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plumeria

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「くそっ・・・マジで家ごと燃やす気だってのかよ!!」

その光景を見た時、もう子供達の心の傷を考えている場合じゃないと判断し、窓硝子を割って中に入ることを決めた。

いつそのスイッチが押されるか判らない。
あれから特に激しいやり取りは無く、つくしが子供を帰してくれと懇願している声しか聞こえてこなかった。だが、今はその声も邪魔になる・・・イヤホンを耳から外して子供達に集中した。


「紫音!聞こえるか?!
『うん、きこえるよ、そうちゃん』

「花音と一緒に少し後ろに下がっててくれ。今から窓を割るから危ねぇぞ!」
『えっ?!そんなことしちゃだめだよ、そうちゃん!あのおにいちゃんが困るよ?』

「困らねぇよ、もうここには帰ってこないと思うから」
『ううん、もうすぐ帰ってくるよ?ちゅくちちゃんといっしょに!』

「いいから下がってくれ!時間が無いんだ、頼む、紫音!」
『・・・ん、わかったぁ!』


この様子だと本当に酷い事はされてねぇようだ。むしろこの先の俺の行動の方が2人には「悪い兄ちゃん」に映るかもしれないが、そうも言ってられない。
双子が窓から離れたら、庭にあったレンガの欠片のようなものを手に持って、思いっきり窓の鍵辺りを目掛けて振り下ろした!!


ガシャーーーンッ!!
「「きゃああぁーっ!」」



子供達が耳を押さえてしゃがみ込み、俺は割れた窓硝子を更に手で割って広げ、そこからビニールテープを引き千切って鍵を開けた。その時右手に硝子の破片が突き刺さり鋭い痛みが走ったが、流れ出る血をを拭う暇も無かった。
急いで窓を開けて中に入ると、紫音が花音を庇うように抱き締めて俺の事を怯えたような目で見上げた。

そりゃ無いだろうよ、紫音・・・そんな言葉も出したかったが双子にしたら無理もない。


「驚かせたな、悪かった。でもな、急いでここから帰らなきゃいけねぇんだ。ははっ!たまには怖い遊びも面白いだろ?」
「・・・・・・おこられるよ?」

「誰も怒らねぇって!ほら、つくしが待ってるからここから出ようぜ?」
「ちゅくちちゃん、どこにいるの?」

「すぐ近くであの兄ちゃんと話してる。彼奴らがここでお前等をビビらせる役目をしたがらないから仕方ねぇだろ?これも遠足の一部だってことだ」
「そじろにいちゃん・・・こわい」

「そっか?すげぇ音がしたもんな!でも本当に時間がねぇんだ。硝子が飛び散ったから窓からだと怪我するかもしれない。玄関から出るぞ」
「・・・うん、判った」

「・・・・・・しょん、こわい・・・」


こんな嘘はいくら3歳児でも通用しねぇか?と思ったが俺にも他の言い訳を考える余裕はない。
それに怯えた花音は俺の手を握ろうとしない。それはショックだったけど、紫音は俺に手を伸ばした。

発火装置に変化はない・・・でもスイッチが入れられればどんな風に作動するのか判らないから、急いでこの家から離れなきゃいけない事に変わりはない。
だからその小さな手を取って玄関に行き、内側から鍵を外して急いで外に出た。

そして車に子供達を入れたら・・・流石に手が震えた。


見たら右手が真っ赤・・・さっきは気にしなかったが掌を深く切っていた。
花音が怖いと言ったのはこのせいかもしれない。しかもこのままだと運転がし辛い・・・ハンドルが血で滑って事故ったらヤバいし、この子達がずっと怖がる。
何処かにタオルでも無いかと思ったが見当たらず、「くそっ!」と声を漏らしたら紫音が急に車を降りて家の中に戻って行った!


「こら!紫音、行くな!!」
「タオル、とってくるの、まってて、そうちゃん」

「そんなのいいから戻ってこい!紫音!!」

今発火装置が作動したら不味い!
俺も慌てて車から降りたが、紫音はすぐにタオルを2枚持って玄関から出てきた。そして「はい!」って手渡してくれてニコッと笑った。

まるでつくしが笑ってるみてぇだな・・・そう思うと可笑しくて、俺も「サンキュ!」とタオルを受け取って右手に巻いた。


そしてつくしのスマホに電話した。
「子供は無事だ」のサイン・・・今度はつくしを救いに行かなくちゃいけない。

俺は血の滲んだタオルを左手と口を使って固く縛り、急いで車のエンジンを掛けた。




*************************




吉本さんと少しだけ離れて向かい合って、子供達の無事を確かめ続けた。

「元気だって。俺の事も『お兄ちゃん』って呼んでくれて仲良くしてたよ?ご飯だって一緒に食べたしね」
「・・・言葉だけじゃ判らないわ。今はどうしてるの?あなたがここに居るのに子供達だけなの?それとも誰かが居るの?」

「誰も居るわけないだろ?これから4人で暮らすんだから、それ以外の人は必要ない」
「止めてください!吉本さん、おかしいわよ!こんなの子供達は騙せても私は全部知ってるのよ?それなのにあなたと暮らせると本気で思ってるの?」

「時間が経てば上手くいくよ。穏やかな時間が過ぎて行けば気持ちは変わる・・・それに俺は君の事が大好きなんだから」


「それはあなたの・・・」、その続きを言おうとした時、ポケットのスマホが鳴った!!
そして数回で切れた。総からの「無事救出」のサインだ!


それを確認した瞬間、身体の力がガクッと抜けてその場に座り込んだ。
震える両手で顔を押さえ、吉本さんには聞こえない声で「良かった・・・」って呟いて。指先が涙で濡れてカタカタと歯が鳴る・・・緊張しすぎて強張っていた身体に一気に血が巡ったような気がした。


「牧野さん?どうしたの?具合が悪いの?」
「・・・・・・いえ、そうじゃないわ」

「何があった?まさか・・・何か小細工してる?」
「小細工なんてしてない・・・寝てないから立ち眩みよ・・・」


この吉本さんの言葉でハッと我に返った。
総が車でここまで戻ってくるのに10分ぐらいは最低でも掛かるだろう。その間に今度は私が捕まったら元も子もない。
彼が戻って来るまでは油断しちゃいけない・・・そう思って立ち上がったら、吉本さんは私の目の前に居た!


「・・・・・・!!」
「今さ、少し笑った?」

「わ、笑うわけ無いでしょう?どうしてこんな時に笑うのよ・・・」

だめ・・・声が裏返る。それに笑ったっけ?
吉本さんの誘導に引っ掛かって慌てて頬を触ったら「冗談だったのに」ってニヤリと彼の方が笑った。


「こんな時に冗談は止めて!」

「あぁ、そうだった・・・あまりに嬉しくて聞き忘れてた。牧野さん、ここまでどうやって来たの?」

「えっ?あ、あの・・・タクシーで・・・」
「タクシーで?何処から?唐津から?1人・・・だよね?」

「・・・・・・あなたが1人で来いって言ったんでしょ?」
「動揺してる?ねぇ・・・まさか美作さんと来たとか言わないよね?」

「美作さんは東京に居るわ。お屋敷に電話してみたら?ホントに自宅に居るから!」


「牧野さん・・・俺になにか嘘ついてる?」


またもう1歩近づいて、私の腕を掴もうと手を伸ばしてきた。
それを撥ね除けて後ろに下がったけど、そこはもう海・・・逃げ場は無かった。吉本さんは叩かれた手をもう1度伸ばして私の左腕を掴み、グイッと引き上げた!
そして抱き寄せようとするから両手でそれを防ぎ、海を横目で見ながら反対側に移動した。

小柄だと言っても吉本さんは男性・・・私の力では引き寄せる腕を払い除けられない!まるで髪の中に顔を埋めるような仕草をするから「いやぁ!」と声を出すとリモコンをチラつかせる。

もうそれを押されても問題ないとは思ったけど、この目で総も子供達も見てないから安心できない。それに本当に火事を起こされたらどの程度の被害が出るのかと思うと下手に動けなかった。


「美作さん・・・凄く怒ってたね。偉そうにしてたけど子供が絡むと無力・・・あんな声が聞けるとは思わなかったな」

「彼は本当に子供達を可愛がってくれたからよ!あなたみたいに子供を利用する人には判らないのよ!」

「そうかな・・・俺もあの子達は可愛いと思ったよ?牧野さんにそっくりだもんね・・・」

「そう言う目で見ないで!止めて、離して!」
「じゃあ大人しく俺の言う事を聞く?約束してくれるなら手を離して子供の所に連れて行ってあげる・・・楽しく暮らそうよ、牧野さん」

「・・・・・・!」



総、早く来て!・・・助けて!!


心の中で叫んだ時、私の後ろから近づいてくる足音が聞こえた。
振り向いたら右手を真っ赤に血で染めた総が近づいてくる・・・吉本さんを真っ直ぐに見つめて、その顔は凄く恐ろしかった。



「その手を離してもらおうか・・・吉本!」

「総、助けて!!」
「・・・・・・誰だ?」


総しかいない・・・子供達は車の中なんだ。
この光景を見せないために・・・小さな心に傷を残さないために!

それが判って嬉しかったけど、吉本さんは総が来たことに驚いて私の首に腕を回して自分に引き寄せた。今度は私が人質・・・でも、総は助ける自信があるのか立ち止まること無く近づいてきた。


「だ、誰だ!!来るな・・・お前は誰だ!!」

「俺か?俺はあの子達の父親・・・見たら判るだろ?」

「・・・・・・なんだと?まさか・・・牧野さんを捨てた男なのか?!」


「捨てたんじゃねぇよ。だが、そんな事をイチイチお前に説明する気はねぇ・・・つくしを離せ!!」





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