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plumeria

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ガソリンスタンドを出てから暫く走ったら車は大通りから少し小さな道に入った。
もしかしたら今日泊まる所に着いたのかしら?そう思って隣を見たけどアルフレッドさんは目を閉じたまま腕組みしてる。

前の席に座っている監視の人も起きてるのか寝てるのか判らないし、運転手さんは怖すぎる顔してるから話し掛けられない・・・私は黙ったまま外を見ていたけど、随分灯りが少なくなってきた。
山の中・・・って訳でもないけど家が少なくなってきたみたい。

不安になって暗がりを見ていたら強面の運転手さんの方が英語で教えてくれた。


『その向こうは植物園だよ。随分広いから電気が点いてないだけだ』
『・・・あぁ、そうなんですね?もうすぐ何処かに着くの?』


その声を聞いて目を開けたアルフレッドさんが私と同じように窓の外を見た。


「もうすぐですよ。エバンスの別宅は緑に囲まれた丘の上にあります。明日の朝には素晴らしい光景が見られますよ」
「・・・でもそこに滞在するわけではありませんから。明日ウィンリー夫人に会えばそれですぐに帰してくださるんでしょ?」

「・・・会えればですね。彼女も忙しい人だし気分屋さんです。素直に会ってくれるかどうか判りませんねぇ・・・」
「はっ?!また話が違うわ。アルフレッドさん、あなたは何を考えてるんですか?」

「私は事業の成功を考えていますよ。花沢物産とも仲良くお付き合いしたい・・・そう思っていますが?」
「仲良くって・・・私を騙した時点で類の怒りを買ってます!仲良くしたいなら早く帰して!」

「大きな声出さなくても帰してあげますよ・・・私の言う事を聞けばね」

車の中に射し込んだ一瞬の光でアルフレッドさんが笑ったのが判った。
その時の妖しい瞳の色・・・それにゾクッとして身体が震えた。


ある交差点に着いたら今度はそこでウインカーを出した。
曲がって行く先が別宅って言う場所かもしれない。アルフレッドさんに気付かれないようにそっと金平糖の袋を握り締めた。

バレたらそれまで、そう思って車の窓を降ろしながら・・・


「もう気温は下がったのかしら・・・うわっ!やっぱりまだ暑いのねぇ!」

わざと聞こえるようにそう言って手を窓の外に出して温度を測るフリをして、持っていた袋は近くの草むらに落とした。
暗くて判らないけど無駄だったかな?あんな所じゃ人間は気にしないかも・・・犬だったら拾ってくれるかもだけど。

「・・・真冬の日本に比べたら暑いに決まってます。窓、閉めて下さい。車内まで蒸し暑くなる・・・」
「あ!ごめんなさい!」


失敗したかもしれないけど気付かれてない・・・まぁ、いいや。



やがて大きなお屋敷に着いて、そこの門が自動で開けられた。
その暗闇に吸い込まれるようにして入って行く車・・・建物の奥にある駐車場に停めたらそこで降ろされた。

木々に覆われているからなのか暑さに加えて凄い湿度・・・気持ち悪くて久しぶりに吐き気が・・・!
その仕草を見ても何も思わないのか、アルフレッドさんに引っ張られるようにして屋敷の中に入って行った。


豪華な扉の向こうはまるでホテルみたい・・・しかも一流ホテルを思わせるような上品な内装で、エアコンも効いてて涼しかった。
南国を思わせるような花が飾られてて、あちこちに観葉植物が置かれて緑が沢山ある。
窓も大きくて開放的・・・確かに観光だったら居心地良さそうだけど、私は殆ど拉致状態。この状況でもホッとする事は出来なかった。


「そんな顔しないでください。あなたのお部屋にご案内します。勿論1人ですからご心配なく」
「はっ?!当たり前でしょ?誰が一緒に居るって言うの?」

「ははっ!なんだ、元気じゃないですか。そのぐらい声が出るなら大丈夫ですね?お腹の張りは治まりましたか?」
「・・・え?えぇ、お薬が効いてきましたから」

不味い・・・お腹が痛いフリするのを忘れてたわ。


アルフレッドさんに連れられて向かったのは2階の階段を上がってすぐの部屋。
綺麗に片付けられていてベッドメイキングもされていた。私達は今来たばかりなのに、やっぱりこの部屋にもエアコンが効いててひんやりしてる。妊婦の私には少し寒いぐらいだった。

部屋の隅っこにはミニキッチンがあって珈琲やお茶が飲めるようになってるし、小さな冷蔵庫もあってミネラルウォーターはそこに入ってるって教えられた。


「ここの管理人は明日の朝にはやってきます。食事はその人が作るから安心してください。それと着替えはバスルーム横の棚にあるはずだから適当に着替えてください。そんな格好だと暑いでしょう?」

「・・・今晩はお借りしますけど、さっきも話したとおり明日には日本に帰してくださいね。ウィンリー夫人と会えるように交渉願います。もし、会えなかったとしても羽田行きのチケットは手配してください」

「それはどうだろう・・・取り敢えず明日にならないと判らないですね。そんなに心配しなくてもいつかは帰れますよ」

「いつかは?!明日です!!」
「くすっ、とにかく今日は寝て下さい。明日また話しましょう?」


一体何を考えているのかしら・・・?
本当にここに来た目的はウィンリー夫人への謝罪なんでしょうね?ってか、私は悪くないんだけど?!

アルフレッドさんが部屋を出て行ってから、とにかく汗をかいたからシャワーを浴びて置いてあった服に着替えた。
ふんわりとしたネグリジェ・・・それに数枚のワンピースが用意してあって、それを見る限り1日の滞在じゃなさそうで嫌な予感がした。

そのあとで窓を開けて外を見た。
真っ暗で何も判らないけど、この部屋の正面はさっき車で入ってきた玄関の方向らしい。街灯の灯りで細い道路が見えた。


「類・・・ここに来てくれるかなぁ。私のメッセージ、ちゃんと判ったかしら。あっ、そうだわ!」

急いで鞄の中を見たら、まだ金平糖の袋が5個もある。
それを持ってまた窓に向かい、そこから道路に向かって袋を投げた。
さっきは草むらみたいな所に落ちたけど、今度はどうかしら・・・ひと目につく場所に落ちてくれたかな・・・?

いや、希望は持たなくちゃ!
類がシンガポールまで来て私を探してくれてるなら、これが「目印」になるかもしれないし!

・・・・・・自宅で寝てたらただのゴミ投棄だけど。


「ううん!類の事だもの、きっと来てくれるわ。信じてるわよ、類。信じてるからね、信じるしかないんだけどね・・・信じていいのかなぁ?」


何だかため息が出ちゃう。
今日一日すごく疲れた・・・って思ったら、お腹をポコンと蹴られた!


「・・・ごめんね、あんたも疲れたのね?じゃ、寝ようか・・・」

お腹を摩ったらもう1回ポコン!
それが私を励ましてるようで嬉しかった・・・けど、1人で寝るのが1年ぶりぐらいで心細い。いつもより余計に丸くなって、お腹を抱えて寝ることにした。




***



次の日の朝・・・カーテン越しなのに朝日が眩しくて目が覚めた。


「んっ・・・類、もう朝なの?類・・・・・・はっ?!」


ベッドの横の方に手を伸ばしたけど誰も居ないし温かさもない・・・それに驚いて目を開けたら全然知らない部屋の中だった。

白が基調の類の部屋と違って派手な装飾の壁と天井。
シャンデリアじゃなくて花の形のシーリングライト、それにソファーじゃなくてラタンのカウチ?その横には大きな観葉植物・・・ここは何処?って寝たまま目だけを動かした。


あぁ・・・そうだわ、ここはシンガポールだ。
昨日アルフレッドさんに捕まって連れて来られたんだ・・・それを思い出したらゆっくり身体を起こした。

お腹は・・・うん、大丈夫。
痛みとか張りもなくて動くのに問題はない。

すぐ横のテーブルには自分の鞄と着てきた冬服があって、履いてた靴もベッドの下にちゃんとあった。


コンコンとノックの音がしたからドアまで行くと「お目覚めですか?」と英語で女の人が声を掛けてきた。
アルフレッドさんの言ってた管理人さんって女性だったんだ・・・と、少しドアを開けたら綺麗なお姉さんが立っていた。見た感じは東洋人・・・その人がニコッと笑って「おはようございます」って言ったから慌てて英語で返事をした。


『おはようございます!あの・・・管理人さんですか?』
『いえ、エバンスの者です。アジア統括本部からの命令でこちらに来ています。ここの管理人は現地の人で、もう下で食事の準備をしています』

『アジア統括本部・・・アルフレッドさんの所属はそこですか?』
『えぇ、そうですね。その統括本部長と日本に作られた新会社の責任者は彼ですわ』

『あの!私の帰国については何か聞いてますか?』

『・・・いえ、私は何も聞いていません。指示されたのはあなたがここに居る間、男性だけでは困るからと言う事で派遣されただけです。花沢様は妊娠中なのですって?ご気分が悪くなったらすぐに言って下さいね。それと着替えはここに置いていたものをお使い下さい』



淡々と説明していくけど、この人の会話の中に業務的な事がないのが気になる・・・。
私がここに滞在してる間ってどう言う意味?私はここに長く居るつもりはないのに?


『すみません、電話をお借りしたいのですが』
『生憎この宿舎には電話がありませんの。今は携帯の時代でしょ?お持ちじゃないんですか?』

『日本に置いてきてしまって・・・』
『それでしたらアルフレッド様にお願いしてみて下さい。では、お着替えになったら下に来てくださいね。もう準備が出来ている頃ですから』




まさか、これって・・・本当に誘拐?




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2019/05/21 (Tue) 06:47 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、おはようございます。

そうそう!ゴミうるさいですよね(笑)
今でも街のド真ん中には警察官が立ってるのかしら?

私が行ったときも兎に角ゴミを捨てないように言われました。随分前ですけどね~💦
シンガポールで1番素敵だったのはサンセットクルーズでした♡

草むらに落としてみたけどダメだったかしら(笑)


アルフレッド・・・(笑)一応紳士の設定ですのでね・・・女性は丁寧に扱うのだと思います。ははは!

2019/05/21 (Tue) 08:10 | EDIT | REPLY |   

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