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plumeria

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あきらから呼び出しがあったのは1月の中半、珍しく大雪が降った日だった。

あいつが仕事で打ち合わせをするって言うホテルの中のレストランで午後3時。俺は丁度面倒臭い披露宴の打ち合わせがあるとお袋に言われていたから、逃げられてラッキーとばかりに屋敷を抜け出した。

多少の渋滞を見越して早めにホテルに向かったから3時少し前にはレストランに着き、あきらは先に来てタブレット端末で仕事をしていた。
そして時間通りに来た俺を見てタブレットを閉じ、ウェイトレスに珈琲を注文した。


「雪だったのに時間通りだな」
「まぁな!厄介な話から抜け出せて良かったわ」

「・・・近づいてきたからな。あれは確かに面倒だ」
「お前はいいじゃん、イギリスだったし本気で選んだ相手だったんだから」

「それでも面倒だったから2度としたくない」
「2回する気か?」


そんな会話で始まったがあきらの様子がおかしかった。
てっきり香月真一の事で話があるんだと思っていた俺は、そのあきらを見て違う用件かと少し気が抜けた。だけど、こいつがあまりにも真面目な顔してるから気になって、珈琲を持ってきたウェイトレスが立ち去ってから言葉を出した。


「どうした?何かあったのか?」
「あぁ、少し気になる事があってさ・・・」

「気になること?子供の事・・・いや、嫁さんの事か?」
「・・・あぁ、仁美なんだけど」

「あっ!もしかしてバレたのか?あの宝石屋の袋!俺、誤魔化したんだけどな・・・気付かれたかな」
「なんの事だ?」

「・・・あれ?」


あきらは眉を寄せて不思議そうな顔をした。
だからつくしの誕生日のプレゼントの袋を見られたことを説明したら驚いていた。仁美さんはあきらに何も話してなかったようだ。


「あんなものを車の上に置いとくあきらも悪いって。別の袋に入れたら良かったのに・・・ってか、嫁さんが来るとは思ってなかったから俺もビビったけど」

「総二郎に会ったことも聞いてない。何故だろう・・・大抵そう言う事は話してくれるのにな」
「大した話はしてねぇからじゃないか?それに俺が買ったって事にしておいたし」

「・・・どうかな。あいつ、最近様子がおかしいんだよ。それに屋敷に何度も男が彷徨いてるのが報告されてるし」
「屋敷に男?どんな奴だ?」

「防犯カメラで見たけど顔が映ってないものばかりで判らないんだ。正直言えば半年ぐらい前から仁美に鬱っぽい症状が出ていたんだが、最近また酷いみたいでさ・・・」


あきらの話だと年末から数回、不審な男がカメラに映ったがいずれも捕まえてはいないらしい。そもそも屋敷内に入ろうとした訳でも無く、外から見ているだけだから捕まえるのも変な話だ。
確かに美作は人目を惹く洋館の上に植物園状態だから、そう言う趣味の人間が足を止めることはよくある。

ただし今回の男にそういう雰囲気がなく、警備員が来ると逃げるように去って行く姿に違和感があると屋敷の人間も報告してくるのだとか。


「・・・危ない事業とかしてんのか?」
「そんな事しないって!危ない地域での取引が多々あるだけでうちはクリーンな企業だって!」

「ははっ、悪い!でも爆破されねぇように気をつけろよ?」
「物騒な事を言うな!そんな事はどうでもいいんだけどさ・・・」

「・・・?」


あきらはそれよりも嫁さんの様子の方が気になるようだった。
先日は初めてあきらに何も言わずに外出し、その日の夜にはいつになく甘えて激しかった・・・だなんて余計な報告までされた。


「・・・それはそれでいいんじゃね?甘えてくれるのに文句言うなよ」
「そうだけど、元々そんな態度に出る女性じゃないんだ。病気してからは特に・・・むしろ嫌なんじゃないかと思うぐらいだったんだからな」

「そうなんだ・・・じゃ、逆に吹っ切れたんじゃね?それは気にすんなよ、俺と違って隠さなくてもいいんだから」
「茶話会なんてこれまでに1度も無かったんだ。多分病気のことも友達には話してないだろうから、そんな誘いが来ても行ったことが無いと思う。パーティーや同窓会だって俺には相談があったんだ。どうして今回だけ黙って行ったんだろう・・・」

「あのな、あきら。嫁さんだってもう30近いオトナだろ?イチイチ旦那に言う方がおかしくね?」
「・・・そうなのかな」

それより使用人の事はどうなった?と言いたいのを我慢して、ため息の止まらないあきらの愚痴を聞いていた。
こりゃ暫くは調査なんて無理か?と俺まで落ち込んだが、次の仕事の時間になってあきらとは別れた。


「甘えて激しかった・・・か。やべっ、つくしに会いたくなった!」

スマホを出したがつくしも勤務中・・・仕方なくそれをポケットにしまって、俺もホテルを後にした。




********************


<sideあきら>

総二郎と話した日、雪のせいで色んなスケジュールの変更があって早く帰れるようになった。
だから定時で社を出て仁美の好きな店に向かい、そこで和菓子を買った。いつもお袋がケーキなんかの洋菓子を焼くから、たまには和菓子が食べたいなんて言ってたから。

そいつを持って屋敷に戻ったのはまだ6時半。
すっかり暗くなっていたが俺の早い帰宅に子供達が喜んで出迎えてくれた。


「パパァ!おかえりなさーい!きょう、はやぁ~い!!」
「ねぇ、パパ!おにわ、見てぇ?!」

「あはは、ただいま。なに?庭を?」
「「うん!!」」

両手を引かれてリビングの窓から外を見たら、その正面に雪だるまが作られていた。
大小様々な大きさで8体も・・・そこら中の庭の雪がぐちゃぐちゃになってて使用人が駆り出されて雪を集めたんだな?って思った。
しかも一体ずつに手袋や帽子やマフラー・・・誰の物なのか判らないけど色んな物で飾られていた。

「すごいな・・・誰と作ったんだ?」

「さよちゃんと、にわしのおじいちゃんと、たにむらさんと、すずきさんと・・・あと誰だっけ?」
「もりたさんもいたよ?あとねぇ・・・さわださん!」

「ママは?一緒に作らなかったのか?」

「ママはねぇ、あたまがいたかったの」
「だからずーっとねてたよ?今もねてる。ごはん、ほしくないんだって」

「・・・そうなのか」


その時に後ろに来たのは小夜。
俺が顔を見ると申し訳なさそうに頭を下げた。

「仁美、また具合が悪いのか?」
「はい・・・病院も勧めるんですけど嫌だって仰って。ただの頭痛だから寝れば治るからって言われるんです。夕食も少しだけしか召し上がらないし、すごく気になるんですけど」

「そうか。子供達が五月蠅くしたのかな」
「いえ、そう言う訳ではないと思います。お子様方が雪だるまを作られる時、お部屋の窓から眺めておられました。紫音様がお声を掛けたら嬉しそうに手を振って・・・その時は笑っておられましたから」


また庭に目をやると暗い庭で紫音と花音が雪だるまの手直しをしている。
すごく嬉しそうに仲良く笑いながら・・・この光景を牧野に見せてやりたくてスマホで録画した。

「しかし沢山作ったな!庭中の雪を集めたんだろ?」

「うん!えっとねぇ、これがパパでしょ?これがママでしょ?」
「それでねぇ、この小さいのがかのん。そのとなりがしょん!」

「そうなんだ?残りの4体は?」

「あのねぇ、これがおじいちゃまでこっちがおばあちゃま!」
「それでこっちの端っこがちゅくちちゃん。あっちの端っこが・・・そうちゃん!」

「・・・そうか」


2人は8体も作った雪だるまの真ん中でピースサインをして凄い笑顔だった。
動画で撮ってたのに名前を言われて驚いた。せめて隣にしてやればいいのに・・・なんで端っこと端っこだ?


夕食も済ませて双子達がバスルームに行ってる時、牧野にそいつを送って電話で話していた。


『うわっ!すごいねぇ、こんなに作ったんだ?で、私達は端っこなんだね?あははは!』
「笑ってくれてありがとう。焦ったよ・・・隣にすればいいのにってさ」

『いいよ、いいよ!仲間に入れてもらえただけで嬉しいよ?ありがとう、美作さん』
「作ったの俺じゃないし。でもまぁ、この雪も楽しめたみたいだからな」

『うん、良かったねぇ!私もタクシーだから助かったけど、バスとかすごく遅れてみんな大変だったみたい』


その最中、後ろから視線を感じて振り向いた。
フワッとクリーム色のガウンが見えた・・・仁美が聞いていたのか?


『・・・美作さん?どうかしたの?』

「いや、何でもない。それじゃあな・・・おやすみ、牧野」
『うん!おやすみなさい。うふふ、また再生して見ちゃお!』


電話を切ったあと、もう1度振り向いたけどそこには誰もいなかった。




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