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plumeria

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<sideあきら>

部屋に入るともう目を覚ましていた仁美は、薄暗い部屋の中でガウンを羽織り、ベッドの端に座りぼんやり窓の外を見ていた。
もうそこからは陽の光なんて見えない・・・窓ガラスには俺の姿が映っていた。

ゆっくり近づいたが何の反応も起こさない。
それは数年前の牧野の姿を見るようで恐ろしかった。いや、仁美にも病名がつくほどではなかったがカウンセリングを受けていた時期があったぐらいだ。
この度の事で発症してもおかしくない・・・そう感じていた。


「仁美、話があるんだ。こっちに来てくれないか?」
「・・・・・・・・・」

ソファーまで来るように声を掛けたが返事はない。虚ろな目はピクリとも動かなかった。
それでも話をしない訳にはいかない。仕方なく俺が彼女の傍まで行き、目の前に椅子を置いてそこに座った。そうやっても仁美の指先も視線も動かない。
瞬きでさえゆっくりと・・・1度閉じたらもう目を開けないのかと思うほどにゆっくりとそれを繰り返しているだけだった。


「吉本って男から電話があったよ」

そう言うとピクッと指が動いた。
そしてやっと俺の方に顔を向けたが、その顔は酷く窶れて弱々しかった。

仁美も悩み疲れたんだろう・・・演技を続けようと思えばここで俺にしがみついてその電話の内容を聞いてくるはずなのに、そうはしなかった。
むしろ悲しそうに見つめている・・・自分のした事を後悔しているのか、その目にはまた涙が溢れてきた。


「電話の内容、聞かないのか?」
「・・・・・・・・・」

「総二郎と牧野が迎えに行ったよ。きっと無事に帰ってくるから心配するな」
「・・・・・・・・・」

「それに総二郎のヤツ・・・気が付いてたんだってさ。紫音と花音が自分の子供だって事。それで仁美にもすまなかったって・・・そう伝えてくれって言ってた」

「・・・すまなかった?」

「あぁ・・・辛い思いをさせてしまったからってな」
「・・・・・・・・・」


仁美の頬を涙が伝った・・・それがポタポタと彼女の服を濡らし、その膝の上に置かれていた手がガウンを握り締めた。
唇を噛んで目を閉じ、声にならない嗚咽を漏らし、項垂れて下を向いてしまうと髪の毛が彼女の表情を隠した。


小さく震える肩・・・すぐにでも抱き締めてやりたかったが、俺にはまだそれが出来なかった。

仁美の口から何も聞いていない。
許せるのかどうか・・・それは彼女から事の経緯を聞くまで自分でも判らなかった。


「仁美・・・本当の事を話してくれないか?君も美作の人間なら判るだろう?うちのシステムと情報網を駆使すれば警察を頼らなくても犯人を特定してそこに辿り着く、その時間もかなり早い。もう、どうやって子供達が東京から姿を消したのかまでは判ったよ」

「・・・・・・・・・」

「この犯行は吉本だけじゃ行えない。もう1人協力者がいないと1番初めの作業が行えない・・・そうだろう?」

「・・・うっ・・・ううっ」


「紫音と花音を知らない女に渡したのは・・・君だね?」


俺の言葉に仁美は両手で顔を覆って泣き出した。
その姿は4年前、自分の腫瘍摘出手術の決断をした時と同じ・・・全身を震わせて仁美は泣いていた。
聞く方が苦しくなるぐらい、彼女の泣き声はこの部屋に響いた。それでも俺の手はまだ仁美を支えることは出来ない・・・小さな子供達が知らない人間と一緒に過ごしてることの方が可哀想に思えたから。


大人の都合で騙されて連れて行かれたんだ。
もしも、今回の事で2人の心に傷が残ったら・・・それが一番恐ろしかった。

あの子達が「母親」に騙されたと記憶してしまったらこの生活は終わりだ。信頼関係が無くなったら、ただでさえ血の繋がらない俺達家族はバラバラになるだろう。
紫音と花音を引き取ってからの3年半・・・それまでに築いてきたものが粉々に砕かれていく、それを想像したら喉が焼けるように熱くなった。


「仁美、もう話してくれないか?どうして吉本と知り合ったのか・・・屋敷の周りを彷徨いていたのはあいつだろう?どうしてその不審者だって判っていながら接触したんだ?」

「・・・公園で・・・声を掛けられました」

「公園で?いつも行く公園か?」

「はい。そこで・・・」


漸く仁美は小さな声で話し始めた。
これまでの事・・・吉本とどうやって接触したのかを声を詰まらせながら説明してくれた。
やはりあの不思議な外出は吉本に会うため・・・美作の警護を断わって人目を避けるようにビジネスホテルに入る彼女を想像して胸が痛んだ。

深窓の令嬢の仁美がそんなマネを・・・どれ程の勇気だっただろう。


「そこで何を言われた?紫音と花音を連れ出せと命令されたのか?」
「・・・双子を手放せと・・・」

「どうしてそう言う話になった?吉本は何処まで知ってたんだ?」
「双子がつくしさんの子共だという事は顔を見てすぐに判ったって・・・そして・・・」

「そして?」

「・・・あきらさんは子供達の中につくしさんを求めてるから傍に置いているのだと。花音にはそのうち恋心を抱くかもしれない・・・もしかしたら花音があなたに恋をしたら、それを受け入れるだろうって・・・」

「そんな言葉を信用したのか?!この俺が子供にそんな感情を持つって本気で思ったのか!」


あまりにも巫山戯た話の内容に激昂して仁美に大声を出した。

結婚してから1度もこんな風に彼女に怒鳴ったことはない、でも今回は抑えきれなかった。確かに双子の中には牧野の面影がある・・・それを感じたことはあっても、花音をそういう対象に考える訳がない!
俺に憧れてくれたら嬉しいかもしれないが、あくまでも父親として・・・それを「受け止める」とはどう言う意味だ?!

そんな想像をした仁美を許せなかった。その時、一瞬・・・俺達も終わった、そう思った。



「信じられない。仁美がそんな言葉を信じるなんて・・・まさか、君が・・・」
「私だって信じられなかったんだもの!!あきらさんが・・・あきらさんがつくしさんと一夜を過ごしただなんて!」

「・・・えっ?」

「吉本に聞いたのよ・・・あきらさんの佐賀での様子。仕事よりも優先して彼女の看病をしたり、お医者様の説明もあなたが聞いたり、抱きかかえて運んだり・・・そしてホテルで一晩一緒だったって!旅館でもつくしさんの部屋に向かったって!
私だって信じられなかったんだもの・・・まさか、あなたがそんな事を・・・!!」


今度は俺の方が言葉を失った。

牧野が吉本に襲われたから念の為に一緒に泊まった唐津のホテル・・・確かに同室だったが当然ベッドルームは別けた。
夢の屋でも確かに話がしたくて牧野の部屋に向かった。特別室だと話しにくいだろうと思ったのと、牧野の暮らしが見たかったから・・・でもそこに泊まったわけじゃなく、俺は自分の部屋に戻った。

しかも牧野は妊娠中で危ない時だった・・・そんな牧野に俺が・・・?!


「病院ではあなたがつくしさんを抱き締めてたって聞いたわ。吉本がつくしさんにプロポーズしていたのに邪魔したって・・・それに今、邪魔なのは私だって・・・そう言われたのよ!
あきらさんの心の中にはつくしさんしか居ないって・・・私だって何度もそう思ったわ!あなたが温室で寝てるつくしさんを見る目は友人なんかじゃなかったもの!」

「・・・温室?何の話だ?」

「夏前の話よ・・・つくしさんが双子と遊び疲れて温室で転た寝していたら、あきらさん・・・手を伸ばして触れてたわ。そんな事、普通はしないわよね?そこに恋愛感情があるから手が出るのよ!いくら私がそんな経験少なくったって判るわよ!!」

「だからって双子を騙して吉本に渡すのか?!」

「そうしないとあなたは私の事なんて本気で見てくれないって思ったのよ!!本当に好きな人の子供の仮の母親だから大事にしてくれるだけだって・・・・・・うっ、ううっ・・・あの時はそう思ってしまったのよ・・・!」


仁美からも今まで聞いた事がない声・・・彼女の中にこんな激しい感情があるのかと、髪を振り乱して大きな声で怒鳴る姿を初めて見た。

涙は止まることはない。
大粒の涙を流しながら、今度は頬を紅潮させて興奮していた。



お互いに解り合えてると思ったのは俺の思い上がりだっのか?
絆が深まるのに4年半じゃ短かったのか・・・それとも何処かでお互いに遠慮したのか・・・

感情を曝け出した仁美はベッドにうつ伏せ声を殺して泣いた。


今までで1番小さく見えた彼女の背中・・・俺はやっとここで手を伸ばすことが出来た。





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