下で藻掻き苦しむ表情をしてるんじゃないだろうか・・・。
夢子おばさんに言われたからなのか、不思議とそんな気がしてならなかった。




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