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plumeria

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吉本の話を女将さんから聞いてつくしはすっかり塞ぎ込んでしまった。
両方の膝を抱えて座りこんで、それを両手で抱きかかえるようにして顔を埋めて・・・転た寝しているのか、泣いてるのかさえも見えなくて判らなかった。
折角買ったものにも手が出ない・・・もう食えって声を掛けるのも可哀想になって、俺もつくしと並んでベッドの上に座り膝を抱えた。

こんな時に気分を変えようとしても無駄かもしれないけど、今更吉本の行動に怯えても遅い・・・それならって事で俺の知らない事を聞いてみることにした。


「なぁ、つくし・・・妊娠はいつ気がついたんだ?」
「・・・・・・え?」

「病院、行ったんだろ?それ、いつだ?誕生日が七夕だってのは聞いた。だとしたら・・・よく判んねぇけど年末とか?」
「・・・お家元が来た日だよ」

「・・・え?」
「総の誕生日の前々日・・・12月1日。家元が来た時には病院には行ってなかったけど、自分の中では妊娠に気が付いた日だった。総のお誕生日に相談して、一緒に病院行こうかと思ったけどその時に家元にあの話をされたの。だから家元が帰ってから夕方になって、1人で病院に行ったの・・・そうしたら二卵性双生児だって。驚いちゃった」


そんなタイミングで・・・それなのに親父に蔑まれお袋に姿を消せと言われ、どれだけ不安を抱えて佐賀に逃げたんだろう。
自分の腹の中に新しい命を抱えた時って本当なら嬉しいだろうに・・・つくしはその時どう思ったんだろう。1度も堕胎を考えなかったんだろうか。
それを聞いてもいいのかどうか、実際堕胎してないんだから聞かなくても良いんだけど、と思いながら言葉を探していたらつくしの方から話し始めた。


「うふふ・・・総、珍しく判りやすいなぁ・・・」
「・・・は?」

「どうしてそこまでして産んだんだって思ってるでしょ?双子なら尚更産まない決断をしなかったのかって・・・」
「いや、あきらからもお前が必死だったって聞いたから・・・でも、俺が知らなかったんだ。それならって少し思っただけだ」

「・・・もう会えないと思ったから。その時はね、総にこの先会えないと思ったからそっくりな子供が傍に居てくれれば淋しくないって思ったの。あはは・・・産まれた後は別の感情が出てきて引き取れなかったけどね」

「俺に似てきた紫音が女連れて来るってヤツ?」
「そんな言い方しないでよ!やだ・・・想像しちゃうじゃない」


触れあってる腕で軽く小突かれ、つくしはその時だけクスクス笑った。

そして少しずつ大きくなっていく腹を抱えての旅館の仕事の話や、つわりで泣きそうになった話しも・・・その時にふと思い出したように俺の顔を見た。


「・・・どうした?」
「変な事思い出しちゃった。家元夫人に・・・」

「お袋に?」
「そう、家元夫人が私の所に来て東京から出て行ってくれって話した時、私・・・始まったばかりのつわりのせいで吐き気がして台所に走ったんだった。その時に家元夫人、『まさか・・・』って言ったわ。思わず嘔吐下痢症に罹ってしまってなんて嘘ついたけど、本当はそう見えなかったかも・・・」

「・・・そうか」


そう言えば今年になってお袋は美作に出向いてる・・・でも、子供の事は何も言わなかった。

でも今考えたらあの時のお袋の態度はおかしかった。
牧野と再会した時についた「嘘」の騒ぎの詫びだなんて言って、1ヶ月も経ってから俺に黙って行くのも変だと思った。それよりも紫が聞いた後から急に俺と視線を合わさなくなった。
いつもの歯切れ良さもなかった・・・言われてみれば動揺してたのか、とも取れる表情だったが・・・。


「でも、もう忘れてるわよね・・・きっと」
「あぁ、忙しい人だから覚えてねぇだろう。気にすんな」


でも、万が一見掛けてたとしたら?
もしそうならあの人も気がつくかもしれない・・・双子の顔は俺のガキの頃によく似てるからな・・・。

そしてこの想像が当たっていたとしたら黙ってる理由は・・・なんだ?




********************


<sideあきら>

ベッドに俯せて泣く仁美に手を伸ばし、その肩に触れた時、バッ!とその手を叩くように撥ね除けられた!
これに驚いて少し引いてしまったが、もう1度伸ばすと今度は身体ごと避けられ睨みつけられた。

「触らないで・・・どうせもう終わりだわ!私はとんでもない事をしたんだもの・・・もうここには居られないんだもの!」
「落ち着け、仁美!俺はそんな事は言ってない!」

「だって全部バレてしまったもの!・・・初めから判ってたのよ、こんなの上手く行く訳が無いって・・・あきらさんが言うように美作が見抜けない訳がないって判ってたのよ!」
「じゃあどうして手を貸したんだ?!どうして相談してくれなかった?!」

「相談なんて出来なかったのよ・・・そんな話を聞かされて、あきらさんの気持ちも知ってるのに何も言えなかったのよ!私が1番邪魔者だって言われた時、心の中でやっぱりそうなんだって・・・もう、何も・・・何も考え・・・られ・・・・・・なくて」

「・・・仁美!!」


小さく身を屈めてしまった仁美を両手で抱き締めた。
俺の腕の中で「触らないで」とまだ言ってるけど手は緩めなかった。彼女をここまで苦しめたのは少しでも隠し事をした俺だ・・・不安を抱えてる事に気が付かないまま、今まで仁美の優しさに甘えていた俺だ。

病気をして以来、負い目を感じて暮らしてきた彼女に笑顔になって欲しくて頼んだ事だったのに、こんなにも負担だったとは思わなかった。


そして俺こそ見抜かれていたんだ・・・今でも牧野の事を特別な想いで見ていたことを。


「仁美・・・聞いてくれないかな・・・全部話すからさ」
「・・・・・・もういいのよ。何も聞きたくない・・・聞いても私の罪は消えないもの・・・」

「いいから聞いて欲しい。正直に全部話すから・・・俺の言葉の方を信じてくれないか?」
「・・・・・・」

抱き締めていた身体を離したけど、その両手は握ったまま・・・俺もベッドの上に座り込んで仁美と向かい合った。
もう真っ赤に腫れ上がった瞼が痛々しい・・・そこを指で拭おうとしたけど顔を背けられた。


「まず、吉本の説明から訂正していいか?」
「・・・・・・訂正?」

「あぁ、正確に言えば報告と訂正だ。悪い・・・牧野を俺の部屋に泊めたのは本当だ。仁美には言わずにおこうって牧野とも話した」
「そんな話ならもう・・・」

「いや、今のが報告だろ?これには理由があるんだ。あいつ・・・俺と彼女の事を疑った吉本に襲われて旅館から連れ出された事があるんだ」

「襲われた・・・?」

「あぁ、大きな腹抱えて旅館の仕事なんて無茶するから、それで調子悪くて医者からも働くことを止められてるぐらい危なかったんだ。それなのに自分の想いを押し付けようと吉本が連れ去ったんだ」

「・・・・・・本当に?」

「牧野は必死に逃げて知らない家に飛び込んで助けられた。それが唐津だったんだが、吉本がそのまま行方不明になったから安全確保の為にホテルに泊まらせた。勿論部屋は同じだったけど、ベッドルームは別だ・・・だから何も無かった。
旅館でも確かに女将さんに頼んで牧野の部屋に案内してもらった。でも、それは総二郎の所に戻れと説得したかったからだ。その日の夜遅くだったけど、ちゃんと自分の部屋に戻ってる。なんなら確認してもいいぞ?事実だから」


吉本が教えた俺の行動を嘘とは言わないが動機部分が全然違うのだと言えば、仁美は戸惑いを隠しきれなかった。
何かを聞きたそうに動く唇・・・でも、なかなか言葉は出てこなかった。


「産婦人科で牧野の病状を聞いたのも確かに俺だ。抱きかかえて運んだのも事実だ。そして泣き出した牧野を抱き締めたのも事実・・・これについては自分でも判らない」

「・・・好きだからでしょう?」


仁美の1番知りたいのはここだろうと思った。
そして自分でも認めなくてはいけないんだろう・・・恋愛感情が全くなかったと言えば嘘だと。
でも、それを言えなかったのにもちゃんと理由があるんだと仁美に伝えなくてはならない。俺の手を振り解こうとするのと握り直して、両手で彼女の手を掴んだ。

凄く・・・震えている。可哀想なほど怯えているのが判った。


「・・・仁美を傷付けるかもしれないけど、言ってもいいか?」
「・・・・・・・・・」

「俺は確かに牧野の事を友達以上に想ってる・・・学生時代は恋愛感情だったと想う。牧野を幸せにしてやりたいって想ってた時期があったんだ。あいつは俺の事なんて全然見てなかったけどな。
佐賀で偶然会った時も、こっちに連れて帰った時も、病気になった時も・・・心の何処かで恋に近い感情はあったと思う、それは認めるよ」

「いや・・・聞きたくない!」

「聞いて欲しい・・・それを君に言えなかったこと、その理由を聞いて欲しいんだ!」

「私に言えなかった理由?」


「俺はね、君との生活を狂わせたくなかったんだ。仁美とは一生夫婦でいるって決めていたからさ・・・こっちを狂わせたくなくて話さなかったんだ。俺にとって1番大事なのはここで過ごす仁美との時間だったから・・・これは本心だ」


この言葉で仁美はやっと俺の目を見てくれた。
真っ直ぐに・・・泣きながらだけど真っ直ぐに見てくれた。

逃げようとしていた手は逆に俺の手を握り返し、「信じてくれるよな?」そう問うと俺の胸に寄り掛かってきた。そして「ごめんなさい・・・」と、消え入るような声で呟いた。


「仁美、俺たちの事は時間を掛けて話し合おう。でも今は子供達の事が最優先だ。話してくれるな?」
「・・・・・・はい」

「じゃあ吉本と打ち合わせた内容から教えてくれ」




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