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plumeria

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シンガポールに来てから3回目の朝。
この日も朝食だけは下でどうぞと言われて監視の2人に付き添われてダイニングに向かった。


「おはようございます・・・」

「・・・おはようございます、アルフレッドさん。どうかしたんですか?」
「何でもないですよ。どうぞ、食べてください」

アルフレッドさんのご機嫌が悪そう・・・ムスッとした顔で珈琲飲んで、それ以外のものは何もテーブルに置かれていなかった。私の前にだけお皿が沢山並べられ、今日もカラフルでエネルギッシュな朝食に誘われて椅子に座った。
でも流石に毎日動かないから身体が余計に重い・・・私も食欲はなかったから軽めのものだけいただいた。

チラッと顔をあげてみたら、今日は私の方に目を向けずに黙々とスマホで何かを読んでる。

それに昨日会ったお母さんが居ない・・・ここには泊まってないんだろうかとソワソワと辺りを見回した。


「何かお探しですか?」
「えっ?あ・・・昨日少しお喋りしたお母様、こちらにお泊まりじゃないんですか?」

「・・・母が何を言ったのか知りませんが全部忘れてください」
「忘れる?えっと・・・でも、そんなに沢山は話してませんよ?あなたのお名前が・・・」

「私はアルフレッド・エバンスです。他に名前など無い!」
「・・・・・・はぁ」


急に大きな声を出して自分の本名を否定する、その時の強張った顔に驚いてジュースの入ったグラスを落としそうになった。



この人は自分の過去が嫌いなんだろう。
緑川聡と名乗っていた頃の自分に戻りたくない・・・そう感じた。

お母様も言ってたっけ・・・随分辛い子供時代だったから見返してやりたいんだって。お父さんに捨てられた子って言われて苛められたんだって。
でも、この人には自由があったんだろうに・・・そんな場所に囚われないで、何もかも自分で決められる未来があったと思うのに。

それは縛り付けられる人生に比べたら幸せな事。
私はあの時に宮崎を飛び出して類に助けてもらわなかったら、こんな自由な暮らしは出来なかった。大笑いしてご飯食べたり、好きな人と好きな場所に行けたり、お風呂で1日の出来事を話すなんてなかった。


緑川聡・・・素敵な名前なのになぁ。
確かに奥さんじゃない人が産んだとは言え、愛情を示さないお父さんが1番許せないけど!

能力だけを求められても困る。
出来なかった時に罵られても困る。
人間は完璧じゃないんだもん・・・間違えたっていいじゃない。次に出来た時に褒めてくれる家族に恵まれなかったら、確かに凄く悲しい。
でも、アルフレッドさんにはあんなに優しそうなお母さんが居るのに。


「失礼、大きな声を出してしまいました。それよりもあなたのご主人をそろそろこちらからお呼びしましょうか。必死にお調べでしょうが、いくら探してもここの住所はどこにも開示してないので判らないでしょうからね」

「・・・何をする気なの?」

「そんなに恐ろしい顔しなくても大丈夫です。ここにお呼びして話合いをするだけですから。ただし、場所を教えるために条件をお出しするだけですよ。無事にあなたを返して欲しければサインをしろ、とね。午後にでも日本に居る『仲間』に連絡することにしましょうか・・・」


これまでと同じような怪しい笑顔に戻ったアルフレッドさんは、それだけ言うと先にダイニングを出て行った。
その時にドアの向こう側に立っていたのはお母様、その横を言葉も交わさずに通り過ぎて行き、お母様は悲しそうな顔で彼の後ろ姿を見ていた。

そしてやっぱり私に向かって頭を下げて、小さな声で「ごめんなさいね」と・・・。


もーーーっ!!
類ったらまだここが判らないのかしらっ!!早く助けに来てーーっ!




******************




「・・・まだ怒ってるのかよ」

ホテルの朝食中に総二郎が俺の背中側から声を掛けてくる。それに返事もせずに珈琲を飲んでいた。

あれからウィンリー夫人には怒って帰り際にワインボトル割られるし、彼女の姿が見えなくなるまで我慢しろって「颯太」に抱きつかれて周りから悲鳴があがるし、凄い金額請求されるし・・・。
俺は頬とは言え男にキスされて放心状態のままホテルに帰ったら、桃太郎達に押し倒されて頭打つし。

最悪な夜だったのに、僅か6時間後にニッコリ笑って「おはよう」って言える?


「だって仕方ねぇじゃん!あんなおばさんだって言わなかった類も悪いだろ?俺、マジで途中逃げようかと思ったんだぜ?」
「・・・・・・だからってゲイになる必要はないだろ」

「あの食いっぷり見ただろ?おばさん、俺の腕見てニヤって笑ったんだぞ?食われるかと思ったんだからな!女に胸触られて恐怖だったの、初めてだぜ?!」
「・・・・・・食わないよ、一応人間だから」

「そうは言うけどあのままだと俺の身体が奪われそうだったじゃん!類なら我慢出来るのかよ!」
「・・・・・・出来ないけどそっちに話を持って行かないし」

「俺だって持って行ってないって!俺な、大抵の女ならどうにか耐えられるんだけど、それでも無理だったんだって!それなら逃げ道は男だろう?!」
「・・・・・・でもキスまでする必要ないじゃん」

「唇は奪ってねぇだろ?それに俺の唇、結構評判いいんだけどな・・・」

「そう言う問題じゃないっ!!もういい、判ったから!」


総二郎の事で腹を立ててる場合じゃなかった。
今日はこれからつくしを探しに行かなきゃ・・・その為に桃太郎と菊次郎を連れてきたんだし。
ついでに総二郎にも協力してもらって、あいつと同じ名前のストリートに向かわないと。

気合いを入れて立ち上がり、振り向いて見たら・・・総二郎は床に座って桃太郎と菊次郎に餌をやっていた。
「美味いか?そうかそうか!良かったなぁ~!」って、こいつ・・・あれだけ嫌そうにこの子達を連れてきたのに、ウィンリー夫人に比べたら可愛いんだろうな・・・。

仕方ない・・・昨日の事は忘れてやることにした。



「じゃあ総二郎、出掛けるよ」
「・・・やっぱり俺も行くのか?」

「当たり前。遊びに来たんじゃないんだから」
「・・・いや、お前が勝手に呼んだんだろうが!」


2匹をリードに繋いでタクシー乗り場に向かい、運転手歴の長い人を頼んだ。
そうしてやってきたのは結構歳を取った男で、ウィンリー夫人から言われた道があるかどうかを尋ねた。アダム・ロードから南側でエバンス、アルフィー、アルフレッド、この名前と同じストリートはないかと。


『あぁ、川沿いの教育省から入る道がエバンス・ストリートだが?アルフィーとかは知らないなぁ』
『エバンス・ストリート?その近くに植物園みたいなのがある?』

『あぁ、比較的近くにあるよ。結構大きな植物園だよ』
『その道の入り口まで頼む!』

『犬もかい?』

『・・・総二郎、チップ頼む!』
『俺かよ!!』



総二郎にタクシー代とチップを払ってもらい、時間にして30分ぐらいでその通りまで辿り着いた。
そこは植物園に近いなんて言われたけど、どっちかって言うと政府関係機関がある場所で、企業が保有する建物なんて有りそうにはない。
スタジアムやスポーツ施設なんかが並んでて、その通りを桃太郎と菊次郎を連れて歩いた。


「桃太郎、菊次郎、つくしの匂いを感じたら教えてくれ」

「ワンワン!ワン!!」

「・・・・・・判るのか?つくしちゃんのものを嗅がせなくても?」
「俺とつくしは同じ匂いだから判るんじゃない?」

「そうかぁ?」
「問題はつくしが出歩ける状況なのかって事だよね。車で連れ回されてるだけなら、いくら此奴らが優秀でも匂いなんて判らないと思うけど・・・兎に角行ってみよう!」

「・・・珍しくアクティブだな、類」


随分歩いてエバンスロードなんてものは通り過ぎた。
でも、そうすると今度は植物園が見えてきた。ウィンリー夫人の言ってた事が本当ならアルフレッドが滞在してるのはこの辺りか・・・それか向こう側の通りか?
総二郎と道沿いにある大きな建物の名前を確認しながら進んで行くと、ある交差点で桃太郎が止まった。


「どうした?桃太郎」
「何か美味いもんでも見付けたのか?」

「そんな訳ないだろ!うちの犬は拾い食いなんてしないんだから!」


でも総二郎がリードを持ってる菊次郎も止まった・・・そして2匹共が反対側の歩道、木で覆われてる小さな道の入り口を見つめてる。
「菊次郎、お前まで・・・」、そう言ったと同時に、2匹はリードを振り解いて凄い速さで反対側の歩道に渡った!


「桃太郎、菊次郎!どうした、何かあったのか?!」
「やっぱ拾い食いじゃね?」

草むらの中に鼻を突っ込んで2匹が何かを探ってる。そのうち菊次郎が小さな袋を咥えて俺の前に戻って来た。


その口に咥えられていた袋・・・・・・つくしの金平糖の袋だ!!





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2019/05/31 (Fri) 00:33 | EDIT | REPLY |   
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2019/05/31 (Fri) 06:51 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんにちは!

そうそう!本来の飼い主は類なんですけどね~(笑)
私は犬に詳しくないのですが、類がボルゾイ、総ちゃんがレトリバーを連れて散歩してたらガン見すると思いました💦

それにしても2匹は暑いでしょうね(笑)
シンガポールのわんちゃんは暑さに弱い子はダメらしいです。桃太郎・・・頑張れ!!


私の場合、間違って誘拐されたとしても助けに来てくれる人が居ないかも💦
オカメインコじゃ役には立ちそうにありません・・・。トホホ!

2019/05/31 (Fri) 10:12 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

はい!やっと出番です~♡
この前窓から捨てた金平糖、桃太郎達が見付けてくれました~!
もう目の前につくしちゃんが居ます!

まぁ、お屋敷には何人も敵が居ますが・・・ここは桃太郎、菊次郎、総二郎に任せましょう♡

今度はイケメンホストから一気に格闘家に変身ですっ!
忙しい2人だなぁ(笑)

2019/05/31 (Fri) 10:16 | EDIT | REPLY |   

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