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<sideあきら>

「あの時の事を知っている人を探していたんですよ」
「ご存じだったんですね・・・」

川崎純子は深いため息を漏らした。
それは残念だとか、悔しいとかって感情じゃなく、もう誰かに話してもいいんだという安心にも似たため息のように感じた。


「いや、詳しくは知りません。2人が何者かに襲われた、その具体的な部分は知らないのです。そしてその時の事が紫さんの西門に対する憎しみの原因なのかも判りません。ただ彼女の胸の中に押し込めている感情が判らない限り、総二郎も紫さんも救えないと思ったんです。
だから話して欲しい・・・もし、それが何も関係ないと判れば聞かなかった事にします」

「・・・先ほども申し上げましたが、私も全部は知りません。聞いた話だけなんです。でも、西門様は・・・関係してると思います」

「え?西門が絡んでいるのですか?」

「・・・はい。あの日、お屋敷には西門の当時のお家元がいらっしゃいましたから・・・」


川崎はやっと重たい口を開いた。


「・・・お亡くなりになった宝生の先代は骨董品がお好きでした。特にお茶碗がお好みでして、茶道家の西門様とも珍しいお茶碗が手に入ればご一緒に眺めては楽しそうにお話をされる仲でした」

「あの日、もしや京都から誰かを連れて宝生家に来たんじゃないですか?」

「はい・・・まだお若い京都の骨董品屋さんを連れて来られました。お名前などは知らないのですけれど、30歳ぐらいの方で、とても骨董品屋さんだと思えない風貌だったのを覚えています」

「やはりそうですか・・・その人は確かに樂茶碗を持って東京に来たようですが、それ以外に宝生家には良いものがあると聞いていたそうです。それが何か判りますか?」

「・・・はぁ、多分ですけれど」


彼女の話によると、宝生家には有名人形師による雛人形で骨董品的価値が高いと先代が自慢していた品があったようだ。何代にも渡り受け継がれてきた割りには痛みもなく、大事に守ってきたのだとか。
それを見たい人が居るから出しておけと先代から指示をされ、梅雨時期だったのでカビなどが発生しないようにと気を遣ったので覚えていたらしい。

てっきりこの京都からの客が雛人形を見たいと言ったのだろうと、西門の家元と屋敷を訪れてきた時、大広間に並べたのだそうだ。


「それで、京都の明日香堂がそれを欲しがったのですか?」

「いえ・・・私達はお声が掛かるのを待っていたのですが、誰も見に来ないし、おかしいなぁと思って待機していました。
その時にお嬢様のお部屋の方から悲鳴が聞こえたのです。泣き叫ぶ声・・・紫様と薫ちゃんでした。それで慌てて見に行きましたらお嬢様が薫ちゃんを抱きかかえて放心状態だったんです。その・・・服が乱れていて、何が起きたのか判ったのですけれど、お歳がお歳ですから信じられなくて・・・」

「明日香堂の人間の仕業・・・と言う事ですか?」

「それは判りません。そこにはお嬢様と薫ちゃんの他は誰も居ませんでしたし、お庭が荒れていたので逃げたのだろうと話したんです。私の他にもう1人・・・今でも宝生にいる人が駆けつけて来たので一緒に見ました。でも彼女はすぐに旦那様達を呼びに言って帰って来ませんでしたから、私が暫くお嬢様達の所に居たんです」


この人も犯人は見ていない・・・だが、西門の先代がそんな事をする訳がないからやはりここは明日香堂の息子の仕業と考えるのが妥当だろう。宝生でとんでもない事をしたから慌てて逃げて行方を眩ましたのか?
でも、それなら捜せそうだ。それに警察沙汰にはしなくても京都の親に隠す必要はないんじゃないのか?

確か京都の亡くなった両親は息子の安否を西門に何度も聞いていたと言っていたし・・・。


「放心状態のお嬢様をお助けしようと近づいたんですが、傍に茶碗が割れて転がっていて・・・そこに血がついていたのです。私はお嬢様が怪我をしたと思って急いで手当を、と思ったのに「来ないで!」と急に叫ばれて、お嬢様がその血のついた割れた茶碗を桐箱に収められたんです。その時のお顔は必死というか、青ざめているのに目だけがギラッと光って怖かった・・・とても小学生とは思えない恐ろしい顔でした」

「血のついた茶碗・・・しかも桐箱に入っていたのですか?」

「えぇ、ちゃんと紅い紐で結ばれていたんでしょうね、傍に紐も落ちていましたから」


子供が居る部屋に桐箱入りの茶碗?
俺は詳しくないけど、そんな箱に入れてるならそれなりに価値のあるものじゃないのか?でも、そんな価値のある茶碗が割れて血がつくなんて、どんな状況だったんだ?
川崎純子の話からは事の成り行きがさっぱり・・・やはりこれは総二郎と聞くべきだったと後悔した。


「それで、紫さんと薫に怪我は?」

「私が見る限り2人に怪我はなさそうでしたが、薫ちゃんは完全に気を失っていました。その時に先代と西門様、紫様のご両親が駆けつけてこられたので私は部屋から出されたんです。その場で見たものは忘れるようにとキツく言われて・・・奥様は泣きながら紫様に服を着せていらっしゃいました。私が部屋を離れる時に薫ちゃんの両親が駆けつけて・・・その後、泣き声が聞こえましたわ」

「明日香堂の男は駆けつけた中には居なかったと言う事ですよね?」

「私は気が付きませんでした。あぁ、それと薫ちゃんの足が結構汚れていましたねぇ・・・雨上がりだったから庭が濡れていたんですが、そこまで逃げたのかと思いましたが・・・」

「薫の足が?・・・それで犯人は探さなかったのですか?」

「多分すぐに屋敷の周りを探したんだと思います。男性達が大勢出ていきましたから。
でも、お屋敷には偶然ですがもう1人お客様がいらっしゃいましたので、私達はその方のお世話をしていました。この騒ぎを気付かせてはならないと思いましたので・・・」

「もう1人?誰がいたんですか?」


「ご存知かどうか・・・岩代様という方ですわ」


なんだって・・・?その日、岩代の隠居が宝生にいたのか・・・?!




********************


<side仁美>

急に知らない人が来たかと思えばあきらさんまで突然帰って来た。

あきらさんは私にそれについての説明なんてしてくれないけど、つくしさんのために動いてる・・・それだけは判る。でも、そんなあきらさんの行動を見るのが辛くなっていた私は今日も頭痛がすると言って部屋に閉じ籠もった。
子供達の相手も小夜さんに任せた。

それでも話合いが始まったら紫音も花音も私の所に戻ってくる・・・その笑顔にはホッとする。
でも、同時に何故か息苦しさも感じていた。


「ママァ!パパ、だれとおはなし~?」
「下に行っちゃだめぇ?」

「・・・えぇ、大事なお話があるみたいだからね。じゃあママと公園に行きましょうか?」

「「うん!!いくぅ~!!」」
「・・・うふふ、じゃあ支度しましょうね」

「「はーい!!」」


私じゃない人のために頑張るあきらさんを見なくて済むように、子供達とも距離が近すぎないように屋敷を出よう・・・そう思って帽子を手に取った。


最近、自分の心がどんどん悪い方向に向かっていることは判っていた。
温室でつくしさんに触れてるあきらさんを見た時、やっぱり今でもつくしさんのことが好きなんだって確信した。

いや、その前から不安だった。
佐賀で出会った事をすぐに言わなかった・・・それを聞かされた時から本当は不安だった。鎌倉に匿うように住まわせて身の回りの世話をして、最後には子供を引き取って・・・。


でもその計画に私も加えてもらったから、その時は素直に嬉しかった。
私は信用されて愛されてるんだって・・・そう思ったのに、また心の何処かであきらさんの真実を探るようになってしまった。

西門さんとつくしさんが偶然再会して気持ちを確かめ合ったのなら、もう手を引けばいい・・・。つくしさんのことは西門さんに任せて、あきらさんは私と一緒に紫音と花音の親に成り切れば良いのに。



階段を降りていくと小さな話し声が聞こえる・・・そのリビングから見えないように2人を連れて駐車場に向かった。


「若奥様、お出掛けですか?」
「えぇ、すぐそこの公園よ。警護につくのならいつものようにしてください・・・あまり近くで監視されるのは困ります」

「判りました。そのようにさせていただきます」


駐車場に向かう途中、警備責任者に行き先を確認された。
また今日も離れた場所から私達を見守るんだろうけど、それさえも鬱陶しく感じる・・・これをあきらさんの愛情だと素直に受け取れない自分が嫌だった。


そして公園で2人を遊ばせ、私はそれを少し離れたベンチに座ってぼーっと見ているだけ。
何も考えず・・・2人を見ているようで見ていない。

私達以外の人も遊んでいる公園を虚ろな目で見ている・・・笑いもせずに、感情のない目を正面に向けてるだけだった。


でも、その時・・・いつか見た男性が再び目の前に現れた。
砂場で遊ぶ紫音と花音のすぐ傍で、その男性の目は私を見つめていた。





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