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plumeria

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総と一緒に飛行機に乗ったのは17時15分・・・北九州まで1時間40分だ。

その間、頭の中には紫音と花音の笑顔だけが浮かんできて何も考えられなかった。隣に居る総の顔も見る事が出来ない・・・俯いて自分の足元を見つめていた。

私がお屋敷に顔を出すと、嬉しそうに奥から走って来て両手を差し出す時の笑顔・・・美作さんや仁美さんにするように、私の手も2人共が欲しがってくれた、その小さな手の温もり。
抱き締めることは出来なかったけど、その温かさに触れた時に涙が出そうなほど幸せだった。

あの笑顔が今はどうなってるんだろう。
どんな言葉で連れて行かれたのか知らないけど・・・そこまで考えた時、今更だけど不思議な事に気が付いた。私がハッと顔をあげたから彼がチラッと横を見て、握られていた手の力を強めた。


「どうした?」
「・・・ううん、あの・・・さっきさ・・・」

「ん?さっき・・・?」
「ごめん、今頃になって・・・子供達が連れて行かれた時、仁美さんはトイレに入ってたんだよね?でもさ、誰かが子供達が怖がらない理由を付けて連れて出たんだろうって言ったよね?」

「あぁ、判んねぇけど、そうじゃないと流石にあの子達はついて行かねぇだろう」
「・・・でもさ」


でも、それだとおかしいよね?

吉本さんはあの子達が美作家の子供だって知ってるけど、トイレに入ったのは知らない女性。2回目のトイレのカメラ映像を見ても吉本さんとあの女の人は繋がってる。打ち合わせした行動だったのよね?

でも、彼女はどうしてあの時間に子供達が仁美さんとトイレに行くって知ってるの?ずっと後をつけていたの?ううん、だって女の人の方が先にトイレに入ったんだよね?

それに紫音は女の子用のカツラなんて被ってた・・・あの子がそんな事を知らない人からされて抵抗しないって事はない。
3歳児だけど賢い子だもの。花音を守らなきゃって思ってるお兄ちゃん・・・見知らぬ人に対する警戒心はあったはず?

でも、それって、それって・・・


「気が付いたのか?」
「・・・えっ?」

「今まで子供達の行方ばっかり気にしていたから肝心な部分を考えられなかったんだろう?」
「・・・・・・総、まさか・・・」

「あぁ、恐らく仁美さんもこの犯行の仲間だろう。彼女が動かないとこの誘拐は成り立たない。彼女は何処かで吉本と繋がってこの話を聞かされたんだと思う。そして乗っちまったんだ。そうじゃないと説明がつかない・・・そうだろ?」

「いや、でも!」
「仁美さんの心の中の事は俺達じゃ判らない。だからあきらに任せてる・・・そっちはお前が気にすることじゃない」


総も美作さんも仁美さんの事は勘付いている・・・私が混乱し過ぎて気が回らなかっただけで、2人はもうそれについて話し合ったんだって事に驚いた。
確かに仁美さんが言えば双子は素直に言う事を聞く。
そしてお母さんの言う事は信用する・・・だから疑わないし、怖がらない。


仁美さんは双子をあの女の人に渡す時、笑っていたんだろうか・・・それが信じられなかった。


「もしかしたら吉本が仁美さんに出鱈目を言って誘導してる可能性もある。あきらもそれは判ってると思う・・・これは仁美さんから出た計画じゃなくて、彼女も騙されてるんじゃないかって思ってんだ。
でもそれを聞くのもあきらに任せた。俺が問い詰めたら、いくら親友の嫁さんでも許さねぇかもしれないからな」

「・・・仁美さん、きっと事実と違うことを聞かされたのよ。だから・・・だから、こんな事・・・!」

「それでも心の何処かで不安があったんじゃね?あきらもお前の事になると周りが見えないから」

「・・・総もまだそう思ってるの?それとも佐賀のこと以外でも感じた事があるの?」


「ないって言ったら嘘になる。俺は学生の時から、あきらがお前に特別な感情ってのを持ってた事には気が付いてたからな。仁美さんとの結婚も自分の気持ちを吹っ切るためだと思ってた。世話のかかる妹・・・つくしの事をそれだけの想いで見てる訳じゃないと思う。
それを仁美さんもずっと感じてんじゃないか?双子の事も、お前の分身に見えてる時があったとしてもおかしくねぇよ」


私達親子の存在が仁美さんを追い詰めた・・・そう言う事だろうか。
でも、仁美さんの子供達への愛情に嘘はなかったと信じてる。凄く愛して大事にしてくれた・・・彼女は紫音たちと美作さんとの将来に夢を持っていたんだもの。


『小さい子に慣れても無いし、勿論自分では産んでないし、それなのに可愛がって育てられるか・・・凄く不安だったけど、今じゃこの子達が居ない生活なんて考えられないの。あきらさんとも子供の話題で楽しいし、彼ももっと優しくなった・・・この生活が今は宝物なの。
つくしさん・・・いつ来ても良いわ。あの子達と遊んでもいいの・・・だけど、あの子達はもう美作の子供・・・本当にそれでいいのよね?』



きっと今・・・仁美さんも地獄の中を彷徨ってるんだ。
自分のした事を後悔して、暗闇の中で泣いてる・・・子供を手放した苦しさは私が1番良く判る。


双子を女の人に渡して去って行く後ろ姿を見て、仁美さんはきっと泣いたんだろう・・・あの綺麗な顔を歪ませて・・・。




******************


<sideあきら>

総二郎達を見送ってから真っ直ぐ自宅に戻った。

玄関を開けて中に入るとリビング手前の2階に上がる階段の下で、心配そうに俺達の部屋の方向を見上げているお袋が目に入った。
俺の姿を見るとその手摺りから離れて目の前に来たけれど、やはり振り向いて2階を見上げて・・・そして大きなため息をついた。


「つくしちゃんと総二郎君・・・落ち着いてた?」
「いや、落ち着こうとはしてるけど牧野は無理だな・・・でも総二郎が居るから心配ない。機内でちゃんと話し合うだろうし」

「そう・・・上手くいくといいわね」
「上手いくさ。それよりも話があるんだ。少しいい?」


そう言うとお袋は黙って頷いた。

もしかしたらこの人も同じ事を思ってるのかもしれない・・・使用人を誰も寄せ付けずに総二郎と予測した今回の事件のシナリオを説明した。

初めのうちは信じられないって顔をしていたが、話し終えた後は目を潤ませて両手で顔を覆った。
予想よりも驚きは少ない・・・やっぱりそうなんだな、と俺も小さく息を吐いた。


「・・・あの時に襲った人なのね?3年半もつくしちゃんを探していたのかしら。怖いわ・・・」

「俺の事は知ってるし、俺と牧野の事を勘繰っていたから何か情報を得ようと思って東京まで来たんだと思う。そこで偶然庭で遊ぶ双子を見掛けた・・・そこに牧野の面影を見たって事じゃないかな」

「それでこの犯行を思い付いたの?自分が育てようと思った子供達をあきら君が育ててるから?そんな身勝手な!」

「・・・身勝手なヤツだから呼子でも牧野を連れ去ったんだろう。もう真面な考えが出来なくなってるのかもしれない・・・誘拐紛いのことをして、その後幸せに暮らせるだなんて夢見てるんだから」

「ホントよ!つくしちゃん、余計苦しむじゃないの!」


惚れた相手の幸せよりも自分の物にしたいという独占欲の方が強い。
大人しくて優しそうに見えた男の本性だったって訳だ。

押し付けるだけが愛じゃないって判って無い。押し付けられた方の重荷なんて考えない・・・吉本のやってることは子供染みた幼稚な愛情表現に過ぎない。
これを知ったのが類や司だったら今頃どうなっていたか・・・考えただけで恐ろしい。


「それよりも・・・どうしたらいいのかしら」

お袋がまた2階に目を向けた。
母が子供を誘拐させた、そんなスキャンダルを恐れてのことじゃない。
そんなものは極秘に運べば情報は何処にも漏れない。法の裁きを受けた後、家族としてここで一緒に暮らしていけるかどうかの判断・・・そう言う意味だ。


「仁美のことは俺に任せてくれる?本当の事を話すように説得する・・・そのあとで親父やお袋の意見を聞かせてくれ」

俺の言葉に「パパへの報告は私からするわ」・・・そう言って目を伏せた。


「・・・やっぱり不安だったのね。もしも本当にこの事件に関わっていたのなら許せないって気持ちもあるけど、仁美さんの苦しみも判るのよ。あきら君の子供を残したかったでしょうけど病気がそれを邪魔したでしょう?
そして現れたのがつくしちゃん・・・あきら君の気持ちは私だって知ってたもの。いつか仁美さんの心が壊れないかって心配だったわ。あなた、つくしちゃんの事になると目の色も声も、何もかもが変わるって気が付いてないのよね」

「・・・俺が?」

「そう・・・でもね、それが限りなく愛情に近い友情だって私は思ってるわ。仁美さんにはそれが自分に対する愛情を上回ってるんだと感じたんじゃないかしらね。でも負い目があるから言えない・・・そうやって我慢してきたのかもしれないわ」

「・・・夫婦の難しさってヤツ?」

「まだまだ若いからね」


「話し合ってくる・・・真実を話してくれるまで2人にしてくれる?」

「勿論。あなたの仕事だわ」


もうすぐ総二郎と牧野も北九州に着く。
紫音と花音の事は2人に任せればきっと大丈夫だろう。


俺は俺で・・・自分の「家族」と向き合う為に部屋に向かった。





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