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plumeria

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夢の屋の中に入ったら番頭さんが「お帰り」って優しい笑顔を見せてくれた。
そして私達の部屋はあの特別室だと教えてもらい、本当にお客さんとしてここに泊まるのかと思うとドキドキした。

総を連れて廊下を歩いてると一緒に働いてた人達からも「お帰り~!」の声と同時に「格好いい・・・」のため息。美作さんの時も凄かったけど、総も同じ・・・しかも今回は私の恋人だと知れ渡ってるのか何度も「本当?」って尋ねられた。


「は、はぁ・・・この人、なんです」
「うっそー!!牧野さん、実はモテるんだぁ?!」

「あはは、そんなんじゃないんだけど・・・子供達には言ってませんよね?」
「うん、女将さんからちゃんと指示が出てるから大丈夫だよ」


でも、これだけ騒がれたら心配・・・紫音たちが変に思わないだろうかとヒヤヒヤした。しかも総の方は然程気にもせずに、気楽に「今晩は~」なんて愛想笑いしてるし!
こんな田舎の旅館なんて泊まらないから珍しいみたいで、面白そうに辺りを見回してた。

「ここだよ」って特別室のドアを開けたら、奥からは楽しそうな声が聞こえてくる。
それを聞いたら安心して総を見上げた。彼も「暢気だなぁ」ってクスクス含み笑いして、急いで部屋の中に向かった。


「あ!そうちゃんとちゅくちちゃんがかえってきたぁ!」
「そじろにいちゃん、だいじょうぶぅ?泣かなかった?」

「は?泣くわけねぇだろ?つくしじゃあるまいし」
「えっ?!止めてよ、私が泣き虫みたいな言い方!」

「ちゅくちちゃんは泣き虫だよね~」
「ね~!」

「な~!」って総まで子供達と一緒になって私のことを泣き虫だって・・・でも、その時に総に縋り付く双子を見てると胸が熱くなった。


美紀さんはエプロンも外して子供達の遊び相手をしてくれてたみたいで、額に凄く汗をかいていた。「どうしたの?」って聞いたら「パワーが有り過ぎて!」・・・だって。
だから私達が帰ってきたら「やれやれ、仲居の方が楽だわ!」って笑いながら仕事場に戻ると言った。


「美紀さん!ありがとう・・・あの、子供達、何も言わなかった?」
「うん。なんにも言わなかったよ?大事に育てられてるんだねぇ・・・これっぽっちも疑ってなかったみたい。逆に連れて来れくれたお兄ちゃん・・・吉本さんの事を心配していたよ?」

「・・・そう」
「何て言っていいのか判んなくて困ったわよ。でも、良い子達だね!で、つくしちゃんに似てるって思ったけど彼に似てるのかもね」

「・・・うん、その方が良いんだけどね!」
「確かに!!」


振り向いたら総と双子が並んでテラスに出て、そこからの景色を眺めていた。花音が抱っこをせがんだら左手で抱き上げて、紫音もお強請りしたけど包帯を見てやめたみたい。
それでも総が右手を出して紫音を引き上げ、両方の腕で抱きかかえてた。

「いい人だね・・・」、美紀さんはそう言うと特別室から出て行った。



「先に風呂、入って来いよ。俺はこの通りの手だからここの露天風呂に1人で入るわ」
「そう?じゃあ・・・紫音君、花音ちゃん、私とお風呂に入ろうか?」
「「うわぁーーいっ!!」」


うわ・・・緊張する。私も自分の子供なのにお風呂に一緒に入るのは初めてだ。
さっき買った自分の着替えと、東京から持って来た子供達の着替えを持って「行ってきまーす!」と3人で元気よく部屋を出ていった。


大浴場と言っても夢の屋は温泉旅館じゃないからそこまで大きくない。それに美作家で大きなお風呂には見慣れてる。恐らく湯船の大きさが少し旅館の方が大きいぐらいで、浴室そのものは美作家とそんなに変わらないはず。
だから驚くこともなく、双子は私に髪を洗ってもらう事で大はしゃぎだった。

まだまだこうしてみると小さいんだな・・・って裸の2人を見たら思ってしまう。
それでも産まれた時しか知らないこの子達の身体を見て、3年半の月日が経ったんだって・・・やっぱり泣きそうだった。


「あーっ!!ほら、ちゅくちちゃん、泣いてる!」
「ほんとだぁ!どうしたの?かのんたち、お利口さんじゃなかった?」

「え?あぁ・・・あはは!泣いてないよぉ!大丈夫、2人ともお利口さんだよ?」

この後に湯船に3人で浸かってお湯の掛け合いっこ。
誰に教えてもらったのか童謡まで歌い出して、その声が大浴場に響いた。それを数人居た他のお客さんに「可愛いねぇ」なんて言われて私が真っ赤になってた。


お風呂から上がって浴衣に着替え、特別室に戻ったらもうお料理が並べられていた。
それはいつか私が食べたいって思っていた料理長自慢の郷土料理!凄く綺麗に盛り付けられてて、総は豪快な「舟盛り」に驚いていた。

「すげぇな!舟盛りは食ったことあるけどこれだけデカいのは初めてかも」
「夢の屋の料理長はこの辺でも腕が良いって評判なの。だから美作さんもここに来たって言ってたから」

「そうなんだ?へぇ・・・旨そう!」
「うん!私も働いていた時にはつまみ食いしかしてないんだけどすっごく美味しいよ!子供達のも食べやすいようにしてあるんだね」

「・・・つまみ食い・・・」
「すごぉーい!ぼく、たべたことない、こんなの!」
「かのんもはじめてぇ!どれからたべたらいいの?」

「ははっ、好きなものから食え!今日はマナーなんて面倒な事言わねぇから!」
「「やったぁ!!」」


子供用の浴衣・・・紫音は総とお揃い、花音は私とお揃い。端から見たら完全な家族に見えるだろう。


総が紫音に焼き魚の解し身を食べさせてる。
花音が総に食べられない野菜を渡して怒られてる。
紫音が総のお皿から海老の天ぷらを取っちゃった。
総が花音にジュースを注いでる・・・私は黙ってそれを眺めるだけで箸は全然動かなかった。

1回でいいからしてみたかった・・・私達以外誰も居ない場所でのご飯。

こんな形で実現するとは思わなかったけど、この光景を忘れたくなくて食べる時間さえも惜しかった。


「あれ?ちゅくちちゃん、たべないの?」
「おなかいたいの?」

「え?あぁ・・・そんな事ないよ?お腹が空いてなくてね、だからだよ」

「・・・紫音、花音。そろそろ言い方を直す練習しようか。ちゅくち、じゃないだろ?つ・く・しだ。言ってみな?」

急に総が紫音たちの発音の訂正を始めたから驚いた。
美作さんに任せていたし、そのうち直るだろうから気にもしてなかったから。そして子供達は顔を見合わせて「ちがったの?」、なんて言ってる。


「ちゅ、ちゅ・・・つ?つ・・・くち?」
「惜しい!つ・く・し!」

「つ・・・つーくーし?」
「そうだ。つくしだ。練習したらすぐに直るから今度から気をつけろ。人の名前はつけてくれた人の思いが込められてるんだから丁寧に呼んでやれよ?」

「はーい!そじろにいちゃん!」
「・・・総二郎だっての!」


ご飯が終わったら、子供達はこれまでの話をしてくれた。
私と総にとっては「誘拐」だったんだけど、この子達は何にも判ってないから、色んな出来事が総て面白かったようだ。
総は畳の上に寝っ転がり、私はその横に座って2人の話を聞いていた。ほんの少し胸が苦しくなったけど、一生懸命笑顔を作って聞いていた。


「あのね、ママがね、知らないお姉ちゃんとお話してね、おようふくきがえたの。しょんがね」
「し・お・んだぞ?花音」

「・・・しおんがね、女の子になったんだよ?かわいかったよ~!」
「かのん、そのはなしはダメだったら・・・!」

「そうしたらね、こんどはおっきなカゴにはいってね、その中でぐるんぐるんまわったの~!」
「かのん、ぼくをけったんだよ?いたかったぁ!」


「そうなの?面白かったのね」、とは言うけどその裏では涙が溢れるのを必死に堪えていた。仁美さんの事は何にも判っていない・・・でも、この後の彼女の処遇を考えたらこの子達にも判ってしまうのかしら。
その後もフェリーの中の探検の話や、車を運転していた女の人の話も教えてくれた。それの何処にも束縛された感じはなかったし、吉本さんにも好意すら持ってるようだった。

1度加部島の家に行ったけど、お腹が空いたっていうこの子達のために近くのお店に車で出掛けたらしい。その帰り道、車内でジュースを溢した紫音の事を怒らずに急いで替えのズボンを探してくれたって。
それが総の出会った女の人なのか、と納得した。



「おにいちゃんの用事ってなんだったのかな~」

紫音がボソッと言うから、総がそれに答えていた。

「きっと途中まで一緒だったお姉ちゃんと楽しんでるんだよ。今頃仲良くしてるさ」
「もうっ!そんな言い方して!」

「ははっ!」って笑ってたけど、勿論子供達には「何の事?」だから、私がペシッ!と総の背中を叩くだけ。


「そうなんだ。じゃあいいや・・・おにいちゃんが誰かとなかよくしてるなら」
「・・・紫音?」


「おにいちゃん、すごくさみしそうだったから。うみをね、ずーっとながめてたの。おひるもよるもずーっと」


紫音はよく人を見てる。
総もそれを強く感じたみたいだった。





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