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plumeria

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お昼前、総の運転する車は呼子に着いた。

でも彼に港まで送ってもらう訳にはいかない。夢の屋に行ってみようかと思ったけど、今の段階では私達の行動を誰にも知られない方が良いのだという結論になり、暫く港から離れた場所に車を停めて2人で打ち合わせをした。


「多分、吉本は双子を連れて港には来ないと思う」
「どうして?」

「そいつの考えだとお前と子供達と一緒に暮らしたいんだろう?それなのに話し合いの場に連れて来て大騒ぎになったら、いくら3歳児でも今後自分の事を警戒されるって思うんじゃねぇか?」
「・・・確かに私を見たらあの子達は喜んで近寄ろうとするだろうから・・・」

「つくしに会えるって思って楽しみにしてたのに引き止められる・・・そして言い争いが始まったら子供の事だ、どんな風に暴れ出すか予測が出来ねぇからな」


それなら吉本さんだけ来て双子は何処かに隠すの?
車・・・それとも・・・空き家・・・じゃなくてもしかしたら・・・女将さんが言ってた加部島の借家?


『あの人は何処かに逃げてて、この土地にふらりと戻って来たのは事件から2年ぐらい経ってからだったよ。やっぱり住み慣れた場所が良かったのかもしれないけど、加部島に古い家を借りて1人で住んでてね、仕事もしないでそれまでの貯金で暮らしてたようだけど』


そこはここから遠くない。それに誰にも見られずに子供達を隠せるような家だったら・・・?


「総、あそこに見える島があるでしょ?吉本さん、あそこに家を借りてるらしいわ」
「・・・島?そういやそんな事言ってたな」

「うん、加部島って言うんだけど、橋で繋がってるの」


丁度車の窓から加部島が見えたから総に説明をしたけど、そこそこ大きな島だから手掛かりもなしに家一軒を探すのは難しい。女将さんにもう1度電話をして吉本さんの家の情報をもらうことにした。
でも、この時間の旅館は忙しい・・・なかなか電話に出ないから1度切って、折り返しを待つことにした。

総はハンドルに両腕を乗せてそこに顎を乗せ、長閑な呼子の街を眺めていた。
冬の色をした玄界灘、漁港に並ぶ船、くすんだ色の山・・・時々通る人の、都会とは違う風貌。どんな気持ちで見てるのか、何となく声を掛けにくかった。

気持ちは焦ってるのにこの時だけは時間が止まったよう・・・私も3年ぶりの景色をぼんやり眺めていた。


「・・・穏やかな街だな」
「まぁね。淋しいと思うかもしれないけど、優しい人が住んでる街だよ」

「だろうな・・・こんな田舎ってのもいいのかもな・・・」
「ははっ、総には似合わないよ。お酒飲みに行くにも銀座みたいなお店はないのよ?」

「・・・くくっ、それもそうだ」


「うん・・・」って答えた時にスマホが鳴った!
慌てて画面を見たら女将さんだ!私はすぐに電話に出て、総は身体を起こした。


『つくしちゃん、どうしたの?子供は見付かった?!』
「ごめんなさい、女将さん忙しい時間に。まだ見付かって無いの。それでね、私達、今呼子に来てるんだけど」

『えっ!もうここまで来てるのかい?』
「はい、すぐ近くの空き地に車を停めてるの。でも何処で見られてるか判らないから旅館には行けないの。それでね、聞きたいんだけど、吉本さんの加部島の家ってどの辺りにあるか知ってます?」

『そこに子供達が閉じ込められてるの?つくしちゃんもそこに乗り込むのかい?』
「ごめんね、女将さん。詳しい事はまだ言えないんだけど、色んな可能性を考えてるだけなの」


興奮気味の女将さんの後ろからはガチャガチャと色んな音がする。
お客さんのお昼の準備中だってすぐに判った。そんな忙しい時に申し訳ないと思いながらも用件を伝え、女将さんの返事を待った。

総の顔も険しくなる・・・私もそれを見て、吉本さんと再会する時が迫ってるんだと実感した。


『吉本さんの家?確かな事は判らないけど、島の真ん中辺りに神社があるだろう?その付近で見掛けたって言う人が居たよ。小さな車も持ってるみたいで、その近くの漁港の方から出てくるのを見たってさ』

「神社?判りました。ありがとう、女将さん」

『大丈夫かい?何かあったらすぐに電話するんだよ?お巡りさんなら私が呼ぶから!1人で無茶しちゃいけないよ?つくしちゃん!』

「うん・・・でも、子供達の方が大事だから。無事に取り戻したら連絡しますね」


女将さんは何度も何度も「無茶するな」と繰り返して、今にも旅館を飛び出してきそうな勢いだった。
本当の家族のように心配してくれる・・・有り難くて涙が出そう・・・。




********************




吉本がつくしに「思い出の場所」に来るように言ったのは今日の午後、日没まで。
こんなに寒い時期に長い時間岸壁に立たせるのは気が引けたが仕方がない。適当な時間になったらつくしをそこに連れて行くことにした。

ただタクシーでもない車で近づくのを見られるのは不味い。
だから港近くのスーパーの駐車場に車を入れて、そこで簡単に飯を食いながらもう1度打ち合わせをした。あきらがくれた無線機をつくしのコートの襟の下に取り付けてマフラーで見えないように隠した。


「いいか、絶対に無茶するなよ?」
「うん・・・吉本さんに会ったらここを押せばいいのね?」

「あぁ、そうしたら俺にも会話が聞こえる。でも見ながら押すと気付かれるかもしれないから、そこは上手くやれ。吉本の声は拾えねぇからバレないようにお前が復唱してくれよ」
「で、出来るかな・・・」

「やるしかない。俺は話したとおり島の神社付近で隠れ家を探す。もし紫音たちを先に救出出来たらスマホに着信を入れるからバイブにしておけ」
「・・・判った」

「絶対に連れて行かれないようにしろよ?俺が傍には居ねぇから自分で冷静に判断しろ」
「・・・判った」

「港を選んだなら誰かに見られる可能性もあるって事だ。吉本もそんなに騒ぎ立てないと思うからな」
「・・・判った」

「ばーか、それしか言えねぇのかよ!」

「総・・・怖い・・・」


それは俺も一緒・・・でも、ここで俺がそんな言葉を出す訳にはいかない。
俺が初めて紫音たちの為にしてやれることだから、絶対に失敗する訳にはいかなかった。つくしを同時に守ってやれないのは気になるが、それはこいつを信じるしかない。

震えるつくしの身体を思いっきり抱き締めてやって、耳元で「大丈夫だ」って何度も呟いた。こんな文句でつくしの恐怖が治まるとも思えなかったがそれしか言えない。
「よし、行ってこい!」・・・そう言うと、気持ちを奮い立たせて車から降りていった。


時間なんて言われていない・・・どのぐらいそこで待てばいいのか判らなかったけど、つくしはコートの襟を立てるようにして風の強い港に向かって歩き出した。
それを見送ってから、俺は車を加部島に向けた。



そこは自然に溢れたのんびりした島だった。
漁業中心なのか、そんな雰囲気の車と数台すれ違い、島の真ん中にあるって言う神社に向けて車を走らせた。


そして神社付近に着いて車を路肩に停め、スマホで地図を確認。
この辺りにある漁港の位置を調べて、そこに向かおうとした時、1台の車が細い道から出てきた。


その左折時に振り向いた顔・・・それがモニターで見た吉本に酷似していた!


女将さんの言ってたように小さな車・・・白い軽自動車で年式も古そうだった。
窓ガラスにスモークフィルムも無かったから車内は丸見えだったが、後部座席にも子供の姿は無い。そして俺の車なんて気にもせず対向車だけを確認して、車は呼子の街の方に向かって走り去った。

その僅かな時間に見ただけのそいつの表情・・・すげぇ緊張感と不気味なものを感じ、吉本に間違いないと思った。


って事は、子供達はやはりこの付近に借りてるヤツの家に居るんだ。
俺はすぐに吉本が出てきた道に車を向けた。


「待ってろ・・・紫音、花音!今から助けてやるからな!」





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