FC2ブログ

plumeria

plumeria







「・・・あれ?今日のお花は朝顔?」
「あぁ、その季節だからな」

夏の初めのお稽古の日、茶室に入ると竹籠の花器に真っ青な朝顔が一輪、生けてあった。
それは少し暗めで暑苦しい茶室を涼しげに演出していて、何だか風の通り道を感じるみたい・・・たった一輪なのに凄い力だとその花に魅入った。

師匠が準備をしてるのにそこに目が行き足が止まる・・・とても美しかった。


「ははっ、そんなに感動したか?」
「うん・・・見慣れてるのにね。朝顔ってさ、日差しの中で咲いてる所しか見た事ないから・・・」

「利休の朝顔の茶会って有名だろう?お前も知ってるよな?」
「え?あぁ、あの話はあんまり好きじゃない・・・」


利休の「朝顔の茶会」・・・有名な千利休の逸話だ。
豊臣秀吉が当時は珍しいと言われた朝顔が、利休の茶室の庭に沢山咲いていると聞いたから見に行ったら、全部刈り取られてしまっていた。
それに怒った秀吉が茶室に入ったら、たった一輪だけ床に飾ってあり、その美しさに心打たれた。

沢山の朝顔が刈り取られたのはその一輪を際立たせるためだったって話だ。


「まぁ、創作だって説もあるしな。利休の演出の巧みさを語るために作られたんだろうな」
「・・・でも、飾ってもらった一輪はいいわよ?その為に刈り取られた方はたまったもんじゃないわ」

「そんなに怒るなよ、ほら!稽古するぞ」
「・・・はーい」


だってそうじゃない?
お客様を喜ばせるためにって考えたのかもしれないけど、刈り取られた朝顔は命を絶たれたのよ?
沢山の中から選ばれた人はいいけどさ・・・それ以外の人は見向きのされないの、そんな感じ?


目の前の男が「利休」に見えてきた。
そして私は・・・刈り取られたその他大勢の「朝顔」かもしれない。

じゃあ今、床に飾られてる一輪の朝顔は誰?なんて考えてしまったからこの日の稽古はボロボロだった。




そんな夏が終わって早秋の頃・・・西門家の庭に白い花の蕾を見付けた。
それは表の庭じゃなくて西門さんの育ててる茶花のある裏庭。今日は秋の茶花を自分で刈り取り、床に生けるのも稽古に組み込まれたからそこに出向いていた。

朝顔みたいな蕾だけど葉っぱが全然違う・・・大きくてハート型してる。
蕾だって大きい・・・こんな時間に開きそうなほど膨らんでるけど、明日咲くのかしら?


「気になんのか?そいつ」
「え?うん・・・なんて言う花?」

「それは『夜顔』・・・夜に咲く花だ」
「夜顔?そんな花があるの?夜に咲くから茶花にはならないの?」

「・・・咲くと判るけど茶花には出来ねぇな」
「へぇ、咲いたところを見たいなぁ・・・」

「夜稽古するのか?」
「はっ?!や、やだよ!夜に西門さんとなんて!」


ニヤッと笑うと瞳に妖しい光が灯る。
夕方の生暖かい風が吹くと西門さんの髪が揺れる・・・ほんのり彼の香りが鼻をつく。
赤くなった顔をプイッと背けて他の花に目をやると、草が囁く音に混じって背中から小さな笑い声が聞こえる。

「早くお稽古して帰ろ!」、そう言って頬を膨らませ、野菊を一輪摘み取った。


それを茶室に生けてお稽古が始まる。

今日も美しい「お手本」は、私の前で優しいお茶を点てている。その作法を見てるのか、彼の指先を見てるのか・・・私の目はぼんやりとその不思議な世界を眺めてしまう。
低く甘い声が詩を詠うように私の耳に届く。導かれるように返事はするけど私の頭にはその中身は残らない・・・あぁ、今日の稽古も上達には至らなかった、と最後の挨拶で反省してしまう。

だから、つい漏れちゃう「はぁ・・・」ってため息。


「なんだよ・・・やる気あんのか?」
「あ、あるって!お免状もらうまで頑張るもん!」

「そいつをもらったら頑張らねぇの?」
「いや、そうじゃないけどさ・・・1つの目標ってヤツよ」

「じゃ、相当先だな・・・免状は師範の心次第だ」
「うわっ、横暴だな!」


うんうん、相当先でもいいよ。いっその事、お婆ちゃんになる頃でも・・・なんて、心の中は正直だ。



「夜顔の花言葉、教えてやろうか?」
「・・・さっきの花?なんて花言葉?」

「『夜の思い出』と『妖艶』・・・ミステリアスだろ?」
「西門さんの為の花言葉だねぇ・・・」

「見たいだろ?」
「・・・は?」

「見せてやる・・・咲く頃まで待てるか?」
「ど、何処で?」

「そりゃ・・・決まってるだろう?」


スッと差し出された綺麗な手・・・魔法に掛かったようにそこに手を置くと、フワッと身体が引き寄せられた。
トン!と当たったのは彼の胸、ドキンと高鳴ったのは私の胸。

「ここで待つんだけど?」って甘い囁きが頭の上から聞こえてきて、驚いて見上げた瞬間・・・・・・唇が塞がれた。


うそっ!って思ったのは一瞬・・・ヌルリと入って来た彼の舌が私のそれを絡めようとするから、慌てて逃げようとしたけど無理だった。
背中に置かれた手が熱い。
片方持たれてる手はもっと熱い・・・私の頬はそれよりも熱く、西門さんの舌はそれよりも・・・

何も考えられなくなったら身体の力が抜けてって、そうしたら私の身体は宙に浮き、そのまま別の部屋へ連れて行かれた。


やだ!誰かに見られたらどうすんの?
・・・・・・・・・庭の花なら見てるけど?

そうじゃなくて、重たいから降ろしてったら!
・・・・・・・・・落とさねぇから心配すんな。

やだやだ!何処に行くの?
・・・・・・・・・俺の居る世界?いや、お前が夢見る世界?・・・くくっ、もしかしたら地の底かも?

ええっ?!そんな所行きたくないし!
・・・・・・・・・1人じゃなかったらいいだろ?案外楽しいかもしれねぇし。


「・・・バカ!」
「諦めろ。もう逃げられねぇって」



気がついた時には象牙色の彼の腕に抱かれてて、窓の外はすっかり闇夜になっていた。
薄く目を開けたら西門さんの寝顔・・・少し乱れた髪の毛を直そうと手を伸ばしたら、同時に彼の目が開いた。

僅か15㎝先・・・漆黒の目を細めて私を見詰める。
驚いて手を引っ込めたら、またすぐに抱き寄せられた。



「あぁ・・・香ってきた」
「・・・何が・・・・・・あっ、これ?」

「夜顔が茶花に出来ねぇ理由だ・・・」
「くすっ、本当だね」


夜顔が甘い香りを風に乗せて自分の存在を教えてる。
西門さんとシーツに包まって窓から眺めたら、大輪の白い花が一輪だけ咲いていた。
真っ暗な庭の片隅で、魅惑的なダンサーみたいに白いドレスを翻す・・・選ばれた一輪みたいに誇らしげに揺れていた。


私はこの日、茶室の一輪になった。
お免状はお婆ちゃんなっても渡さないって言われた。


私の生涯のお稽古場は彼の隣だ・・・と。





にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
応援、宜しくお願い致します♡



yorugao1483-300x200.jpg

夜顔の花です♡甘い香りがするんですって♡
香りの強い花は茶花には出来ないと言う事ですね。

明日もSSをお届けします。
関連記事
Posted by

Comments 6

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/09/29 (Sun) 19:38 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/09/29 (Sun) 19:42 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは。

ほほほ♡ちょっとオトナの感じにしてみました♡
少しは色っぽく書けてましたか?

ふむふむ、よしよし(笑)
でもね、本当に苦手なんですよ💦こう言う1話読み切りって言うの?


いつか言われてましたよね?カテゴリに100ストーリーがあったって。

そうなんです・・・書いてみようと挑戦したけど全然書けなくて(笑)
数話あるだけなんです・・・えへへ!

連載やめたら公開しようと思ってたので、捨てなくて良かったわ~♡

巫山戯た話しもあるけど、時々公開していきますので宜しく~♡

2019/09/29 (Sun) 22:26 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: No title

yukay様、こんばんは。

ご訪問&コメントありがとうございます。
初めまして、でしょうか?

ようこそお越し下さいました♡
複雑で事件ばっかりのお話しですが、宜しかったら遊びに来て下さいね~。

どちらでも構いませんよ?
ただ拍手の方はお返事がいつになるか判らないので申し訳ないのですが・・・。

お好みのお話しがあれば嬉しいです。
これからもどうぞ宜しくお願い致します♡

2019/09/29 (Sun) 22:29 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/09/30 (Mon) 08:59 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

aya様、こんにちは~!

コメントありがとうございます。
えっ♡ホントに色っぽかったですか?(笑)

マジで嬉しいんですけど♡
ムフフ・・・大してエロくしていないのにそう感じていただけたとは・・・調子に乗るかもしれません(笑)

よし、頑張ろう♡

2019/09/30 (Mon) 11:02 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply