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plumeria

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あきらの所に行く前に、夢子おばさんに呼ばれてリビングのソファーに座らされた。

小夜じゃない使用人が紅茶を俺達の前に置くとすぐに立ち去り、部屋には3人だけ・・・つくしはハンカチで涙を拭きながら俺の横に座っていた。


「ごめんなさいね、うちの事なのに驚かせて。あの子達の事は世間にきちんと公表していない上に、つくしちゃんだけが小さい時から遊んでくれていたからあきら君が伝えてしまって・・・」

「いや、そんな事はいいんだけど、今どんな状況?」
「・・・ごめんなさい、おば様・・・私がこんなに取り乱してしまって」

「ううん、心配してくれてありがとう。一緒にいた仁美さんなんだけど、ショックが酷すぎて寝込んでしまったの。だから説明は私がするわ」


あくまでもつくしは仲の良かった人間の1人だと言う表現に留め、おばさんはこれまでの説明をしてくれた。


「あきら君に第一報が入ったのは午後5時20分、うちの警護の女性からなの。一応うちの人間が外出する時には離れた場所から見守ることにしてるから」

「傍には付けなかったの?」

「はっきりとした事情があれば付けるわ。たとえば会社に対する脅迫状が屋敷に届いたとか、明らかに美作への攻撃があるって判ってる時はそうしてるの。でも普段は少し離れて警護してるわ。そうじゃないと逆に目立って自由が利かないし、子供達も不安がるでしょう?」

「でも、最近不審者がいたんじゃなかった?」

「あら、あきら君から聞いていたの?えぇ・・・そうなんだけど、仁美さんがとにかく警護を嫌がるの。それに不審者って言っても何かの被害があったわけじゃ無いのよ。だからうちとしてもこれを非常事態とは言えなくてね」


不審者って聞いただけでつくしの身体がビクッと揺れた。
「無関係かもしれないから」って言うとまた俯いてガタガタ震えて、おばさんもそんなつくしを苦しそうな目で見つめていた。

そしてまた数人、美作の情報部員だと思われる人間が屋敷に入ってきて何処かに消えて行った。俺も入ったことはねぇが恐らくここの地下にあるコンピュータールーム・・・あきらが居る処だろう。
つくしも其奴らを不安そうな目で追っていた。


「私が聞いた話だけど、どうやら女性用トイレに仁美さんが入ってる時に双子はパウダールームで待ってるって言って普通にしていたそうなの。そこには他にも人が居たみたいだし、仁美さんも『黙って出ないようにね』って声を掛けて入ったらしいのよ。
初めのうちは聞こえて来た笑い声が急にしなくなったから慌てて出てみたら、その時にはもう誰も居なかったらしいの。女性客も紫音と花音も・・・でも、トイレから出てきた人を映した防犯カメラには双子は映って無かったの」

「でも出て行ったのは間違いないんでしょ?!」

「うん・・・そのトイレの出入り口は左右にあったんだけどね、双子が着ていたコートなんて映ってないの。誰かに連れられた場面も双子だけで出ていった場面も映ってないの。だからどうやって姿を消したのか判らなくて、カートみたいな物に入れられたのかと思ったりもしたけどそんな物も動いてないの。
そのうち慌てた仁美さんがトイレから出てきて警備の人間に駆け寄った所は映ってるのよ・・・それが5時5分ぐらいなの」

「駐車場とか店舗入り口とかのカメラは?」

「私達が店舗にまだ居た時に確認はしたけどあの子達の姿は無かったわ。でも明日にはそのデータがここに来るからもう1度詳しく確認するけど」

「・・・考えたくはねぇけど美作に身代金の要求は?」

「無いわ。でも何か連絡があったら通信事業者に極秘で調べてもらえるように手配済みよ。ただここの固定電話に掛けるのか誰かの携帯に掛けるのか判らないけど。それでも掛かってきたら電波の発信地は調べられるわ」

「でも場所の特定は出来ない・・・そうだよね、おばさん」

「そうね。それは無理だけど手掛かりにはなるでしょう。でも美作の子供として連れ去られたのなら何故知ってるのかって事だわ。あの子達があきら君の子供だって公表してないのに誘拐の対象になるのかしら・・・」

「誘拐・・・そんな!!」
「落ち着け!まだ決まって無いって!」


美作は現在揉めている事業はなく、社内でもトラブルなんかは起きていない。そもそも美作商事の内部に紫音と花音の存在を知っている人間は極僅かだと言う。
それも上層部の信用出来る人間だけで、当然そいつらとも良好な関係・・・双子を何かに利用するなんて事は考えにくいと説明された。

あきら個人に恨みのある人間・・・逆恨みなら考えられるが、こいつの性格上これもまず有り得ない。
本当は怒らせたら誰よりも怖いかも、と思うがそれも学生時代のことであって、企業人になってからのあきらは随分と穏やかだったから。


「け、警察には・・・」
「つくしちゃんには理解出来ないかもしれないけど、警察に言うより美作が動いた方が早いわ。それだけの設備も情報も持ってるから心配しないで」

「誰かに保護されてるとかはないですか?双子が・・・あの子達が自分たちで何処かに紛れ込んで迷子になって、それを誰かが保護してくれてるとかは・・・」

「それならもう警察に連絡してるでしょう。もう3時間以上経ってるわ・・・そうだと嬉しいけど、違うと考えた方がいいわね」


保護されたのでは無い、つまり双子は第三者による何かの目的でそこから連れ去られたって訳だ。
誘拐の場合、子供達のバックグラウンドが判って無いと起きないはず・・・1番恐ろしいのは無差別に子供を狙ったって場合だ。それだと解放される可能性は低い。
そんな最悪のシナリオを誰も口にすることは無かったが、少なくとも心の何処かで考えているだろう。

犯人からのメッセージがどんな形であれ行われないと予測も出来ない。


「・・・ううっ、うっ・・・」
「つくし、泣いても始まらない・・・無事を信じようぜ?」

「そうよ、つくしちゃん!大丈夫・・・賢い子供達だもの、絶対に無事に帰ってくるわ」


つくしの震えが止まらない。
夢子おばさんは俺達も地下に入っていいと許可をくれた。



**



「それではここで西門様と牧野様の指紋、光彩、静脈の登録からさせていただきます。そしてパスワード登録もお願い致します」

美作の警備はこの状況でも冷静にそんな言葉を出してきた。
それだけこの中に入る時は緊急且つ非常事態であるという事・・・気持ちがそれどころじゃないつくしの身体を支えながら言われた通り登録していった。
「それではお入り下さい。突き当たりの部屋でもう1度パスワードの入力を」、そう言われて重厚な扉が開かれ、俺達はその中を駆け足で進んだ。

突き当たりにもある扉で言われた通りパスワードを入力、自動で開かれた扉の向こう側には信じられない数のモニターがフル稼働していた。
そのド真ん中・・・自らもモニターチェックしているあきらの所に向かった。


「あきら!」
「美作さん!何か判った?!」

「・・・牧野・・・まだ何も見付からないんだ。仁美から聞いてるコートを着た子なんて何処にも映ってなくて・・・」

「そんなっ!やだっ・・・どうして、どうしてこんな事に!!」
「つくし、ここで騒ぐな!みんなの邪魔になる!」

「・・・・・・うっ・・・ううっ!」


あきらは自分の見ていたモニターを他の人間に譲り、この部屋の隅にある休憩場所のような所につくしを連れて行くように言った。
そこで今度はあきらからも事情を聞くことにして、つくしは声が漏れないようにハンカチで顔を覆って伏せていた。
その背中に手を置いて、俺とあきらが向かい合った。


・・・あきらも違う意味で困惑してる。
ここまでつくしが動揺した姿を俺が見てどう思っているのか・・・俺が何かを感じ取らないかと心配しているようだった。

俺もこの場で言いたかった・・・でも今のつくしにこれ以上の興奮を与えるのは良くない、咄嗟にそう思って口にはしなかった。


「あきら、何処の監視カメラ見てんだ?」
「え?あぁ・・・店を出てからすぐにあるコンビニの監視カメラにシステムを侵入させてる。やっぱり徒歩ではないみたいだけどな・・・車なら車種が特定できないと見付けることは不可能だな」

「だな・・・スモークガラスの後部座席に座らせれば何処にも映らねぇからな」
「周辺の駅のカメラにも映ってないし、もし飛行機で移動するつもりならと羽田のカメラにも侵入してみたけど双子らしい子供は映ってないんだ」

「双子で目立つブルーのコートだろ?どっかに映り込みそうだけどな・・・」
「あぁ、普通はな。ただ・・・」

「ただ・・・なんだ?」
「・・・何でブルーのコートにしたんだろうって思ってさ」

「どう言う意味だ?」

「・・・仁美はどっちかって言うと大人しい色の服を着させてたし、違う色を選ぶ事の方が多かったんだ。デザインが同じでも色違いって感じで、あんまり双子を強調して人目を引きたくないって気持ちがあったはずなんだ。それなのにどうして今回は同じ色なんだって事が気になっててさ・・・」


あきらはもう一つ、時間も気になると言った。
双子を連れて買い物に行く事も何度かあったが、あきらにはその都度事前に報告があった。
時間は決まって午前中だったらしい。昼食を外で済ませてから帰るというのがいつもだったのに、日が暮れるのが早い冬時に夕方の買い物・・・これは初めてだと。


「夕方の5時にそんな場所に居るなんて・・・どうしてそんな事をしたんだろう」
「仁美さんには聞けないのか?そりゃ辛いだろうけど、それに遠慮してる場合じゃ無いだろう!」

「そんな事は判ってるさ!ただ相当ショックだったみたいで話せる状態じゃない。デパートの警備室でも半狂乱で泣き叫んで大変だったんだ。前に精神科にも通ってたって言ったろ?だからコートと時間の件は明日にでも聞いてみようと思うんだが・・・」

「・・・いつもと違うってのは引っ掛かるな」


「西門はいいのか?」
「あぁ、気にすんな。この時期、茶会は少ねぇから」


志乃さんに電話して「今日は帰らない」と伝えると驚いたように理由を聞かれたが、それには答えずに電話を切った。


もう日付は翌日に変わった。
美作が用意してくれた部屋にも行こうとせず、つくしは膝を抱えたまま部屋の隅に踞っている。
俺はそんなつくしを横目で見ながら、あきらと共にモニターの中を動き回る人間を睨んでいた。





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