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plumeria

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「つくし、あきらからまた連絡がある。とにかくこっちに来い」

キッチンに座り込んだままガタガタと震えているつくしをリビングで休ませようとしたけどまったく動こうとはしなかった。
まだ虚ろな目をして両手で耳を塞いてる。その指先で髪の毛を毟り取るように頭を抱え込んでいた。

仕方ないから背中から抱き上げるようにして立たせたが、すぐに力なく俺に縋り付いて来た。そのまま脇を抱えるようにしてリビングにつれて行き、ソファーに座らせた。

その目から大粒の涙が溢れ出し、こいつのジーンズの上に落ちていく・・・そいつを指で拭ってやったがそんなものは役にも立たない。洗面所に行けば取り込んだ洗濯物が置いてあって、そこから乾いたタオルを掴んでつくしの手に持たせた。


「・・・・・・やだ・・・どうしよう・・・いやだ、そんなの・・・そんなの・・・」
「まだ全然状況が判ってねぇんだ。ここで俺達が取り乱してもどうしようも出来ない。すぐに電話が掛かってくるだろうから待つしかねぇよ」

「何処に行ったんだろう・・・まさか誰かが?」
「だから判んねぇって。悪い方に考えるな。ちょっと待ってろ」


つくしは自分が母親として涙を流してるなんて気が付いていない。
他人の子供の心配とは明らかに違う動揺を隠しもせずに俺に見せて、とても演技が出来る状態じゃない。それを敢えて言葉にせずに、せめて俺だけでも落ち着かねぇと・・・と言い聞かせたが、俺だって心臓の爆音は止まりゃしない。

こんなもので震える身体が落ち着くとも思えなかったが、湯を沸かして茶を淹れてやった。


「つくし、ひと口でいいから飲め。もしかしたら東京に行くかもしれない。身体が動かねぇとどうしようもないぞ」
「・・・総・・・」

「紫音達の事が好きなんだろ?気になるなら連れて行ってやる・・・だから、少しは冷静になれ」
「・・・判った」

つくしに言った言葉は俺自身にも当てはまる言葉・・・このまま鎌倉で連絡待ちって訳にはいかない。俺の予想だと美作は総てのデータを持って屋敷に帰り、そこで独自に捜索を始めるだろう。
それだけの設備があきらの家にはあるからな・・・。

コクンとひと口飲んだけどすぐに噎せて咳をする、そんなつくしの背中を撫でてやってる時にあきらからの連絡が入った。
ビクッとするつくしの肩を抱き寄せたまま、スマホはテーブルに置いてスピーカー状態にした。


『もしもし、俺だ!遅くなってすまない』
「あきら、どうなった?!まだ見付かったって報告はねぇのか?」
「美作さんっ!!あの、全然判らないの?ねぇ、美作さん、どうしてそんなっ・・・!」

興奮状態になったつくしを手で制し「落ち着かねぇのなら向こうに行け!」と怒鳴ってしまった。そうしたらタオルで顔を覆ったまま黙った・・・そして俺の手を握ってテーブルに伏せた。


「悪い、あきら。続けてくれ」
『・・・牧野、ごめんな、まだ判ってないんだ。で、総二郎、これから俺達は美作に戻ってそこで子供達を探すことにしたから』

「多分そうだろうと思った。何処まで判った?」
『お前に話した後からの情報は何もない。これから周辺の監視カメラ全部の確認作業と、明日には店内の監視カメラの映像が届くからそいつをもう1度確認する。もし連れ去られたとしても手段が判らないと追跡のしようがないが、東京駅や空港のシステムに入ろうと思う。判ってるだろうが極秘だぞ!』

「勿論だ。で、つくしを連れて行ってもいいのか?」

『・・・牧野に任せる。もし、ここに来て見守りたいのなら俺達は構わない』


それを聞いた瞬間、伏せて泣いていた牧野が急に立ち上がってエプロンを外し、コートを羽織った。慌ててるからコートのボタンも段違いだし、自分が落としたおたまを足で蹴り飛ばしても見もしない。
俺がまだあきらと話してる最中に玄関で靴を履き始めた。


「あきら、あいつ、行くみたいだからそっちで状況聞くわ!」
『慌てて事故るなよ!何かあったらすぐに連絡するからな!』


俺も車のキーを手に持ってつくしの後を追い掛けた。




*********************


<sideあきら>

自宅に戻ったら涙を浮かべた小夜が出迎え、仁美を部屋に運んでいった。

あれから仁美は「ごめんなさい」と繰り返すばかりで話しも聞けない。
発作のような症状も出ていたから問い詰めることも出来ず、帰りの車の中では後部座席で横になっていた。


「あきら、私は極秘に通信事業者の幹部に連絡し、もしも脅迫のような電話が掛かったら発信元を調べてもらえるようにしておく。お前は地下のデータ解析ルームで都内の監視カメラを調べろ。あの店の周辺のコンビニや道路に設置されているカメラを中心にな」

「判った。お袋、もうすぐ牧野が来る。実は総二郎が偶然鎌倉に居たんだ。あいつが連れてくると思うから説明頼む!」

「総二郎君が?でも子供達の事は話してないんでしょ?」
「話していないが牧野の取り乱し方が普通じゃないから気が付かれるかもしれない。そこは牧野に任せようと思う・・・今は双子の無事を確かめるのが先だから、説明が終わったら地下に来ても構わない。仁美の様子も見てやってくれ、俺は暫く部屋には戻らないから」

「・・・えぇ、判ったわ」


美作の地下にあるデータ解析ルーム。
非合法だが都内のコンビニ、道路に取り付けられている監視カメラのメインシステムに入り込み、その情報を抜き取る事は可能だった。
これはイタリアや中南米、中国と言った場所に取引先の多い美作がマフィアなどから自社を守るために親父が作ったもので、普段は稼働していない。
非常事態が起きた時に親父の命令で情報工作員が集められ、データを解析する。

だからここが動く事なんて滅多になかった。まさかこんな事で稼働させるとは・・・焦りながら地下通路に入り、その部屋に入ると既に数名の人間が解析に入っていた。


「子供達の姿は確認出来ないか?!」
「まだ見当たりません。居なくなった時間からデパート周辺の監視カメラを全部確認していますが相当な数です。時間は掛かりますね」

「とにかく急げ!万が一連れ去られていたのなら一刻の猶予もない!まだ3歳だ、自分たちで逃げることなんて出来ないからな!」
「畏まりました。ただ、店内監視カメラの解析からでないと移動手段が判りません!それはいつ届きますか?!」

「明日の朝だ。それまでは今見られる映像で捜すしかない。それと映像の中に犯罪歴のあるヤツが映ってないか照合してくれ!最寄り駅の監視システムには入れたか?羽田と成田のロビーにも侵入しろ!国内線には間違いないからな!」

「了解しました!夜行バス乗り場付近のカメラも調査中です!」

「ご苦労だが頼む・・・時間がないからな!」


紫音と花音がいくら好奇心旺盛だからって勝手に出歩くなんて考えにくい。
それに紫音は自分が兄だと言う思いがあるから常に花音を守っている。花音が羽目を外しても紫音が必ず止めるはずだ。

それなのにこんなにも完璧に姿を消せるのなら計画的・・・一瞬そんな風に考えたが仁美が誰かに依頼するわけがない。


そう思いながらも最近の仁美の変化が頭には浮かんでいた。
でも、まさか・・・いや、そんなはずは無い。


心の中にまったく違う不安を抱えながら、俺も必死になって防犯カメラの映像の中に双子の姿を探していた。




**********************




もう真っ暗になってから美作に着いたが、そこはいつもと違う緊張感に包まれていた。

殆どの部屋の照明が付けられていて数台の車が玄関前に並んでいる。ここに美作の人間が大勢が集められてる証拠だ。
そのいつもとは違う屋敷の様子に一層動揺を見せるつくしは、泣きながらその異様な光景を見ていた。

駐車場に車を停めると俺よりも早くに飛び出して玄関に向かおうとする。だがそこでも躓いて転びそうになり、慌てて腕を掴んだがそれすら振り解かれてしまった。

「つくし!待てって!慌てるな!」


俺の声なんて聞いちゃいない。
つくしは脇目も振らずに玄関に向かい、そのドアを叩いて「牧野です!開けて下さい!!」と叫んだ。

すぐに執事がドアを開けてくれて、中に飛び込んだつくしに向かって走ってきたのは使用人の小夜だ。
彼女も大泣きしてつくしを抱き締め、その場に座り込んでしまった。


「つくしちゃん・・・つくしちゃん!!大丈夫、絶対に戻ってくるから大丈夫だよ!絶対帰ってくるから・・・っ!」
「・・・小夜さん・・・やだ・・・やだぁ!いやあぁーっ!」

「つくしちゃん、泣いちゃダメ!きっと笑って帰ってくるから!!」
「小夜さん!小夜さん・・・っ!!」


俺の姿を見たら小夜も驚いたようだったけど、すぐに頭を下げてつくしから離れた。
「取り乱して申し訳ございません!」、そう言ったが何度も自分の目を手の甲で拭って・・・俺は床に伏せて泣いてるつくしを抱き起こした。


「こんな時間に俺達まで来て申し訳ない。あきらは?」
「あきら様は・・・地下のお部屋に籠もってお調べ中です」

「そうか。じゃあ俺達もそこに行くわ」
「・・・わ、判りました。確認して参ります!」


小夜が振り向いて奥に行こうとした時、それを遮ったのは夢子おばさん・・・俺達に「こちらにいらっしゃい」と、厳しい表情でリビングへ案内された。





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