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plumeria

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つくしが俺の婚約で精神疾患に罹った・・・しかも重度の躁鬱で育児放棄になってしまうまで追い詰めただなんて・・・。
どれだけ辛い思いをさせたら気が済むんだと、自分の生まれ育った家をこれまで以上に恨めしく思った。


「双子が産まれて間がなかったから余計にショックだったんだ。産まれるまでは子供さえ居ればいいって、それが自分の夢と希望になるって言い続けたけど、心の奥底ではお前を待ってる自分がいたって・・・牧野、そんな事を言ってたよ。
それで自分を責めて病気って言う世界に逃げたんだって」

「知ってたらな・・・全部知ってたらあんな家捨てて田舎暮らしでも何でも出来たのに・・・」

「それが牧野の1番恐れた事だから仕方ない。絶対に茶道を捨てさせないって、そればっかり言ってた・・・だから言わなかったんだ。でも悪かったって思ってる・・・総二郎」

「・・・いや、すまなかった」


再会した時のあきらとつくしの不思議な目配せの意味が漸く判った。
あの時は突然だったから此奴らは打ち合わせなんて出来なかったはずだ。だからそれまでの長い時間話し合ってきた内容から、お互いに言葉を選んで話を合わせた・・・そう言う事だったんだ。


「紫音と花音が泣いても抱きもしないし、見もしない。授乳もしなくなって牧野から引き離すしかなくなったんだ。病院は乳児院に入れて、その後児童養護施設にって言ってきた。それは俺がさせなかったんだ」

「乳児院?あきらがそれを聞いたのか?あいつの両親には・・・」

「自分の嘘が親にバレてるってことは判ってたけど、西門から守るために子供の事は話してないんだ」


・・・じゃあ、あいつ・・・大晦日に実家に帰っても辛かっただろうな。
本当なら自分の親に色んな事を聞いて子育てするんだろうに。そうしたら1人で抱え込まなくても良かったかもしれないのに・・・貧乏でも子供が居るってだけで笑って暮らせたかもしれないのに。

そんな幸せも全部、「西門」が奪ってしまったんだな・・・。


「そんな施設に入ってたらどうなってたんだろう・・・想像出来ねぇな」

「・・・牧野の病気が戻らなかったら美作の子供として公表する。でも万が一総二郎と牧野の手元に帰せるようになったら、西門が受け入れてくれる日が来たら、その時にはきちんと教育したあいつらを帰してやりたかった。
家元や家元夫人に馬鹿にされないようにしてやりたかったんだ。それにはうちみたいな環境で育てる必要があるって俺の両親と仁美には説明した。それが双子を美作の養子にした本当の理由だ」

「・・・そうか。サンキュ、あきら・・・」


その後1年間のつくしの様子を聞いた。
あの鎌倉の別荘から見える海を虚ろな目で眺めたり、急に楽しそうに踊り出したり歌ったり、一晩中声を押し殺して泣き続けたり、小夜はそれを支えるのに辛くて泣くこともあったと。

双子の写真は見るけど反応はない。ニコリともせずに、でもずっと眺めていたらしい。


「1年後、思い切って牧野を佐賀に連れて行ったんだ。そこであいつ、正気に戻ったんだ。夢の屋って旅館だけど、そこを見た瞬間にそれまでの事を思い出したらしい。
その時にもう1度説得した。今なら双子の親に戻れるから自分で育てないかって・・・1歳なら美作の記憶なんて残らないと思ったんだ。だけどやっぱり牧野、自信がないって言って引き取らなかった」

「なんでだ?まさか・・・もう母親は嫌だって事か?」

「そうじゃない。牧野は病気の最中も・・・なんて言うのかな、もう1人の自分が居て子供の事を想い続けたって言ってた。一緒に居たかったんだと思う」

「じゃあどうして・・・」

「1度精神疾患を患うと再発の可能性が高いからだ。俺達から見れば些細な問題でも、それが原因でまた同じ闇の世界に閉じ籠もる事もあるらしい。それに真面な仕事に就けないから生活が苦しくなる・・・それは援助するって言ったけど、そういう事も嫌うだろ?子供達の笑顔を守るためにこのまま美作の子供にしてくれって言われたんだ」

「・・・じゃあ、つくし、自分は独りぼっちで良かったのかよ!」


『愛情は溢れるほどあります。誰よりもあの子達を大事に思う気持ちと幸せを願う気持ちは持ってるつもりです。
もし、私が心の病気にならなかったら手放さなかったし、ずっとずっと一緒に居たと思います。 貧しくても笑って暮らしたと思うし、死に物狂いで働いたと思うんです』



つくしはあきらと女将さんが長い時間説得したのに首を縦には振らなかった。
本当の幸せは美作ではなく、つくしの腕の中だとあきらが言っても微笑んで「ごめんね」って言うだけだったらしい。

そして美作に仕事場を与えてもらって、双子の顔を見に行くことも本人の希望でしているのだと。


「双子の成長を自分の目で見たいってさ・・・それが『母親』ってポジションじゃなくていいから見届けたい、だから高校生ぐらいまで屋敷に出入りさせてくれって言われたんだ。仁美の気持ちもあるから遠くからでもいいって・・・で、結局ああなってるんだ」

「そうだったんだ・・・おかしいとは思ったけど」


「・・・怖かったんだってさ」
「何が?」

「紫音が大きくなって総二郎にもっと似てきたらって事だ。大人の顔になったあいつが恋人連れてくるのが嫌だって・・・その時にまた自分がおかしくなって、そんな姿を双子に見せたくないってさ。じゃあ花音だけでもって考えたけど、腹の中から2人で過ごしてるあの子達を引き離せないって言うからさ。あの時の牧野はしぶとかったな・・・」

「・・・つくしらしいけどな。頑固だから、あいつ・・・」


「牧野にいつまでも1人じゃないかもしれないぞって言ったら、なんて答えたと思う?」

「・・・・・・・・・」


「くくっ・・・もう恋はしないってさ。自分の恋はあれで全部、死ぬまで抱え続けるって・・・そう言ってたよ」

「・・・そっか」




つくしの病気の話を一通り聞いてから、また今回の事件の話題に戻した。


あの監視カメラの様子だと吉本は清掃員の制服も何処かから調達し、デパート内の様子を下調べしているはずだ。何処に監視カメラがあって、何処が1番調べにくいか・・・それで選ばれたコースだと考えられる。
それに子供達の服や帽子、髪の長さを誤魔化すためのウイッグまで2回も変えている事になる。

突然の犯行じゃないって事だ。
あの女性も吉本が頼んだヤツかもしれない・・・そう考えた時、俺達の中で恐ろしいシナリオが浮かび上がった。


女は極自然な感じで5時少し前にトイレに入っている。
仁美さんはその反対側の入り口から僅か数分後に入っている。

紫音と花音だと思われる子供達は全然違う服装でウィッグを付けて出ていって、その3分後仁美さんは慌ててトイレから飛び出している。
そこに騒ぎのあった様子は映ってないとしたら、中では自然な様子で子供の受け渡しが行われた・・・トイレ奥のパウダールームで何かの理由を付けて子供の服を着替えさせる2人の女性、俺達は無言で同じ想像をしていた。


「いや、でも・・・いくら何でも・・・」
「でもそう考えたら全部が繋がる。嫁さん、こんな時間に買い物なんて行ったことないんだろ?その理由って・・・暗がりじゃねぇのか?」

「・・・でも、そんな事を引き受ける訳がない!仁美は双子を凄く可愛がっていたんだから!」

「なぁ、あきら・・・この前も仁美さん、急に外出したって言ったよな?お前、それが不思議だって言ってたよな?」
「え?あぁ・・・茶話会の事か?」

「そいつ、本当に行われたのかな・・・違う目的で出掛けたとか?」
「総二郎!お前・・・いい加減にしろよ?!」


仁美さんを信じたいあきらが今後は俺に怒りをぶつけてきた。
でも、あきらも心の中で疑ってる・・・だから動揺が半端なかった。

その時あきらのスマホが鳴った。
同時にビクッとしてその画面を見たら、ここの執事・・・あきらは急いで電話に出た。




******************


<sideあきら>

これまでに漠然と抱えていた不安がどこから来ているのか、それが判った気がして身体が震えた。
それは1番考えたくなかった事・・・身内に協力者が居るんじゃないかって事だった。

何度もそれを想像しては打ち消してきたけど、総二郎の言う通り、そう考えれば全部が繋がる・・・それは間違いなかった。
その時に鳴ったスマホ、俺は混乱しまくった頭で何も考えられずにその電話を取った。


「どうした!!何か連絡があったのか?!」
『お屋敷にお戻りください!不審な男から電話が入っております!』

「不審な男?判った、すぐ戻る!」


スマホを切るよりも早く、総二郎は離れから飛び出して行った!
そして俺もすぐその後について走った。

このあと仁美に会って何を言えばいいんだ・・・それが全然纏まっていないのに総二郎の背中を追い掛けていた。





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