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plumeria

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<side仁美>

「何処に行ってたんだ?こんなに薄暗くなるまで出掛けちゃダメだろう!」
「ごめんなさい、あきらさん・・・」

お屋敷に戻るなり玄関の扉の前であきらさんに叱られてしまった。
確かにこんな時間まで外に子供達を連れて行った事なんてなかったから無理もない・・・本当に心配していたんだろう、あきらさんの怒った表情は逆に嬉しかった。

「パパがおこったぁ!」
「ママをしかっちゃだめだよ、パパ!」・・・子供達も両手を広げて私を庇ってくれる。その姿は可愛らしくて涙が出そう・・・。


「大丈夫よ。パパは怒ってるんじゃなくて心配してくれてるの。だからいいのよ」
「ほんと?ママ、おこられてない?」
「ママ、泣かない?」

「えぇ、泣いたりしないわよ。パパはね、私達に何かがあったら大変だから言ってくれてるの。遅くなったのはママがぼーっとしてたから悪いのよ。あきらさん、心配かけました・・・少し気分を変えたくて公園に長居しちゃったの」

「いや、判ってくれれば・・・」


本当はもっと言いたいんだろうけど、尖らせた口を元に戻して「仕方ないなぁ!」を繰り返すだけ。
紫音と花音が必死だったからすぐにあきらさんが負けてしまった。

もうお客様も帰ったみたいでリビングには誰も居ない。
そして夕食の支度まで全部出来てて、3人はすぐにダイニングに向かった。


もう子供達はあきらさんの両手を持ってる。その後ろ姿を見ながら私はポケットの中のメモをそっと取り出した。

名前も何も書かれていないメモ・・・ただ電話番号だけが書いてある。
しかもあの時には書かなかったから、初めから私に渡すつもりで用意していたのかしら。


ここに電話を掛けたらどんな話をされるんだろう・・・それを持つ指が震えた。
でもあきらさんに気付かれたら困るから、またメモをポケットにしまった。その後で大きく深呼吸して目を閉じて・・・指の震えが止まったら私もダイニングに向かった。

食事の間は双子が公園で遊んだ話をあきらさんに伝えようと必死だったけど、その時に彼の事を話したりしないかとドキドキしていた。あの時に1度も彼の事を見ていなかったと思うけど、子供だからといって油断できない。
大人が思ってる以上に敏感な所もあるし、特に紫音は周りをよく見ている子だから覚えているかもしれない。

ナイフとフォークを持ったまま、双子の顔を鋭い目で見ていたみたい。
「仁美、どうした?」ってあきらさんの声が聞こえて慌てて目の前の料理に視線を移した。


「それでね、しょんがね・・・」
「だってかのんがこわしたんじゃん!」
「ちがうよー!しょんがわるいんだよー!」
「すぐ人のせいにするぅ!」

「こら!食事中だから大声はダメだろ?それに花音、スープを溢してるぞ?」
「あっ、ごめんなさーい!」


暫く聞いていたけど何も話さなかった。
だから安心してホッと小さなため息が漏れたみたい・・・今度はあきらさんが私に話し掛けた。

「仁美、具合悪いのか?全然減ってないけど?」
「え?あぁ・・・いいえ、遊び疲れたのよ。大丈夫、何処も悪くないわ」

「そうか?風が冷たかっただろ?風邪引いてないかな・・・」
「心配性ね。大丈夫・・・ありがとう、あきらさん」


この人が居る時に電話は出来ない。
明日、あきらさんが仕事に出掛けた後で電話しよう。


楽しそうに食事する3人を見ながら、私も必死に笑顔を作った。




**********************




つくしとの時間を過ごしてからタクシーで本邸に戻ったのは真夜中・・・こっそり裏口から入ったが、紫はまだ起きて待っていた。
こんな和風な屋敷には似合わないネグリジェにガウン羽織って、昼間は纏めている髪も降ろしていて色気があると言えば・・・あるんだろうと思う。

すげぇ薄いがきちんと化粧までして出迎えて・・・その真意はなんだ?


「お帰りなさい・・・今日も遅かったんですね」
「待てなんて言ってねえだろ。先に寝てたらいい・・・どうせ俺はこっちだから」

酒は飲んだが酔っちゃいない。
逆に飲みに行ったのにその程度かと勘ぐられるのが嫌でさっさとゲストルームに籠もろうとしたら、急に背中が重くなった。
どうしたのかと思ったら、紫が俺の服を掴んでいた。しかもすげぇ悩ましい目付きをして、一瞬ドキッとするような半開きの唇を向けて・・・。

こんな事は初めてで驚いた。
正確には京都で近づいてきたが、あれは完全にこいつの罠・・・今日の紫はあの日のような挑戦的な目ではなく、何処か苦しそうで悲しそうな表情に見えた。


「・・・どうした?そんな事をしても無駄だけど?」
「いつまでそうするんです?確かに愛情なんて要らないと言ったけど、ここまで無視するなんて・・・このままだと西門流が困るのではありませんか?」

「別に困らねぇだろ。西門の血を受け継いでいくって話なら祥一郎の子供だろうが考三郎の子供だろうが構わない・・・俺の子供じゃなきゃいけねぇなんて決まってない、前にも話しただろう」
「・・・でも、あなたは次期家元だわ。揉め事を起こさないためにはあなたの子供が良いんじゃありませんか?」

「最初から揉めるなんて決めつけるな。別に祥一郎も家を出てるが分家になった訳じゃない。考三郎も同じだ。現家元の孫に当たる男で茶道さえ本気なら何処からも反対意見なんて出ない。もしかして絶対に自分が跡取りを産まなきゃいけないとでも思ってんのか?」
「・・・普通はそう思うでしょう」

「じゃ、気にするな。お前が産まなかったからって責められないようになら幾らでも動いてやる」

「・・・・・・」


俺の服を掴んでいた手が降ろされて身が軽くなった。

辛そうな顔・・・それが演技なのかどうかは判らない。
つくしに再会する前の俺ならこの表情も演技だと決めつけただろう・・・たった今も酷い言葉をぶつけたような気もしたが、出来るなら紫にも楽になってもらいたいと思う気持ちも確かだった。


ギュッと唇を噛み締めて少しだけ後ろに下がるとクルリと踵を返して寝室に向かう・・・その後ろ姿に声を掛けた。


「あんた、初めて俺の前に現れた時、予てより家同士が決めていた・・・そんな風に言ったよな。それを聞いた時どう思ったんだ?俺の素行も調べて知ってるって言ったよな?どんな男か知ってて、勝手に親からも決めつけられて、それを聞いた時の正直な気持ち・・・教えてくれねぇか?」

籍まで入れた後に聞くことか?って思いながらそんな事を質問した。
夢子おばさんも言っていたように、この世界の女性にはまだ紫みたいに親の指図に逆らえない人間も居る・・・だが、それを大人しく聞き入れる心情も俺には理解出来ない。

自分も逆らえずにこの場に居るが反発はしている。そして自分の思うように生きたいと願っている。
こいつにはそれすらないのかと・・・それがどうしても不思議だった。


「・・・私がどう思ったか、ですか?」

「あぁ。家元夫人となって世間に認められればそれでいいって言ったよな?あんたには夢ってなかったのか?家や親に言われたからって西門で生きていく事に不満もないのか・・・それで納得した人生送れんのか?」

紫は背中を向けたまま俺の顔も見ようとしなかったが、ほんの少し考え込んだ後で顔だけを横に向けた。


「えぇ、不満なんてありませんでした。むしろ私には嫁ぎ先を決めてもらって嬉しかったぐらいですの。そうじゃないと私・・・自分では見付けられなかったと思いますから。西門のために生きていく・・・そう決めたんです」


自分では見付けられなかった・・・それは幼い時の悲劇が原因なのか。

その言葉を出した後、1人で寝室に入って行く紫の後ろ姿を以前とは違う気持ちで見ていた。
事件の総てが判った時にこいつの本心も判るような気もしたが、何故かそれがすげぇ恐ろしい結末のように思えてくる。


だがそれを解決させないと紫も自由にならない。
あきらから聞いた「総てを知ってる人物」が現れることを願うしかなかった。





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