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plumeria

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総が帰ってから暫くしたら小夜さんから連絡が入った。
検査の結果、紫音はインフルエンザではなく風邪だったそうだ。今朝は随分熱が下がって、朝ご飯も少しだけど食べたと聞いて安心した。

だけどやっぱり今日一日紫音を寝かせるために私の引っ越しは明日・・・小夜さんが迎えに来てくれるらしい。
それまでに荷物を纏めておくように言われた。


『つくしちゃんが出ていった後に業者さんが入ってメンテナンスするからお掃除なんてしなくていいよ?お洗濯物の忘れ物がないようにね?それと美作家の離れにも殆どの家財道具があるから食器も要らないわ。もし処分したいものがあったらそれも纏めておいて?』

「うん、判った。いつもごめんね、小夜さん」

『ううん、いいのよ。私も昨日は紫音様の看病で夜通し起きてるのかと思ったんだけど、結局若奥様が全部1人で看病するって言われたから寝ちゃったの』

「仁美さんが?仁美さんが寝ずに紫音についてたの?」


仁美さんも随分疲れてキツそうだったのに・・・小夜さんに聞いたら「もうこんな事もしてやれないから」って彼女が申し出たらしい。
1度様子を見に行ったら紫音の手を握って小さな声で話し掛けていたそうだ。
真っ赤な顔した紫音の頬を撫で、汗で濡れた額を拭き、咳き込んだら腕をさすったり・・・小夜さんも余りに2人の距離が近いから傍に行けなかったって言った。


『小さい子だからこれまでも発熱はあっただろうけど、他の人に聞いたらこれまでは看護師に任せていたらしいの。だから今回は特別なんだろうね・・・』

「・・・うん、そうね」

『連れ去られたことで責任感じて相当ショック受けて、もう自分に母親の資格がないって言い出したって聞いたわ。それに紫音様と花音様を見ると事件を思い出して胸が苦しいって。
それで丁度いい機会だから西門様にお話したんだって。西門様にも色々複雑な事情があるけど、つくしちゃんが本当のお母さんだって伝えられて安心したみたいよ?』

「・・・それなら良かったのかな。本当に迷惑掛けたから・・・」

『あぁ、ごめん!迷惑とかって意味じゃないのよ?でも若奥様、今度はこれまでの疲れが溜まって体調が悪いから、暫く田舎でご自分が静養するんでしょう?こう言ったらつくしちゃんには申し訳ないけど、何だかお気の毒で・・・』

「・・・うん、急に決まったから」

『つくしちゃん達が佐賀に向かった日からあきら様とお部屋も別けたもの・・・これから住まいまで別けちゃうと淋しいのにね』


小夜さん達は今回の誘拐に仁美さんが関わったことを知らない。
おじ様の指示でお手伝いさん達には一切教えていない・・・だからそう言う理由にしたのかと、この電話で知った。

母親の資格がない・・・でも、その言葉を先に出したのは私だ。
美作さんに同じ言葉を出して双子を引き取ってもらったのに・・・それなのに今度は仁美さんにその言葉を言わせてしまったんだ。


母親の資格って何だろう。

他人が見て後ろ指さされない「良い母親」・・・それとも自らの本能のままに子供への愛情を注ぐこと?
私は自分が弱くて病気に逃げてしまったから、愛情は溢れるほどあったけど注ぐことが出来なかった。だから母親失格だと思った。
仁美さんは自分の子供じゃないのに一生懸命育ててくれた。ただ、ほんの少しのすれ違いで美作さんとの間に誤解が生じ、取り憑かれたように吉本さんに操られた。
でも、心の深い部分でちゃんと今でも繋がってる・・・彼女は双子を愛してくれてる。


誰かが言っていたのよ・・・母子の間の愛情は後者でしか築けないって。
産んだ母親には本来子供を愛する能力が備わっているけど、子供がそれを感じて親を認めてくれなければ片思いだって。

それなら仁美さんを大好きな双子にしてみれば、彼女は私以上に「母親の資格」があるんじゃないかしら。
逆に私はこれから築かなくてはならない・・・「お友達のつくしちゃん」に対する愛情を、親になっても持ち続けてくれるのかどうか。



『・・・・・・ちゃん?つくしちゃん?どうしたの、ねぇ、聞いてる?』

「・・・あっ、ごめん、聞いてなかった」

『急に黙るから驚いちゃった!それでね、花音ちゃんのことだけど・・・』


花音は一晩中美作さんが一緒に寝たんだって聞いて、そっちは少し笑ってしまった。
きっと美作さん、あの子と二人っきりなんて初めてで、緊張して一睡も出来なかっただろうから。


『それじゃあ、つくしちゃん、明日ここを出る時に電話するからね』

「うん、宜しくお願いします。えーと、何に詰めたらいいのかな」

『こっちで段ボール用意するから1箇所に纏めといて?一緒に詰めましょ』


小夜さんの電話を切ったら、やっぱり身体がキツくてベッドに潜り込んだ。
まだ総の香りが残ってる・・・その香りの中で身体を丸くして眠った。





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自宅に戻ったら当然だが家元・・・親父に呼び出された。
そこにはお袋も居て、2人が恐ろしい顔をして俺を睨んでいた。紫はと言えば俺の少し後ろで控えていて、特に不機嫌な様子もなくいつも通りの冷めた表情で俯いたまま。
ただ、右手を負傷して包帯を巻いていたからそれには驚いたようだった。


「4日間も姿も見せず、連絡も1度きりとは・・・一体何を考えておるのだ、総二郎!この西門の次期家元だと言う立場も忘れたというのか?!」
「総二郎さん、今まで何処に行っていたのです?どうして怪我をしてるの?何か事件に巻き込まれたなんて言うんじゃないでしょうね?!」

「連絡しなかったというか出来なかったのですが、それについては申し訳ないと思っております。何分自由を奪われておりましたので」

「自由を・・・って誰かに捕まっていたの?」
「なんだと?!マスコミには知られておるまいな?!」


ここで本当の話を言うはずもなく、捏ち上げの監禁事件を作り上げた。

急に自由な時間が出来たからたまには昔飲んでいた店に行ってみようかと出向いたところ、自分には見覚えのない連中にいきなり絡まれた。
抵抗したが相手は5人で倒しきれず、最終的には拘束されて車に押し込められ知らない荒ら屋に連れて行かれた。
そこで数日間監禁され数回暴行を受けたが人目につく場所への攻撃はされなかった。
逃げ出した日の朝、今後茶道が出来ないようにしてやると腕を攻撃されその時に手を硝子で切って負傷したが、逃げる途中の病院で応急処置をしてもらった・・・と。

随分前には派手に遊んでいた俺だ。何処で恨みを買ってこんな事が起きたとしても不思議には思われない・・・すげぇ残念だがここではその素行が役に立った。
それに、こう言う騒動を嫌う2人は身体の傷を見せろ、なんて言葉も出さないと確信していた。

しかも親父が心配したのは俺の手の傷じゃなくてスキャンダルネタとして誰にも嗅ぎ付けられなかったかという事・・・そっちも判りきっていたから特にショックでも何でもなかった。
紫も少しは驚いた顔をしたがすぐに元に戻って口出しすることもない。


「ご心配かけましたが、何とか隙を見て逃げてきました。こちらにも特に要求などなかったでしょうか?まぁ、そいつらは私を痛めつけたかっただけのようなので、そんな度胸はなかったようですが」

「え?えぇ・・・うちには何も要求なんてなかったわ。不審な情報も電話も侵入者もないし・・・ねぇ、紫さん。変わった事はなかったわよね?」

「はい。何もございませんでした。ただ、総二郎様が何も言わずに留守にされましたので心細かったですけど・・・」

「・・・それは悪かったな」


とても心細かったと思えるような声色でも表情でも無いが?と思ったのは俺だけではないはず。親父もお袋もこの時には俺達から目を逸らせていた。
そんな空気を知ってか知らずか眉1つ動かさない。俺を心配して寝不足だったような気配もまるでないぐらい肌の調子は良さそうだ。疲れ切ったヨレヨレのつくしを4日も見ていたせいかもしれないけど。



「監禁された理由はその・・・そう言う事か?今でもそのような振る舞いをしていると言うのではあるまいな?!」

「勿論です。正確に答えろと言うなら5年ぐらい前からそのような遊びはしておりません。それ以前の事でしたら噂はお聞き及びでしょう?」

「お止めなさい、総二郎さん!自分の妻の前でそのような話・・・そんな昔話は夫婦とて聞きたくないものですよ」

「・・・申し訳ありません」


如何にも本当の事のように思わせるため「警察に届けますか?」と聞くと「無事に戻ったのだからもういい」と親父は不機嫌ながらもそこまで咎めずに部屋を出ていった。
お袋は怪我を心配し、すぐに西門の掛り付け医に行くようにとご丁寧に予約まで入れられた。

まぁ、硝子で切ったのは事実だし、抜糸の必要がある縫合処置だったからどっちにしても医者には行かなきゃいけない。


「でも、総二郎さん。あなたが居ない間に色々とお仕事や披露宴の事も話は進んでいるのです。暫く忙しくなりますから今日は休んでも宜しいけど、明日から暇な時間はないと思って頂戴。判っているでしょうけど披露宴まで1ヶ月ですからね?」

「・・・判りました。それでは病院に行ったあとは少し休ませて頂きます。仕事の内容は事務長と秘書に確認しておきますので」

「そうして頂戴な」


想像していたより穏やかな説教だったな・・・と、内心ホッとしてお袋を見送り、俺も自分の部屋に戻ろうと腰を上げた。
そうして障子を開けたらそこに控えていたのは薫・・・両手をついて俺に頭を下げ、紫が出てくるのを待っていた。

薫の前を無言で通り過ぎると、紫が出てきて2人の会話が始まる。


今度は此奴らが相手か・・・。

最後に残った「絡まった糸」・・・こいつを解きほぐす情報はいつになったら上がって来るんだろう。






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