天邪鬼な乙女の恋心・2

「牧野・・・3年前に戻らない?」

「は?3年前って・・・類がフランスに行った時じゃない・・・あの時になんて戻りたくないわよ!」

どうしてそんな頃に戻らないといけないのよ・・・あの時はこれまでの人生で一番最悪な時期だったのよ?
類はいなくなるし、みんなとも会わなくなって1人になるし・・・就職は厳しくて小さな会社しか受からなかったし。
そんなときでも貴方はフランスで楽しんでいたんでしょう?


「牧野の3年間を知りたいだけだよ?空白だからさ・・・俺の中では。それを知るためには俺たちの仲を
3年前に戻したらいいじゃんって・・・そう思っただけ。いけなかった?」

「わかりにくい表現するからよ!普通に聞いてよ・・・3年間どうしてたのって・・・」
「3年間どうしてたの?」

「・・・私の事なんて聞いてどうするのよ。興味なんてないでしょう?」

類にはあんなに綺麗な人がいるのに・・・さっきだって別に日本に1人で帰ってきたって言っただけよね?
独身だっていったけど・・・彼女がいないっていったわけじゃないわよね?・・・つまり、そういう事でしょ?
向こうに残してきたんでしょ・・・あれだけ熱を入れてたんだもん。


「教えてくれないの?ねぇ、さっきの彼氏・・・ってどの程度の彼氏だったの?」

「どの程度?どういう意味?」

「結婚を考えるほど・・・とか、軽い付き合いだったとか?」

軽い付き合い・・・結果的には軽かったわよ。何もなかったんですもの・・・。
それをいうなら今までの人全部がそうだけど。

「け・・・結婚をしようと思ったわ。でも・・・よくあるでしょ?向こうの親が許さないとか・・・彼に転勤が多いとか、
少し・・・乱暴なところがあるとかさ!総合的に判断してお別れしたのよ!」

「ふーん・・・なんだか総二郎とあきらと司みたいな理由だね」

バレてる・・・一瞬間思いついたあの人達の事を言ったんだけど・・・。

くすっ・・・って類が笑った!絶対に嘘だってわかったのね?でも・・・今更言えないわよ。
最終的にはその人に本当の自分を晒すことが出来なくて、作り物の自分しか出せなくて・・・
わざと作った笑顔しか見せられなかったから・・・半年以上続いた人なんていないなんて。

でも・・・どこがいけなかったの?
その人の為に一生懸命自分を飾ったのよ?それで・・・何が悪かったの?


「そりゃ、だめでしょ?・・・そんなもの恋人じゃないじゃん!恋人の前だと本当の自分が一番可愛くなるんだから!
作られてる笑顔なんてすぐにわかるさ。きっと、牧野が本気じゃなくて相手は本気だったんだよ。
だから・・・わかったんじゃないの?牧野の嘘がさ・・・」

「・・・え?」

「変わってないから嬉しくなるよ・・・牧野の大きな独り言!全部聞こえてるって!」

類はまた笑い始めた。
そう言えば・・・類は本当はよく笑う人で、一度笑い出したら長いこと笑ってたわ。
今の笑顔も昔と変わらない・・・3歳年を取ったんだろうけど、相変わらず格好いいのね。

さっきフォークを突き刺したチーズケーキを口に運んだ・・・。
大好きなケーキなのに味がしない・・・これは胸が一杯だから?


雨がさっきよりもひどくなってきた。
窓の外がもう暗くなってる。このお店も本当に閉店しないといけない時間・・・時計を見たら8時だった。
もう一度外を見てたら・・・眼の前に類のチョコレートケーキがヌッと差し出された!

「なにっ?!びっくりするじゃない!」

「だって・・・牧野がチーズケーキ残してるから・・・チョコレートケーキなら食べるかなって思って」

「・・・そんなんじゃないわよ!自分で食べたら?」

「俺は苦手だから・・・せめてこのくらい食べてよ。俺が安心するから!」

類が安心する?私がこれを食べたら?
仕方がないから類がフォークに突き刺したケーキに向かって口を開けた・・・。
そして類は私の中に入れたフォークを抜いて・・・自分のケーキにまたそのフォークを刺した。

うそ・・・っ!このまま食べちゃうの?

そのフォークの行方をもの凄い顔で見てしまった!
類は何もなかったかのように私の口に入れたフォークで今度は自分が・・・ケーキを食べちゃった・・・。

「ん?どうかした?・・・あ、やっぱり欲しかったでしょ?じゃあ、残りをあげる!」

今度は最後のケーキに類のフォークを刺して私に差しだした・・・でもこのフォークはさっき類が・・・!

「い・・・いや、いいわ!大丈夫よ・・・お腹いっぱいだから!」
「ケーキだよ?」

「ホントにいいのよっ!・・・類が、類が食べてっ!」
「変なの・・・」

そう言うと類は自分の口にそのフォークを運んだ!

「あっ・・・!やっぱり・・・!」
「へっ・・・?遅いよ!食べちゃったよ!」

なぜ?・・・どうしてそのフォークがそんなに気になったの?
もう自分が情けなくて・・・テーブルに伏せてしまった。そんな私をまた類が笑うの・・・。

「いつからそんなに天邪鬼になったのさ・・・そこだけは再発見だよ。
欲しかったんなら素直に言えば良かったのに。俺はケーキが苦手なんだから・・・」

「・・・もう!類こそ昔はそんなに意地悪じゃなかったわ。もう少し気を遣ってくれる人だと思ったのに!」


「気を遣う人なんて・・・一緒にいたくないでしょ?」


急に類は真面目な顔をして私の顔を見た。
その変わりぶりに少し驚いて・・・私はまた眼を反らしてしまう。


マスターが奥から出てきた。

「ごめんね・・・もう閉店しようかと思うんだけど・・・彼は傘がないんだね?良かったら一つしかないんだけど
この傘を持って行きなさい。つくしちゃんを送ってもらえると助かるんだけど・・・」

「はい・・・色々とすみません。営業妨害でしたね」

「いやいや・・・つくしちゃんがこんなに楽しそうにするのは初めてだから・・・いつもここではおとなしくしてるからね・・・
こんなに感情がある人だなんて知らなかったよ。君のおかげかな?」

マスターが類の前でそんな事を言うから・・・類がまた嬉しそうにするじゃない!
それに私は結構怒ってたと思うんだけど・・・どこが楽しそうに見えたの?

それに・・・類に3年経ってもボロアパートに住んでるなんて知られたくないわ!
今でもあの頃と変わってないなんて思われたくない・・・私はあの頃よりも成長してるのよ!
だから・・・あの頃の私と一緒にしないで・・・!

類が知りたいと言った3年間の事も結局話さなかった。

話してもいいけど・・・作り物よ?


類のことを3年間も忘れなかったなんて、貴方には知られたくないの。

類のことも・・・知りたくないわ。
私の知らない3年間なんて・・・あの人と過ごした3年間なんて。


類がこのお店をでてすぐに傘の中で聞いたの。

「牧野・・・3年間幸せだったの?」
「えぇ・・・とても、幸せだったわ・・・」


類の眼を見て・・・ちゃんと言えるわよ?私は幸せだったって・・・。

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