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plumeria

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門司にある小さなホテルのベッドの上で、俺達は踞るようにして並んで座っていた。
子供達の話を聞いていたがそれにも疲れて会話はなくなった。

つくしは双子が生まれた時の事を思い出して、俺は知らなかった事を聞かされて、初めこそ笑顔も出来たがだんだんこの状況に不安が高まった。
紫音と花音がどうやって寝てるのか・・・それをを考えたら、自分達だけがぐっすり寝るなんて事は出来なかった。


つくしは寝てはいないが目を閉じて俺に縋っている。港が近いから時々聞こえる汽笛のような音にビクッとしながら・・・もう、目が辛くて開けていられないのかもしれない。
双子が連れ去られてから今まで、泣き通しだったから無理もない。俺はそんなつくしの肩を抱いて、片手にはスマホを握り締めて明日の事を考えていた。

その時、手の中のスマホが鳴った。
ハッと目を開けて身体を起こしたつくしに「あきらからだ」と伝えて電話に出た・・・その時間はもう0時を回っていた。


「・・・俺だ」
『総二郎、大丈夫か?ホテルや車は手配出来てたか?』

「あぁ・・・ちゃんと待っててくれて助かった。フェリーが着くすぐ近くのホテルも取ってくれてたから、今そこの部屋に居る」
『・・・牧野の様子は?』

「まだ起きてる。ってか寝られねぇよな・・・でも子供達を助け出したら死ぬほど寝かせるから大丈夫だ」

そう言ってつくしを強く引き寄せたら悲しそうに笑っていた。
もう俺の腕を掴む力も残ってないのか軽く服の端を持ってる手が滑っていく・・・それを何度も繰り返すから、その指を絡め取って握ってやった。


「話・・・聞けたのか?」

あきらが何も言わないから俺から聞いたら、電話の向こうから小さなため息が漏れた。あぁ、やっぱりそうなんだ・・・と、想像していた事が確定に変わった。


「今、嫁さんどうしてるんだ?おばさん達には?」
『・・・吉本と接触した時の事とこの犯行を持ちかけられた理由については俺だけが聞いた。その後で親父達も呼んで、子供達にどう言って引き渡したのかを話させたよ』

「俺達の想像通りか?」

『あぁ・・・まぁ、そんな所だ。それは帰ってから詳しく話す。お前に伝えたいのは子供達が連れて行かれた時に仁美が言った言葉だ。双子は吉本達の言う事を聞けば牧野に会えて、楽しい場所に連れて行ってもらえると思ってるようだ。
仁美がそう言って女性に引き渡し、服の交換は牧野を驚かすためだと言ったらしい。まだそんな部分に疑問を感じない年だからな』

「まぁ・・・それしかねぇよな」


3歳の子供はこれが異常事態だなんて思わない。
信じ切ってる母親に言われて、母親の知り合いだと思う女に連れていかれ、言葉巧みに楽しい場所に行こうと言われれば喜んで従ってしまうんだろう。
2人だから尚更だ・・・1人じゃない分心強い。

しかも待っているのはつくしだ。
いつになったら会えるんだろうと、今でもその時を夢見ながら吉本の隣で寝てるのかもしれない。


『仁美はそこまでしか計画を聞かされてないようだ。どうやって店から出るのかも、東京からフェリーで出ていく事も知らなかった。だから、何処で牧野を待ってるのかも当然知らない・・・被害に遭った母親を演じておけと言われたそうだ』

「判った。嫁さんの事まで頭が回らねぇからそっちはあきらに任せる」

『・・・うちの事はどうでもいい。総二郎・・・1つだけ我儘を言ってもいいか?』

「なんだ?」

『子供達を助け出した時、仁美の事を黙っててくれないか?許してくれって言うんじゃ無いんだ。子供達の心に傷を残したくない・・・その為だ』

「・・・状況にもよるだろうけど約束は出来ねぇな。でも、そうなるように努力はする。怖い思いも悲しい思いもさせたくはない・・・それは俺も同じだ」

『・・・頼む。悪いな』


力のないあきらの声は仁美さんと話した時の重苦しさを想像させた。でも俺はそこに同情する訳にはいかない。
俺はつくしも子供達も守らなきゃならない・・・少しでも寝て、その時に備える事の方が大事だ。

あきらの電話を切った後、俺達は抱き合うようにしてそこに倒れ込み目を閉じた。



**



次の日の朝、まだ暗いうちからホテルを出て車に乗り込んだ。
この季節の朝の5時・・・九州とは言えすげぇ寒くて、つくしも冷えきった車の中で自分の手に息を吹き掛けていた。

自販機で熱い珈琲を買って渡したがそれを飲む訳でもなく、気持ちを落ち着かせるために両手で抱え込んでる・・・会話も出来ないほどの緊張でつくしの顔は強張っていた。


ここで吉本を捕まえようってのはまず無理だと判っていた。
予想外の行動を起こして吉本に興奮されたら子供達が危険だ。だから呼子に向かう事は頭にあったが、兎に角紫音と花音の無事を確かめたい、それが第一だった。

ただ吉本が運転していて車種とナンバーが確認出来たら、美作のシステムで追跡出来るかもしれない。
限りなくゼロに等しいが、それでも何もせずにはいられなかった。


俺とあきらで想像した、フェリー下車後のシナリオ・・・。

吉本は誘拐計画を立てた後、フェリーで九州まで行こうとする人間を探し出し、金を渡して3人を同乗者として予約させる。
当日の搭乗時にどう動いたのかは本人に聞かないと判らないが、門司で他人の車を降りるのなら自分の車が何処かに停めてあるはず。だが東京に居た吉本にその行動は考えられない。
タクシーを予め手配しているのなら話は別だが、今現在ここの駐車場にタクシーは停まっていない。

そうなると頼んだ人間が目的地まで行く途中、佐賀に一番近い場所で降ろしてもらい、何らかの交通手段で地元に帰る・・・それが一番可能性としては高い。

つくしに「今日中に思い出の場所に来い」と言ってるって事は、吉本も早いうちに呼子に帰る手段を見付けてるって事だから。


だが、何らかの事情で吉本と双子が歩いて降りてくる可能性もある。
双子がトイレを急かしたとか、具合が悪いとか・・・その場合は別の通路から出てくるから、俺はそっちの確認に向かう事にしていた。


吉本は俺の顔を知らない。
双子は判るかもしれないが、隠れて確認するなら見付からないだろう。

そして、もしもその状況で双子の安全が確認され、吉本から奪えそうなら2人を引っ抱えて逃げる・・・そうなると双子には多少の説明が必要かもしれないけど3歳児なら何とか誤魔化せるかもしれない。

ただ、それも殆ど可能性はない。
100%の自信がないとそんな行動に出る訳にはいかないし、逆に俺に対する恐怖心を抱かせるかもしれない。

色んな事態を想像して頭の中がぐちゃぐちゃだったけど、それをつくしには説明しなかった。こいつまでこんがらがったら双子じゃなくてつくしが暴走するかもしれない。
だからつくしには自分がするべき最低限の事しか伝えなかった。



もうすぐフェリーが着岸するって言う時、2人で車から降りてすぐ横の建物に入った。

俺は建物内部で歩行下車してくる連中が確認出来る場所を探して身を隠す。つくしは建物外のデカい柱の陰に立ち、降りてきた車が見える所で待つことにした。

「つくし、お前は顔を出来るだけ隠してここの陰から降りてくる車の運転席を確認しろ。俺は吉本の監視カメラに映った横顔しか知らねぇからな。でも無理はするなよ?ここでは子供達を取り返すことは出来ないと思うから」

「わ、判った・・・でもまだ暗いから見えないかも・・・」

「あぁ、照明はついてるけど判んねぇかもな。それはそれで仕方ねぇ、間違っても身を乗り出すなよ?万が一吉本の車が判ったらナンバーを確認してくれ。それも出来たらでいいし、車種が判らなかったら色と形を覚えとけ」

「うん・・・総は中の通路で見るのね?」

「あぁ、歩いて出てくる確率は低いけどな。それでも無事な姿が見られれば安心だ」



時間は5時20分・・・フェリーの到着時刻になって、まだ暗い中、ランプウェイから車が降り始めた。
つくしも俺も、別々の場所で息を呑んでそれを見つめていた。







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