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plumeria

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「あの人じゃないかしら・・・」

私の目に止まったのは2人の女の子を連れた主婦らしい人だった。主婦って言っても結構若い感じの人・・・髪の毛も染めてて服だってお洒落な流行のもの。片手には大きな紙袋持って重たそうに肩に掛けていた。
それなのに連れてる女の子は地味なコートでお母さんとの釣り合いが取れてない気がした。

誰もがそうだとは言わないけど、自分がお洒落するなら子供の服だって可愛くするはず・・・特に女の子なら尚更のような気がした。コートとか靴とかもっと気を遣うんじゃないかしら。
自分だけ身綺麗にするなんて少し違和感・・・それに連れている女の子、背の高さがそこまで変わらない。

帽子を被らせてるから顔は良く見えないけど、歩き方が2人に似てる。


「こいつらか?でも2人とも髪が長い女の子だぜ?」
「それに着ているコートが違う。仁美はお揃いのブルーのコートを着せたって言ってたぞ?」

「でも・・・でも、この歩き方・・・ほら!ちょっと跳ねたような歩き方する花音ちゃんがいつも右側じゃない?紫音君はどっちかって言うと静かに真っ直ぐ歩くわ。それにこのお母さん・・・」

「確かにそうだけど・・・で、この人が何だって?」

「このお母さん、さっきから全然子供を見ないのよ」


トイレを出てからフロアの通路を真っ直ぐ歩いて行く場面しか見なかったけど、こんなに人が多い中を歩くのなら少しぐらい子供の方に目をやるのが普通。それなのにいくら横を歩いてるからって全然子供に目をやらないのはおかしい。
こんなに小さい子なんだからお母さんが手を持ってもおかしくない。監視カメラの映像だからかもしれないけど、この3人に凄く「他人」を感じた。


「仁美さんが個室に入ってる時に双子に別のコートを着せたってのか?」
「流石に無理があるんじゃないか?いくら人見知りしない紫音と花音でも急に知らない女性にコート着せられてついて行くかな・・・」

「・・・そうなんだけど」

「・・・よし!この女が何処に行くのか追い掛けようぜ。全部の映像もらってんだろ?」
「あぁ。じゃあそうするか・・・この先の監視カメラの映像を探してみる」

「ごめん、違ってたら無駄になるけど」

「気にすんな。そうやって潰していくしか手はねぇよ」

総と美作さんが情報部の人達と一緒になって、この女の人が歩いて行く方向の映像を探してくれた。
そのどれを見てもやっぱり女性は子供達に感心無さそうに歩くだけで、2人の女の子は手を繋いだままついて行ってた。
少しだけ小さい方の女の子が余所見をして立ち止まるから、大きな子の方が手を差し出して呼んでるみたい。美作さんもそれを見たら眉に皺を寄せて「確かに仕草が似てるな・・・」って呟いた。

紫音はいつも泣きべその花音に手を差し出していた・・・「ぼくはおにいちゃんだから」って言いながら。


「お、角を曲がったな」
「次の映像を用意しろ!」

女性が映像から姿を消したら別の監視カメラに切り替える、そうやって追って行くとどうやら駐車場に近づいたみたいだった。
美作さんが用意しろと言った映像に切り替わった時、私達は驚いた!


新しい映像が映し出されて今度は女性が現れるところから始まった。その時には子供2人はちゃんと映っていた。
そして女性が子供達に話し掛けると、また近くのトイレに入り、出てきた時・・・その女性の横に子供達の姿も大きな紙袋がない!
女性はたった1人で駐車場に向かって歩いて行った。


「おい・・・どういう事だ?!」
「このトイレの入り口が映ってるカメラ、他の角度からはないのか!」

「あきら様、ここのトイレの入り口を映してるのはこのカメラだけのようです!暫く流してみます!」


まさか・・・本当にあの子達が紫音と花音?
でも全然怖がってる感じじゃなかった・・・ここまで随分歩いてるのに楽しそうだった・・・もし、本当ならどうしてなの?

美作さんも総も表情が変わった。
その時、画面の奥から作業服の男性が大きなカゴ付きの清掃用カートを押して現れ、トイレに入っていった。数分後、その男性は極普通に周りも気にせずカートを押して戻って行く・・・そのカゴの中が少しだけ膨らんで見えた気がして私達は全員固まった。

「この部分を拡大しろ!!」

美作さんの声で画面が拡大されたら、その大きなカゴが揺れてる・・・何かが中で動いてる!!


「マジか・・・!こいつの向かった方の映像は?!」
「もうこの先は駐車場だ!そこの映像を探せ!」

「お願い!!調べて・・・もしかしたらあの中に、子供達があの中に!!」
「つくし、落ち着け!!」


だけど駐車場に向かうまでの映像は完全には繋がらなくて、僅かだけど途切れてる部分があった。
でも可能性は高まったから、私達は調べるのを駐車場に絞って全部の映像を見ていった。画面は薄暗いし時間は5時半で帰る人が多いから見分けがつかない。

さっきの作業服の男性は従業員スペースに入ったから追うことも出来なかった。
それでも手分けして繰り返し見て居たら、総の調べていた映像の中で、若い男性が2人の子供を連れて歩いているのを見付けた。


「おい!この子達の立ち位置、さっきの2人と似てないか?」

「どれ?!」
「総二郎、何処だ?」

「こいつの横に居る子供・・・男の子か?やっぱり帽子被せてるからよく判らねぇけど」


総が見付けたのはズボンにジャンパー姿の子供が野球帽みたいなキャップを被って手を繋いでる映像だった。
さっき消えた子供達とはまた服装が違う・・・それでも歩き方は同じだった。

ただ今度の男の人は手荷物はなかったし、子供達の事を気にしながら歩いていた。
何かを話し掛けてるし、1人が立ち止まったら振り向いて待っている。その振り向いた時の半分映った顔にドキッとした。


暗くてはっきりなんて判らないけど、この人・・・見覚えがある。


「牧野、どうした?」

「・・・・・・美作さん、この男の人・・・まさか」

「この男?子供連れてるこの男か?・・・拡大しろ!!」

「畏まりました!」
「あきら様、先ほどの女性がお子様が居なくなったトイレに入る所の映像を探してみましたら、手荷物は持っていましたが子供連れではありませんでした!」


その報告にもドキドキした。紫音と花音に辿り着いた?
でも問題はこの男性だ・・・もし、この人が彼ならどうして?!

急に画面が切り替わって、モニターにはその男性が大きく映し出された。
そして美作さんも驚いて声も出せなかった・・・それはあの人に間違いなかったから。


「2人ともどうした?!誰だ、こいつ・・・お前等知ってんのか?!」

総の声が部屋に響いて私達は目を合わせた・・・そして説明したのは美作さんだった。


「この男は牧野が働いていた呼子の町役場に勤めていた吉本って男だ。こいつ、牧野にプロポーズして断わられたから襲って来たヤツだ」

「つくしにプロポーズ?襲った・・・?」


私を襲って何処かに消えた吉本さん・・・彼が再び現れた。
4年近くも経って、しかも東京で・・・その顔立ちは全然変わっていなかった。穏やかで優しそうな顔のまま、だけど紫音と花音を連れ去った、その事実に驚いて私は意識を失った。


「つくし!!」って叫んだ総の声・・・それが何処か遠くから聞こえてくるようだった。




**********************


<side仁美>

なんて事をしたんだろう・・・そう思う自分と、これであきらさんの気持ちが確かめられるかもしれないと思う自分が居る。


今、地下で必死になってる3人・・・その中に入って行くことは出来なかった。

演技するなら行った方がいいはずなのに足が動かない。
行けば自分から説明してしまうかもしれないという自己防御かもしれない・・・こうなっても自分の立場は保持したいのかと何処かで誰かが罵ってる気さえする。


今頃2人は何処に居るんだろう・・・寒くしてないだろうか。
あの人は乱暴なことをしてないだろうか。食事はきちんと食べさせてくれたかしら・・・昨日の夜は何処で寝たの?


私にそれを思う資格なんてないのに胸が苦しくて苦しくて堪らなかった。
泣き疲れて腫れ上がった目をしていたつくしさん・・・彼女も一睡も出来なかったんだろう、その姿も真面に見ることは出来なかった。


この屋敷の朝はこんなに静かだったかしら・・・。

テラスに置いてある三輪車に目を向けて、そこに紫音と花音の笑顔を思い浮かべたら、また身体が震えてきた。


その時、バタバタと奥から人が走って来た。
あきらさんと西門さん、そして西門さんの腕の中には意識を失ったつくしさんが居た。


「牧野が倒れた!誰か居ないか?!大至急、部屋を準備してくれ!」

「えっ?!つくしちゃんが?!奥の客間ならベッドメイキングしてあるわ!総二郎君、そこに運びなさい!」
「判った!」


お義母様が慌てて飛び出して来たのに私はここでも動けない・・・西門さんの腕の中で真っ青な顔して目を閉じてるつくしさんを見ても「大丈夫」のひと言も掛けられない。
だらりと下に落ちてる彼女の手・・・その力のない腕が揺れるのを見て、双子が同じ目に遭ってないかと想像して震えが酷くなった。


「大丈夫か、仁美。お前も倒れるなよ?」

「・・・あ・・・は、はい」


あきらさんはこんな時なのに私の事を気遣ってくれた。

なんて愚かだったのだろう・・・私は自分の夫を信じてなかったんだ。
病気の時でも真っ先に私の命を救ってくれた人なのに、私はこの数年間、あきらさんの何を見てきたんだろう・・・。





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