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牧野が大学に進学しなかった・・・それを知った時、ずっと待っていた気持ちが一気に萎んで柄にもなく焦った。

司との恋が辛かったからなのか、俺達のような世界には入れないと思ったのか・・・理由を聞いて、その苦しみを和らげてやりたかった。それなのに引っ越し先も就職先も告げずに俺達の前から姿を消した。

ただ、彼女の友人から情報だけは得ていた。
都内に1人で住んでいて、自分で探した小さな会社で働いていると・・・そして今は幸せだからそっとしておいてあげてくれと。


そっとしておくのがあんたの為だとは思わなかった。
凄く強くて明るくて、真っ直ぐ突き進む大胆な部分とは裏腹に、泣く時には誰にも見られないように、1人で声を押し殺してるあんたがいるって知ってたから。

今でもそんな風に何処かで泣いてる気がして胸が痛かった。



俺が大学を卒業する時、父さんに婚約をする気はないか・・・そう言われた。
相手はフランス企業の社長令嬢で牧野と同じ年だと。でも、名前を聞いたけど覚えることもしなかった。


『申し訳ないですが結婚なんて全然考えていません。それにもしするなら相手は自分で選びます』
『もしするなら?類、私の跡取りはお前しかいないのだから、自分の後継者を考えてもらわないと困るが?』

『・・・判ってますが、それなら1人しか考えられない・・・もう調べてるんでしょう?』
『道明寺家に楯突いた子・・・あの子か?』

『楯突いたのではありません。撥ね付けられたのです・・・傷付けられたのは彼女の方です。俺は彼女をそんな目に遭わせたくない。だから受け入れられないと言われるのであれば俺の結婚も諦めて下さい』
『・・・・・・類!』

『他の事だと気持ちは変えられるんです・・・でも、彼女の事だけは・・・』


そんな俺に出されたのはフランス本社で3年間は仕事に集中しろ!だった。
俺が社員に信頼されて後継者としても認められ、取引先や共同事業者とも上手くやっていけるか、花沢物産のジュニアとしてヨーロッパ社交界にもデビューして、多くの著名人を味方に付けることが出来るか・・・出された課題はかなりハードだった。


『後ろ盾も財力もない女性との将来を考えるなら、何よりお前が周囲から信頼されなければならない。そのつもりで自分に力を付け、社内外に花沢物産の安定を知らしめる事だな』


でも、渡仏してすぐに俺は空回りして孤立した・・・日本でさえ感情を出すことを苦手としていた俺が、自分の意見をはっきり口にするフランス人に受け入れられるはずがない。
一部の部下には「あんたは嫌だ!」とストレートに言われ、非協力を表明された。


この時に思った。
牧野は英徳でこんな気分を味わったんだろうかって。
内容も立場も違うけど、孤立するってこんなに心が寒くなるんだって。


それならこの状況を牧野ならどう乗り切るだろう・・・そんな風に考えた。これは以前の俺には無い心情だった。
嫌われたのならそれでいい、ずっとそう思って生きてきたから。

俺が好きだとしても相手に同じ感情なんて求めなかった。
自分が好きでいられるものならその感情だけ持っていれば良かった。


同じように好きになってもらいたい・・・そう思ったのは牧野が初めてだった。


だから牧野ならきっと自分自身を鍛え直すだろうと思い、両親に日本への帰国を申し出た。
そして一般社員として営業の現場に出たい・・・味わった事のない世界を自分の肌で感じたいと願い出た。


『お前の事は噂で聞いている。手痛い仕打ちを社員から受けているそうだな。そう言う不器用な所がお前の欠点だ』
『甘えがあった事は認めます。それに自分には知らない事が多過ぎました。今のままでは俺の考えも説得力のない机上の空論に聞こえるんでしょう。帰国を許していただけますか』

『ふふっ、自分からそんな事を言うとはな・・・それは彼女の影響か?』
『・・・そうかもしれません』

『それならば好きにやってみろ。そしてこの私を納得させることが出来たら彼女を連れて来るがいい』



そうして僅か1年で帰国・・・取り敢えず国際的な視野を持てという事で、海外事業部の営業になった。
勿論初めのうちジュニアとしてみんなが見るから誰も寄りつかず、困ったことが起きても逆に誰も助けてはくれない。秘書もつかずに自分でスケジュールを書き込んでいく事に慣れなかった。
専用車なんてないから公共交通機関を利用する・・・その乗り方1つ、俺は知らなかった。

謝罪してくる人間を見た事はあっても、自分から頭を下げた事はない。そんな俺が打ち合わせ後に「宜しくお願いします」と素直に頭を下げられるようになったのは半年後だった。


確かに一般社員とはいえ将来は約束されている。
そう言う部分で冷ややかに見る連中もいたが、少しずつ同僚という奴等と笑い話が出来るようになった。



そんな雨の日・・・牧野に再会した。


新しく取引を始めた企業との初会合が終わった直後・・・歩いて帰れない距離でもなかったから、気分転換のつもりで歩いていたら急に降り出したゲリラ豪雨。
鞄から折りたたみの傘を出して差す暇もないほどの突然の土砂降りに驚いて、目に入った喫茶店の軒下に駆け込んだ。


そこに同じようにずぶ濡れで雨宿りしていたのが牧野だった。
全然変わってない風貌は、会わなくなって6年以上経ってるなんて思えなかった。


『・・・・・・牧野、あんたどうして・・・』
『え?あぁ、ごめんね、長いこと行方眩ましちゃって。あは、は・・・ちゃんと働いてるから心配しないで?』

『・・・心配するな?』
『・・・げ、元気してるから…だから』

『馬鹿!!・・・心配するに決まってるだろう!』


こんなにも長い間触れてなかった牧野の手・・・雨に濡れて冷たかったのに俺には凄く熱く感じた。

馬鹿、なんて言葉を出したのは何年ぶりだろう。
そうやって怒りをぶつける程深く関わった人がいなかったのかもしれない。

それだけが本心だったのかどうか、俺は牧野を逃がしたくなくて喫茶店の一番奥に無理矢理連れて入った。


『花沢類がそんなに乱暴な人とは思わなかった!』
『・・・本気だから』

『・・・えっ?本気って・・・』
『あんたの事は必死に探して、どうしてももう1度会いたかったから・・・だから出会った時は本気で怒ろうと思ってた!』



1日だって思い出さない日は無かった。
休みの日には一日中牧野の事を考えて過ごした。

元気だろうか、何処に居るんだろうか、幸せだろうか・・・そればかりを思いながら風の中にあんたの香りを求めた6年間だった。




**



「今日も雨か・・・牧野、残業?」
「ううん、今日は定時で帰れそう。類は?」

「俺・・・どうだろう。取引先が打ち合わせ時間連絡してきてからじゃないと判らないな。もし早そうなら食事に行かない?」

「・・・いいけど、どうして?何かあった?」

「雨の日に買い物するの、大変だろ?たまには外で食べても良くない?」


鏡を見ながらネクタイを締めてる時、牧野はドレッサーの前で化粧をしてる。
その鏡越しにあんたを見てると化粧の仕方が大人っぽくなったんだなって思う。髪を掻き上げる仕草は昔のあんたに無かったもの・・・ドキドキしてる俺の手は止まったままだった。


「よし、でーきた!類は?支度終わった・・・・・・まだなの?」
「あっ、ヤバっ!」

「もうっ!まだ寝てるとか言わないでよ?」
「起きてるって!じゃ、行こうか」

「うん!帰りの予定、メッセージ入れといてね?」


エレベーターで降りてエントランスを出たら、赤い傘は右へ、黒い傘は左へ・・・いつの日かこれが同じ方向に向かうのだろうかと思いながら牧野の後ろ姿を見つめていた。





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2019/06/28 (Fri) 11:17 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんにちは!

えっ!第1話で書いたじゃないですか!
連絡取り合ったのよ、そして1週間後に仲良くなったのよ。

今回は類君バージョンってだけでしょ?(笑)

判りにくかった?ごめんなさーいっ!!💦

2019/06/28 (Fri) 11:51 | EDIT | REPLY |   
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2019/06/28 (Fri) 15:25 | EDIT | REPLY |   
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2019/06/28 (Fri) 17:45 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

うんうん、そんな感じです。
類君、自分では気持ちが伝わってると思ってるんでしょうね~。

でも、辛い過去のあったつくしちゃんにはまだ安心感がない・・・恐怖心が強い状態です。

今回は働き者の類君(笑)
それが災いの元・・・かな?

2019/06/28 (Fri) 22:59 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さゆ様、こんばんは!

あっはは!お久しぶりです!
いきなり「劇場」が始まったからどうしようかと思いましたよ(笑)

覚えてますよ~!忘れるわけないじゃないですか❤


あの1週間を見たかったですか(笑)いやいや、6年間の空白をすぐに埋めたかったんですよ、きっと。
どんなお話し・・・(笑)になるのかなぁ?

7月中頃まであると思うので、ボチボチ楽しんでください(楽しくはないけど💦)

2019/06/28 (Fri) 23:33 | EDIT | REPLY |   

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