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plumeria

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あきらの家で今後の話をした後、取り敢えず今日は鎌倉に帰ろうと言う事になり美作に置いている自分の車に乗った。
時間は既に午前1時過ぎ・・・色々あって身体も心も疲れ切っていたが、突然の親子の名乗りと今後の生活が大きく変わるつくしは頭が混乱しているのか眠くもならなかったようだ。

ただ、言葉も殆ど出さない。
俺もわざと巫山戯た話に持って行く雰囲気じゃなかったから黙ったまま運転していた。


それでも鎌倉が近づく頃には少し目を閉じて窓に凭れ掛かってる。
月明かりで見えたつくしの顔が、また少し痩せてしまったように見えた。


「つくし・・・着いたぞ」、そう声をかけた時、ハッと身体を起こして目を擦り窓の外を確認。数日前に飛び出した鎌倉の家の前だと判ると急いで車を降りて玄関を開けた。
この時間になると誰かに見られる心配も無かったから、俺もすぐに車を降りて中に入った。


そこはあの時に作ろうとした夕食の材料が出たままで、おたまは床に転がってる。
つくしはそこにぼーっと立ってて、虚ろな目で変色した肉のパックを見ていた。
「捨てなきゃね・・・」って小さな声で呟くとそいつをゴミ箱の中に入れ、まだ痛んでない野菜は冷蔵庫にしまって、転がってるおたまを拾ってシンクに置いた。


「・・・今日はもう何もしなくていいから休め、つくし」
「うん・・・明日も仕事に行かないんだよね、私・・・」

「あぁ、おばさんがそうしてくれるから大丈夫だ。早起きなんてしなくていいから」
「総は?西門にいつ戻るの?」

「・・・明日の朝戻る。それもお前が気にしなくていい」


つくしの肩を抱いてキッチンからこいつの部屋に連れて行くと、ベッドの端に座って大きく息を吐いた。
そして思い付いたように俺の顔を見た後で、床に座り込んだと思ったらベッドの下からアルバムを取り出した。

軽く埃を払ったそいつを持ってまたベッドに座り、俺に横に座れと手招きする・・・何となく意味が判ったけど、そんなものをベッドの下に隠していたとは、と可笑しくなった。


「これね・・・仁美さんと美作さんからもらった写真なの。あの子達が1歳になるまでは私が病気だったから会ってないの。その代わりにって沢山写真撮ってね、意識が戻った時にプレゼントしてくれたんだ・・・だからこうして自分でアルバム作ったの」

「そうか・・・で、見ていいのか?」
「ふふ、勿論・・・可愛いよ?涙出ちゃうよ?」

「ばーか!お前じゃあるまいし」


でも、表紙をめくろうとするだけでドキドキする。この中に居る彼奴らの親はあきら達だ・・・それでも悔しがらずに見ることが出来るだろうか。
つくしが俺の顔を覗き込んで「大丈夫だよ・・・開けてみて?」って言うから思いきって表紙をめくった。


1番初めに貼ってあったのは生まれたての双子と疲れまくったつくしの写真だった。
ヨレヨレなのにピースサインして紫音と花音を抱っこしてる・・・新生児の時の親子写真はこの1枚だと言われた。

その後からは全部背景が美作だった。
あの屋敷の庭で遊んでるところ、泣きてる顔、笑ってる顔・・・いつも2人で寄り添って似たような服を着て、人懐っこい笑顔で笑った写真ばかりだった。
コスモス畑でベビーカーの写真、クリスマスの写真・・・少しずつ顔が変わっていくのが判るが全部写真の中でだけ。もうこの頃の此奴らに触れることは出来ないんだと思うと・・・何かが頬を伝った。


「・・・・・・あれ?」
「・・・くすっ、ね?泣けるでしょう?本当に可愛いよね・・・私もね、この中でしか会えなかったの」

「・・・・・・俺は別にこれからでも・・・」
「でも3年半・・・色んな初めてがある3年半を一緒には過ごせなかったのね」

「これからでも初めてはある・・・いくらだってあるじゃねぇか!」
「うん、それはちゃんと私達の目で見なきゃね・・・」


アルバムを閉じて今度は机の上に置いた。
もう隠しておかなくてもいいからって、あの縫いぐるみも持って来た。でも俺がそれをもう見付けていたって話したら目をまん丸くさせて驚いていた。
「いつの間に・・・!」って言うから「ここに初めて泊まった日のお前のバスタイムに粗探しした」って言うとケラケラ笑い出した。


「だって急いでたんだもん。一生懸命隠し場所探したのになぁ・・・」
「よく言うよ。足元に転がってたじゃん」

「あはは、確かに。でも押し入れとか可哀想で入れられなかったんだよね。お誕生日プレゼント・・・随分先だけど今年の12月は総のお誕生日会も出来るかな・・・」
「・・・きっと出来るさ」


そこまで話したら俺達は完全ダウン・・・着替えもせずに服のまま、つくしを抱き締めて眠りについた。




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<sideあきら>

総二郎達が屋敷を出て行ってから、仁美は離れではなく自分たちの部屋に戻ってきた。
ただし、そこで寝るというのではなくすぐ近くにあるゲストルームを使うと言った。

離れには今度から牧野が入る・・・1日でも早く自分の気配をそこから消した方がいいだろうと薄く笑っていた。


「そんな事牧野は気にしないのに。それに話合いは終わったんだから自分の部屋で休まないか?」

「・・・そんな事したら決心が鈍るから嫌だわ。話合いは出来たけど、まだ数日しか経ってないもの・・・あきらさんがって言うより自分で自分の事が許せない。だから1人にさせて下さい・・・」

「・・・変な事は考えないな?」

「子供達が帰って来たのに?その目の前で無茶はしないわ・・・多分、そんな勇気は無いんです、私・・・臆病だから」

「それならずっと臆病なままでいてくれ。時間が薬というならたっぷり使っていいから・・・」


そして双子の寝室を2人で覗いた。
足音を立てないようにそっとベッドの傍まで行くと、紫音も花音もぐっすり・・・でも、不意に仁美が紫音の額に手を伸ばした。
その動きは愛おしくて、と言うのではなく慌てた感じで、薄暗い中だったけど彼女が凄く真剣な目付きだとすぐに判った。


「どうした?何かあるのか?」
「紫音、熱が高いわ。もしかしたら風邪気味だったから拗らせたのかも・・・今更だけどインフルエンザだったらいけないから花音と寝室を別けた方がいいわ」

「何だって?熱・・・本当だ、熱い!」
「あきらさん、お医者様を!」

「判った!小夜も呼んでくる・・・!」


深夜になって急に騒々しくなった我が家。
仁美が紫音の熱に気が付いて医者が駆け付けるまでの時間は40分ぐらいだった。
その間は小夜が紫音の看護をして、仁美は急に起こされてぐずった花音を抱いて俺達の部屋にいた。お袋達も慌てて起き出してきたが、紫音に発熱以外の症状は今の所無いからと自室に戻るように頼んだ。


「大丈夫なの?あきら君、何度ぐらいあるの?」
「小夜が測った時には39度を超えてた。もしかしたらインフルエンザかもしれないから今日は隔離する。花音も俺達で寝かせるから心配するな」

「39度・・・高いわね。きっと慣れない環境で疲れたのね・・・可哀想に」
「お袋、それは言うな」

すぐ後ろで花音を抱いて寝かしつけてる仁美の耳にもその言葉は聞こえただろう。でも、小さな声で子守唄を歌いながら花音を見つめているだけだった。
お袋も慌てて口を塞いだが「でも、本当だし・・・」なんて唇を尖らせてる。

お袋のこんな態度も時間が薬か・・・そう思うしかなかった。


医者の話だと今の時点でインフルエンザ反応はないらしいが、発熱して間がないからもう1度明日検査するとの事だった。
大至急処置が必要という状態でもないから看護師として小夜が傍に付くだけでいいだろうと言われたが、その役目を仁美が申し出た。


「私が一晩中傍に居ます。何かあったら小夜さんを呼びますから・・・いいでしょう?あきらさん」
「でも、君だって最近は殆ど寝てないのに・・・」

「もうこんな事をしてあげられる時はないんだもの・・・お願いします。最後の我儘です」
「花音は・・・」

「花音はあきらさんが一緒に居てあげて?そうしたらこの子も安心するわ」
「・・・・・・」



お袋もそれを聞いて「いいんじゃない?これも親の仕事よ!」って笑いながら自分の部屋に戻って行った。


その日の夜、熱に魘されながら紫音は仁美の手を握っていた。仁美もずっと紫音に「大丈夫よ」と声を掛けた。
花音は俺の横で天使のような寝顔を見せてくれた。

俺は一晩中花音の寝顔を見ながら、こいつが生まれてから今日までの事を思い出していた。
どんな宝石よりも輝いた年月・・・少し湿っぽい小さなこの手は俺の幸せそのものだった。





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