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plumeria

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リビングに飛び込むと、そこには夢子おばさんと美作の執事がオロオロしながら立っていて、俺のすぐ後ろから入ってきたあきらに固定電話の子機を渡していた。
あきらはそれを受け取ると、1度深呼吸してからスピーカーをONにしてテーブルに置いた。

俺には「声を出すな」のサイン・・・すげぇ緊張感の中、あきらは話し始めた。

よく見たらさっきまでここに居た仁美さんの姿は無い。
自分の部屋に戻ったのか・・・?あきらも俺と同じようにチラッと2階に上がる階段に目をやったが、すぐに子機に視線を戻した。


「もしもし、待たせたな。・・・あんた、誰だ?」
『・・・本当に待たせてくれましたね。昨晩はよく眠れましたか?』

「そんな訳内だろう!子供達をどうした!自分のしている事が判ってるのか!」
『・・・判っていますよ。お子さん達は元気よく遊んでいます。昨日の夜もぐっすりでしたよ?ご心配なく』

この電話の最中に、夢子おばさんは掛かってきた携帯電話の番号を地下の連中に伝え、その電波を拾った基地局を調べるようにと指示した。
執事には使用人をここに近づけないようにと命令し、おばさんもソファーに戻って来た。


「・・・要求はなんだ。子供達の声を聞かせろ!お前、吉本だよな?!」
『・・・・・・くすっ、なんだ、もう判ったんですか?美作部長・・・お久しぶりですね』

「何故こんな事をする!目的は何だ!」
『やれやれ、あの時と同じように高圧的な言葉だ。・・・何処で判りま・・・』
「そんな事はどうでもいい!!子供を返せ!美作に刃向かっても勝ち目なんてないぞ!」


夢子おばさんは俺達が犯人を知っている事に驚いて、俺の服の袖を引っ張った。
それには「あとで詳しく」と小さく呟いて、あきらと吉本の会話に耳を傾けた。電話の後ろで聞こえるのは・・・汽笛?

もしかしたら何処かの港か?


そしてあきらが突然吉本の言葉を遮ったのはおばさんに聞かせないためだ。
『もうあんたの奥さんが喋ったのか?』・・・そんな言葉が出てきたらあきらと仁美さんの関係は終わりだ。たとえ隠しきれなかったとしても、この場でおばさんに聞かせたくなかったんだと思った。


『刃向かったりしませんよ。この子達は俺が大事に育てようと思っただけ・・・別にいいでしょう?部長のお子さんじゃないんだし』
「紫音と花音は美作の子供だ。法的にも手続きはとってあるうちの子供だ!」

『書類上って事でしょ?それとも彼女の子供だから自分のものにしたかったんですか?そんなの・・・許さないけどね』
「何だと?お前・・・!」

また夢子おばさんが驚いて口元を覆った。
俺はおばさんの肩に手を置いて、「ごめん、気が付いてたんだ」・・・そう小さな声で言うと、余計に目を大きくさせた。
でもすぐに頷いた・・・おばさんも俺に伝えることには賛成だったらしいから、この人も逆に安心したようなため息をついていた。


『要求・・・でしたよね?母親を子供の元に返してあげませんか?彼女に・・・牧野つくしに1人で俺の所に来るように言って下さいよ』

「・・・牧野をお前の所に?それは何処だ!!」

『牧野さんに言えば判ると思うけどな・・・思い出の場所、そう言って下さいよ。明日の日没まで・・・それまでに彼女が俺の所に来なければ子供の安全はお約束出来ません』

「明日の日没まで?おい!子供の声を聞かせろ!」

『よく遊んでるんで傍にはいないんですって。話の続きです・・・必ず牧野さん1人で来ること。何かの気配を感じたら子供は帰らないと思って下さいね。まぁ、部長には痛くも痒くもないでしょうが、牧野さんは悲しむでしょうね・・・じゃ、そう言う事で』
「おい!吉本、吉本!!」


それで通話は途切れた。
紫音と花音の声は聞けないままだった。


「ちょっと、吉本って誰?!あなた達犯人を知ってるの?」
「お袋、その話は少し待ってくれ!仁美はどうした?」

「仁美さんは・・・もう辛そうで見ていられなかったから部屋に戻したわ。自分のせいだと思ってるから当然だけどね・・・軽めの睡眠導入剤を飲ませたから今は寝てると思うけど」
「・・・そうか、寝かせたんだ」

「いけなかったの?彼女がここに居てもどうしようもないわ。もう話は全部聞いたんだもの。それに3~4時間寝たら目が覚めると思うわよ」


その時、足音が聞こえて地下から情報部の男が駆け込んできた。

「あきら様!判りました!」
「何処だ!」

「徳島です!徳島の沖洲という場所です」

「徳島?四国・・・?」
「・・・フェリーか!!九州行きのフェリーなら徳島で1度停まるんだ!すぐに昨日の搭乗者名簿のデータを入手しろ!」

「畏まりました!」


情報部の人間に新たな指示を出し、今度はフェリーの情報を調べた。

九州まで行くフェリーの出発時刻は19時30分・・・これにギリギリで乗船する為に犯行時刻が17時だったって事か?取り敢えず東京からは素早く脱出して捕まらないようにする、しかも人目に付きにくい状況で・・・そう考えたんだろう。新幹線や飛行機、高速道路のほうを移動手段だと考える方が一般的だからな。


「九州に着くのは明日の早朝だから、今から東京を出ればフェリーが着くまでに九州に行く事は出来るな・・・」

「九州の何処に着くんだ?」
「新門司だ。恐らくそこからは高速で呼子に戻るんだろう。牧野との思い出の場所って言ってるし」


「・・・1人でなんて行かせねぇ。俺が行く」
「総二郎・・・」

「心配すんな。フェリーが北九州に着くのは早朝だったな?それまでどうすりゃいいのか話そうぜ、あきら!」
「判った。地下に行こうか」



******************


<sideあきら>

吉本からの連絡で子供達を連れて佐賀に向かってることは判った。
そして要求は牧野本人・・・牧野と子供達との生活を考えての愚かな犯行計画だった。


最悪なのはこの計画には仁美の協力がないと成り立たない・・・それは確定したようなものだった。
滅多に使わない固定電話の番号なんて吉本が知ってる訳がない。万が一使用人を捕まえて聞いたとしても喋るとは考えにくい・・・それなら誰に聞いたのか。

接点はまだ判らないけど1人しかいないだろう。


もしそうなら、原因は俺にある。
仁美に無理を言って子供を引き取り、そのあとの彼女の優しさに甘えて「何か」を怠ったんだ。それが仁美を不安にさせてこんな行動をさせてしまったんだろう・・・それを話し合うのは総二郎が子供の救出に向かってる時でいい。

そう思って総二郎と今後の話を地下で進めていた。


すぐに情報部から昨日の乗船名簿を入手したとデータを見せられたが「吉本渉」の名前はない。
当然「美作紫音」も「美作花音」もない。

しかも3人・・・大人の男性と子供2人という括りで載ってる名前はなかった。それが4人だったりすれば数組ある。

「って事は吉本は予め九州に帰る女性客を探してそいつに金でも渡して家族のフリをして乗り込んだって訳か?」
「それが1番考えられるな。車を持ち込む場合は運転手の記載があるから、女性名で搭乗名簿があって、同乗者ってのに男と子供2人、その可能性が高い」

「それも何組かあるな・・・」
「車内に隠れて下車されたら新門司でも捕まえられないかもしれない。人間を配置させる事は幾らでも出来るけど、牧野1人で来るように言われてるからフェリー乗り場で取り押さえることは難しいぞ」

「全車両をフェリー内に閉じ込めて・・・」
「馬鹿言え!紫音と花音が居るんだ。無茶したら何をされるか!」


最終的に決まったのは今から総二郎と牧野が飛行機で北九州まで向かうこと。
美作の関連企業が北九州の小倉にあるからそこで北九州ナンバーの車を準備させ、北九州空港でそいつを受け取る。早朝、総二郎の運転で取り敢えずフェリー乗り場に向かい、降りてくる車を確認。
もしもここで吉本が同乗者と別れて姿を現せば、紫音と花音を確認。

安全を考えて、子供達が元気そうなら予定通り呼子に向かい、吉本の要求通り牧野と対面させる。

その後のことは考えは纏まらなかった。
吉本が何を言うのか、牧野がどうするのか、子供達が危なくないか・・・それを今から考えても予測出来ないからだ。


「あきら、何があっても俺が3人を守るから、お前は嫁さんと話し合え。色々すまなかった・・・仁美さんにはそう言っといてくれ」
「でも許される事じゃない」

「そりゃ俺は許せねぇけど・・・つくしならそう言うと思ってさ」


総二郎はそう言うとスッと立ち上がり、牧野の寝ている部屋に向かった。





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