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plumeria

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倒れたつくしをゲストルームで寝かせて俺はその横に跪いていた。

また俺の知らない話を聞かされた・・・それがつくしにプロポーズした呼子の男だと聞いて驚いた。
そんな危ねぇヤツが居たとは思いもしなかったが、隠したかった気持ちは判らなくもない・・・襲われたとは言え何もなかったのなら、わざわざ俺を怒らせたくはなかっただろうから。


まだつくしは目を覚ましそうにない。
血の気のない顔色をして指先も冷たい・・・昨日から一睡もしていないのも、殆ど食ってないもの影響してるんだろう。少しだけ眉を顰めて横たわり、その睫は濡れたままだった。


「あきら、さっきの話・・・聞いていいか?」
「・・・あぁ、俺も牧野に会った時に聞いただけだから途中の事は詳しくないけどな」

「部屋、変えようか」

「・・・判った」


つくしの事は気になるが、こいつと2人きりで話したかったから小夜につくしを任せて部屋を出た。つくしの意識が戻ったり吉本からの連絡があればすぐに呼ぶように伝えて、2人で向かったのはいつもの離れ。
その部屋に入るとまた向かい合って座った。

子供達の今の状況がすげぇ心配だったが、連れ去ったのがその男なら目的はつくし・・・その子供に危害を加えるとは思えなかったから幾分落ち着いていた。

この話をあきらとする為にはもう隠し事は出来なかった。そしてあきらも同じ事を考えている、そんな目をしていた。


「・・・吉本ってどんな奴だ」
「ひと言でいえば真面目な男だと思う。呼子の役場で働いてて地元じゃ有名な家らしい。爺さんが県議会議員で父親も役所勤め、お袋さんは舞踊家だそうだ。裕福な家・・・そこの長男だって聞いた」

「つくしに惚れてたんだ?」
「らしいな。俺が行った時、牧野が普通に近寄るだろ?小柄で大人しそうな感じだったのに、その時だけ恐ろしい顔して睨まれたな」

「其奴がなんでここの養子を誘拐すんだ?」
「・・・・・・それは判らない。吉本に聞かなきゃ俺じゃ・・・」

「もう話さねぇか?」
「・・・総二郎?」


俺は怒っちゃいない・・・これはつくしが望んだことだろうから。
あきらは多分、俺に話したかったはずだ。つくしが見付かった時に会わせようとしたって言うのなら、妊娠のことも俺には伝えるつもりだっただろうから。

まだ隠された何かがあるのなら、もうここで吐き出して欲しい・・・それだけだった。



「あきら、悪いな・・・俺、気が付いてんだ」
「・・・・・・・・・」

「あいつも上手いこと騙せてると思ってるだろうけど・・・俺、見たんだわ、あいつの傷・・・腹にある1本線」

「・・・総二郎」

「つくしが明るい部屋をすげぇ嫌がったから初めはおかしいと思ったけどな・・・再会した日の夜には気が付いちまった。でもそれがつくしの望むことだったって思ったから、紫の事が終わるまではこのままにしておいてやろうと思っただけだ。
多分、ここが1番安全だって俺も思ったし、あの子達があんまり幸せそうだったからな」


「そうか・・・やっぱり気が付いてたんだ。そうじゃないかとは思ってた。はっ・・・なんだ、そうか・・・」


あきらはドサッとソファーの背凭れに身体を倒して両手で顔を覆った。

「そうだったんだ・・・」って何回呟いただろう。
長いこと俺についていた最後の嘘・・・そいつがバレてホッとした、そんな感じだった。気のせいだろうか・・・こいつの目に涙さえ見えた気がして、俺は視線を外した。
そんな所、ダチには見せたくないだろうから・・・。

あきらのため息を何度か聞いた後、時間もないから吉本の話を続けた。


「その吉本って男はここに居る子供がつくしの子供だって勘付いたって事だよな?でもなんでそう思ったんだ?」
「恐らく双子だったからだろう。それに俺と牧野の事を疑っていたからな」

「お前を疑ってた?俺の事は?」
「牧野が俺に気を許してたからさ。子供の父親、つまりお前の家から逃げてるって事は知ってたはずだ。旅館の女将さんにも何回か尋ねているらしいが教えなかったって言ってた。だから吉本は西門って名前を知らないはずだ」

「でも双子ってだけでそう思うのか?確かに珍しいけど確信が持てねぇとこんな行動に出ないんじゃないのか?」
「俺に言わせればお前の方に似てるけど、確かに牧野の面影もあるからな。見掛けたってのなら気が付くかも・・・・・・え?」


ここであきらは埋もれていたソファーから身を起こした。
そして片手を口に当てて訝しげな顔をし、「まさか・・・」と小さく呟いたのを聞き逃さなかった。


「・・・この屋敷を彷徨いてた男、そいつが吉本か?」
「・・・・・・そう・・・だとしたら繋がるのか?」

「庭から見て確信したって事はあり得るよな?」
「・・・美作で養子にしてるだなんて思わなかったはずだが、俺の事は知ってるから牧野の行方を調べようとして偶然東京に出てきたって言うなら話は判る。あいつ、そのぐらい牧野に夢中だったからな」

「さっき襲ったって言ったけどその時のつくしの腹は?」
「俺が行った時だからもう随分デカかったさ。医者からも働くのを止めろって言われてたのに全然休もうとしなくてさ、俺の滞在期間中のたった4日間だけでも3回ぐらい倒れたんだから」


それはすげぇ想像出来た。
何でも人一倍頑張って辛いだなんて言わない・・・雑草だからって言いながら、どんなに苦しくても笑ってやがった。だから俺達は全員あいつに惚れたんだ。
真っ直ぐで元気で明るくて・・・俺達には眩しすぎて、やがてその手を欲しがったんだ。


俺はその手を取ったのに引き離された・・・4年前の悪夢がまた頭を過ぎった。


「襲ったって・・・勿論未遂だよな?」
「あぁ、必死で逃げて近くの家の爺さん達に助けられた。その時、唐津の総合病院に運ばれて医者からこっぴどく叱られて、それで俺が説得して連れて帰ったんだ。あのままだととてもじゃないが育てられないから・・・そのぐらい全部1人で背負うとしたんだ」

「・・・あいつらの誕生日っていつだ?」
「7月7日だ。予定ではもう少し後だったけど、それまで無理の連続だったからもう限界だった。それで牧野の希望でその日に美作の系列病院で帝王切開したんだ」

「・・・俺が婚約会見する少し前だな」
「・・・・・・」

「あきら?どうした?」


今度はあきらの表情が険しくなった。
1度立ち上がってキッチンに向かい、酒なんて飲めないからジンジャーエールを手に持って戻って来た。

その間も何かを考え込んでる・・・すげぇ緊張した空気がこの部屋を覆った。
そしてまた向かい合って座った時、あきらは「もういいだろう・・・」と、誰に向かって言ったのか、そんな言葉を呟いた。


「お前の婚約速報を牧野がテレビで観てしまったんだ。それまで見ないようにしていたのに、俺が見舞いに行った時に丁度記者会見が始まって・・・」
「・・・そうか。いや、何処かで見てるかもとは思ったけどな」

「・・・それが原因で、牧野・・・おかしくなったんだ」
「おかしくなった?どう言う意味だ?」

「・・・・・・精神疾患だ。それも重度の産褥期精神病で躁鬱を繰り返して育児放棄に近い状態になったんだ」


「・・・育児放棄・・・つくしが?」


あきらの言葉に驚いた。
その後も返事すら出来なくなった俺に、その時のつくしの様子を教えてくれた。それは耳を塞ぎたくなるような話ばかりで俺は身体が震えた。
あのつくしがそんな風になってしまうだなんて思わなかった。ただ西門から守りたかったっていうのと、子供達に安全な暮らしと裕福な環境を与えたかったんだろうと・・・単純にそう思っていた。

だから、全部が終わったら俺が安全を約束して引き取ろうと思ったのに・・・。


「だからお前・・・俺達がここで再会した時に子供の事で怒鳴ったんだ?」
「・・・俺だって全部お前に話したかった。あの子達を守るのは俺じゃなくてお前だって思ってた・・・だけど、牧野と何も話せなくなったんだ。あいつ、まるで人形みたいになってしまったから・・・それで小夜を付けたんだ」

「そういう事か・・・牧野、鎌倉で小夜に世話してもらわないと暮らせなかったんだ・・・」
「お前と何回か電話で病院と言ったのも全部牧野なんだ。俺とお袋しか付き添ってやれなかったから」

「・・・それだけ深刻だったんだな・・・」

「でもな、双子を美作で育ててくれって言った時は正気だったんだ。その時だけは正気に戻って、あの牧野に必死になって頼まれたんだ。だから頷くことしか出来なかった・・・」


『夢を見ちゃうの・・・あの子達を見てると夢を見ちゃうの。
4人で笑ってる夢・・・私、結局諦めてなんかなかったのよ。産まれてくれれば自分の夢が叶うと思ってたみたい・・・親子4人で暮らせることを心の底ではずっと考えていたんだと思うの。馬鹿でしょ・・・自分に嘘ついてたんだよ。

あの子達・・・お願いしてもいいですか?私はこの先の自分にまだ自信が持てないからいつまでなんて言えないんです。でも・・・でもあの子達だけは幸せになってもらいたいんです。美作家の子供として・・・育てていただけますか?
牧野じゃなくて美作で・・・それは出来ませんか?お願いします・・・お願いします!お願い・・・!』




この言葉を言った後、つくしの心は闇の中を彷徨い始めた・・・あきらの説明はまだ続いた。


俺はそんなつくしの姿を見ていない。
何も支えてやれなかった自分が情けなかった・・・そしてすげぇ悔しかった。





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