FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
「春ちゃーん!3時になったわよぉ!」
「あっ、はーい!」

温室でビニールポットに新品種の花の種を植え付けていた時、パートのおばちゃん達が声を掛けてくれた。手招きして待ってくれてたから作業を中断して一緒に休憩室に向かった。
「後藤さんが旅行のお土産持って来てくれてるのよ」なんておやつの話・・・温室を開けて外に出たら、今日はこの前雪が降っただなんて思えないほど穏やかな天気だ。

雪だるま、溶けちゃったかなぁ・・・青い雲を見ながらそんな言葉を呟いた。


休憩室に戻って鞄の中を覗いたら、スマホにメッセージが届いていることに気が付いた。
それを確認したら総から・・・『今日時間が出来たから逗子には俺が迎えに行く』そう書いてあった。

「えっ!ここに来るって・・・ダメだよ、ここは『田中 春』のままなんだから!」

本当は「田中 春」の名前はもう使わなくても良かったんだけど、今更それをスタッフに説明するのが大変だって事でそのままにしていた。
どっちにしてもそこまで長くは働かない。お金が貯まれば別荘も出て1人暮らしして、牧野で働ける会社を探すって言うのは美作さんにも話していたし。

それなのにここに彼が来て「牧野」の名前なんて出したら面倒・・・だから、急いで返事を返した。

『正門の外のバス停で待ってて。研究所の中に入る手続きが面倒だから』

・・・本当は名前を書けばすぐに入れるんだけど。


その返事は仕事中だったのかすぐには来なかったけど、帰る時に見たら既読になっていた。だから急いで着替えて正門まで走り、守衛さんに「お疲れ様でしたぁ!」と叫んで門を出た。
早くしないとパートのおばちゃん達が沢山出てくる・・・!総の事を誰かが知ってたら大変!


私が教えたバス停のところに見慣れない車が路上駐車してる。もしかしたら総が買ったっていう、もう1台の車かと思って恐る恐る近寄ったら、運転席でシートを倒したまま寝てる彼が居た。

「くすっ・・・寝不足なのかしら。よく寝てる・・・」

そう呟いた時にはおばちゃん達の姿が正門の向こうに見えていた!

コンコン!と窓ガラスをノックしたら薄く目を開けて、私の姿を確認したら倒していたシートを起こしてロックを解除してくれた。だから急いで助手席に乗って頭を低くした。


「・・・何やってんだ?」
「いいから早く出してっ!おばちゃん達が来ちゃう!」

「あぁ、そう言う事か。ははっ!俺の事が判るおばちゃんなんて居るのかよ」
「そんなの判んないじゃん!中には物好きがいるかもしれないし!」

「・・・物好き?」
「あっ、茶道のことだよ!」

「・・・お前、人の職業をなんて言い方してんだ?」


しまった!って思ったけど機嫌の良い総は怒らなかった。
後ろを見たらもう研究所も見えなくなっていたからホッとして身体を起こし、ズルズルとシートベルトを持ったまま身体が崩れる・・・今度はそれを見て大笑いしてた。

「もうっ・・・急に来るんだもん、驚くでしょ?お迎えのタクシーに連絡してくれたの?」
「あぁ、今日は俺が行くからいいってな」

「で、どうしたの?そんなに来れないなんて言いながらこの前も来たし・・・大丈夫?」
「今日は本当に偶然なんだ。石川から北陸の支部長が急に上京して来たから親父達は飯食いに行ったし、紫は薫の誕生日らしくて外食して良いか、なんて聞くからすぐにOK出した。それで俺がフリーになったって訳」

「そうなんだ・・・ふふっ、総が我儘言ったんじゃないのなら良かった」

「買い物は?」
「・・・2人で行くのは不味いでしょ?家にあるもので良かったら何でも出来るから」


この話し方だと今日の夜には西門に戻る・・・その前にまた部屋に連れて行かれるかもしれない。

それが少し怖かった。
何故かこれまでは彼が私の頼み事を聞いてくれているけど、今日はどうだろうって考えてしまうから。いつまで「明るいところは恥ずかしい」が通用するんだろう・・・お屋敷に近づく景色をドキドキしながら見ていた。


屋敷に着いたらすぐに車を駐車場に停めたけど、2人同時には出ない。
総は10分ぐらい車で待機してから時間差で玄関のドアを開けることにしていた。

その10分の間に急いで服を着替えて洗濯物を取り込み、今日も部屋の中を確認する。あれから双子に関する物は出してないから大丈夫なんだけど、毎回確認しないと落ち着かないから。

そして駐車場で総が車を降りたことが判ると玄関の内側で待って、ドアが開いて総の顔が見えたらやっと両手を差し出す。
それを引き寄せてすぐに抱き締めてくれる、その胸の温かさをここで漸く感じることが出来る。


「お帰り、総」
「くくっ、ただいま、つくし・・・10分ぶりだな」

「うん、長い10分だよね」
「あぁ・・・そうだな」


総の冷たくなった唇が私と重なる・・・そしてすぐに熱くなる。
1度離したけどすぐにまた2度目のキス。いつも2回目はしつこいぐらいに甘くて長い・・・でも、それが凄く好きだった。


「・・・じゃあ、ご飯の支度するね。テレビでも見てて?」
「あぁ、簡単でいいぞ。時間が掛かるのはイヤだから」

「うわっ!我儘だなぁ、本当に簡単なものだったら食べられないかもよ?」
「何でも食えるって。馬鹿にすんなよ?」

「はいはい、じゃあ簡単なものでね!」


そう言いながらエプロンを着てキッチンに入った時、私のスマホが鳴った。


掛けてきたのは美作さん・・・その画面を見て何故か胸騒ぎがした。




*******************

<sideあきら>

仕事先から東京に戻る途中、私用のスマホが鳴り出した。
こんな時間にこの電話に着信なんて珍しい・・・ポケットから取り出して画面を見たら、美作の警備員の名前が表示された。

警備・・・?何故、警備担当者からこんな時間に電話が入るんだ?

胸騒ぎがしてすぐに電話に出た。途端に聞こえたのは女性の泣き声・・・もしかして仁美か?とスマホを持つ手に力が入った。


『あきら様、大変です!!』
「どうした、何があった?!」

『今、都内のデパートに居るのですが、紫音様と花音様の姿が何処にも見当たらないのです!申し訳ございません!』
「何だって?紫音と花音が?今、何処だ!!」

『池袋です。若奥様が取り乱しておいでなので私が付き添っていますが、山崎が付近を捜索中!デパート関係者にも捜索に参加してもらっています!』
「仁美は居るんだな?どんな様子だ!」

『・・・今はお話出来る状態ではございません!あきら様、こちらに来ていただけませんか!』
「判った!警察には?!」

『私からはしておりません、ご指示いただけますか?店側にも通報は止めています!』
「・・・それでいい!警察の介入は必要ない、うちの情報部の人間を増員して捜索しろ!」

『既に手配してますので間もなく応援が到着します!』


下手に警察が関わってきたら美作独自のシステムが使いにくくなる・・・!
いや、それを起動させるほどの大事にならなければいいが。


運転手に美作に戻らず、そのデパートに行くように伝え、両親にも電話を入れた。
2人とも驚いて社のことはいいからすぐに行けと・・・この時点では牧野に連絡するのは止めておいた。見付かれば問題はない・・・余計な心配をさせて、また牧野の様子がおかしくなったらその方がヤバいと判断した。

とにかく俺が行って状況を把握しないと・・・!


夕刻の渋滞の中、イライラしながら後部座席から身を乗り出し、運転手に「迂回路はないのか!」と怒鳴ってしまう程冷静さを欠いていた。思っていたよりも時間が掛かり、池袋まで行くと信号待ちで車から降りてそのデパートに駆け込んだ。
総合案内所で事情を説明するとこの店の支配人が駆けつけて「こちらです!」と、裏通路のような場所から警備室に案内された。

「美作様がお見えになりました!!」

案内した男がそう叫んでるのを押し退けるようにして警備室に入ると、そこに泣き崩れた仁美がいる・・・俺を見るなり大粒の涙を流しながら縋り付いてきた!


「ごめんなさい!あきらさんっ・・・どうしよう、あの子達が・・・あの子達が!!」
「落ち着け!何があったんだ?!まだ子供は見付からないのか?!」

「申し訳ありません、まだ見付かっておりません!」

そう言ったのは仁美に付き添っていた美作の警備員で中田と言う女性。山崎という男の警護はまだ店内を捜索中だと言われた。
聞けば居なくなったのは1時間前の5時で、このデパート内のトイレ。
3人で入り、仁美が個室に入っている時には双子が「ここで待ってる」とパウダールームに居たらしい。


「わ・・・私が中に入っている時には声が聞こえていたんです。だから大丈夫だと思っていたらそのうち静かになって・・・急いで出た時にはもう居なくて、慌てて近くにいた警護の人に聞いたんです。紫音と花音が出てこなかったかって・・・」

「はい。若奥様が凄く慌てて出てこられたので隠れて見ていましたがすぐに駆け寄りました。そうしましたら、今のお話しをされたので山崎が急いで周辺をお探ししたのですが何処にもお姿がなかったんです」

「でもトイレだろう?出口は1つしか無いだろう!」

「たまたま若奥様が入られたトイレはこちら側通路と、向こう側の通路の2箇所の入り口がございます。ですから私達は両方見える位置から監視していましたが、お子様が2人で出てきたという姿は見ませんでした」

「ああぁーっ!!どうしたらいいの!紫音・・・花音っ!何処に行ったの!」
「仁美、大丈夫だ、きっと見付かるから!」

「いやああぁーーっ!私のせいだわ、私の・・・ごめんなさい、あきらさん!」


両手で顔を覆って泣き叫ぶ仁美を抱きかかえていたが、俺もパニックになった。
今はデパート中の警備員と美作からも応援が来て店内を捜索中、警備室ではトイレ近くの監視カメラの解析が進んでいた。

だが、そこに紫音と花音の姿は本当に映っていなかった。

2人を連れて仁美がトイレに入り、今度は慌てて出てくる仁美が監視カメラに映るまでの時間は僅かに10分・・・その間に出入りした人間は数人居るが、その誰もがブルーのコートの子供なんて連れては居なかった。
恐ろしい想像だったが、子供が入りそうな大型の荷物を持って出てきた人間も居ない。

何故だ・・・あの子達だけで出ていくのは考えにくいのに・・・?


額から汗が流れる・・・気が付いたら傷が付きそうなほど手の平を固く握り締めていた。


「ここ以外の監視カメラも確認したのか!」
「いえ、これからです!」

「急げ!!くそっ・・・どうして早くに閉館しなかった!!」
「申し訳ありません!!」

「既にここから出られていたら捜しようがない・・・駐車場や外部の監視カメラも全部調べろ!」
「はい!すぐに!」

捜しようがない、そう言えばまた仁美は机に伏せて泣き出した。
暫くしたら山崎も、他の警備の人間も戻ってきて、その誰もが首を横に振った。


紫音と花音が居なくなってからもう2時間・・・・・・。


俺は牧野に電話を掛けた。
どう言えばいいのか判らないぐらい動揺している・・・でも、知らせない訳にはいかなくなった。




3354ff6edacee2b5e1e48eec1ed73d4c_t.jpg
関連記事
Posted by