FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
<sideあきら>

「岩代のご隠居が?それは西門と待ち合わせていたのでしょうか?」

「いえ、岩代様は急に来られたのだと記憶しています。私共には西門様と岩代様のご関係は判りませんが、お知り合いだから構わないと・・・そのような事を先代が仰ったように覚えていますが・・・」

川崎純子の話だと、岩代の隠居は自分の好きな天目茶碗の話をしようと偶然やってきたとの事。
そして西門の先代と会っている最中にこの事件が起きたが、もともと足が悪かった岩代の先代だけが動かなかった。だから騒動を知る前に場所替えを勧めようとしたらしい。

だがそれも面倒だった岩代の隠居は「何かが起きたのなら儂は帰ろう」・・・そう言って先に宝生を出ていった。


「覚えているかどうかですが、岩代のご隠居と西門の先代が会っている時、明日香堂の息子はその場に居たんですか?」

「ですから私はお雛様を御守していたので判らないのですわ。その時に岩代様をよく知っている使用人がいて、彼女がお茶などを運んだと記憶しています。あぁ・・・その人が事件があった数日後、不思議な事を言ってましたけど」

「不思議な事?どんな?」

「多分、その明日香堂の息子さんだと思うのですが、廊下で岩代様と話してて、少し怒っていたらしいのです。『話が違う!』って、若い人が怒鳴ってたって・・・それを岩代様が笑っておいでだったそうです」

「その2人が会っていたんですか?初対面・・・ですよね?」

「えぇ、そうだと思います。でも怒っていたのは若い人で、ご隠居様は宥めておいでだったとか」

「それは紫さん達が襲われる前・・・なんでしょうか」

「岩代様の行動から考えると前ですわ。西門様がお見えになってすぐぐらいじゃないかしら・・・?私達も日にちが経っていた話だったから気にしなかったんです。それよりもお嬢様達の精神状態が不安定でお屋敷がピリピリしていましたから」


面識のない2人のやり取り。香月真一が岩代の隠居を怒らせるなら想像出来るがその反対?
話が違うとはなんの事だろう・・・「良いものがある」、その良いものが雛人形なんかじゃなかったと言う事か?それなら他にどんなものがあると言うんだ?

その岩代をよく知っている使用人なら話が聞けるんだろうか?
そう思ってその人の住所を教えて欲しいと頼んだら、残念な返事が返ってきた。


「それが・・・私がこっちに出てきたのもその人の葬儀のためなんです。一昨日お亡くなりになりまして・・・」

「亡くなった?そうですか・・・宝生の屋敷の近くにお住まいだったのですか?」

近藤に辞めた使用人の居所を探らせていたのに、そんなに近くに居た人間を見落としたのかと・・・それを悔やんだが仕方がない。その他には誰か知らないかと言ったが「知らない」との返事だった。


「その人は東京に居たのではありませんよ。もともとはお屋敷の近くに住まいがあって、もう何年も前に亡くなったご主人も東京の方です。でも、宝生家をお辞めになった時に事情があって東京に住めないと言ったんです。
だから自分の実家がある広島に帰っていましたねぇ・・・亡くなったのは広島の病院で、葬儀をこっちで行ったんですよ。だから誰も広島の住所なんて知らなかったと思いますよ?」

「事情があって東京に住めない?その事情は聞いてますか?」

「いえ、何も言いませんでしたが、すごく沈んでいましたねぇ・・・と言うか、何かに怯えていたのかもしれません。通常は使用人同士で送別会をするんですけど、それすら断わって静かに出ていきましたよ」

「そうですか・・・」


川崎純子はこれ以上の記憶は無いと言い、遅くなるから帰りたいと困った顔になった。だから美作の車で自宅まで送ると伝え、その車に乗り込む時まで付き添った。


チラチラと小さな雪が降り始めた。
それなのにスーッと降りた後部座席の窓、そこから川崎純子が戸惑ったような顔を見せた。

「あの・・・」

「はい?何か思い出しましたか?」

「いえ、そうではないのですが・・・紫お嬢様はお幸せではないと言われましたよね?ご夫婦仲が・・・良くないと?」

「あぁ・・・そうみたいです。初対面から冷たい態度だったと友人は言ってましたが、お互いに距離を縮めることは今でも出来ないようです。夫婦とは言っても書類上の事、そんな感じだそうですよ」

「・・・そうですか。でもお嬢様は多分、その方の事がお好きだと思いますよ?変わっていなければね・・・」


「・・・はい?紫さんが総二郎の事を?」


車の窓越しに頷いた彼女は「西門のお坊ちゃまですよね?」と、首を傾げながらそう言った。

「紫様はもともと静かな方でしたからあまり感情を表には出さないお子様でした。でも、小学校に上がる前にお父上様に連れられて西門の桜のお茶会というのかしら、それにこっそりと出向いてるんです。その時に見掛けた男の子が素敵だったと・・・初めて真っ赤になってお話しされていました」

「桜の・・・確かに西門は春に必ず行っていますね。大勢だというなら大寄せの野点でしょうか?」

「私には判らないのですが、お茶を点てておられた方のお坊ちゃまだと聞いたと・・・お名前までは聞きませんでしたが、その後で旦那様達がそれは当時西門の次期家元の次男様だと仰いました。だから紫様、もう1度会いたいと言ってたんです。このご結婚を知ったとき、良かったなぁって思いましたのに・・・」



総二郎達に記憶が無いだけで、紫は総二郎の事を知っていた?
幼い少女の初恋・・・まさか、紫の初恋が総二郎なのか?

それなのに自分の身に起きた悲劇のせいで、何もかもが狂ったのか?


最後に聞いたこの話が1番衝撃的だった。
そして彼女は亡くなった使用人が誰かに話していないかをもう1度聞いてみると言ってくれたが、俺は「お願いします」という言葉を上の空で返していた。




*****************




とあるテレビ局でアメリカ人の茶道家との対談なんて言う収録が行われ、そいつから解放されたのは夕方近くになってからだった。楽屋に戻ってスマホを見ればあきらからの着信・・・何かあったのかと思って折り返してみたら今度はあきらが出なかった。

チラッと見れば弟子が楽屋前で俺を待っている。
勿論何も疑ったりはしないだろうが、適当な事を言って先に屋敷に戻らせ、牧野の所に行こうかと思った。


「おい・・・」
「あっ、若宗匠、お支度終わりましたか?」

「いや、実はこれから・・・」

誰か適当なヤツの名前を出して「飲みに行く」と言うつもりだったのに、丁度ここであきらからの電話が入った。

「少し待ってくれ・・・あぁ、あきら?俺だ」

弟子達にわざわざ聞こえるようにあきらの名前を出し、もう1度楽屋に引き返した。
これで俺とあきらが話してる事は嘘じゃなくなった・・・スマホを肩で挟んで会話を続けながら、自分の荷物を纏め始めた。


『・・・出先だろ?また演技してんのか?』
「あぁ、まぁな。今日も飲み相手、頼んでもいいか?」

『またか!いいけどさ・・・』
「で?さっきのはなんだ?」

『長くなるから先に弟子達と離れてから電話しろ。宝生の古い使用人が見付かったんだ』
「・・・判った」


ここで弟子達には「あきらと飲みに行くから先に帰れ」と伝え、1人でテレビ局を出てタクシーを拾った。

勿論行き先は鎌倉。
あまり行くことは出来ないと言ったばかりなのに顔を出したら驚くだろうな・・・と、突然の訪問でつくしの吃驚顔でも見てやろうと連絡するのを止めた。

それよりもあきらに掛けなくてはと、リダイヤルを押した。


『もしもし、1人になったか?』
「あぁ、悪い、テレビ収録の仕事だったからさ」

『そうか・・・じゃ、手短に話すな。結論から言えば真実は判って無いから』
「そうなのか!思わせ振りな言い方しやがって!」


この後あきらから川崎純子という元使用人の話を聞いた。
西門の爺さんが香月真一を連れて行ったのが宝生で、そこに岩代の爺さんも居たこと。紫と薫の倒れていた場所に血のついた茶碗があったこと、そして誰の依頼なのか骨董品価値の高い雛人形をも見せるために出しておいたこと。


「何処か繋がったようで全然判んねぇな・・・香月は結局何処に逃げたんだ?」
『それも判らない。紫達が怪我をしていないなら襲った犯人の血なのかもしれないけど、どうしてそこに茶碗があったのか、その茶碗が何処に消えたのかも判らない。川崎純子はそこまでは知らないらしい』

「そしてもう1人、何かを知っていそうな人間はつい最近死んだって事か・・・」
『あぁ、だから川崎に頼んでこの事件を知っていそうな人物を探してもらう事にしてる。また連絡が俺の方に来るだろうから、来たらすぐに知らせるから』

「サンキュ、あきら。今回は本気で調べてくれてるんだ?」
『だから!何度もそれを言うな!くそっ・・・じゃあな!あっ、それとさ』

「どうした?」
『紫、小学生前ぐらいの歳の時、西門の大寄せに行ってるらしいぞ』

「へぇ、そうなんだ?そりゃ俺が茶の道に入りたくなくてすげぇ反抗してた時期だから宝生の印象なんて悪かっただろうな。って言うか、茶を点てる訳でもねぇから無愛想に座ってたんだろ?会ったうちには入らねぇよ」

『・・・まぁ、そうだな』


ほんの少し巫山戯た口調で電話を切ったが・・・岩代まで絡んでるのかと思うとイラッとした。

あの呆けた爺さんにはもう何も聞けない。
しかも親父達は宝生家と岩代家の関係なんて知らなかった。紫から聞いて初めて遠戚だと知ったんだから。

だが先代は知っていたって訳だ・・・岩代の爺さんが宝生に出入りしていることを。

厄介な爺さんの登場でまたこんがらがってしまった。
誰かこの話を総て説明出来るヤツは居ないのか・・・そいつらが全員この世を去ってしまった今は、もう宝生の両親と紫本人じゃないと真実を語れないのか?

それは絶対にしないだろう・・・そう考えているうちにタクシーは鎌倉に着いた。


美作の別荘より少し離れた所で降りて、ゆっくり歩いていくとまだ電気のついていない屋敷が見えてきた。




69e369357b9390fc8255d834b8785086_t.jpg
関連記事
Posted by