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類の上着を握り締めたまま向かい合ってお互いの顔を見ていた。
類は今日再開してから初めて真剣な顔をして・・・私は多分一番驚いた顔になってるはずだわ。

覚えているなんて・・・あの時のことを覚えているなんて思わなかったから。
だって私以外にも沢山人がいたのよ?F3だけじゃなくて野次馬もいたし・・・花沢の家の人もいたのよ?
一番端で目立たなかったはずよ?


「牧野はあの時・・・俺が仕事でフランスに行くって言ったのに変な言葉を残したんだよ?覚えてる?」

「変な言葉?・・・な、何を言ったのかな・・・覚えてないかも」

「お幸せに・・・だよ?おかしいだろ?・・・どうしてそうなるのさ。俺はショックだったんだから!」

だって・・・西門さんが言ったんだもの。彼女と暮らすんだって・・・。
花沢類の片思いがやっとあの人に伝わったんだと思って、頑張って喜んだフリをしたんじゃない!
聞いてみろって言われたけど怖くて聞けなかった・・・そう言えば西門さんはあの後怒ってたっけ・・・
何で何も聞かなかったんだって・・・そして喧嘩になって会わなくなって・・・。

私は訳がわからなくなった・・・類が何を言いたいのか。


どのくらいそこに立っていたのか・・・雨が少し小降りになってきた。

「もうそろそろ帰ろうか・・・もう素直になってくれない?家・・・近いんでしょ?送っていくよ・・・送らせてよ」

「・・・わかったわよ。こっち・・・」

類はもう一度傘を開いてまた私の肩を抱くように自分に寄せて歩いた。
傘に当たる雨の音がさっきと違って随分優しくなってる・・・まるで何かの音楽みたいに。
表通りから小さな道に入って・・・類は私の足が向かう方向に黙ってついてきてくれた。

こんなところに住んでるなんて知られたくないのに・・・

類はそんな事少しもわかってくれないんだね。
もうすぐ目の前にボロアパートが見えてくるはず・・・足が上手く前に出なくてついに止まってしまった。
類は立ち止まった私に合わせるようにその場に立ったまま・・・


「やっぱり嫌だ・・・こんな私を見ないでよ。あんなアパートになんか帰りたくない・・・」

「どうして?牧野がどこに住んでても俺にはそんな事関係ないよ。今ここにいるって事のほうが・・・大事じゃない?」

「類には・・・いるじゃない!今ここにじゃなくても、フランスに・・・いるんでしょ?」


類は傘の中で無言のまま・・・そして私の肩を押してその道を前に進ませた。
そんな事言わなくてもいいのに、類を責めるような言葉が自分の気持ちとは反対に出てしまう。

そこの門を曲がるとアパートがある。自然と足がそっちに向かった。
そして古い2階建てのアパートの前で私が止まると類がここ?って指を差すから・・・コクンと頷いた。


「こんな時間に悪いんだけど、少し話がしたいから・・・部屋に入れてよ。ダメかな・・・」

「もう、バレたんだもん・・・でも、何もないわよ?それでもいいなら、どうぞ・・・」

カンカンと足音が響くようなアパートの2階の奥・・・カバンから鍵を出して部屋を開けた。
当然暗い部屋の中に入って電気をつけようとしたときにいきなり類が後ろから抱き締めてきた!
思わずカバンを落として、持っていた鍵も音を立てて玄関に落ちてしまった・・・!

「ちょっと・・・!類!なによ、いきなり・・・」
「いきなり・・・だなんて思ったの?そんなわけないじゃん」

暗い部屋の中で類に抱き締められてるなんて・・・状況が上手く理解出来なくて戸惑っていたら
類の手の力が強くなっていく・・・私の胸の上のあるこの腕を・・・自分の手で掴んでもいいんだろうか。
さっきの本屋さんの時よりももっと近くに・・・私の肩の上に類の顔があるんだけど見ることは出来なかった。
私はゆっくりと類の腕に手を近づけたけど、もう少しっていうところでやっぱりやめた。

「類の彼女は私じゃないでしょ・・・そんなことしたらダメだよ」

類の腕を振りほどいてすぐに電気をつけた。
振り向かないまま部屋の奥に進んだ・・・今、類がどんな顔をしてるか見るのも怖くて。
と言っても小さなキッチン以外は2部屋しかないけど。


「牧野は俺がフランスでどんな風に暮らしていたか聞かないんだね。どうして・・・?さっきから肝心な所だけ
聞かないようにしてるよね?・・・それとも、俺1人の思い過ごしなのかな・・・」

「どういう意味?それに・・・人の楽しい話なんて聞くほど余裕がなかったもの」

これは本当の気持ち・・・
あれからどうしても前向きになれなくて、元気なふりはしてきたけど楽しい日なんてなかった。

小さいため息を一つついて・・・私は類の方に身体を向けた。
類は薄暗いキッチンでほんの少し悲しそうな笑顔をしていた。
そして類は部屋に入るとそこにあった小さなテーブルを端に寄せて私の手を掴んで部屋の真ん中に座らせた。
その手を離さないまま私の眼を見て言葉を続ける・・・その眼が綺麗すぎて涙が出そう・・・!


「牧野が言ってるのは静の事だよね?・・・本当に俺が彼女を追って行ったと思ってるの?
そんなわけないだろ?気がつかなかったの?ずっと牧野が行くなって・・・言ってくれると思ってたのに。
3年前も待ってたんだ・・・牧野が止めてくれるか、付いてきてくれるか・・・それを伝えてくれるのを待ってたよ」

突然の類の言葉にびっくりしてしまった。
びっくりしすぎて類が掴んでいる手を引っ込めようとしたけど・・・類の手はもっと強く私を掴んで離さなかった。

類だって・・・確かにいつも一緒にいたけど、私には何も言わなかったよ?
私は告白するタイミングをいつも探してたけど・・・一緒にいすぎてどうしていいかわかんなくなったんだよ?
視線を外して俯いた私に、類は優しく声をかけてくる。


「俺はいつも一緒だったから、牧野は同じ気持ちだと思ってたんだ・・・だから、特別な言葉なんていらないって
そう思ってた。それもいけなかったんだろうけど、フランス行きが決まったときに牧野があんまりにも喜ぶから
行くしかなくなったんだ。空港で手を振る牧野を見た俺がどれだけ悲しかったかわかんないだろ?」

「悲しかった?・・・そんなふうに見えなかったよ?嬉しそうに行ったじゃない」

「あれだけみんなが送ってくれたらそうするしかないじゃん!誰が仕事に行くのに嬉しいのさ。
牧野こそ隅っことはいえジャンプまでして手を振ることなかったのに・・・俺と離れたかったの?」

「・・・違うよ!本当は・・・!」

本当は行かないでって叫びながら手を振ってたんだよ?
飛行機が見えなくなったときはあの人達が困るほど空港で大泣きして・・・伝えなかったことを後悔したよ。



「静さんは?・・・あの人はどうしてるの?」

類の手はずっと私の両手を包んでいる。
気がついたら私も・・・類の手をこの時初めて掴んでいた。
それに気がついたのか、類は私の手から離れて・・・今度は正面から私の肩を抱いてくれた。

さっき喫茶店で触れてみたかった類の柔らかい髪が、今は私の顔にかかっている。
ゆっくりと手が回って・・・やっと私の手が類の身体を包んだ。

「彼女はフランスで結婚してたよ・・・俺が行く前からね」
「え?・・・そうなの?」

「そうだよ・・・だから3年間、俺の恋人は仕事だった・・・牧野の代わりなんてどこにもいないから」


私にも類の代わりはいなかったよ。
だから・・・誰と付き合ってもそんな関係にはなれなかった。
どうしても類の影を見てしまうから・・・ううん、類じゃないと嫌だったから!

いつの間にか素直になれなくなった私はこんな時でも上手く言葉が出てこない。
あの時に声に出したかった言葉を全部飲み込んでしまったから・・・

その言葉をもう一度伝えるだけでいいのに・・・なんて臆病なんだろう。たった5つの文字ですら言えないなんて・・・。
ただ必死に類の背中にしがみついていた。類の手も私の背中にあってその指先の力が驚くほど強かった。


「牧野・・・今度こそちゃんと話してよ。俺はまたフランスに戻るから・・・牧野の返事を待ってる」

「フランスに戻るの?・・・いつ?」


「今週末・・・だから金曜日の夜にあの店で待っててもいい?」


今週末の金曜日にまた類と会える・・・?
その時には昔みたいに素直な気持ちになれるかしら。

伝えたい言葉を・・・伝えることが出来るかしら・・・。

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2017/07/04 (Tue) 19:43 | EDIT | REPLY |   
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2017/07/04 (Tue) 20:38 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

凪子さま!久しぶりです~!

機種変更しないと!それはいけませんね・・・私も実は不調なの。
予測文字変換機能がおかしくて、ラインで文章が打てない。

全然違う文章に変換されるから時間がかかるんです。
この間の総二郎リレーでもみんなの会話の早さについていけないのに
尚更文字変換が出来なくて追いつくどころか参加出来なかったんです。

なんでかな~!最近本気でヤバくなってる・・・。

で、お話し。

これですね・・・実は私の実話なの。笑えるでしょ?
最後に追記する予定だけど、途中までホントにあった話なんです~!

もうどのくらい昔なんだろうって思うんだけど、忘れられないから
2人に演じてもらってハピエンにしようかと・・・。

つまり、私はそうじゃなかったって事ですけど!
詳しくはラストで・・・いや、誰も興味ないって?!(*^▽^*)

2017/07/04 (Tue) 20:41 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!

えぇ!じれったいお話しはとにかく大好きな私!
早く言えよっ!ってことはよくあるんですね。

で、もって早くいい過ぎると一話完結になる・・・。
だからってこんなにじらすこともない!

結局お話しを上手いこと纏められない私に問題があるってことかな?
あはは~!

何となくですが・・・お話しの中身よりも類の行動に1人で萌えているのでは
ないかと・・・最近自分でも思うのですよ。
自分にやって欲しい行動を書いてるんでしょうね・・・!
暗い部屋で類に抱きつかれたらどうします?!

私、死んじゃう。


あ、すみません!後一話、頑張ります!

2017/07/04 (Tue) 21:08 | EDIT | REPLY |   
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2017/07/04 (Tue) 22:23 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: 嘘っ❤笑

凪子様っ‼ダメダメ❗(笑)😁

実話だけど、内容が違う~❗ダンサーかぁ、そんなんじゃなかったわぁ‼フランスじゃないし。

明日か、あさってにはラストだからそこで笑ってくださいね。あー、びっくりした!

あ、バラしたのは私だ‼

2017/07/04 (Tue) 22:45 | EDIT | REPLY |   

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