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plumeria

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タクシーに乗ったら双子は目が覚めてきて、欠伸をしながらだけど窓の外を見て声を上げ始めた。
「スカイツリーが見えたぁ!」「あっ!前に行ったばしょ~!」とか。

総はタクシーの助手席なんて慣れてないから後部座席で双子と一緒に座り、私は1人で前に乗っていたからたまに振り向いて様子を窺っていた。
紫音の咳は酷くはなってないけど鼻水が出てる。花音も声が少し掠れてる・・・もしかしたら気疲れで今夜は熱を出すかもしれない。

それでも自宅ならみんなが傍にいて守ってくれる。
そんな事になっても安心・・・姿が見えて手を握ってあげられたらそれで充分。
怪我もなく東京に戻ってこられて本当に良かった・・・女将さんに会わせることが出来て良かった。辛い出来事だったけど、その中でも少し前進した部分はあったんだ。

「ちゅくちちゃん」が「つくしちゃん」になったように・・・。



「そうちゃん、手、いたい?」
「ん?あぁ、少しな・・・硝子で切ると結構痛いからお前等も気をつけろよ?」

「かのん、窓なんてわらないもん!そうちゃん、怖かったぁ!」
「そっか?あっ、あの家あのままだな・・・怒られるかな?」

「タオルもらったのも、あのお兄ちゃんに言ってないね」
「・・・だな。まぁ、怒らないだろうけどな」


紫音が怪我をした総の手を触って自分が痛そうな顔をする。花音がわざと突いて総に「こら!」って怒られて笑ってる。
今日はこの笑顔のまま寝ることが出来るだろうか・・・双子のキラキラした目を横目で見ながら、この先この瞳が曇りませんようにと願いながら前に向き直った。


もうすぐ美作さんの自宅・・・その時に紫音が「あっ、おうちのやね!」って叫んだ。そうしたら花音も総の上を跨いで紫音と並び、窓にへばりついて眺めてる。
やっぱり4日ぶりに見る自宅は子供には懐かしいのか「ほんとだぁ!」って花音も可愛らしい声で叫んだ。


そうして門の前に着くとタクシーを降りて、総がインターホンで帰ったことを伝えた。
門はすぐに開き、紫音と花音は手を繋いで走って玄関に向かった。お屋敷の方から飛び出してきたのは美作さんじゃなくて夢子おば様。

「おばあちゃまぁ~!」って同時に叫びながら夢子おば様に抱きついて、おば様はしゃがみ込んで双子を抱き締めて泣いていた。
「どうして泣くのぉ?」「さみしかった?」って双子は笑いながら聞いてるけど、おば様は返事も出来ない。
いつもの綺麗な顔をくしゃくしゃにして泣き止まなかった。


「おばあちゃま、パパとママは?」
「あのね、ひこうき乗る前におみやげかってきたの。ねぇ、どこ?まだ会社?」

「え?あぁ・・・ううん、家に居るわ。奥の離れ・・・そこにパパとママは居るわよ?行ってくる?」


「うん!」「いってくるぅ~!!」、また紫音が差し出した手を花音が取って、一緒に離れに走って行った。

おば様はその後ろ姿を見ながら目元を拭いて、今度は私達の所に近づいてきた。
総の右手の包帯に驚いた目をしたけど「問題ないよ」って笑うと「ご苦労様・・・」と、それだけ。私の前に来たら「頑張ったわね」って抱き締めてくれた。

そして吉本さんの身柄は警察にあるから心配しないようにと・・・2度と近づかないように警告しておいたと言われた。


「それで、吉本さんは仁美さんの事を話したんですか?」

「・・・ううん、それがね、言わなかったの。仁美さんは覚悟を決めていたみたいだけど、吉本が全部1人で計画して実行したって言ってね。トイレから連れ去った女の人には頼んだだけで名前も知らないって。仁美さん、自分から警察に言おうとしたから止めてしまったわ」

「自分から?共犯だって自分から名乗ろうとしたんですか?」

「えぇ。気持ちが落ち着かないんでしょうね。罪を認めて償いたかったんだと思うけど、それだと子供達ともう会えないし、また子供達に嘘をつかなきゃいけないでしょう?だからって彼女のした事は消えないんだけど子供達の気持ちの方を優先してしまったの」


「パパァー!ただいまぁ!」
「ママァー!おみやげかってきたよ~!!」

大声でパパとママを呼びながら、双子の姿は随分離れてしまった。
喜んで走って行く先で、仁美さんは笑顔で抱き締めてくれるんだろうか。




******************


<sideあきら>

「パパァー!ママァー!!ただいまぁ!」
「何処にいるの?パパァ?ママァ?!おみやげかってきたよ~!!」


庭の方から双子の声が聞こえた瞬間、仁美の目から大粒の涙が溢れた。
無理もないがここは泣いてたら困る・・・ハンカチを取ってきて彼女に手渡すと、無言で受け取って慌てたように目元を拭いていた。

ここの扉をドンドンと叩く音がする。
その力強さにホッとしながら俺が入り口まで迎えに行くことにした。


「仁美は具合が悪くてここで休んでいたことにしよう。ベッドで寝とくか?」
「いえ・・・このままで。どっちにしてもバレるわ」

「くすっ、そうだな。俺が怒られるんじゃないか?ママを泣かせたって」
「・・・ふふ、その時は宜しく」


仁美を部屋に残したまま、入り口のドアを開けた。
途端に飛びついて来る紫音と花音・・・その重みも4日ぶりだ。いつものように右と左に別れて突進してきて、危うく後ろに押し倒されるところだった。

「おい、ちょっと待て!急に飛び付くなよ、転けちゃうじゃないか!」
「あはは!パパァ、だたいまぁ!」「会いたかったぁ!!」

「・・・あぁ、パパも会いたかった。お帰り、紫音、花音」

「パパのにおい、するぅ~!」「ホント、パパのにおいだ!」

「そうか?淋しかったか?」
「さみしかったぁ!」
「さみしくないよ、だってつくしちゃんとそうちゃんがいたもん!」


親子だと確信してまだ2ヶ月にもならない総二郎はどんな気持ちでこの子達と一晩過ごしたんだろう。
名乗れないままの家族4人の部屋はどんなだっただろう・・・このあどけない表情が逆に辛かったかもしれないと、ほんの少しあいつを気の毒に思った。


「ママは?奥のおへや?」
「あぁ、実はママ、少し体調壊してるんだ。行ってもいいけど五月蠅くしちゃダメだぞ?」

「「は~い!!」」


俺の言葉なんて聞いちゃいないだろう。
紫音と花音はドタバタと足音を響かせて奥に走って行った。そして大きな音を立ててドアを開け「ママァ!」と叫んだ。
俺が立っている場所からは仁美の声は聞こえない・・・声にもならなくて双子を抱き締めて泣いてるんだろう。数分間3人だけにしてやった後、俺も部屋に向かった。


そこでは目を真っ赤にした仁美の左右に双子が座って、二人同時にフェリーの話や呼子の話をしている。
お土産だと言っていたぐしゃぐしゃの包みはテーブルに投げ出されてるし、着ていたコートも床に脱ぎ捨てられていた。それを俺が拾ってソファーの背凭れ掛け、土産の紙袋から中身を出した。

可愛いひよこのイラスト・・・花音が強請って買ってもらったんだろう。
その時の牧野と総二郎を想像して噴き出しそうになった。


子供達の顔は楽しそうで、事件を想像させるような言葉なんて出なかった。本当に遠足に行った子供のよう・・・時間も場所もバラバラで全然繋がらない話を仁美は微笑んで聞いていた。

いや、聞いてるんじゃない・・・紫音と花音のクルクル変わる表情を見て、それを頭に刻み込もうとしてるようだった。


「フェリーってね、すこーしだけゆれるんだよ?でもね、ゲーム出来るところがあった!」
「つくしちゃんがね、エビを食べさせてくれた!おいしかったぁ!」

「あのお兄ちゃんのおうちね、すっごく古くて・・・ちょっとくさかったぁ!あはは!」
「そうちゃん、2回もびょういんに行ったの。手が真っ赤でね、こわかった」

「おふろはね、つくしちゃんと入ったの。お歌うたったら上手ってほめられたよ!」
「大きな橋があってね、そこを車ではしったの。海がきれいだったよ!」


「そうなの・・・楽しかったわね。良かったね・・・」
「「うん!!でもお家がいちばん!!」」


そう言ってくれるなら俺達の子育ては間違ってなかったんだと・・・この3年半は無意味じゃなかったと思うと誇らしかった。





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