plumeria

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雨が結構ひどく降っている。
マスターが貸してくれた男物の傘がいくら大きくても私たち2人が入っていたら外側が濡れてしまう。
そんな雨の冷たさよりも類の腕に触れている内側の方が熱くて・・・
少し離れようかと思ったら急に類の手が後ろから回ってきて、私を引き寄せた。


「ちょっと・・・!類・・・そんなにしたら類の方が濡れちゃうんじゃない?」

「え?そう?・・・でも、牧野が濡れるよりいいから・・・もう少し近づいてよ!傘が差しづらいから」

類の手にまた力が入って私の肩を抱く・・・その手の平の大きさほど・・・そこが熱を持ってしまう。
もう・・・なんて心臓に悪いのかしら!この音が聞こえるんじゃないの?
喉の真ん中当たりがムズムズして・・・出したくもないのに咳き込んでしまうじゃない!

「どうしたの?風邪引いてたの?・・・あそこに一度避難しようか!」

類が言ったのはこの時間にはもう閉店している本屋の軒下・・・結構大きな屋根があったから雨宿りが出来た。
そこに一度入って類は傘を畳んだ。

「結構濡れたね・・・寒くない?上着貸そうか?」
「全然寒くなんてないよ・・・むしろ暑いくらい・・・っくしゅん!!」

「ほら!寒いんじゃん・・・少しでもあったかいから着とけよ」

類は自分の上着を脱いで私の肩にかけてくれた・・・あんまり優しいとかえって苦しいんだけど。
変な期待・・・しちゃうじゃない。


よく考えたらおかしくない?
なんで花沢物産の跡取りがこんな所で雨宿りしてるの?車・・・呼べばいいんじゃないの?
昔はそうしてたじゃない・・・こんな風に傘なんて差して歩かなかったよ?

「どうして・・・車を呼ばないの?花沢の車・・・呼べばいいのに。そうしたら類は家に帰れるよ?」

「そうして欲しいの?俺は牧野をこうやって送りたいだけ・・・家はどこなの?」

「・・・言わない。ここからは遠いの」

本当はこのすぐ近く・・・この表通りから道一本中に入れば歩いてでも帰れるところ。
でも・・・本当に古いアパートなのよ。類が見たら呆れるくらい・・・。

「だから・・・バスが来たら乗って帰るわ。類は早く車を呼んでよ」
「遠くってどこ?遠くなら尚更送って行こうか?」

「ち・・・調布のほうなのよ!今はその辺に住んでるの!いつか彼が出来たら住めるようにって
割といい感じのアパートにしたのよ!この辺りと違って静かでいいところでしょう?」
「住んだことあるの?・・・男と?」

「もちろん!いくつだと思ってるの?そ・・・そのくらい普通にあるわよ!」
「そう・・・じゃあ、ちょうどバスが来たけどどうする?」


「・・・え?」

うそっ・・・!本当に近くのバス停に調布に行くバスが近づいている・・・なんてタイミングなの?!
でも、ここで乗らなかったらおかしく思われるんじゃないの?どうしよう・・・!
でも・・・こうなったら乗って、別れて・・・すぐに降りて戻ろう!

「じ・・・じゃあねっ!類・・・久しぶりに会えて嬉しかったわ・・・またね!傘は類が返しに行ってね!」

上着を類に返して、雨の中バス停に向かって走ろうと一歩前に出たら・・・類が私の腕を掴んで引き戻した!
その勢いで思いっきり類の胸にぶつかってしまった。

「うわっ!ごめん・・・っていうかなんてことするのよ!バスが・・・!」
「乗ったらアウトでしょ?」

「へ?・・・なんでよ・・・」
「牧野・・・調布になんて住んでないでしょ?」

その前に類の胸から出たいんだけど・・・引き寄せられたまま類の腕の中にすっぽりとはまっていた。
あ・・・類の心臓の音が聞こえる・・・規則正しい音が。
雨の中なのに何でこんなにはっきり聞こえるのかしら・・・。
それに少し早くない?私もだけど・・・すごくドキドキしてる。

「そりゃ、牧野を抱き締めてるからじゃない?一応俺も男だし・・・」

「えっ!・・・なんで?まさか!」

「うん・・・まただよ?大きな独り言!独り言は素直なんだね」


バスは通り過ぎていった。
そして類はまた私に自分の上着を掛けてくれた。

まだ類は私を抱き締めていて、通りを歩く人がチラチラと視線を送ってくる。
無理もないわ。こんなにも美形な男が雨の中、こんな私でも女性を抱き締めてたら映画のワンシーンだわ!
でも・・・何となく私も懐かしい類の香りに酔っていたのかもしれない。
類の腕を払うこともせずにその胸に身体を預けていた。

ほんの少しでいいから・・・こうやってたいな。
そう思っていた時に類がそれまでと違う口調で話しかけてきた。


「どうしてさっきから思ってもないこと言ってるの?牧野・・・強がっても俺にはわかるよ?」

「強がってなんかいないわよ。本当に強くなったのよ・・・3年間ってそのぐらいの時間だよ?」

「ほら!また・・・弱くなったの間違いでしょ?でも、弱くなったことは悪いことじゃないよ。
正直に言いなよ・・・本当はこの近くに住んでるでしょ?そこまで送るから・・・」

「・・・どうして?私は何も言ってないわよ?」

「わかるよ・・・こんな時間に自宅から離れた所にいるような牧野じゃないから。
バスの時間だって一度も確認してないし、バス停でも止まらなかった。調布なんてどっから出たのさ!
もう一つ言えば3年間・・・そんなに幸せじゃなかったんでしょ?」

3年ぶりに現われたくせに・・・何でみんなお見通しなの?
そんなにわかりやすいのかしら・・・そんなに男の人と暮らしそうにない?
私だってそれなりに・・・毎日自分を磨いてきたつもりなのよ!

さっきは素直に類の胸にいたいって思ったのに・・・っ!


「類にはわからないわよ・・・あんなに素敵な人と一緒にいた類になんか私の気持ちはわかんないわよ!」

「わかんないよ!言ってくれないと・・・3年前だって言ってくれないとわかんなかったよ!」

「はっ?・・・あんなに嬉しそうに手を振って飛行機に乗り込んだくせに!」

「その俺を両手を振ってすごい笑顔で送り出したのは誰だよ!」


始めて類が大きな声を出した。

土砂降りの雨の音に負けないくらい・・・類の言葉が突き刺さった。
両手を振って送り出したのは・・・間違いなく私だ。


類と私は夜の本屋の前で・・・3年ぶりに本気の会話をしていた。

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