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plumeria

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総と別れてから、あの日吉本さんにプロポーズされた港に向かった。

肌を刺すような海風が吹いてるのに身体中に汗をかいてる。
怖くて怖くて仕方ないのに、これが済めば子供達に会えるんだと思えばドキドキする・・・。

喉の奥が痛くて、手の指先が震えて、歩いてるのに膝がガクガクして蹌踉めいてしまう・・・それを吉本さんが何処かで見てる気がして目だけがキョロキョロと辺りを探ってる。
魚臭い、でも懐かしい匂いのする港の端っこに、あの日と同じように立ったら真っ直ぐ海を見た。


ザザッと波が岸壁に当たる音がする。
沖の方では白波が立ってる・・・ここで吉本さんに話し掛けられた日もこんな感じだった。
今よりもう少し後の2月・・・忘れたくても忘れられない想いを抱えて苦しんでいた時。本当にここで子供を産んで育てていけるんだろうかって思い悩んでいた時だ。

見付けられない答えを無理矢理作り出そうと必死だった時・・・心が冷えきって凍えていた私にあの人のプロポーズはほんの少しドキッとした。
一瞬だけ夢を見そうになって・・・でもすぐに打ち消した。


私の帰る場所はこの人の腕じゃないって・・・。



「・・・寒っ・・・総はもう島に入ったよね。神社、判ったかな・・・」

この時間、漁港には殆ど人は居ない。だから凄く静かだった。
時々遠くに人が見えたり車が通過するけど、私が立ってる場所からは随分遠い・・・ここで吉本さんと話しても誰にも会話は聞かれないだろう。

どのぐらい経ったのか・・・自分の顔が海風で冷たくなって痛いぐらい。
ブルッと震えた時、真後ろから誰かが歩いてくるのが判った。


瞬間、何もかもが止まったかのような緊張が走った。
振り向かなきゃ・・・そう思うのに身体が固まって身動き出来ない。男の人と思える足音が確かに私の耳に届いていた。

『冷静に判断しろ』・・・総の言葉が頭に浮かんだ。
ここで私はコートの襟元に付けた無線機のスイッチを入れた。


「来てくれたんだね・・・牧野さん」


その声でやっと振り向くことが出来た。
私の数メートル先・・・そこに立っていたのは鏡山で別れて以来の吉本さんの姿。
あの時より少し窶れたような顔、役所のネームプレートを首から提げてスーツ姿だったのに草臥れたコートを着て、きちんとした革靴履いてたのにボロボロのスニーカー・・・髪だって伸びてボサボサだった。

その変わりように驚いたけど、間違いなく吉本さんだった。


「吉本さん、どうしてこんな事をしたんですか?子供達・・・子供達は何処なの?!」

「・・・懐かしいなぁ、牧野さんの声。ずっと聞きたかったんだ・・・あんな別れ方をしたからさ」

「は?だって無理矢理旅館から連れ去った上に襲いかかったんじゃないですか!逃げて当たり前でしょう?!」

「変わってないね・・・3年半も経ったなんて思えない。あの時のままだね、牧野さん」

「そんな事はどうでもいいわ!お願いします・・・子供達を返して!!」


こんな状況なのに吉本さんは笑っていた。
ニコニコと、あの頃と同じように笑っていた・・・でも、私の質問と彼の言葉が噛み合わない。
私の言葉なんて全然聞こえてないかのように微笑みながら少しずつ近づいてきた。

私の後ろは海・・・逃げ場は何処にもない。


「子供達に何もしてないでしょうね・・・酷い事をしていたら許しませんよ!」
「何もしてないよ?だってあの子達はこれから俺達が育てるんだからさ・・・ちゃんと父親らしく大事にしたよ?」

「誰があなたと育てるって言ったの?あの子達は美作さんの家に養子に出したんです。あの家で平和に暮らしていくの・・・あなたとは暮らしません!」
「そんな事言えないよ?だって君が断わった瞬間に子供達は危険な目に遭うんだから」

「・・・どういう事?」

「これ・・・何だか判る?」


吉本さんの手の中には黒っぽい小さなリモコンのようなものがあった。
その小さなリモコンがあの子達に何をするって言うの?


総・・・聞こえてる?
どうしたらいい・・・?私はどうしたらいいの!!




*********************




吉本だと思う男が出てきた道に入ってすぐ、1人の老人に出くわした。
車を停めて窓を開け「吉本という男の家を知らないか?」と尋ねたが、九州の言葉なのかイマイチ言ってる事が判んなかった。ただ、何度か会話を繰り返すうちに知らないって事が判り、再び車を移動させた。

そこまで家は多くないが小さな道が有り過ぎて、あいつが何処から出てきたのかが判らない。
スマホで調べてみたらこの先は行き止まり・・・こうなったら車で移動するより歩いて探した方が効率がいいと判断して、適当な空き地に駐車し車を降りた。


吉本は1人暮らしで、最近は働いてなかったって考えたら小さな家しか借りられないはず。しかも保証人が誰もいないとすれば不動産屋を通さずに、口約束で借りたものかもしれない。
そうなったら相当古くて賃貸物件に見えないほどなのかもしれない。

しかも長期で留守をしているから冬とは言え庭があれば荒れているし、洗濯物で女性のものがあれば違うって事だ。
そうやって外からさりげなく家の様子を観察しては、それらしき家を探して回った。

だがそんなに簡単に見付かるはずも無く、俺が歩き回った辺りからは該当するような家は無かった。


「くそっ・・・的外れだったか?ただ用があってこっちに入っただけって事も考えられるか・・・」


仕方なく移動しようかと車に戻ったら、今度はすぐ近くに30歳ぐらいの女性が小さな子供と手を繋いで歩いてきた。丁度紫音たちと同じような年頃の子供だったから目が止まり、向こうも俺の方に顔を向けた。

別に深い意味も無く頭を下げると、その女性もニコッと笑って頭を下げた。


「もしかしてさっきのお子さんのお父さんですか?サイズ、大丈夫でした?」
「・・・は?」

「あれ?ごめんなさい!違いました?よく似てると思ったもんだから」
「よく似てる?俺にですか?サイズって何の事?」

「え?あぁ、ズボンの替えが欲しいって・・・」
「それ、いつの事ですか?」


俺によく似た子供だと聞いて、開けようと手を掛けていた車のドアから離れて女性の元に駆け寄った。
確定なんてしてねぇのに紫音達が俺に何かのメッセージを残してくれたような気がして、見ず知らずの人間の前なのにすげぇ動揺してる。
不審者だと思われないようにしなきゃいけないのに、俺の必死な顔はこの人の子供をビビらせたのか、母親の後ろに回って顔を隠された。


「ついさっきです。男の人がお子さんを連れてたんですけど、男の子がジュースを溢したって言って慌ててたんですよ。
今は買いに行く時間が無いからって言われてね、うちにある服でよかったら貸しましょうかって言ったら『助かります』って。だからサイズを聞いたら『自分の子供じゃ無いから判らない』って言うんです。まぁ、少しぐらい大きくても問題ないかなって思ってこの子のズボンを貸したんですよ」


買いに行く時間が無い・・・つくしに会いに行かなきゃいけねえから?
この女性の言う男が吉本のような気がして、俺に似てる子供が紫音のような気がして心臓がバクバク鳴り出した・・・もしかしたら双子に近づいたのか?


「その男が連れてたのは1人?もう1人女の子がいなかった?」
「えぇ、いましたよ。可愛らしいお嬢さんが車の中にいました。眠そうに目を擦ってましたけど」

「元気そうだった?泣いたりはしてなかった?あの、その男の家って判る?」
「・・・はぁ?あ、あなた・・・関係ない人なんでしょ?」

「いや、その子達は俺の子供だと思う!知り合いとはぐれてしまって探してるんだ。家を知ってたら教えてくれないか?!」


その人の話だと子供達は泣きもせず元気そうに見えたけど、男の子は咳き込んでいたらしい。不機嫌とまではいかないが疲れているように見えたと教えてくれた。
そしてズボンを貸したら丁寧に頭を下げて「ありがとうございました」と言われ、小さいのに感心したって・・・。

間違いない・・・それは紫音だ。
美作の屋敷内だと普通に話してるが、外に出るときちんと挨拶するように躾けられる。喋られるようになった時点でその教育が始まるのは俺達のような家だと当たり前だ。


「あの人の家はここから少し奥に入って、自動販売機があるところから左に入るんです。そして坂道になってるからその1番上の古い平屋ですよ」

「ありがとう!!」


今、そこに居るかどうかも判んねぇけど、急いで教えてもらった家に車を向けた。
その時、つくしの無線機にスイッチが入った!


『吉本さん・・・どうしてこんな事をしたんですか?子供達・・・子供達は何処なの?!』
『・・・・・・・・・』

『は?だって旅館から無理矢理連れ去った上に襲いかかったんじゃないですか!逃げて当たり前でしょう!』
『・・・・・・・・・』

『そんな事はどうでもいいわ!お願いします・・・子供達を返して!!』
『・・・・・・・・・』




つくし・・・冷静になれよ・・・!
頼む・・・俺が紫音たちを見付けるまで粘ってくれよ!!





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