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plumeria

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冬独特の弱々しく柔らかい日差しが俺達の顔を照らした。
それと同時に目を覚ますとつくしはまだ深い眠りの中で、目の下に出来たクマがこいつの疲労を物語っていた。

顔に掛かっている髪の毛を直してやってもピクリとも動かない。
そのまま頬を撫でても眉すら動かさない・・・本当に疲れ切ってるんだと思うと抱き締めたくなる衝動も抑えるしかなかった。
そう言う俺も身体が痛い・・・今頃になって手の傷も疼くし、すげぇ倦怠感。このまま今日もここで寝ときたいぐらい起き上がるのが億劫だった。


「・・・そうは言ってられないか・・・くそっ!」

流石に戻らないと親父達が変な動きを始めるかもしれない・・・裏で警察に動かれたら厄介だ。
仕方なくベッドを抜け出すとつくしが冷えないように布団を掛け直し、キッチンで珈琲を淹れた。


時間はもう9時過ぎ・・・あきらはどうしただろうかと電話を掛けたらそれには出なかった。
あいつも3日間会社を休んだんだから、こんな朝早くからもう業務に追われてるのかもしれない。美作の自宅に電話をかけ、夢子おばさんを呼んでもらった。


『・・・おはよう、総二郎君。今は何処?』
「おはよう、おばさん。今は鎌倉・・・つくし、まだ起きねぇから」

『あなた!本当に懲りないわね?こんな時にまで・・・』
「は?違うって!何にもしてねぇって!つくしにそんな体力残ってねぇから!」


・・・なんで朝っぱらからダチのお袋さんにこんな説明してるんだか。
一瞬目眩がしそうだったけど、気を取り直してあの後の事を聞いた。あきらから今後の事を聞いたのか、仁美さんは今、どうしてるのか。


『あきら君からはあなた達が帰ってから話を聞いたわ。うん・・・仕方ないって言うか、それが本来の姿だって思うから勿論パパも私も反対はしなかったけど、西門の問題がどうなるかは貴方次第でしょう?あきら君もそれには協力して解決させたいって言ってたけど、私としてはあの子をあんまり巻き込んで欲しくはないけど?』

「悪い・・・あきらに結構動いてもらったから仁美さんの事が後回しになったかもしれないし・・・それは申し訳なかったって思ってる」

『いいのよ、そう言う性格だもん、あきら君。それより紫音が熱出しちゃってね、今日はここに来ない方がいいと思うの』

「はっ?熱・・・やっぱり風邪拗らせたのか?」


紫音は咳が出てるってあきらも加部島の女性も言っていたし、東京に着いてからも鼻声だった。

もともと紫音の方が色んな変化に敏感だったり繊細な部分があるし、それに疲れが重なって安心した途端に熱が上がったんだろうと夢子おばさんは説明してくれた。
深夜だったけど美作の主治医が駆け付けてくれて解熱剤の投与は行われたけど、風邪なのかインフルエンザなのかは今日の往診で判るらしい。

それがインフルエンザだった場合は隔離になるからまた連絡すると付け加えられた。


「花音は?あいつは平気そうだったけど?」
『花音はね・・・聞きたい?』

「・・・なんでそんな言い方?おばさん、なに考えてんの?」
『花音は紫音と引き離したから泣いちゃうでしょ?だから、あきら君が自分のベッドで抱き締めて寝たてわ』

「・・・・・・ふぅ~ん」
『・・・妬いてる?』

「おばさんっ!!」


そんな言い方するから花音がつくしに思えて、泣いてるつくしをあきらが抱き締めてる図を想像したじゃねぇか!
紫音の事は心配だったがこんなおばさんの口調なら問題はないんだろうから、つくしに結果を連絡してやってくれと頼んだ。


『インフルエンザじゃなかったら明日にでもうちに来ればいいわね』

「・・・おばさん、悪いんだけどその時でいいからここの片付けに人を寄越してくれないか?俺がやりたいけど西門をこれ以上放置すると五月蠅いからさ。それで暫く牧野の事、宜しくお願いします。出来るだけ顔出すから」

『・・・判ったわ。研究所にも連絡してるから挨拶にだけ行くように言っといて?』


そして今朝のあきらと仁美さんの様子を聞いてみた。

一晩中紫音に付き添っていた仁美さんは草臥れた感じだったけど、朝食時にはダイニングに顔を出して「熱が引いてよく寝てるから」と嬉しそうに説明していたそうだ。
花音は紫音の席が空いてることに理解が出来なくて落ち着きがなく、何度も様子を見に行こうとしてあきらに叱られ泣き出したと。
そのあきらは花音と2人で寝たことがなかったから、緊張して一睡も出来なかったと目の下にクマを作ってたらしい。

それでも2人が穏やかに今後の話をしていたのを、おばさんは黙って聞いていたそうだ。



『・・・いつかは来ると思っていたけど、子供達にしてみればこの時期で良かったのかもしれないわ。長く居すぎると美作から抜け出せないかもしれないし、今より知恵がついたらつくしちゃんや総二郎君にもっと不信感を持ったかもしれないし。
でも、一番大事な時間を手放してるんだからこれからは大変よ?覚悟して父親と母親にならないとね』

「あぁ、判ってる。昨日の夜に双子が産まれた時の写真見せてもらったんだ。すげぇ悔しかった・・・もうこんな想いはしたくねぇから早いとこ自分の事を終わらせる。
おばさん、本当に有り難う。これからも優しい婆ちゃん役頼むわ。もし西門に戻ったとしてもうちのお袋は恐ろしいからな!」

『やめて!婆ちゃんとか言わないでっ!』


おばさんとの電話が終わった頃につくしが目を擦りながら起きてきて、惚けた声で「おはよ・・・」って言った。
でも歩くのに蹌踉けてしまって壁にぶつかり、その反動で転けそうになったから慌てて掛け寄って支える始末。支えてやってもまだ寝惚けてるのか目を閉じたままだったから、抱き上げてダイニングの椅子に座らせた。

そして珈琲にミルクたっぷりで差し出すと半開きの目で確認・・・触ろうとしたけど熱かったから少し横にずらして、またテーブルに突っ伏してた。


「つくし、大丈夫か?話し掛けてもいいか?」
「・・・うん、大丈夫・・・」

「紫音が熱を出したそうだ」
「そうなんだ・・・・・・・・・えっ!!紫音が熱?!」

それまでテーブルに突っ伏してたのにバンッ!と立ち上がった為に横に置いてた珈琲カップが倒れて俺の方に・・・!!
慌てて飛び退いたから熱いカフェオレが掛かることはなかったが、つくしはそんな俺の事よりも紫音の事が心配みたいで、デッカい目のまま俺を睨んでいた。


「落ち着け!夜中に医者が来て処置してくれてるから!薬で熱は引いてるし、それ以外の気になる症状はないから恐らく風邪だろうって話だが、今日の昼間にもう1回インフルエンザ検査するからお前は来るなっておばさんから連絡があった!」

「・・・・・・そ、そうなの?」

「あぁ、俺の方が驚いた。今度は火傷とかシャレになんねぇし!」

「へ?火傷・・・あぁっ!ごめん、総!」
「・・・・・・遅ぇよ!」


また力なく椅子に戻ったつくしは溢したカフェオレの始末もせずに、顔面は既にテーブルの上。
だからこいつが溢したのに俺がタオルを取ってきて、そこら中拭いて新しいカフェオレ作って・・・その間にもう瞼が閉じていた。


「俺はもう家に戻るからな。連絡は入れるけどすげぇ怒鳴られるだろうから今度あきらの家にいつ行けるのか判んねぇ。子供達の事、頼んだぞ」
「・・・ん、判った・・・」

「昨日は遅くて風呂にも入ってねぇからすぐに入れ。その後髪も乾かせよ?お前が風邪引いたら困るから」
「・・・ん、判った・・・」

「それと1人でもちゃんと飯を食え。そんなに窶れた顔を子供に見せるなよ」
「・・・ん、判った・・・」

「引っ越せる状況になったら美作が人を寄越してくれるから、それまでにボチボチ片付けとけよ?」
「・・・ん、判った・・・」

「ホントに判ってんのか?!」
「・・・ん、判った・・・」


絶対に判ってねぇな?とつくしの横に行って、寝惚けてる身体を起こしたら「へっ?」って声が・・・色気もクソもなかったけど、その状態のつくしに遅い目覚めのキスをしてやった。
そうしたらやっと正気になって顔を赤らめてる・・・今更なんで照れるんだ?って思うけど、そんなつくしの唇をもう1回塞いでやった。


「目が覚めたか?」
「・・・覚めた。はぁ、吃驚した!」

「じゃあ・・・帰るな」
「あっ、うん・・・総、ごめんね・・・絶対に怒られるね」

「ははっ!いっその事牢部屋に入れてくれたらいいのにな!そうしたら俺、今回は爆睡するわ!」
「・・・もうっ!そんな事言って!」


隠し事がなくなったからって訳じゃないけど、ここから帰る時の淋しさが少しだけ減った。
もうそんな事で悩んでる場合じゃない・・・そう思うからかもしれない。

昨日の格好のまま俺を見送るつくしにも、少しだけそんな雰囲気があった。


「研究所に行った時、最後の演技してこいよ?」
「・・・は?何の事?」

「もう使わねぇ名前だろうからさ。『田中 春』っての?ナイスネーミングだな!」

「・・・・・・えっ?!」


ドアを閉めたら「なんで知ってるのー!」って声が聞こえてきた。
これでまた1つ、つくしは自由になる・・・そう思うと嬉しかった。





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