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plumeria

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「・・・・・・女将さん、お世話になりました」
「言う事はそれだけかい?」

「・・・・・・申し訳ありませんでし・・・た」

女将さんが超不機嫌な顔して見送ってくれる中、美紀さんや料理長にも苦笑いされて総の横に立っていた。
総も無言で頭を下げるしかなく、私はもう何処を見ていいのやら・・・それでも料理長からお昼にってお弁当を持たされたら、急に笑顔になって女将さんにも呆れられた。

子供達に「どうしたの?みんな」って言われても誰も答えられない・・・無邪気な目が逆に拷問みたいだった。


「女将さん、あの・・・今度こそちゃんと片付けてからここに来ますから・・・そろそろお許しいただけませんか?」
「・・・・・・仕方ないねぇ!そこに小さいのが居るから言葉にも出せないよ。本当にもうっ・・・」

「大変申し訳ありませんでした。悪いのは・・・」
「えぇ!勿論西門さんが悪いんですよっ!!あれだけ言ったのに!」

総が喋ったら余計怒られそうだったから、さっさと車を出すようにお願いした。
彼が車に向かったら紫音と花音も嬉しそうに後を追いかけて、私はその光景を横目で見て笑ってた。


「・・・いい人だとは思うけどね」、と急に女将さんが言葉を出した。それは怒ってるとかじゃなくて心配そうに・・・。
総が子供達と巫山戯ながら車に乗り込むのを目を細めて眺めていた。それは美紀さんも、他の人も同じ・・・これだけ仲がいいのに名乗り合えないなんて、と思ったのかもしれない。

「お父さん」じゃなくて「そうちゃん」、「お母さん」じゃなくて「つくしちゃん」・・・これを聞くのが辛いと言われた。


「美作家の皆さんとはこれから話合いになりますが、西門家の問題が終わってないのでどうなるか判りません。もしかしたら子供達には事実を話すかもしれないし、まだ先かもしれません。
それに1ヶ月もしたら彼には披露宴が待っています。その前に奥様との事を終わらせたいと思ってるみたいだけど私には踏み込めない部分です。待つしか無い・・・そう思ってます」

「・・・そうかい。まだ苦しいねぇ」

「いえ、子供の事を知ってもらったので随分気持ちは前向きになりました。出来るだけ奥様にも理解してもらえるような話合いが出来れば・・・それだけです。私はこれからも彼を信じて頑張るだけです」


総が車を玄関前に回して来たら、エンジンをかけたまま降りてきてもう1度深く頭を下げていた。
それを見て双子も降りてきて、総の横に並んで「ありがとうございました!」って・・・それを見たら女将さんも怒った顔は出来ないみたいで、シワシワの顔をもっと皺クチャにして「またおいで」って手を振ってくれた。

私も女将さんと抱き合ってお礼を言い、美紀さんにも同じように別れを告げた。
「あっ!記念写真撮って!」って言われてスマホを持たされたのは私・・・何故か美紀さんは総の横に立ってピースサインをしていた。


「じゃあ、また・・・女将さん、元気でいて下さいね!」
「あぁ、あんたもね。まだ色々あるんだろうが、ここで働いてた時に比べたら何でも耐えられるだろ。それでも息抜きしたかったらまたおいで」

「はい、必ず来ます。今度はちゃんと・・・親子になって」


「「バイバーイ!!」」と子供達の声が響いて、車は夢の屋から離れていく。
窓を開けて振り抜いたら、やっぱり女将さんは腰を曲げて小さくなって泣いていた。それを支える美紀さんが「またねぇー!」と叫んでる。
私もやっぱり涙で景色が歪んで、喉の奥が熱くなって、大きく手を振り返すことしか出来なかった。




「・・・どうして力を入れたんだね?重たい物でも持ったの?・・・細かく縫ってたから大丈夫だけどその端っこが裂けてるね・・・」

「すみません・・・重くはなかったんですが変な体勢だったので」
「・・・は?」

総は昨日来た外科の先生にもう1回右手の傷口を処置してもらっていた。
私は付き添わなくてもいいのに一緒に謝って先生には笑われるし、子供達は診察室や処置室が珍しいみたいでジッとなんてしていない。待合室で大人しくせず、ウロウロしては看護師さんに「こらっ!」って怒られていた。

2回目の処置が終わって傷口の閉鎖を補強する皮膚接合用テープが追加された。


「まぁ、これで大丈夫でしょう。抜糸は1週間から10日先だけど、これを持って東京の掛り付け医に行きなさい。どうしても傷口が疼くようなら早めに受診する事。もう無茶しないでよ?」

「はい、本当に申し訳ありませんでした!」
「奥さんも心配だねぇ、やんちゃな旦那さんだと」

「・・・はぁ、まぁ・・・」


先生は昨日と今日の処置の内容を書いた紹介状のようなものをくれて、総はブスッとしてたけど私は平謝り・・・。
そして外科を出たら、高速道路に入って今度は福岡空港に向かった。


連絡を入れたら車を貸してくれた会社の人がわざわざそこまで来てくれて、随分汚してしまったからここでも謝りっぱなし。
ハンドルもシートも血で汚れていたからその人はドン引きしていた。しかも今度は小さい子が2人も一緒に居るし。

「本当に申し訳ありません!怪我をしてしまったものですから・・・何回か拭いたんですけど、あちこちに飛び散ってて・・・」
「はは・・・は、いや、まぁ・・・お怪我なら仕方ありません。事故・・・じゃないんですよね?」

「あぁ、事故ってはない。不注意でバッサリ手の平切っちまってさ。後で新車を手配するからそれで勘弁してくれる?」
「いえいえ!そんな事はいいんですけど・・・有り難うございますっ!」


その人達と別れたら、今度は双子が空港で大騒ぎ!

「パパとママにおみやげかうの!」
「えっ?!お土産・・・お土産、買うの?」

「うん!だっていつもおでかけしたらおみやげかうよ?あっ!あれがいい!ひよこさん~!」
「あぁっ!待って、紫音君、花音ちゃん!」

「くくっ、元気いいな!」


そんなドタバタした「遠足」も終わった・・・。
私達は九州のお土産を抱えて、その日のお昼の飛行機で東京に戻った。


美作さんと仁美さんが待つお屋敷に向かう・・・今度はそれに恐怖を感じていた。




*********************


<sideあきら>

総二郎からメールで「福岡空港に着いた」と連絡があった。
これでやっと双子もここに戻ってくる・・・そのメールを見て、ドサッとソファーに沈み込んだ。


「あきら君・・・総二郎君から連絡だったの?」
「・・・あぁ、お袋か。たった今、福岡空港に着いたってさ。1番早い便で東京に戻るらしいから夕方には紫音も花音も帰ってくる。悪いけど親父への連絡、今回も頼んでいいか?」

「それは大丈夫だけど・・・どうするの?仁美さん・・・また離れに居るんでしょう?」

「・・・・・・」


警察が吉本を連れて屋敷を出て行った昨日の夜・・・仁美は共犯として事情聴取を覚悟したのにそんな流れにはならなかった。
だが俺と同室も無理だと言ってすぐに小夜を連れて離れに閉じ籠もったきり・・・今日は1度も顔を見せてはいない。
食事も小夜が運んでいって、僅かに口にする程度のようだった。

そして今朝になっても警察からは何も言って来ない・・・もしかしたら親父が何か話したのかもしれないが、敢えて確認はしなかった。もしも出頭要請があったら応じる、その考えに変わりはなかったから。


「どうしたらいいのかしら・・・ご実家にもこの事は伏せてるしねぇ・・・」
「だけど子供達に会わないって訳にはいかないだろう?紫音たちは仁美のした事を判ってない・・・それなのにママはもういない、なんて言えないだろう」

「子供達の気持ちを考えたらそうだけど、仁美さんはもう2度と昔のような気持ちであの子達を見ることは出来ないと思うの。そんな事になったら今度は仁美さんが病気になってしまうわ」
「確かにな・・・子供達には気付かれなくても一生忘れることは出来ないな・・・」

「あの子達を本当の両親に戻そうって話・・・彼女にしたの?」

「いや、その前に警察が来たからまだ話してない」


「それもだけど・・・もう限界・・・なのかしら」


お袋が言ったのは仁美と俺の事・・・仁美が美作の人間として暮らしていくことについてだと思った。
大人だから表面上は何事もなかったかのように振る舞うことは出来る・・・だが、それと同時に相手の感情も見抜くことも出来る。

それも相当なストレスだろう。
ここに住むという事はそのストレスを一生感じ続けることになる・・・そう言う意味だと理解した。
そして俺は仁美がそれを望んでいることも、お袋にはまだ伝えていなかった。


「双子を牧野達に返したとして・・・お袋は仁美を許せる?」

「・・・・・・どうかしら。もう責めようとは思わないし、気持ちは痛いほど判るのよね・・・。
でも彼女がした事は、一歩間違えたら何人もの命が失われたかもしれないほどの犯罪の協力ですもの。しかも血が繋がらないとは言え美作家の子供を巻き込んだのよ?
それを事件前の状態に戻すのは時間が掛かるわ。それこそみんなが幸せになって心から笑えるようになった時、彼女を許せるんじゃないかしら」

「絶対に許せない訳じゃないんだな?」

「・・・数年間だけど私も仁美さんを娘だと思って暮らしてきたわ。出来るなら一生娘で居て欲しいけどね・・・。あきら君はどうなの?」

「俺?俺は・・・仁美の心の傷に寄り添ってやりたい、そう思うよ」

「くすっ、やっぱりね・・・あなたはそう言うと思ったわ」


もうすぐ双子が帰ってくる。
あと何回「パパ」と呼んで抱きついてくれるんだろう・・・そう考えたら、やはり淋しいもんだと苦笑いしか出なかった。




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