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第3話




解のナビゲートで車は大河原邸へと向かう。
自ら『実は私、地図を見るのが好きでして』と言うだけのことはある。運転手も知らぬ抜け道を使ったため、渋滞に巻き込まれることなく目的地に辿り着いた。

大河原邸は古い洋館。
それこそ、今が明治の世ならば『西洋かぶれ』とでも言われたであろう造りになっている。

 -そういえば、昔連れて行かれた別荘も、重要文化財だとか言ってたような…?
  あのとき初めて、牧野と一緒に泊まったんだよな。

温泉。
二人っきりの部屋と一組の布団。
何も着ないで横たわるつくし。

もんもんもん…

類の脳裏に巡る欲望を、慌てて抑え込む。今は、妄想に耽っている暇はないのだから。
気を取り直し、屋敷の中に足を踏み入れる。

「……牧野は……?」

度重なる空振りに、類は苛立ちを隠せない。

「あ…あの…その…」
「牧野、居るんでしょ?」

冷たい目線による圧力。声を荒げる訳ではないのだが、だからこその恐ろしさ。
普段つくしと居るときには見せる事の無い険しい表情に、出迎えた使用人達も思わず後ずさる。
いっそのこと家捜しでも…と思った瞬間、この場では聞きたくない声が耳に飛び込んで来た。

「そんな嶮しいお顔、よもや先輩の前でもなさっている訳ではございませんよね?」
「…………」

使用人達の安堵した表情。それとは裏腹に、類の眉間には深い皺が寄る。

「牧野は? どこ?」
「……この場合、『滋さんは?』と尋ねるのが正解ですわよね?」

類の冷たい視線にも全く動じることなく、平然と言い放つ。類も負けじと睨み返すばかり。
バチバチッ
類の後ろに立つ解には、火花が飛び散っているのが見えた気がした。
無言の間が続くこと、しばし。

「………ま、宜しいですわ。滋さんは所用でご不在です。
用件は、私が承っておりますから」

このままでは埒があかないと、先に折れた桜子が室内へと促す。
不機嫌な表情はそのまま、類はそれに従い、解もそれに続く。


類は正直、桜子が苦手であった。単純な“好き嫌い”の問題では無い。
もし桜子が男で、かつ、類の秘書であったなら、田村に負けず劣らずの働きをしていただろうし、類もそれ相応に重宝していただろう。

が、桜子は女で、かつ、つくしの親友。
これまで幾度、つくしとの仲を邪魔されたことだろう。
とはいえ、桜子に言わせるならば『それはこっちの台詞です』と返ってくるに違いない。
要は似たもの同士。桜子は“同族嫌悪する相手”であるだけのこと。
だがそのことに、お互い気付いていない
-否、気付いてはいるのかもしれないが、認めたくはない。

そういったこともあり、ある種、司達より“タチの悪いライバル”である桜子とは、極力関わらないようにしていた。


客間に通されると、噛み付きそうな眼を向ける類に一枚の封書を差し出す。

「………」
「どうぞ。ご覧下さいませ」

無言でそれを受け取ると、片手で器用に開ける。
中にはカードが一枚。書かれているのは数字の羅列と、文字。
類の後ろから顔を出した解が、ぽつりと呟く。

「…また暗号のようですねぇ…」
「あらっ。そちらは…?」
「あっ、申し遅れました。私、道明寺ホールディングス、秘書室勤務の大成解と申します」

模範的な礼と共に、さっと名刺を差し出す。

「あら、そうなんですの。“だいせいかい”…ではなくて、“おおなりかい”さん、ですわね。
どうぞ宜しく」

にこり。
微笑む桜子に、解は思わず顔を赤らめるのだが、つくしの事が気掛かりな類は全くそれに気付いていない。

 -…また暗号って…。なに考えてるんだよっ。

苛つく心を抑え、手にしたものに集中する。

『52352151254542』

十四桁の数字の羅列。そしてカードの下には一言、『ひと昔前』。

先程と同じ、文字の暗号を充てようとして、ふと気付く。
数字はすべて一から五までの数字で出来ている。それに、恐らくはヒントとして書かれていた『ひと昔前』の文字。

 -これは…?
「花沢様。今回は簡単ですよ!」

閃いた類の横で、桜子への挨拶を終えた解が自信満々に告げる。
『宜しいですか…?』と類からカードを受け取ると、客間に置かれたテーブルにそれを置いた。

「どうぞ。お二人とも、そちらにお掛けになって下さいませ。
今、お茶をお持ち致しますから…」

悠然と微笑み、桜子が部屋を後にする。
解と向かい合う位置の椅子に浅く腰掛けると、置かれたカードを覗き込んだ。

「これは昔のポケベル暗号です。ヒントはこの“ひと昔前”ですっ!」
「ポケベル…」

『アンタ、いつの時代の人間』と口にしようとして、そういえば…とふと考える。

 -司も牧野にポケベル持たせてたよな。
  道明寺ホールディングスって…以外とレトロ?
  (類くん。時系列については、花男最大の禁忌なので、触れてはいけないよ。by星香)
  あのときは、俺がボロボロのときで…。
  ……今思えば、随分遠回りしたよな……。

再びの妄想…ならぬ感慨に耽りそうになるのを、慌てて引き留める。
今は兎に角、つくしを探すのが先決なのだ。

解が数字を二桁毎に区切るのを、黙ったまま見つめる。類が思い付いたのも、フリック入力が出来る前の携帯の文字入力方法なので、原理は解と同じだ。
解が十四桁の数字を二桁ずつ、七つに区分し終えると、類に向き直る。

「これをポケベルの文字入力方法に当てはめれば完成です」
 -良くないよっ! 牧野がまだ見つかってないんだからっ!

『良かったですね』とさらさらと書き出す姿に内心毒づく。
類の目的は謎を解くことではなく、つくしを探し出すことなのだ。

ところが……

「あれっ?」
「…………なに………」

解の手形止まる。
区分された文字は『52 35 21 51 25 45 42』
これを基に書き出された文字は『に・そ・か・な・こ・と・ち』
文章どころか、単語にすらなっていない。

「…おかしいですね…。あっ、これをアナグラムするとか…」
「………」

再びペンを動かし始める解を横目に、類は口元に手をやりながら視線をさ迷わせる。

 -……前の二つをみても……一捻りはしてあったけど、そんなに面倒ではなかった…。
  ……なんだろ……。

解がああでもない、こうでもない、と言う横で、類は全く別のことを考え始める。そんな中、トレイに茶を乗せた桜子が再び現れた。

「どうぞ。…苦戦なさっているようですね」
「恐縮です。ありがとうございます。」
「…………」
 -…五月蠅いよ。この女狐っ!

赤くなりながら礼を述べる解に対し、『毒でも入ってるんじゃないの』と鋭い眼を向ける類。
桜子は何やら含んだ笑みを浮かべると、『お考えの邪魔になるといけませんから、私は失礼致しますわ』と言い残し、部屋を出て行く。

再び解と二人きりの部屋。
類が考え込む中、行き詰まった解がペンを置く。

「……判りませんねぇ……。一息入れませんか?」
「…………」
 -そんなヒマないよっ!

ギロリと解を睨み付ける。
ここに居るのが田村なら、その雰囲気を察し再び暗号解きに勤しむのだろうが、幸か不幸か、解はそこまで類の性格を把握していない。
置かれた茶器を手に取り『流石は大河原家。お茶も美味しいです』等と宣いながら、出された茶菓子にも手を伸ばす。
赤地に、菱形の家紋が白抜きされた不織布に包まったそれ。

「へぇ…信玄餅ですか…。……って、これ、プレミアム信玄餅じゃないですかっ!」
「…………」
 -…なにそれ…。

「ああ…流石は大河原家ですよね…。おおっ! 爪楊枝まで高そうですね。
あっ実は私、甘いものに目が無いんですよ…」
「…………」
 -…知らないよ。そんなの…。

類の、声に出さぬ罵倒など露知らず。
解は嬉しそうに包みを解くと、黒蜜の入った蓋を捻る。
上蓋を取り爪楊枝で少し穴を開けると、そこに蜜を半分程入れた。

「ホームページには食べ方が幾つかあるんですけれどね。私はそれよりこの方法が一番楽だと思うんですけれど…。
花沢様はどう思われますか?」
「…………」
 -…なんでもいいから、牧野はっ!? 牧野は何処なんだよっ!

類は考えに集中したいのに、甘いものを前にした解の口は饒舌だ。 
『おお』だの『ああ』だの言いつつ、爪楊枝でそれを口に運ぶ。

「うーん。餅が柔らかい…。きな粉も蜜も普通のより上品ですねぇ…。
そういえばこの桔梗屋には、“信玄生プリン”や“信玄桃”とかもあるんですよね」
「…………」
 -……信玄、信玄、五月蠅いっ! 牧野! 牧野なんだよっ!!

桜子あたりが聞けば『花沢様こそ、牧野、牧野と五月蠅いですわ』と返されそうな言葉。
だが幸い、類はそれを口にはしていないし、ここには桜子も居ない。

「それにしても…なんでこれが“信玄餅”なんでしょうねぇ…」
「…………」
 -そんなの武田信玄縁の地だからに決まってるじゃん。
  ん………?

類の中で何かが閃く。

滋が用意するにしては珍しい、地方の銘菓。もしかしたら大河原は山梨に縁があるのかもしれないが、それにしても何故“これ”だったのか?
大体が、態々大河原邸に来たというのに、居たのは桜子。
類のライバル。

 -信玄、ライバル、暗号、そしてヒントの“ひと昔前”。
  そこから導き出される答えは…?

類の中で、すべてがひとつに繋がる。

「…そうか…! “上杉暗号”か…!」
「えっ? ウエスギ? 何が上過ぎるのですか?」

お茶を飲み干し、すっかりのんびり、まったりしていた解は、突然の大声にびくりとする。

「紙っ、紙とペン!」
「は?」
「はやくっ!」
「はっ…はいっ!」

慌てて内ポケットに手を入れ、金色のカバーが施された、道明寺社員手帳
-別名“俺様手帳”を取り出す。
ペラペラと頁を廻り白いメモの部分を出すと、ペンと共に類に差し出した。
それを奪うように受け取ると、さらさらと線を引き井桁の升目を幾つか作る。
その上と右部分に、一から七までの数字を書き出した。

「これは、“上杉暗号”をもとに作られてると思う」
「上杉暗号…ですか?」

首を捻る解に、かの昔、上杉謙信の家臣、宇佐美定行が作り出したと言われている換字式暗号であることを告げる。
七×七、四十九の升目の右上から、縦に『い・ろ・は・に・ほ・へ・と』と順番に文字を入れる。
そうやって左下の最後のひと升を除く四十八、すべての升目に文字を書き入れた。

「これで、い→11、ろ→12に置き換えられる」
「と、いうとこは…先程の数字は……」

『 52 35 21 51 25 45 42』を上杉暗号に置き換える。
浮かびあがるのは『ま・つ・ち・や ・を・の・む』

「抹茶……総二郎のところ…?」

類がすくりと立ち上がる。
つくしが居ないというのなら、こんなところに長居は無用だ。

「あっ、花沢様。どちらへ!?」
「行くよっ」
「お待ち下さい。まだ信玄餅がひとつ残って…」
「餅でも桃でも、後で好きなだけやるからっ!」
「あら…? もうお帰りですの?」

お茶のおかわりを持ってきた桜子を、『 問答無用』とばかりに無視し、部屋を出る類。
桜子と、その手に持つトレイに置かれた玄餅に後ろ髪をひかれつつ、持ってきたぐいっとお茶を飲み、慌てて追いかける解。


「…今日のところは仕方がございませんわね。
どうぞ、良いお誕生日を…」

小さく呟く桜子の言葉は、類の耳には届かなかった。





Rendez-vous demain...


↓おまけつきです♪
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Comments 2

There are no comments yet.
キャロット  

星香様☆ お話ありがとうございました。
原作のポケベルシーン懐かしい。
時代を超え、今もこれからも
輝き続ける「花男」って素晴らしいですね。
さて、今回は「上杉暗号」!
類くん何でもよく知ってますねぇ。
類くんがその時代に生きてたら
「花沢暗号」とかできてたかもしれませんね。
桜子が茶菓子に信玄餅持ってくるとこが実に新鮮ですよね(笑)
私もプレミアムはいただいたことないです。
詰め放題にいつか行きたいと思ってましたが
プレミアムが無性に食べたくなりました。
信玄餅への食欲を断ち切り、
読んだ小話は、またも信玄餅!!
気を紛らすためアイス検索、
信玄餅アイスワッフル見たら涎が滝化。
このままでは信玄餅が夢に出てくる。
星香様・・・
この後、類くんの誕生日に集中できるよう
「プレミアム類餅」作って至急送ってくださいませ(笑)
続き楽しみにしてます。

2019/03/28 (Thu) 16:39 | EDIT | REPLY |   
星香  
キャロット様

ご訪問&コメント、ありがとうございます♪
そうそう、ポケベル! 時代ですよね…。
そのうちスマホやLINEも古くなり…次はウェアリング携帯? 
ドラ○ン・ボールのベジータが持っている、スカウターが主流になっているのかも…?
そう、類くん! 博識なんです(^^)
花沢暗号!!
類「これ、暗号だから」
部下「殿! 難しすぎて、使えません!」
…とか言われそうなくらい、難解なものを作りそうですよね(^^;)
上杉と言えば、武田信玄。信玄と言えば、信玄餅。
しか思いつかなかったワタクシ…(-_-;)
アイスは食べました。まんまの味でお薦めです~(^^)
プレミアム…食べてみたいのですが、それより食べたいのは勿論、
プレミアム類餅です!!
明日の更新も、どうぞお楽しみに…♡
お付き合い、ありがとうございました。<(_ _)>

2019/03/28 (Thu) 20:18 | EDIT | REPLY |   

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