FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
<side仁美>

紫音達が遊んでいる砂場の近く、前にも見たことのある男性が私の事をジッと見ていた。
一瞬ゾクッとはしたけど何故か怖い人だとは思えない感じの若い男性で、私に「こっちに来い」と言ってるみたいな手の動きをした。

チラッと後ろを見たら美作の警護はいつも通り公園横の道路から私達親子を見ている・・・この人に気付かれたらあきらさんに報告されるんだろう。
自分でも不思議だったけど、その警護に助けを求めるのではなく、見付からないようにしなきゃって・・・考えた。

だから紫音たちの傍に行く素振りを見せて男性の立っている植木の傍に行き、子供達と彼の真ん中ぐらいまで行くと顔を男性に向けずに小さな声で話し掛けてみた。


「どなたですの?私の事を知ってるんですか?」

「あぁ・・・美作商事の営業本部長の奥さん・・・ですよね?」

「・・・すぐ近くに美作の警護が来ています。私達に変な振る舞いをするとあなたが危ないと思いますが?」

「それも判ってる。でも、あなたもそうやって近づいてきた・・・俺の話を聞こうって意思ですよね?」

「・・・そういう訳ではありません。少しでもおかしいと思ったら振り向いて大声を出すわ」


「あっ!ママァ!」「見て、砂のおやま!」・・・紫音と花音は私に笑顔を見せた後も自分たちの遊びに夢中だった。
だから私がこの男性と話してることは気にしていない。
もう少し男性側に寄ってみたけど、美作の車の中に居る人に動きはない・・・恐らく彼女からは男性が見えないんだろうと判断した。



「最近お屋敷の周りを彷徨いてるのもあなたじゃないの?」

「よくご存じだ。話があるのはあなたのご主人についてです。ここでは総てをお話出来ません。2人きりで話がしたい・・・時間を取っていただけませんか?」

「主人のこと?彼が何をしたというの?そんな脅しには乗りませんよ」

「脅しじゃなくて事実をお話したいんですよ。そうですね・・・奥さんにはこう言えば判ってもらえるかな・・・このお子さん達はあなた方の子供じゃないでしょう?」


「・・・・・・えっ?」


紫音と花音の事を言われて流石に驚いた。

瞬間その男性の方を見てしまったけど、慌てて顔を逸らせた。
もう1度顔を動かさずに警護の車を横目で見たら、少しおかしいと思っているのか窓越しだけどこっちの様子を窺うように身体を傾けているのが判った。
これ以上ここで話すのは不味い・・・もしかしたら車を降りてくるかもしれないと思った時には運転席のドアが開いて警護の女性が降りてきた。


「気付かれましたか?大丈夫、すぐに立ち去ります。この植木の中に私の電話番号を書いたメモを置いておきます。奥さんから連絡ください。待っていますから」

「あっ、あの・・・」
「人が来たんでしょう?俺の事は黙っておいた方がいい・・・ご主人のためですからね」


そう言って男性はクルリと向きを変えて公園から出て行った。

その時やっと彼を見たけど、もう後ろ姿で顔は判らない。
あきらさんに比べると小柄な人で、これだけ寒いのに薄手のコートだけ・・・後ろ姿だけ見たらあまり裕福な暮らしぶりじゃないみたいだと感じた。

あの人は何故紫音たちの事を知ってるんだろう・・・美作商事と関係ある人なのかしら。


「若奥様、如何されました?何かご様子がおかしかったような気がしたものですから」

そう言って近くに寄ってきた警護の女性は、私の傍に来るなり守るような素振りを見せて辺りを警戒した。
でもその時には彼の姿は公園出口の向こう側・・・1度も振り返ることなく小さな道に入って行き、その姿は見えなくなった。


「いえ、なんでもないわ。でもやっぱり寒いみたい。悪いけど子供を連れて駐車場まで行ってくれる?もう自宅に戻ります」
「判りました。それではお子様達を若奥様の車までお連れしますね」

「宜しくお願いします」

まだ砂場で遊びたそうな双子も、警護の言う事は聞くようにと話してあったから素直に彼女の手を握って車に向かった。私はその様子を確認してさっき男性が立っていた場所まで静かに移動し、3人を横目で確認しながらも植木の中に目をやった。


そこには確かに枝の間にメモが挟まっていた。
それをそっと取るとコートのポケットに入れ、私も駐車場に向かった。


初めて庭の向こうであの人を見掛けてからずっと続いている不安・・・何を聞かされるのかとドキドキしていた。




**********************




「寒いねぇ・・・今晩は雪の予報でしたからね」
「そうなんですか?ホント、冷え込みますね」

タクシーの運転手さんにスーパーまで行ってもらって食材を買った。
1人分だからそんなに要らない・・・でも、そんな買い物が淋しいから数日分を纏めて買う事にしていた。冷蔵庫の中が少しでも食材で埋まれば何となく安心する。
1人暮らしが1ヶ月以上になっても、買い物の仕方だけは昔と変わらなかった。

今日は1人鍋でもしようかなぁ・・・なんて考えながら家までの道を窓から眺めていた。


「今日もありがとうございました。運転手さんも気をつけてね」
「はは!ありがとう。あんたも戸締まり気をつけるんだよ」

「はーい!」


総が手配してくれたタクシーの運転手さんは気さくで凄くいい人だった。
毎日朝も夕方も少しだけど話し相手になってくれて、帰る時には手を振って別れた。

今日もそうやって別れて、私は重たい買い物袋を持って玄関を開けて中に入る。
怖いからすぐに家中の電気を点けて、リビングのカーテンを閉めに行ったら・・・そこに人影があって、ヌッと窓に顔をくっつけてきた!


「きゃああぁーっ!!!いやぁあっ!!」
「あっははは!すげぇ声!!」


「・・・はっ?!」

カーテンを握り締めたままその場に踞ったのに、聞こえてきたのは笑い声・・・その声は!って立ち上がって窓の外を見たら、テラスの真ん中に総が立ってる?!
しかもお腹抱えて笑ってる・・・あんまり驚いたからポカンとしてたけど、だんだんそれを見ていたらムカついてきた・・・!

ガラッと窓を開けたら海風がサーッと入ってきて寒かったけど、それよりも目の前で笑ってる彼を腕組みして睨みつけた!


「ちょっと!何してるの?吃驚するじゃないの!もうっ!」
「ははっ、悪い!驚かそうと思ったけどホントにあんな声出すからさ!」

「あのねぇ!庭からってどうなのよ!どこから入ったの?」
「ぐるっと庭の外を回ったら植木の隙間があったからさ。ヤバくね?あきらに言っとかないとな・・・泥棒が入れるじゃん?」

「植木の隙間って・・・その手前にフェンスだってあるでしょう?!ご近所に見られて通報されたらどうすんのよ!」
「そんなヘマするかっての。ってか、結構樹を掻き分けたから痛かったわ」

「馬鹿じゃないの?怪我したらどうすんの!ちょっと手を見せて?」


この季節だからコートは着てるけど、剥き出しの手の平に怪我でもしたらと手を持ったら・・・こんなに怒ってるのに気にもしないで、その両腕でフワッと抱き締められた。
今度はそれに驚いて声も出ない。
凄く冷たかった彼のコートが私の顔に当たって一瞬震えたのに、すぐに熱くなって胸がドキドキした。


「はぁ、寒かった。つくし・・・あっためてくれよ」
「・・・こんな時期に外に居るからだよ。馬鹿・・・風邪引いたら困るでしょ?」

「こんぐらいじゃ風邪なんて引かねぇよ。今日も夜だけだからさ・・・ごめんな」
「・・・うん。でも、嬉しい・・・来てくれてありがとう」

「腹減った・・・」
「くすっ、すぐに支度するね」


1人鍋しようと思ったのに2人鍋・・・小さな土鍋に沢山入れた具材を2人でつつきながら食べた。

佐賀で何度か食べた「水炊き」。
博多名物の鍋で、鶏がらや鶏肉からとった濃厚なだし汁のお鍋だ。
骨つき鶏肉、白菜にネギにキノコ、豆腐なんかを煮ながらポン酢につけて食べるんだけど、そんな食べ方をした事がない総は不思議な顔して熱い具材と闘っていた。

「あっつ・・・!マジこの豆腐熱い、火傷するっ!」
「ふぅふぅして食べてよ。でも身体が温まるでしょ?」

「・・・そうだけどよ」
「文句言わない!はい、取ってあげるからお皿貸して?」

そう言うと私に取り皿をくれて、それに幾つか入れて渡すと「サンキュ!」って・・・何故か2人で赤くなって笑ってしまった。

今日は飲みに行ってる事になってるからってお酒も少しだけ飲んで、仕事先であった出来事を楽しそうに話してくれる。それを聞きながら昔みたいに巫山戯あって楽しい晩ご飯だった。


その後は暗くした部屋の中で総の腕に抱かれていた。
甘く落とされるキスに溺れ、強く抱き締められる腕に縋り、熱く燃えるような総を受け止めた。

溢れる涙を指で拭われ、目を開くと妖しい瞳が私を見つめる・・・。
この人と離れることなんて出来ない・・・私も彼の首に腕を回して自分の胸に引き寄せた。


止まらない時間が憎らしい・・・総を抱き締めながら、やっぱり涙が溢れて止まらなかった。





72c462adeaa1e78897ec089265dd6467_t.jpg
関連記事
Posted by