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師走・・・何かと忙しい日が続き、今年西門に嫁いだつくしは毎日本邸の廊下を小走りだった。

「あぁ、忙しい!」って声が聞こえ、俺はそんなつくしを呼び止めた。
「そんなに『忙しい(せわしい)』って言ってると文字通り心が亡くなるぞ?」

そう言うと少しだけ口を尖らして声に出さずに『意地悪!』と唇を動かし、言葉では「判りました」と言う・・・俺はそんなつくしを見てクスクス笑った。


20日過ぎから数回だけ行われる「歳暮釜」。
その年の正月に使った干支の道具をもう1度使い、「終い干支」と呼んで11年間の別れを言う。

そして大晦日・・・茶道家では1年を振り返り、翌年に火を繰り越すといった意味もあり、内々で釜を掛け深夜に到るまで茶を楽しみながら新年を迎える。
「除夜釜」と呼ばれるそいつの亭主は家元と決められていて、蝋燭の明かりで楽しみ小鉢で年越し蕎麦も振舞われる。


初めてそれに参加するつくしは緊張しまくりで、何度お袋に背中を支えられたか。
親父からも「身内だけだから」って言われるのに落ち着かない。親父の作法を睨むように見詰めて、お袋の差し出す茶菓子に手も出せない。


そのうち遠くで除夜の鐘が鳴り、宗家一同一礼・・・新しい年の始まりだ。


「おめでとう、今年も宜しくな」
「おめでとうございます。皆が健やかでありますように」

「おめでとうございます。どうぞ今年も宜しくご指導くださいませ」
「おめでとうございます。まだまだ未熟でございますが早く覚えて皆様の・・・」

「ははは!つくしさん、ここでは形だけの挨拶だ。堅苦しくしてはいかんよ?」
「うふふ、そうそう!つくしさんったら緊張しすぎよ。さぁ、少しお飲みなさい。お蕎麦も食べてないでしょう?」

「つくし、大丈夫か?無理するなよ?」
「・・・えへへ、ちょっと張り切り過ぎちゃった」


ちょっと恥ずかしそうに頬を染め、着物の袖で顔を隠す・・・これまで寒々しかった除夜釜なのに、今年は随分賑やかだった。



そいつが終わったのは除夜の鐘が聞こえなくなった後・・・親父の茶室を出て自分達の部屋に向かう時、漆黒の夜空にぼんやり浮かぶ白い月、そいつを2人で見上げた。


「・・・・・・綺麗だな」
「うん・・・・・・綺麗だね」

「悪いな。こんなしきたりの喧しい家で・・・お前に苦労かけるな」
「ううん、そんな事ないよ。大丈夫・・・まだ慣れないだけで来年は今より上手くなってると思うから」

「焦るなよ?つくしはつくしのままでいい・・・急ぎ過ぎて俺を置いて行くな」
「うふふ、それも大丈夫。私は総二郎の背中を見て歩くから」

「ははっ、背中は嫌だな。せめて隣に居てくれ」
「ん、そうする・・・今年も宜しく、総二郎」


今年初めての口づけを白い月が見ていた。




元旦の朝は再び家元の「大福茶」で始まる。
その年の無病息災を願って飲むお茶で、そいつが終われば・・・今度はつくしの出番だった。

毎年料理長が腕を振るう正月料理を、今年からつくしが担当すると言った。
勿論食材は西門だから一流品だがそいつをつくしが「おせち」にする、そう言ったから料理長は初めて正月休みを貰って里帰りをした。
残った使用人は身内同然の志乃さんと、東京が実家の若弟子が数人。

大福茶が終わった途端に着物に襷掛けしてエプロンをつけ、普段は下がりっぱなしの眉をキリリと上げて厨房に向かう姿を頼もしく見ていた。


「何か手伝えるか?」
「とんでもない!総二郎は台所に入るべからず!さぁ、出た出た!」

「んじゃ、楽しみに待つとしようか?」
「うん!そうしてて?お義父様達のお相手でも!」


くくっ、いい歳してお相手もクソもねぇだろうよ。
寧ろ2人はつくしのする事が珍しくて厨房を覗きに来てる。そして不思議なものを見てるような目付きになってる。
「邪魔だってさ」と言うと「どんなものが出来るのかしら?」「美味そうな匂いだな」と興味津々のようだ。

この2人に厨房まで足を運ばせたのもつくしが初めて・・・この先の正月は退屈しねぇな、とつくしが呼びにくるのを待つ事にした。




「皆様、出来上がりましたよ~」

その声が掛かったのは丁度昼。
つくしの柔らかな声で俺は立ち上がり、奥の間から2人もソワソワと出てきた。


ダイニングに行けば、そこにはこれまでの大皿とは違った重箱が重ねられていた。
テーブルの真ん中にそいつが積み重ねられ、取り皿に真新しい箸、御神酒も用意されている。つくしはエプロンも襷も外して上品な着物姿に戻ってて、恥ずかしそうに「お座りくださいな」と笑った。


「本当はおせちってお正月に休めるように31日に作るらしいんですが、昨日は忙しかったので遅くなりました。申し訳ございません。それよりもお口に合うかどうか・・・」

「ははは!いや、ありがとう、つくしさん」
「なんだかお正月っぽいわねぇ。お重だなんて久しぶりに見たわ~」
「いつもドデカい皿盛りだからな。じゃ、食うか!」

「ではお酒を」


志乃さんが俺達に酒を注ぎ、後はお任せで、と出ていった。

親父の乾杯でまずはひと口・・・それが終わるとつくしが重箱の蓋を取りそこに広げた。


おせち料理は大きく分けて、「祝い肴」「口取り」「焼き物」「酢の物」「煮物」の5種類。それぞれの料理にめでたい意味や云われがある。
重箱に詰めるのは「幸せを重ねる」という意味で、正式なのは四段。
これは完全な数を表す「三」の上にもう一段重ねた数だからだ。上から「一の重」「二の重」「三の重」「与の重」と呼び、何番目のお重に何を詰めるかが決まっている。

一の重には「祝い肴」「口取り」。
栗きんとんや伊達巻き、田作りに黒豆、数の子はここに入る。
二の重には「焼き物」、鯛や鰤などの焼き魚、海老をはじめとする海の幸を詰める。
三の重には「酢の物」、与の重には「煮物」。


「まぁ・・・綺麗に詰めてあること!つくしさん、ご苦労様でしたね」
「いえ!味の保証は・・・ははは!家庭料理の延長ですけど」

「この伊達巻きは手作りかな?いや、なかなか美味いぞ?」
「それ、得意なんです♡お義父様、まだありますから食べてくださいね!」

「つくしの筑前煮、やっぱ美味いわ」
「ふふっ、総二郎は意外と好きなのよね!」


黒豆は邪気払いの意味と勤勉に働けるようにとの願いが込められている。
数の子は卵の数が多いことから子孫繁栄を願う縁起物、田作りは片口イワシを肥料にしたら豊作になったことから五穀繁盛穣を願う。
たたきごぼうは地中深くに根が入っていくので、家の基礎が堅牢であることを願うとされる。
伊達巻きは形が巻物に似ているため知識が増えるようにと、きんとんは漢字で「金団」・・・黄金にたとえて金運を呼ぶ縁起物。

鯛は恵比寿が持つ魚として晴れの日の食卓にふさわしい魚で、鰤は立身出世を願う縁起物。
車海老は茹でると年寄りのように腰が曲がることから長寿でいられるようにという願いを込め、煮蛤は左右の貝がピッタリ合うのは一つしかないことから夫婦円満を象徴する縁起物。


最近では宗家でもオードブルにして見栄え重視だったが、今年は昔ながらのおせちに御神酒。

1人加わればこうも違うものか・・・?
それともつくしだからか?


「・・・あら、つくしさんは御神酒、飲まないの?」
「ひと口いただきましたけど、それだけで酔っちゃって・・・情けないですねぇ~。あっ!お寿司はちゃんと調理長が作ってくれてたので持って来ますね!」

「あぁ、俺が持って来よう」
「ホント?じゃあ一緒に行きましょ?結構重たいのよ~」


この時、つくしの皿が綺麗なままだと気が付いた。


・・・・・・まさか?





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Comments 2

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2020/01/01 (Wed) 17:36 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんにちは。

コメントありがとうございます。

あはは!お茶飲みながら年越しそばよ?
きっと小鉢程度なんだろうね~。

紅白は・・・見ないよね?(笑)
ってか、私も紅白は見ないなぁ💦
ここ数年、見ていません。元々テレビを観ない人なので、音楽だけ聴いてます。
今回もback numberのCD聞きながらミシンと遊んでました(笑)

おせちはね~、私も簡単なのしかしません。
欠かさないのは黒豆だけかなぁ?仕出しを頼んだ事も無いけど、ドンドン簡単になっていきますね。
父が亡くなってからそうなったかも・・・。

今は子供が手伝ってくれるので助かります❤


はっ?!
お正月からそんなの期待しちゃダメっ!(笑)

いややわ~💦真面目なタイトルでしょ?
そんなもの、ありませんっ!キリッ!

2020/01/02 (Thu) 10:30 | EDIT | REPLY |   

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