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plumeria

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まだ夜が明けきってない暗い中、1台ずつ降りてくる車の運転席を睨みつけるようにして見ていた。
そこに一番近い柱の陰に隠れて、マフラーの中に髪を入れて顔も半分隠し、殆ど判別できない距離だったけどゆっくり出てくる車を必死に見ていた。

でも、何台出て来るんだろうってくらいの台数・・・それを見逃すまいと必死になりすぎて、身を乗り出しては慌てて下がるを繰り返していた。


・・・最後の車が出て行ったんだろうか。係員が出てきてランプウェイをウロウロし始めて、それ以降フェリーから出てくる車はなかった。結果として吉本さんの姿を私は確認出来なかった。


そうしたら総も奥の方から戻って来た。
首を横に振って「双子は歩いて出てこなかった」って。
私が見ていた車のどれかに紫音たちは乗っていて、ここから佐賀に向かって移動したんだ・・・そう思うと身体の力がガクン、と抜けてその場に倒れそうになった。

「つくし、しっかりしろ!」と、総に助け起こされ何とか座り込まずにすんだけど、緊張が途切れたのと子供達が見られなかったのとで胸が苦しい・・・。
今、どんな思いで車の中にいるのかと思うと気が狂いそうだった。


「いいか?これは想定していた事だ。今からお前が住んでた佐賀に行くからもう少し頑張れ!」

「・・・総、どうしよう。もし子供達が乱暴されてたら・・・殴られたりしてないかしら、もしも・・・もしもよ?!」
「落ち着け!吉本はそんなヤツなのか?」

「・・・ううん、私が知ってる吉本さんは穏やかだったけど、現にこんな事してるのよ?いやだ・・・あの子達はどうなってるの?!」
「馬鹿野郎!助けに行く前から取り乱すな!」

「・・・うっ、総・・・やだ・・・やだよぉ!」
「心配すんな、きっと大丈夫だ。ほら、行くぞ・・・!」


無駄かもしれないと思いながらも姿を見たかった・・・それが出来なくて泣き崩れた私を、総が抱きかかえるようにして借りた車に戻った。
そしてエンジンを掛けてすぐにフェリー乗り場を後にした。



「今から九州自動車道と福岡都市高速を使って呼子に向かう。俺にはどのぐらい掛かるのか判んねぇけど昼までには着くと思う。お前はそれまで何も出来ねぇからシート倒して寝てろ」

「・・・うん」

「それと吉本が言ってたお前達の思い出の場所、そいつはまだ判んねぇのか?」

「それ、考えたんだけど思い付かないの。私にはあの人との思い出なんて全然ないんだもん。役場の観光課の人で時々旅館に来てた人だよ?一体何処のことを言ってるのかさっぱりで・・・」


仕事の関係で吉本さんと話した事はあっても場所は全部「夢の屋」の中。
あの旅館の中で吉本さんが私を待つなんて有り得ない・・・あそこには2度と入れないって判ってるはずだもの。私を連れ去った場所なんだからみんなが知ってるし。

それ以外で・・・だと、やっぱりキスされたあの公園の駐車場・・・?2度と行きたくはないけど、あそこならこっそり会うには都合が良いかもしれない。
総に「思い出」の理由を聞かれたら困るけど・・・。


「お前が感じなくても吉本からすれば『思い出』って事も有り得るぞ」
「え・・・吉本さんから?」

「そうだ。お前にはそうじゃなくてもあいつが特別な気分になれた場所・・・思い込みが激しいヤツだったら、そこがお互いの思い出の場所だと勘違いしてるかもしれない」

「・・・吉本さんにとって・・・・・・あっ、まさか・・・」
「そんな場所があるのか?」

「いや、でも・・・」

まさか、あそこだろうか。
凄く寒い季節に1人で海を見ていた時、吉本さんにプロポーズされた港・・・?


『2人で育てたら・・・牧野さん、少しは楽じゃないですか?』
『そういうわけにもいかないからこうやって・・・・・・は?』

『・・・僕がその子達の父親になりたいって意味です。牧野さん・・・考えてくれませんか?』

『吉本さん?それって・・・』
『はい、実は・・・今、プロポーズしています』



その時の光景が頭に浮かんだ。

私はすぐに断わってそこを離れた。
何にも知らないのによくそんな事を言うなって、逆に戸惑ったというか不愉快だったというか・・・でも、彼にしてみれば私に告白した場所って事?
しかも生まれてくる子供を2人で育てようって言われた・・・同じ事をまた同じ場所で言うつもりなのかしら。

それを総に話したら凄く怖い顔になった。
「巫山戯た事言いやがって・・・!」ってハンドル握ってる腕が引き攣るほどに・・・!


「でも、そこぐらいしかないと思う・・・ううん、きっとそうだわ!」
「呼子の港だな・・・判った。そこに行ってみよう」


どうか・・・どうか双子が無事でありますように・・・両手を組んで額に当て、何度もその言葉を繰り返した。




********************


<sideあきら>

仁美からの申し出で、俺達は部屋を別けることにした。
確かに紫音と花音の無事が確認出来ない限り、仁美と何を話していいのか判らない。お互いの気持ちは解り合えたけど、同じ空間を共有するためには双子が吉本から解放されて戻ってくることが絶対だった。


彼女は昨日、両親と話した後から例の離れに移って、そこで1人で夜を過ごした。
小夜を傍につけ、部屋の鍵は掛けないこと・・・それを条件にしたのは、自分のした事を後悔している彼女が自らを傷付けないかと、それが心配だったからだ。

だから離れのベッドルームにも小夜を入れ、仁美を1人きりにしないようにと命じた。


朝になって内線で仁美の様子を確認したが、彼女は一睡もせずに夜を過ごし、朝になっても挨拶の返事もなく食事を摂ろうとしないという。
完全に心を閉ざした状態・・・小夜にそう言われた。

昨日の夜には興奮して大声を出したお袋も、朝になれば落ち着いてはいたがやはり寝られなかったのかいつもより顔色が悪かった。それもあるが双子の事が判らないために自宅待機、親父だけが仕事に向かうと言った。
俺は当然自宅で総二郎達からの連絡待ち・・・新門司では姿を確認出来なかったと言う報告を受けたばかりだった。


「車だけでも特定できたら良かったのに・・・」
「仕方ないさ。誰の車に乗り込んでるのかも判らないんだから」

「・・・あきら君、これからどうするの・・・仁美さんの事」
「・・・・・・・・・」

「・・・許せる?」


お袋は俺の顔を見ずにそう言った。仁美の事を許せるか・・・と。
窓から遠くに見える離れ、俺はそこを見ながらお袋に返事するまでに随分と時間が掛かった。


「今はまだ紫音たちを取り戻してないから答えられないけど・・・あの子達が無事に帰ってきたら、そして何も心に傷を受けてなければ変わらないと思う」

「本当に?あの子達は幼いから忘れるかもしれないわ、でも私達はこの事を記憶から消せないわよ?」

「そうだろうな。でもな、お袋・・・仁美を追い詰めたのは俺だ。なんでもかんでも話すのが正しいとも言えないだろうけど、言わなきゃいけなかったことを濁して来たのは俺・・・そして仁美もそうだ。
夫婦って言いながら何処かに見えない壁を作ってたんだよ。それに気付くのが遅かったんだ。これは彼女だけの罪じゃない、俺にも責任はあることなんだ」

「でも、あきら君はずっと気遣ってきたのに・・・仁美さんを大事にしてたわよ?」

「でも牧野に特別な感情を持って接したのも確かだ。俺は・・・何処かで牧野の事を忘れられなかったんだ」


でも、もうそれも踏ん切りがついた。
総二郎が牧野を支えてくれる・・・俺の役目は本当に終わった。

友人としても・・・父親としても。



「なぁ、お袋・・・」

「なぁに?」

「この件が片付いたらさ・・・双子を総二郎と牧野に返してやろうと思う。ごめんな・・・無理言って引き取ったのに」


「・・・そうねぇ・・・そうするしか・・・ないわねぇ」


泣かないでくれよ・・・お袋。
本当は俺も泣きたいんだから。

本当に俺は・・・あの子達の父親になるつもりだったんだから。幸せにしてやろうと思ってたんだから・・・。





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