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花沢類がもう1度珈琲を頼んでくれて、マスターがコトンと湯気のたってるカップを置いてくれた。
頭から足までずぶ濡れでガタガタ震えるほどだったから新しいタオルまで持って来てくれて、私達は礼を言ってそれを受け取った。

この人の前で濡れた髪なんて何故か恥ずかしくて目が合わせられない。
彼の方はササッと自分を拭いたら珈琲を口に運んで・・・そして時々私を見てる。

私の目は別の所を見ているのに、心の目が彼と見つめ合ってる・・・そんな感じだった。


『・・・変わんないね、牧野。高校生みたい』
『へ?あっ・・・酷いなぁ。少しは大人になったわよ。お、お化粧だってちゃんとしてるもん』

『ごめん・・・判んなかった・・・』
『えっ!あ、やだっ・・・雨で・・・』

『どうしてこんな場所にあんたが居るの?この辺の会社じゃないよね?』
『そっちこそ・・・どうして花沢物産の跡取りが1人でこんな雨の中走ってたの?』


会わなかった6年間の出来事なんて再会して10分なんかじゃ話せる訳もない。
だけど、今この時間しか共有しないと思ったから、自分の仕事の事は凄く大雑把に話した。

今の会社は都心から離れた所にある小さな部品製造会社で、私はそこの事務員だという事。
社長1人と営業が3人、私以外にもう1人事務の女性が居て、工員が8人とパートのおばちゃん2人。お給料は安いけど、人は優しくて職場環境は良い。
今日はたまたま営業が出払って誰もいなかったから、大至急のサンプルを届けにこの近くの会社まで来たら雨が酷くなって避難した・・・以上。

自分の気持ちを伝えない場合は意外と素早く説明出来るものだと感心した。


『・・・それが俺達から逃げる必要がある進路だった?』
『逃げるって言うか・・・そうは思わないけど色々辛かったから』

『司の事?連絡は?』
『取る訳ないじゃん、もう会えないよ。それに・・・・・・いや、もういいでしょ。花沢類は?秘書の人が捜してるんじゃないの?』

『秘書なんていないから』
『・・・え?』

『俺、営業課の一般社員だから』


花沢類は英徳大学を卒業した後、フランスの花沢物産に入社して幹部候補として特別待遇を受けたけど、自分が実社会では役にたたないと痛感したんだとか。
現場を知らないから言葉だけの指示では部下と解り合えなかったり、若さ故に強引になってしまったり、性格だから仕方ないんだけど無表情で何を考えているのか判らないと言われた・・・それには何となく頷いてしまった。

だから日本人よりもはっきり意見を出す欧米人から「貴方の部下にはなりたくない」・・・そう言われたんだそうだ。


『・・・そうなんだ。大変だったんだね』
『あのまま知らずに役職に就くことの方が大変だったかも・・・想像出来ないだろ?俺が商談に行ってるなんて』

『うん、全然!確かに上手な言葉とか言えそうに無いもんね』
『くすっ、うん・・・実は今でも苦手』

『あははっ、急には変われないか!』
『まだ日本に戻って1年だからね・・・これでも少しは客先で笑えるようになったんだけどな・・・』


『・・・・・・あの人とは・・・どうなったの?』
『・・・彼女はフランスで幸せにしてるよ。彼氏にも会わせてもらった・・・あんた、何か勘違いしてるでしょ?』

『・・・・・・・・・』
『確かに憧れたけどね・・・恋じゃないって気が付いたから』


なんだ、そうだったんだ・・・なんてホッとした顔を見られないように視線を窓の外に移した。


2杯目の珈琲を飲み終えた頃、雨が少し穏やかになってきた。
まだ髪は乾ききってなかったけど会社に戻らなきゃいけない・・・だからお財布から珈琲代を出して彼の前に置いた。


『それじゃあ私はこれで。久しぶりに会えて嬉しかった・・・頑張ってね、花沢類』
『・・・・・・送っちゃだめ?』

『だめ!仕事中でしょ?そう言うところが甘いのよ!』
『じゃ、連絡先教えて』

『・・・・・・・・・』
『今言えないなら・・・これ、俺の名刺。携帯番号書いておくから電話して欲しい』



人はなんて弱い生き物なんだろう。
再会してしまったらこんなにもあっさりと、それまでキツく締めていた糸を緩ませてしまうのかしら。

彼はこの名刺に何かの魔法をかけていたのかと思うほど・・・その日の夜に電話をして再び逢ってしまった。


恋が始まるのに時間は掛からなかった。
「好き」って言葉はすぐに「愛してる」に変わった。

彼を受け入れたのは再会して1週間後・・・誰のものにもなってなかった私を抱き締めて嬉しそうだった。


私が1番怖くて恐れていた彼の腕の中・・・1度入ったら抜け出せなくなるから絶対に入らないって決めていたのに、花沢類の瞳はそんな私を狂わせた。
彼の香りが私を24時間包んで忘れさせてくれない・・・「幸せ」という地獄に墜ちたみたいな気がした。


そうして数ヶ月後・・・私の誕生日に彼のマンションに引っ越した。




**




「類、もう起きなきゃ・・・遅刻だよ?類ったら!」
「・・・ん?もう朝?」

「とっくの昔に朝は来てます!さっ、起きて・・・珈琲とホットサンド出来てるよ?」
「・・・うん、起こして・・・牧野」

「何言ってるの、自分で起きなさい・・・きゃっ!」


いきなり布団の中から出てきた手は、私を捕まえて彼の温もりの中に入れられる・・・これも毎朝の日課みたいなものだ。

男性にしておくには勿体ないほどの綺麗な身体が目の前に来ると、流石に今でも顔が火照る。
しかも朝っぱらから・・・そう思うのに花沢類の両手は容赦なく私を自分の上に乗っけて遊ぶ。そしてやっと開いた目は優しく私を見つめて、その形のいい唇が愛を囁く。


「・・・良かった。今日も1番始めに会えたのが牧野で・・・」
「はいはい、変わらない童顔で申し訳ないですけどね!」

「うん・・・でもそれがいい。変わらないあんたが1番好き・・・」


うん、変わらないよ。
私は変わらないよ・・・自分からは変えられない。


あなたを大好きな事も、1番大事だと思う気持ちも・・・そしていつか崩れていくんじゃないかって言う恐怖も変わらないの。






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2019/06/26 (Wed) 12:47 | EDIT | REPLY |   
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2019/06/26 (Wed) 15:18 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

一般社員の類君です♡書いた事がなかったので(笑)
いや、想像出来ないというか、私の類君はお仕事しない人なので💦
営業トークなんて出来るのかしら?・・・疑問ですねぇ💦

ふふふ、これもまた焦れったいお話しになりそうです。お許しを~!

2019/06/26 (Wed) 20:57 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんばんは。

えっ!何の事?!(笑)

なーんにも抜けてないですよ?めっちゃそのまんま!!
読んだら判るって感じ?

うんうん・・・再会して1週間後・・・なにか?(笑)恋人になったのよ~♡

6年分頑張ったんでしょうねぇ・・・なにか?(笑)

2019/06/26 (Wed) 21:00 | EDIT | REPLY |   

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