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plumeria

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双子を乗せてこの家から離れるとすぐにイヤホンを耳に当てた。
つくしは無事か・・・怪我は疼き出すし、運転はしくじる訳にはいかないし、子供達には危険を感じさせたくねぇしで頭の中はパニックだった。

そして耳に届いた声は・・・


『今さ、少し笑った?』
『わ、笑うわけ無いでしょう?どうしてこんな時に笑うのよ・・・こんな時に冗談は止めて!』


吉本の声が聞こえる!って事はつくしのすぐ傍にいる?!
さっきまで聞こえなかったヤツの声まで無線機が拾っていた。それに驚いて力の入る左手が震えた!
信号待ちで停まるとイヤホンに集中しようと耳に手を当てる・・・その時に真っ赤になった俺の手を見て、後ろから心配そうな声がつくしの声を遮った。


「・・・そうちゃん、だいじょうぶ?」
「ち、すごいよ?タオル、もう1まい、あるよ?」

「あぁ、何でもねぇよ・・・事故らないようにするから心配すんな。ありがとな!」

「そうちゃんが窓、わるからだよ~!」
「ねぇ!しょん、こわかったねぇ!」

「・・・はは!謝ってるじゃん、悪かったって・・・まぁ、もう少しだから大人しくしてろよ?」
「「はーい!!」」

本当は子供と話してる場合じゃ無い・・・この甲高い声はつくしと吉本の会話を聞くには邪魔だったけど叱る訳にもいかない。恐ろしい事が起きてるなんて知らないんだし、このまま忘れてしまえば自分たちが誘拐されたなんて記憶に残らない。
楽しい「遠足」の延長で終わらせてやらないといけない。

額に汗をかいてるのを見られないように橋を渡りきり、つくしと吉本が居る港に急いだ。


『動揺してる?ねぇ・・・まさか美作さんと来たとか言わないよね?』
『美作さんは東京に居るわ。お屋敷に電話してみたら?ホントに自宅に居るから!』

『牧野さん・・・俺になにか嘘ついてる?』



不味い・・・つくしの演技もこれまでか!
だが子供達は保護したから安心だ。このまま港に乗り込んで、どんな手を使ってでもつくしを守れば総てが終わる!
2人の位置関係が判らないがつくしが吉本と接近して争ってるような声が続いてる。既に会話じゃなくて掴み合いになってる気がして焦った。
モニターで見る限り大柄な男じゃなかったけど、それでもつくしは簡単には逃げられないだろうから。

そうして港の近くまで来ると、漁業関連会社の倉庫のような建物の裏に車を停めた。
双子はキョトンとした顔で漁港の光景を物珍しそうに見ていた。


「紫音、花音、俺がこれから言う事を聞いてくれるか?」
「うん!なぁに?そうちゃん」
「なにかおしごとするの?」

「仕事じゃねぇけどな、今から俺は車の外に出るけど、お前達は絶対に出てくるな。約束できるか?」
「お外にでちゃダメなの?」
「どうしてぇ?」

「どうしてもだ。そうじゃないとつくしがここに戻って来られないんだ。詳しい事は言えないけど暫くここで待っててくれ」
「・・・かのん、どうする?」
「・・・しょんが居るならかのんも居る!」

「紫音、兄ちゃんだろ?妹を守ってここにいてくれ。悪いが鍵を掛けるからな」
「・・・わかった!そうちゃんをまってるね!」
「かのんもおりこうさん、できる!」

「よし!良い子だ・・・じゃ、つくしを迎えに行って来るな!」


車を降りたら鍵を掛け、つくしの居る場所を探して足を速めた。
俺は当然ここは初めて・・・何処に居るのかさっぱりだったが兎に角岸壁まで出て辺りを見回した。

もう人気のない、魚を降ろす倉庫のような場所や網やプラケースなんかが無造作に置かれてて、小さな船は寄り添うように並んでる。車だって何処にもねぇし、まだ端の方か?と船が泊まってない方に足を向けた。

イヤホンからはつくしの抵抗するような音だけが聞こえて悲鳴や大きな音はしない。
服を掴まれているのか、そこに取り付けた無線機からは雑音しか入って来なかった。


そうして自分が車を停めた場所から500メートルぐらい移動して来た時、さっき加部島で見掛けた車と同じ車種と色の車を見付けた。急いで近寄って見ると、当然中には誰もいない。
ただし後部座席には飲み物を溢したような汚れと丸められたズボンがあった。それに子供用の菓子の箱やコンビニの袋なんかが足元に転がったままだ。

間違いない・・・この車は吉本のものだ。
それならこの近くに居るんだと再び足を岸壁に向けた。


そうしてもっと奥の防波堤の端で、踞ってるつくしを押さえつけている吉本を見付けた!



もう逃がしはしない・・・俺は2人が居る場所に近づいて行った。

つくしは気配に気が付いたんだろう、腕を掴まれていたけど振り向いて泣きそうな顔を俺に向けた。それを見て吉本もハッと顔をあげ、訝しげな表情で俺とつくしを交互に見てやがる。
だからつくしの方を見ずに、思いっきり吉本を睨みつけて近づいて行った。



「その手を離してもらおうか・・・吉本!!」

「総、助けて!!」
「・・・・・・誰だ?」

吉本は俺の姿を見て声をあげたつくしの首に腕を回し人質にしやがった。

でも負ける気なんてしない。
こいつは弱い者を利用するような卑怯な小心者だ。ビクついた目と震える足が全部そいつを証明してる・・・勢いで人に怪我を負わせる度胸もないと判断した。

だから足を止めることもなく2人に近づいた。


「だ、誰だ!来るな・・・お前は誰だ!!」
「俺か?俺はあの子達の父親・・・見たら判るだろ?」

「・・・・・・なんだと?まさか・・・牧野さんを捨てた男なのか?!」


「捨てたんじゃねぇよ。だが、そんな事をイチイチお前に説明する気はねぇ・・・・・・つくしを離せ!!」

2人から僅か3メートルぐらいの距離まで来ると吉本はつくしの首をグッと持ち上げた。その腕を掴んで苦しそうな顔をして、吉本の腕を引き離そうと必死に藻掻いてる。
つくしには申し訳なかったが、それでも俺はジリジリと2人に近づいて行った。


「来るな・・・!う、海に・・・海に・・・おと、落とすぞ!」
「落とせるものなら落としてみろよ。その代わりお前の場合、身体じゃなくて命落とすぞ?」

「何だと!ほ、本気だぞ!」
「つくしに惚れてんじゃなかったのかよ。惚れた女をそんな風に羽交い締めして海に落とせんのか?」

「五月蠅い!黙れ・・・牧野さんを1番始めに泣かせたヤツに言われたくない!」
「そうかも知れねぇけど俺達の気持ちは離れちゃいないんでね・・・妄想の恋に溺れてる男には判らねぇか?」

「も、妄想・・・だと?」


1歩近づくと吉本は1歩後退・・・防波堤の端までは残り5歩ぐらいか。

つくしを海側に向けて自分よりも海に近づけ俺に揺さぶりを掛けるけど、それでこの俺がビビると思ったら大間違い・・・この男が本当につくしを落とそうとした瞬間、飛び出して救い出す自信があった。


「そうだ。お前、本気で女に惚れた事なんてねぇだろう?自分が1番可愛いんだよ・・・自分の幸せのために恋してんだよ。
だからそんな身勝手な事が平気で出来んだよ。今回の行動で喜ぶのはお前だけ・・・それで自己満足してんだよ。これだけ愛されて嬉しいだろう?ってつくしに押し付けてんだ。馬鹿な男だな!」

「そんな事はない!俺は・・・俺は本気でこの人と一緒に暮らして・・・」

「一緒に暮らしたい女の首を絞めて海に向けてるのにか?!」

「喧しい!!もういい・・・あんた、あの子達の父親って言ったな・・・それじゃあその子達から片付けてやる!!」


吉本はその言葉と同時に黒っぽい小さな物をポケットから取りだした。
それを俺に向けてニヤッと笑い「これが何か判るか!」と吐き捨てるように言った。


「悪いな・・・うちの子供達は俺の車で遊んでるわ。あの荒ら屋にはもう誰もいねぇぞ?」


「・・・・・・なんだと?」
「ついでに窓も割っちまった・・・それがこの手だ!」


真っ赤に染まった右手を吉本の顔に向けて差し出すと、つくしを掴んでる腕が緩んだ!
「つくし、伏せろ!!」、その声に吉本がハッとした瞬間、つくしはその腕を払い除けてしゃがみ込み、俺はこいつの顔面目掛けてその血だらけの右手拳を振り上げ、思いっきりぶっ飛ばした!

「ぐわああぁーっ!!」
「きゃあああぁぁーーっ!」


情けねぇヤツ・・・たったこの一発で吉本は身体を半分防波堤の縁から投げ出した状態で倒れ込んだ。
顔面を押さえて苦悶の表情の吉本に、止めの一発で鳩尾に左拳を落とし完全に気を失わせた。


その後は流石の俺も緊張から解放されてその場に座り込んだ。つくしも地面に倒れてたけど、這うようにして起き上がり俺の横にやってきた。
そして涙でぐちゃぐちゃの顔での第一声は・・・


「総っ!!子供は・・・紫音と花音は?!」
「ははっ、お前まで先にそっちの心配かよ・・・言った通り、車に居るよ」

「怪我してない?泣いてない?」
「・・・心配すんな、笑ってるよ・・・早くお前に会いたいってさ・・・」

「・・・うっ、ううっ・・・良かった・・・良かった!!総、あり・・・がと!」
「バーカ!当然だ・・・父親、だからよ」

「はっ!総も大丈夫?!」
「・・・遅ーよ」



長い1日だった・・・マジで長い・・・1日だったな。





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