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plumeria

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総に出産した事を知られたけど東京ではそれどころじゃなかったから、ここで漸くその時の状況を話す時間が出来た。

確かに双子の事は不安だけど、ここで思い詰めても解決にはならない・・・だから、あの子達が誕生した時の事を思い出しながら総に聞かせた。


「本当はね・・・7月終わりの頃が予定日だったの。でも無理したせいで調子が良くなくて、6月後半になったら数値次第で強制的に帝王切開に踏み切るかもって言われてたんだ」

「強制的・・・鎌倉でも無理したのか?」
「ううん、それまでがダメだったのよ。呼子の産婦人科の先生は優しかったけど、唐津の大きな病院の先生にはすごく怒られてね・・・だから美作さんが無理に連れ戻したの。私よりあの人の方が慌ててたわ」

「・・・・・・」


くすっ、拗ねちゃった。
この言葉で総は面白くなさそうな顔をして、身体を起こして缶珈琲を持って来た。それをひと口飲んで「マズっ!」って言うと、すぐにテーブルに戻して余計嫌そうな顔になっていた。


「七夕を予定日にしたのは総に会えたら良いなって言うその時の気持ちから・・・それに双子だったから数字を並べただけなんだけどね」

「結果、それまで無事だったんだ?」
「うん・・・でもね、帝王切開だから陣痛ってものはないの。分娩室じゃなくて手術室だし、腰椎麻酔を打つの。それね、すぐに効いてくるから出産まであっという間なんだよ?先生達の会話も聞こえるし、産声もちゃんと聞いたの。嬉しかったなぁ・・・」

「産声聞けるのか?!」
「うん。初めが紫音ですごく元気だった。で、今は花音の方が活発だけど、産まれた時は花音の方が小さくて弱かったの。
私、泣きながら2人の手を握ったの。でもすぐに私は薬で寝かされて術後処置に入って、双子はNICU(新生児集中治療室)に入ったの」


「・・・あいつ、双子を抱いたのか?」


総はもっと怖い顔になった。
あいつ・・・美作さんに嫉妬してるのね?って思うと、その拗ねた顔もなんだか可愛らしく思えてクスクス笑った。「なんだよ・・・」って横目で睨むけど顔が赤い・・・照れてる総は本当にレアものだった。


「その日は夢子おば様が付き添ってくれたの。美作さんは初めのうちずっと抱かなかったよ。多分、総に遠慮して抱けなかったんだと思うけど、私が抱いてみる?って聞いても『俺はいい』って言ってた・・・安心した?」
「・・・別に怒ってねぇし」

「初めて抱っこしたのはね・・・総の会見を見た日だわ。無理矢理オムツ交換する時に抱いてもらったの。妹さんで経験があったからかなぁ、上手だったよ?」

「・・・・・・ふぅん」


夢子おば様が嬉しそうにベビードレスを揃えてくれたこと、病室からモニターで双子をずっと見てたこと、術後3日目まで壮絶な痛みが襲ってきて辛かったこと、美作さんが過保護になって初めから2週間の入院予定にしてたことなんかを話した。


「あぁ・・・名前を決められなかったなぁ」
「名前?」

「うん。出生届を美作さんが出しに行ってくれるって書類だけもらったんだけど、そこに子供の名前を書けなかったの。どうしても子供の名前に『西門』をくっつけちゃうのよね・・・バカだよね」

「バカじゃねぇよ・・・いずれはそうしてやる」

「・・・だからね、どうしても古風な名前がいいんだろうかって思ったり、吹っ切るためにキラキラネームにしようかと思ったり・・・くすっ!本当に何度も紙に書いては破って捨てたわ。決めたのがあったのよ?樹と楓・・・牧野にしないで西門で何度も呼んでみたの」

「紫音と花音で良かったじゃん。お前、本気で楓とかつける気だったのか?」
「・・・あっ!ホントだよね!忘れてた、道明寺のお母さん!」

「すげぇパワフルな女になるぞ?」
「あはは・・・それはそれで頼もしいけどね」


あの時は必死だったし、1人でずっと悩んでた。
本当は出生届に書けなかった父親の名前の蘭・・・それを見たくなくて延び延びになってたのに。ボーペンで書けないから指で何度か書いた総の名前・・・嬉しいのに苦しかったあの年の7月が頭の中に蘇ってきた。


「ふふっ、思い出した・・・美作さん、すごい大きな花束とお菓子の籠もって病室に来たの。似合いすぎてて笑っちゃった」
「誰からの見舞いだ?」

「美作のおじ様。だって知ってるの、美作さんと夢子おば様とおじ様と小夜さんだけだったもん・・・誰も来ないよ」
「・・・あぁ、そっか」

「すぐにGCU(回復治療室)に移る事が出来てね、そこではおむつ交換も授乳も、それに沐浴もしたの」
「ちょっと待て!あきらにそんな姿見せてねぇよな?」

「・・・は?あぁ・・・見せてないわよ!」
「ホントだな?」


心から笑う事なんて出来ないけど、こんな状況の中でも双子の話を2人ですることで穏やかに過ごせた。




*********************


<sideあきら>

仁美の口から当日の事が話されたのは、もう夜遅くになってからだった。
この度の事を予測していたお袋も、帰宅した親父も部屋に呼んで4人だけになってから、仁美は自分のした事を全部話すと深く頭を下げた。

仁美の話の前に、屋敷の周りを彷徨いていたのはやはり吉本で、公園で仁美に接触したことまでは俺の口で説明。結果として誘拐の共犯だと言う言葉だけを伝えた。仁美はその説明の間中、俺の横で強張った表情で座っていた。


両親は怒りを抑えられず、親父の拳は硬く握られ、お袋の両手の指は着ている服を皺が出来るほど握り締めた。
そして顔をあげられなくて項垂れたままの仁美に、滅多に聞くことのない怒声が浴びせられた。


「・・・どうしてそんな!それだけの不満があるならどうして言ってくれなかったんだ・・・!あきらに言えなかったのなら私達に言ってくれれば良かったじゃないか!」
「そうよ・・・もう4年半も美作のお嫁さんなのよ?私達だってあなたの親なのよ?」

「そんな言葉に乗せられて小さな子供を利用するなんて・・・」
「あなたの事をあんなに慕っていたのに・・・!」


「申し訳ありません!申し訳ありません・・・全部私が悪いんです。断れなかった私が弱かったんです!申し訳ありません、お義父様、お義母様・・・本当にすみません!」

「親父、お袋、気持ちは判るけど仁美の話を一緒に聞いて欲しくて呼んだんだ。先ずは紫音たちを守る為に総二郎達に真相を伝えたい。少し落ち着いてくれないか?」


今、この状況で仁美を庇う訳にはいかない・・・ガタガタと震えが止まらない彼女だったが、その背中も腕も支えてやれないのがもどかしかった。

「・・・確かにあの子達の方が優先だ」
「そ、そうね・・・仁美さんの事はこれが終わってからね」

「・・・仁美、話してくれ。これが君に出来る唯一の協力なんだから」
「・・・・・・はい」


仁美はゆっくりとビジネスホテルで吉本に言われた事と、当日の状況を話してくれた。

まずは時間・・・理由は言われずに17時を指定され、あのトイレも吉本の指示だった。
そこに行けばパウダールームに30歳ぐらいの女性が子供の服を持って待っているから、そこで引き渡せと言われたらしい。
他に誰かが居ても怪しまれないように知り合いのフリをして、仁美が騒ぎを起こすのはその時にトイレにいた人達が全員出ていってから3分経過後にする・・・丁度その時間にトイレの利用者が少なかったために、仁美とその女性が話してるのを見たのは2人ぐらいだったと。

先に子供達をトイレから出して、その2人も出て行ってから5分間・・・震えながら過ごしていたと言った。


「紫音たちにはなんて言ったんだ?」

「・・・つくしさんが遠いところまで遊びに連れていってくれるらしいけど、パパは仕事、私は用事があって忙しいからこのお姉さんに案内を頼んでると言いました。2人ともお出掛けだと喜んで・・・でも、つくしさんを驚かすために着替えようって。
紫音も女の子になって吃驚させるのよって言ったら素直にウィッグを被ってくれました。そしてコートも変えて、靴も変えて・・・身支度を全部変えて引き渡しました」

「2人は何も言わなかったのか?他には誰も居ないのか、とか何処に行くんだとか・・・」

「言われました。だから今回はつくしさんだけだよって・・・今日のお買い物も実はあなた達を驚かせようと思って計画したんだって言ったら笑っていました」

「その女性は知らない人間だ。2人とも警戒してなかったのか?」

「・・・トイレに入ってすぐ、如何にも友達のように適当に付けた名前で彼女を呼んで、楽しそうに会話する演技をしました。彼女の方が上手でとても自然に子供達にも話し掛けたので、すぐに警戒心は解けたんだと思います」

「最後になんて声を掛けたんだ?もしかしたらそれがあの子達と君の最後の会話だったのかもしれない・・・どんな言葉が出たんだ?」

「たくさん楽しんで・・・来てねって。そうしたら・・・そうしたらお土産持って帰るねって・・・紫音が・・・!」


ホテルでは受け渡し後のことについて、吉本が詳しく言わなかったらしい。
東京を出たら自分から連絡をして牧野つくしを呼び出すからと・・・仁美には何も知らなかったことにして悲劇の母親役をしておけと言い残して別れた。

「お金も何も要らないから、つくしさんを佐賀に呼ぶって言ってました・・・そこで子供と会わせて今回の事を伝え、自分の想いを判ってもらったら家族となって生きていくんだって。3人が傍に居たらまた仕事する勇気が出るって言ってました。
断わればあきらさんのスキャンダルを世間に流し、子供達はどうなるか判らないと・・・そう脅すって言ってました」

「吉本は牧野に思い出の場所に来るようにと言ってきた。それについては何も聞いてないのか?」

「・・・私が聞いたのはトイレの引き渡しまでです。その後にあの女の人が何処で吉本に紫音たちを渡すのかも聞いていません。どうやって九州に向かうのか、その間の子供達の事をどうするのかも・・・」


「仁美さん・・・あなた、そのお出掛けの途中で双子を見ても気持ちは変わらなかったの?寂しがって泣いてる紫音たちの姿を想像しなかったの?!ねぇ、仁美さん・・・あの子達の笑顔を見ても止められなかったの!?ねぇっ!ねぇ、仁美さん!!」

「夢子、落ち着きなさい!!」


仁美の気持ちも判ると言っていたお袋も真実と計画を聞かされると自分を抑え込む事が出来なくなったのか、椅子から立ち上がって仁美の元に行き、その服を掴んで身体を揺さ振り大声で怒りを露わにした。
それに驚いてお袋の両腕を後ろから掴んで止めさせたのは親父・・・自分の家族の中でこんな修羅場を見る日が来るなんて思いもしなかった。


「申し訳ありません・・・申し訳ありません・・・私・・・どうかしてたんです。邪魔者は私だって言われて・・・そのうちあきらさんは私を捨てるって言われて・・・もう、どうしていいのか判らなくて・・・申し訳ありません、お義母様・・・」


消え入るような仁美の謝罪はその後も譫言のように繰り返され、彼女の涙は止まることはなかった。





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