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plumeria

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大事な右手に深い切り傷を負ってまで子供達を救ってくれた総・・・「父親だから」って言葉が凄く嬉しかった。
双子が無事だった事は勿論だけど、それを助けてくれたのがこの人だという事・・・子供達には伝えてもないけど家族の絆が深まったような気がして胸が熱くなった。


「こんなに切っちゃって・・・それに汚れちゃったから早く病院で消毒しなきゃ!」
「その前にあきらにも連絡しないとな。あいつも心配して待ってるから」

「あ、そうだよね、安心させてあげないとね!」
「つくし、スマホであきらに電話してくれるか?」

「はい!」

総のスマホで美作さんに電話して、それをスピーカーの状態で彼の左手に持たせた。
その間に彼の右手のタオルを外して私のハンカチで縛り直したけど、それもすぐに真っ赤になる。縫合が必要なほどの怪我を負う状況だったのかと思うと、これを見た子供達の精神状態も心配になった。

そしてチラッと吉本さんを見た。さっき総に倒された時にはピクリとも動かなかった眉が動いた!
それに驚いて総の背中に回ると、彼も吉本さんを見て「もう目が覚めたか・・・」と呟いた。


『もしもし、俺だ!総二郎、どうなった?!』
「悪い、連絡しなくて。紫音と花音は無事に助け出したから安心してくれ。怪我もしてないし、誘拐された事も判ってない。元気にしてるぞ」

『双子は無事なんだな?安全な所に居るんだな!?』
「あぁ、少し危なかったけど間に合った。時間との闘いだったから電話が出来なくてさ」

そんな言い方をするから美作さんが吃驚して、でも向こうもスピーカーにしてるんだろう、凄い歓声が聞こえてきた。夢子おば様の悲鳴も、小夜さんだと思われる泣き声も聞こえる・・・それを聞いたら私もまた涙が出てきた。


「で、吉本なんだけど、今俺の目の前で倒れてるけどどうする?」
『お前には言わなかったけど、最悪のことを考えて美作の人間を呼子で待機させてたんだ。そいつに引き渡してくれ。報道されるのも面倒だから極秘で警察に引き渡す』

「判った。呼子の漁港の端にある防波堤にいるから、そこに来るよう言ってくれ」

『・・・ありがとう、総二郎・・・牧野』


ここで1度電話を切って、総は薄ら目を開けた吉本さんを睨んだ。
私は彼の左腕で守られ背中にしがみついていたけど、吉本さんはほんの少し顔を傾けて苦しそうな表情で私達を見ていた。

でも、起き上がって向かってくる気配は無い。
総もその場に座り込んだまま、彼にこれまでの説明を求めた。


「こんな巫山戯た計画をいつから立ててた?成功すると思ったのか?そんな事をしてつくしと子供達と暮らしていけると本気で思ったのか?」

「・・・五月蠅い。ゴホッ・・・牧野さんを・・・捨てたクセに・・・・・偉そうに言うな・・・」

「捨てられた訳じゃないわ!」
「つくし、お前は黙ってろ!」

吉本さんに反論しようとしたけどそれは彼に止められた。
確かにこの人に西門流の話なんて無駄かもしれない。あまりに特殊な世界だもの、普通の人ではどれだけ話してもピンと来ないだろうから、総の言う通り私は黙って後ろに下がった。

吉本さんは仰向けに寝転んだまま空を見上げてる・・・そしてボソッと小さな声で喋り始めた。


「東京に出て行ったのは去年の秋だ。牧野さんは東京から逃げてきたって言ってた・・・だから、いつかはここに戻ってくるんじゃないかと思って待っていたけど姿を見せないから、美作さんを訪ねたら判るかと思った。
だが美作商事の前に立ったら俺なんかが入れる場所じゃないって思ってさ・・・それから寝るだけの安いホテルに泊まって美作さんの自宅を探した。その時に短期バイトであのデパートの清掃員になったんだ」

「それで店の内部に詳しかったのか」

「あぁ・・・初めからこんな事するつもりで働いた訳じゃないけどな。でもラッキーだった・・・あのデパートは美作家に何度か配達してるって聞いたから清掃作業のフリをして事務所に入り、配達伝票を探したんだ。
それで美作さんの自宅を漸く突き止めて、そこに出向いて行ったら子供が庭で遊んでた。初めは牧野さんの子供だとは思わなかったんだ・・・遠くて顔も判らなかったし、あの人に子供が生まれれてもおかしくはないからな」

「そこまで行ったのにあきらを訪ねなかったのか?」

「・・・その自宅を見ても思ったんだ。浮浪者みたいな俺を中に入れる訳ないって・・・。
そう思ったけど諦めきれなかった。どうしても牧野さんの情報が欲しかった・・・だからもう1度、12月の中頃に出向いた時、今度は子供達がフェンスの傍まで来て遊んでた。その時に双子だと気が付いた。それで驚いてよく顔を見たら牧野さんに似てた・・・だから間違いないと思った」


吉本さんはそれから美作家に来ては足を止めて子供達を見ていたらしい。
その頃に警備の人に目を付けられたのが判ったらしく、仁美さんを利用しようと思い付いた・・・そう話した。

興信所の人間を装ってご近所に美作家の内部事情を聞いて回ったけど情報提供者は少なく、仁美さんがたまに子供を連れて行く公園を教えてもらえたのが唯一だったとか。
それで待ち伏せしていたら仁美さんが現れ、そこで警護の人の目を盗んで連絡先を教えたと。


「あの奥さん・・・見掛けた時はいつも考え事してるみたいで暗い表情だったから、美作さんの事か子供の事で悩んでるんだと思って揺さぶりをかけたら引っ掛かったんだ。
だから4年前の牧野さんとあの人のことを、少し大袈裟に教えてやった・・・でも、本当だよね?」

「・・・何が本当なの?仁美さんに何を言ったの?」

「だって牧野さん・・・美作さんとホテルで一夜を過ごしただろう?唐津のホテルで確認したし、夢の屋でもあの狭い部屋で美作さんと一緒に夜を過ごした・・・間違いないだろ?」


その言葉には総も驚いて、後ろを振り向き私の目を見つめた。
一瞬疑われたのかと思ったけど、首を横に振ったら「ビビった・・・」なんて言って、また吉本さんを睨みつけた。

「何処の誰に聞いてそんな風に言ってるのか知らないけど、唐津のホテルに泊まったのはあなたのせいでしょ!夢の屋に戻るのも危険だって言われてホテルに泊まったけど、寝た場所も別けてるし何もなかったわよ!
夢の屋だって同じだわ、女将さんに聞いてみればいいじゃないの!美作さんは確かに住み込みの私の部屋に来たけど、夜になったら特別室に戻ったわ!」

「でも、あの人があんたに特別な想いを持っていたのは確かだろう!それを奥さんに伝えたら協力するって言ってくれたんだよ!旦那が自分の所に戻ってくるのなら子供を手放すって・・・その方が楽だと教えてやったんだ!」

「酷い・・・仁美さんにそんな嘘を言ったの?!」


「美作さんにとっては真実だ・・・奥さんよりあんたを好きだから子供を引き取ったんだろ?」




**********************




吉本につくしの病気の事を話すのも、俺達とつくしの繋がりがどんなものだったのかを説明するのも時間の無駄だと判断した。
もうこいつが知らなくてもいい・・・それよりも双子を連れ出した方法を確認しておこうと思い、話を当日に戻した。


「で、この誘拐の時間と日にちはお前が決めたのか」

「・・・そうだ。美作さんが東京に居たらすぐに動きだすと奥さんが言うから出張の日にして、時間はフェリーに乗るギリギリのタイミングを選んだんだ」


「女子トイレに向かわせた女は無関係なヤツか?」

「・・・もう知ってんのか。あぁ、そうだ。あの女は金で動いただけだ。子供達の着替えを入れた鞄を持ってトイレに行き、奥さんと話を合わせて変装させたんだ。これで牧野さんに会いに行ったら驚くからって嘘ついてな・・・。
はは・・・子供ってのは単純だよな・・・素直に言う事を聞いてトイレから出てきたようだ。俺と出会った時も怯えもせずに楽しんでるみたいだったからな。人を疑う事なんて知らないんだって思ったさ」


紫音たちを単純だと言われた事に腹をたて、つくしが俺の後ろから身を乗り出そうとしたからその身体を押さえ込んだ。
言葉を出さずに小さく首を横に振ったら「大人しくしておけ」のサインだと判ったのか、悔しそうに唇を噛み締めて俺の服を掴んだ。


「・・・ブルーのコートもお前の指示か?」

「・・・そうだ。色なんてどうでもいいけど兎に角目立つ揃いの服を着せて来いと言った。どうせ監視カメラでチェックするだろうと判っていたからお前達は当然派手な揃いのコートを探す・・・時間稼ぎが出来ると思ったからだ」


「2回目のトイレの時にも着替えさせた・・・しかも監視カメラの手薄な場所を選んで、そう言う事か」

「あぁ・・・あの子達が着ていたものも従業員用のゴミ箱に捨ててきた。あの日でバイトも辞めたが、それまでは勤務してたからな・・・寸前まで監視カメラのチェックばかりしてたよ」


「フェリーを選んだのは何故だ?それにどうやって乗った?」

「車はここに置いたままだったし、飛行機と新幹線なんてお前等がまず最初に探す事は判りきってる。子供を2人も連れて色んな場所を歩き回るのは危険だし、フェリーが1番追跡しにくいだろうと思っただけだ。
それでフェリー乗り場に下見に行った時、偶然九州に帰るって言う女を見付けた。そいつにフェリー代を出すからバイトしないかと誘って、事情は一切話さずに当日あのデパートの駐車場で待たせておいた。だからそいつの車に乗り込んでフェリー乗り場まで行き、新門司で降りたらその女が向かう博多まで乗せてもらって、そこからタクシーだ」


「そして双子をあの家に残して馬鹿な装置を作ったのか・・・」

「・・・そうすれば牧野さんは大人しく従うと思ったんだ。最悪の場合は子供も牧野さんも一緒に・・・」


その後の言葉は言わなかった。

ここまで聞いた時、漁港の方から数人の男達が掛けよって来た。
美作の人間が漸く辿り着いた・・・それを見た時、つくしにもやっと安堵の表情が見られた。


「西門様!遅くなりました!!」
「いや、そんな事ねぇ。こいつだ、後は頼む」

「はっ!畏まりました!」
「おい、立て!!」


吉本は美作の連中に両脇を抱えられ、逃げられねぇように前後左右を囲まれて、俺達の前から引き摺られるようにして去って行った。途中、1度振り返ろうとしたがその動作は連中に遮られ、ワゴン車の後部座席に放り込むように乗せられた。

恐らくこのまま東京につれて行かれ、あきらの手によって警察に極秘に渡されるはずだ。



その車が漁港から走り去るのを見届けてから、俺達は双子が待つ車へと向かった。





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