天邪鬼な乙女の恋心・1

「もう終わりだね・・・これ以上は無理だよ。ごめんね」

何度目かの恋がこの言葉で終わっていく。
今日もそうだった・・・この彼とは3ヶ月も付き合ってないのに。
結局恋人らしいことなんて何もないまま終わってしまう。いいえ・・・終わらせているのかもしれない。

「ううん・・・いいのよ。私こそ勇気が出なくてごめんね。それじゃあ・・・元気でね」


心にもない言葉で、いかにも傷ついてないかのように演技をする。
そして、違う女の人が待っている彼の後ろ姿を見つめていた。


「なにやってるんだろ・・・何回同じ事を繰り返したら進歩するんだろうな・・・」


*******


7月になって本格的は梅雨の時期・・・今日も雨が降っていて、喫茶店の窓から傘を差して歩く人達を眺めていた。
こんな時期なのに傘を忘れてしまった私は出るに出られない状態で・・・ため息をついて行き交う人を見ていた。
もちろん1人で・・・。ここのマスターは顔見知り・・・失恋したての私のことなんてすぐにわかるから知らん顔して
何も聞かずにコーヒーのおかわりをくれた。

「ありがとう・・・マスターは優しいのね」

「つくしちゃんの事は何でもわかっちゃうよ。気が済むまでいたらいいさ」

「うん・・・雨が小降りになったらね。もう少しだけ・・・ごめんね、いつまでも空かない席を作ってしまって」

にっこりと笑ってまたカウンターに戻っていくマスター・・・。
また、頬杖をついて窓の外を眺めていた。

他には人がいなくてマスターと私だけ・・・その時にドアが開いて1人の男性が入ってきた。
その人も傘を持っていないのか、結構濡れているみたいだったけど少し眼を向けただけで、その人の顔まで
見ていなかった。その人も後ろ向きだったから・・・すぐに視線は窓の外に向かった。


「あれ?・・・牧野?牧野じゃない?」

自分の名前を呼ばれてびっくりした私はその入ってきた人をもう一度見た。
そしてその姿に釘付けになった・・・あまりにも突然の出来事で眼の前の彼が本物なのかを疑ってしまうぐらい・・・。


「花沢・・・類?・・・類なの?」

「見てわかんない?あんまり変わってないと思うんだけど!牧野も変わんないね!何してるの?待ち合わせ?」

待ち合わせ・・・て、いたんだけどね。
振られちゃったのよ・・・なんて言えるわけないじゃない。

何も言えずに俯いたら類はためらわずに私の前に座った。
相変わらずなのね・・・そこに誰かが座るかもしれないなんて考えないのかしら。
それとも寂しそうに見えたのかしら・・・もしかしてバレてる?


「1人なんでしょ?俺も今は1人・・・コーヒーお願いします」

類はマスターにコーヒーを頼んでハンカチで濡れた髪の毛を拭いている。
変なの・・・さっきまで別れた男の事を考えていたのに・・・今はもう頭の中が花沢類で埋まってしまうなんて。
全然変わってないのね・・・その猫っ毛も、色素の薄い瞳も・・・柔らかい笑顔も。
何もかもあの時のまま・・・私を置いてフランスに行ってしまった3年前と変わんないわ。

「失礼ね・・・何年かぶりに会ったのに1人なんでしょ・・・なんて普通は言わないわよ?先に聞くでしょう?
ここいいですかって・・・自分勝手なのは昔のままね」

「聞いて欲しかったの?そんなふうには見えなかったよ・・・むしろ俺に座って欲しかったでしょ?
そんな顔に見えたんだけど?」

「意地悪な人ね・・・!そうよ!たった今、振られたばかりで寂しくしてたのよ・・・傘もないし帰れないし・・・。
窓の外はみんなが幸せそうに見えて悔しいって思ってたところよ・・・類の言うとおり!」

「・・・そうなの?振られたって・・・牧野、彼がいたんだ」

何よ・・・?その不思議そうな顔は!
私だってこう見えて何回かは恋をしたわよ?子供のような恋だけどね・・・。
仕方ないじゃない・・・そっちがフランスに行って彼女と暮らしてたんだから・・・!



3年前・・・

花沢類に恋をしていた私は何度も何度も告白するタイミングを見つけようと必死だったのに・・・。
ある日、突然聞いたのよ・・・フランスに行くって。
表向きは仕事だけど、彼女がフランスに行くから追いかけて行くんだって・・・西門さんがそう言ってた。

「うそ・・・だって彼女はそんな気はないって言ってたわよ?花沢類の片思いなんだって・・・!」

「知らないけど向こうで一緒に暮らすって聞いたぞ?気になるんなら本人に確かめろよ!玉砕覚悟で!」


そんな事言われたら聞けないわよ・・・!相手が相手だもの!勝ち目がないわ・・・。
結局何も聞けなくて・・・花沢類を空港で見送る彼らの中に入って一緒になって手を振ったわよ。
そんなに嬉しそうに行かなくてもいいじゃない・・・笑顔の裏でそんな事を考えながら両手を振ったわよ!
帰り道でみんなの前で大泣きして・・・おかげさまで今でもあの人達とは会うことも出来ないままなのよ。


コーヒーの湯気の向こうにある類の顔を見ながらそんな事を思いだしていた。


「見る眼がないね・・・その男」

急に類がそう言った・・・顔を上げて類を見たら凄く嬉しそうに笑ってる。

「どういう意味よ・・・からかってるの?それとも慰めようとしてるの?・・・どっちもお断りよ!」

「あれ?・・・この3年間で随分性格歪んじゃったの?それとも大人になったのかな・・・可愛いね、牧野!」

「か・・・可愛い?どこがよ!可愛かったらこんなふうに1人でいないわよ!
だいたい類はどうしてここにいるの?フランスで・・・暮らしてるんじゃなかったの?」

2人で・・・って言葉を言えなかった。
その言葉をつけて聞いて・・・そうだよ、何て言われたら今の私にはショックがひどいかもしれないし・・・。
聞いた後でもその返事が怖くて下を向いたまま類の顔が見られなかった。


「フランスからは半年前に帰ってきたよ。今は日本で勤務中・・・今日は仕事が早く終わったから久しぶりに
1人でブラブラしてたら雨が降り出して・・・傘なんて持たないからここに避難したってわけ!」

「半年も前に?・・・知らなかったわ。・・・1人で帰ってきたの?」

「誰と帰るのさ!こう見えてもまだ独身だけど?・・・牧野、まさか結婚してたの?」

「どうしてそうなるのよ!そんな人・・・そこまでいく人なんて出会ってないわよ!ごめんなさいね、進歩がなくて!」


どうしたんだろう・・・自分でもわからないけど凄く突っかかってる・・・。
類の言葉に安心しながら、でも素直になれない。


「やっぱり、変わんないよ!そんなところ・・・天邪鬼だね」

「は?ど・・・どこがよ!そんな事ないわよ・・・類こそ・・・」

そんな事を話ていたらマスターがケーキを置いてくれた。
私も類も頼んでないのに・・・マスターを見上げたら嬉しそうに笑っていた。

「つくしちゃんが楽しそうだからこれはサービスだよ。まだ雨は止みそうにないから2人で話しておくといい。
私は奥で休憩してるから・・・ゆっくりしてていいよ」

マスターはドアに「準備中」の札をかけた。


「マスター・・・そんな事まで」
「ありがとうございます!そうさせていただきます!」

私の言葉を類の珍しく大きな声が遮った・・・そして店には二人きり。
店内の音楽も小さくて・・・窓に当たる雨音の方が耳に残る。

私は目の前にいる初恋の彼のことをまともに見ることさえ出来なくて息が詰まりそうだった。
こうなったらケーキでもつついてこの変な空気をどうにかしないと・・・っ!
マスターのくれたチーズケーキに勢いよくフォークを突き立てた!



「牧野・・・3年前に戻らない?」

類の一言にケーキに挿したフォークが止まった・・・。

ame15.jpg

久しぶりの類のSS!雨シリーズ・・・。

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