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plumeria

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19時前に飛行機は北九州に着いた。
空港を出るとスーツ姿の男性がウロウロしていたから声を掛けると、あきらの頼んだ美作の系列会社の人間だった。
そこに用意されていたのは黒のフィットRS、小型で動きやすい車だ。


「このぐらいの車がいいと言われましたのでお持ちしましたが宜しかったですか?」

「あぁ、助かります。大きすぎると目立って困るから」
「ここからフェリー乗り場まではどのくらい時間が掛かるんですか?」

「ここからだと40分ぐらいですが、ホテルに宿泊されるのでしょう?それを新門司付近で探したのですが、あまり高級なホテルはないんですがねぇ」

その男が予約を入れてくれた小さなホテルからだとフェリーが着く港はすぐ近く。
その方が助かると言えば場所とホテル名を教えてくれた。

男は「車は用件が済むまでご自由に」と言ってくれたから、つくしは何度も頭を下げて礼を言っていた。


「・・・飯、食うか?」
「要らない。あの子達がちゃんと食べてるかどうかも判らないのに・・・何も欲しくないよ」

「じゃ、ホテルに何か持ち込むか。助ける方にも体力は要る・・・そうじゃないと頭が働かない。肝心な時にミスって取り返しがつかなくなるから食わなきゃダメだ」
「・・・でも」

「きっと大丈夫だ。あいつらもちゃんと食ってちゃんと寝てる・・・お互いが居るから安心してるさ」

「・・・・・・うん、総の言う通りにする」


食欲なんて俺にだってない。
不安は身体から溢れそうなほど高まってるし、つくしに感じさせまいとするだけで指先は震えている。
俺の知らない男が、俺がまだ抱いてない子供を掻っ攫ったんだ・・・腹ん中が煮えくり返るほどの怒りが込み上げてる。

それでもそんな男と向き合わなきゃいけないのはつくしだ・・・俺は最後に3人纏めて救うために冷静にならなきゃいけない。


暴走するな・・・そう自分に言い聞かせることで精一杯だった。




********************




総が泊まるとも思えない小さなホテル。
その一室で総が買ってくれたコンビニのおにぎりやサンドイッチをテーブルに並べ、珈琲だけはレストランから運んでもらった。
後は彼が適当に食べやすそうだと思ったデザートやジュース・・・でも、やっぱり手が出ずにベッドの端っこに座って俯いていた。

明日の早朝、恐らく吉本さんはここの港に子供達を連れて来る。
でも彼が運転している訳じゃないならどうやって呼子まで子供達を連れていくんだろう・・・その手口なんて何も考えられなかった。


総が言う事は当たってる。殆ど食事らしい食事をしてないから思考能力が低下してるんだ。

だから悪い方向にしか考えられない・・・ヤケになった吉本さんが子供達を傷付ける場面が何度も頭に浮かんできて、その度に心臓が痛くなって胸を押さえ込んだ。


「うっ・・・やだ!」
「どうした!つくし!」

「気持ち悪い・・・吐きそう・・・」
「・・・緊張からだろう。水分だけでも取って、気分が良くなったら何か食え」

「はぁはぁ・・・うん、ごめん。こんな時に風邪引いたのかしら・・・」
「それでも助けに行かなきゃいけねぇだろ?しっかりしろ!」


彼に支えられたままお茶だけ口に含んで、その後はベッドに横たわった。
総は土地勘がないからスマホで道を調べたり、呼子の地図を見たりしてる。この人も殆ど昨日から寝てないし食べて無い・・・おまけに西門にも戻ってないのに大丈夫なんだろうか。
何度かスマホに着信があるみたいだったけど、それには1度も出なかった。

披露宴が近いから西門も気忙しいだろうに・・・総は気にしてないかもしれないけど、奥さんの方は準備に追われているのかと思うと、そっちも気になって胸が痛んだ。



「呼子・・・唐津・・・ってか、吉本って男は今まで何処に住んでたんだろうな・・・」

総がポツリとそう言った時、この前の電話で女将さんが変な事を言ったのを思いだした。

『そっちで見掛けたのかい?』・・・もしかして、女将さんは吉本さんの事を言ったのかしら。私は急いで起き上がって自分のスマホを取り出した。

急にそんな事をしたから総が驚いて私の方を見てる。
「思い出したことがあるの!」そう言うと、椅子から立ち上がってベッドまでやってきた。


「何を思い出したんだ?!」
「お正月過ぎに女将さんに電話したって言ったでしょ?あの時に・・・待って、女将さんに掛けてみる!」

「は?どう言う事だよ、つくし!」
「女将さん、何か知ってるかもしれない・・・・・・あ、もしもし!女将さん?牧野です!」

女将さんは私の電話にすぐに出てくれた。
でも、私の声の様子から普通じゃないと思ったのかもしれない、女将さんの第一声も慌てたような大きな声だった。


『ど、どうしたの?つくしちゃん、何かあったのかい?!』
「女将さん、聞きたい事があるんです。あの時の吉本さん!彼、あの後どうしていたか知ってます?!」

『まさか、本当にそっちに行ったの?あ、あ、あんたの前にあら・・・現れたのかい?!』
「女将さん、落ち着いて!実はね・・・」


呂律が回らないほど興奮している女将さんの声に、やっぱり何かあったんだと確信した。
私はそんな女将さんに「落ち着いて聞いてね」ともう1度言い、これまでに起きた事を説明した。勿論仁美さんの事や手口なんて詳しくは言わないけど、彼が現れて子供達を連れ去り、私に呼子に来るように要求があったと言えば電話口で無言になった。


「女将さん、この前変な事言いましたよね?そっちで見掛けたのかって・・・あれ、吉本さんの事だったんですか?何があったの?吉本さん、年末から美作さんのお屋敷を彷徨いてたみたいなの。
そこで双子を見てしまって、私の子供だと思ったらしいんです。教えて下さい、吉本さん、どうしちゃったの?」

『それよりも子供は・・・子供は見付からないの?!今は何処に居るの?』

「紫音たちは多分フェリーでこっちに向かってるんだと思うの。でも海の上だから行く事も出来ないし、私は門司まで来てるんです。電話だと子供達は元気みたいだから安心して?危害を加えたら私に会えないもの、そんな事しないだろうってみんなで話し合ったの。ねぇ、女将さん、吉本さんの事を教えて下さい!」


子供達が無事だと聞いて女将さんの様子も落ち着いたみたい。
それでもなかなか言葉が出なくて、スピーカーでこの会話を聞いてる総はイライラしながら画面を睨んでいた。

そしてやっと出た言葉は・・・


『・・・・・・あの人、おかしくなっちまったんだよ』


おかしくなった・・・そう言われるとドキッとした。
まさか、精神疾患?私が彼を拒絶して呼子から姿を消したから?

でも、私には彼に対する恋愛感情が無かったんだもの。それに襲いかかったのはあの人の方で、私はむしろ被害者・・・それなのに吉本さんがおかしくなるってどういう事?!


「お、おかしくなったって・・・あの、どんな風に?」

『いや、病名なんて知らないよ?そんなんで病院に通ったとか入院したとかも聞かないし。ただね、あの事件の後に吉本さんの家はかなりゴタゴタしたみたいなんだよね。警察沙汰にはしなかったけど、ほら役所勤めだしねぇ・・・お父さんもそうだったからさ』

「ゴタゴタ・・・?あの人、実家に戻ったんですか?」

『それが私達もそんな細かいところは知らないのよ。つくしちゃんが美作さんとここに来ただろう?あの時にはそんな噂もなかったんだけど、そのすぐ後にご両親が離婚しちゃってさ。元気だったお母さんも塞ぎ込んで入院するし、お父さんは役所を退職したし、身内がバラバラになってね・・・小さな街だからあんな噂が広まるのは早いから・・・』

「そうなんですか・・・それで吉本さんは見付かったの?あの後、居なくなったでしょ?」

『あの人は何処かに逃げてて、この土地にふらりと戻って来たのは事件から2年ぐらい経ってからだったよ。やっぱり住み慣れた場所が良かったのかもしれないけど、加部島に古い家を借りて1人で住んでてね、仕事もしないでそれまでの貯金で暮らしてたようだけど』


加部島・・・あの旅館から眺めていた大きな橋で繋がってる島だ。
あそこに戻って来て住んでいたって事は旅館の周りも生活圏内・・・私の事を誰かに聞いて回ったんだろうか。


「それで、私の事を調べていたんですか?」

『もう年月経ってたから気持ちが落ち着いたんだろうと思ったのに、忘れられなかったんだろうねぇ・・・私の所には流石に来なかったけど、どうやら近くの産婦人科の看護師さんには話を聞きに行ったようなんだよ。それであんたが襲われた後に行った病院、それは知ったみたいでね・・・唐津の方に何かを調べに行ったって聞いたんだよ』

「唐津に・・・鏡山の公園?」

『そうなのかねぇ?でもね、そのうち今度は加部島にも居なくなったって島の人から聞いたもんだから、とうとう行き先を調べて関東に行ったのかと思ったんだよ。それが2ヶ月ぐらい前かねぇ』


2ヶ月前・・・そんなに長い間私の事を探していたの?
出会った時にはもう妊婦で、他の男の人を想ってるって知ってたのに・・・半年しか呼子には居なかったのに?


それなのに何年も私の事を・・・その執念が恐ろしかった。




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