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「牧野さーん!お昼ご飯、食べにいかない?」
「うん、今日はお弁当がないから行こうかな」

「ラッキー!新しいお店が銀行横に出来たの、そこに行こうよ!」
「ちょっと待っててね、お財布持って来る」


もう1人の事務の宮田知美さん・・・彼女に誘われてお昼ご飯を一緒に食べることにした。
まだ雨が降り続いてるから傘を差して、これから行くのはすぐ近くに出来たって言うイタリアンのお店らしい。パスタが好きな知美さんはハイテンションだった。


知美さんは現在婚約中・・・結婚式は来週の日曜日だ。
結婚しても会社は辞めないと言い、子供が出来るまでは働くと言っている・・・私には羨ましい話だった。

そのせいなのか女性の私が言うもの変だけど、最近凄く綺麗になった・・・と思う。
左手薬指に光るエンゲージリングのせいなのかもしれない。時々それを自分で見つめる知美さんは優しい笑顔で幸せそうだった。
「可愛いお店だよね、今度彼と食べに来よう♪」なんて、頬を染めながら真新しい扉を開けて入った。

時間は限られてるからすぐに出来そうなものを頼んで、その間もずっと式の話を聞かされた。私はそれを頷いて聞くだけで、自分の参考にしようなんて思わない。
もしも彼とそうなったとしても一般人の事情とは訳が違う・・・私の意見なんて聞いてもらえないのは判っているから。


「牧野さんはどうなってるの?彼、言葉にしてくれないの?」
「言葉?あぁ・・・結婚ってこと?うん・・・まだそんな話にはならないかな。彼、忙しいみたいだし」

「そんなぁ!仕事が忙しいのとプライベートは別だよねぇ!むしろ言ってくれた方がお互いに夢が出来てパワーも出そうなのに。もう少し迫ってみたら?」
「私から?あははっ・・・どうだろう、焦ってくれるかな?」

「結婚も場合によっちゃノリが大事よ?待つだけじゃダメな時もあるかもしれないしね!」


「待ってる・・・のかな、私」


「・・・え?なんて言った?」
「ううん!何でもない!それより楽しみだなぁ、どんなドレスなの?」


「あっ!聞いて聞いて!あのね・・・」って彼女の話がまた始まる。
結局この日のランチは知美さんの惚気話とドレスの話で終わった。

会社に戻る途中の傘の中、私は1人で夢を見ていた・・・私が彼の為に着るウエディングドレスはどんな感じだろうって。それだけは「花沢家」が決めないで、私が決めてもいいんだろうか。
傘に落ちてくる雨の音で、この時の知美さんの話は殆ど打ち消された。




花沢類からのメッセージは夕方スマホに入っていた。

『表参道駅中の喫茶店前に午後6時半、間に合わなかったら電話して?』

この雨で電車が遅れない限り大丈夫だろう。『待ってるね』、それに可愛らしく♥マークを付けて返信した。


雨は酷くはならなかったから定時に仕事を終えて会社を出た私は余裕を持って待ち合わせ場所に着いた。
むしろ彼の方が遅れるんじゃないかしらって思うのは、車でしか移動しない昔の花沢類が頭から消えないから。彼が交通機関を利用している姿にはなかなか慣れなかった。


でも凄く分かり易い・・・ほら、現れた。

こんなに沢山人が居るのに、背の高さとあの容姿が目立ちすぎて女の子達が騒ぎ出すから。そんな声が聞こえた方に目をやると、今日も傘を片手に持った彼がスーツ姿で歩いてきた。
そして私を見付けるとニコッと笑って片手を挙げる・・・私も応えて片手を挙げると数人の女の子に睨まれる。

これはもう慣れてる・・・ここが学校じゃないだけ助かった。


「待った?時間過ぎたっけ?」
「ううん、私が早かったの。まだ6時半じゃないよ」

「そお?じゃあ行こうか。この近くで店を予約したんだ」
「・・・なにか良いことあったの?ご機嫌だね」

「少しだけね。大きな仕事を任されそうだから」
「そうなんだ!良かったね~」


じゃあまた忙しくなるのかな・・・。
男の人だからこれが当たり前で、仕事を任されるなんて喜んであげなきゃいけないのに。
何処かで自分の方を優先してがっかりする私・・・それを気取られないように明るくして彼の横に並んでついて行った。


入ったのは前にも来たことがあるフレンチレストラン。
プリフィックススタイルで自分の好きなものが選べるからって彼が好んで利用してる馴染みのお店だった。
そこでは彼は花沢物産の後継者で認識されてるから、連絡した時点で1番いい席をリザーブされる。今日も夜景が綺麗に見える席で一輪だけの薔薇の花がテーブルを飾っていた。

でも生憎の雨で景色は窓に張り付く雨粒で歪んじゃう・・・でも、それもキラキラしてて綺麗だからキライじゃなかった。


すぐに出された前菜は私が海の幸の贅沢サラダで、彼はホタテのマリネとラタトゥイユのゼリー寄せ。
素敵なお皿に上品に並べられてテーブルに置かれた時、花沢類のスマホが鳴った。

こんな場所で電話なんかする人じゃなかったのに「ごめん」って席を立って通話出来る所に移動する・・・これは彼が一般社員だって聞いてからは割とよく見る光景だった。
チラッと見たら凄く真剣な顔になったり穏やかな笑顔になったりして、その表情の変化も珍しかった。
戻って来た時に聞けば「さっき話した仕事の件でね、第1回目の打ち合わせ日が決まったから」・・・だ、そうだ。


「どんなお仕事?海外事業部だから海外出張とかあるの?」
「いや、アメリカの企業が日本で行いたいって言うから海外出張にはならないと思うよ?くすっ、心配?」

「えっ?いや・・・えっと、長期はイヤだなって思って・・・」
「俺は短期でもイヤだけど?」

「・・・もうっ、そんな事言って!冷めちゃうよ?」
「あはっ、このぐらいで顔が赤くなるの?牧野、可愛いね」


心配なんて海外出張しなくてもあるって。ホント・・・自分の事だけ判ってないんだから。
それに心配なのはそんな事じゃないよ。あなたを取り巻く環境がドンドン大きくなっていくこと・・・そして私の居場所がドンドン小さくなりそうで怖いだけ。

それを安心させてくれる言葉をあなたがくれてるのに、どうしてこんなに胸騒ぎがするんだろう。


その電話の事はすぐに忘れて、また私達は昔話や他愛もない会話で食事を楽しんだ。
お魚料理は真鯛のバジル焼き、彼はオマール海老のフリカッセ。お肉料理は牛フィレ肉のトリュフ見立て、彼は合鴨胸肉のロースト ・・・どれも豪華で美味しくて「記念日でも何でもないのに贅沢だね!」って笑い合ってた。


「はぁ!もうデザート?早かったねぇ・・・」
「くすっ、牧野、お腹空いてたんでしょ?」

「そうかも・・・お昼少しだけだったからかな?」
「そうなんだ?何を食べた・・・」

♪~♪ ♪~♪・・・


また電話・・・花沢類はまた「すぐ戻る!」って席を立った。
マナー違反だよ・・・なんて呟いたのは雨で濡れてる窓に映った彼に向かって。

理解ある女に思われたいのかな・・・素直に怒ることが出来なかった。



「ホントにごめんね、もう掛かってこないから」
「・・・ううん、気にしないよ。そう言えばどんなお仕事か聞いてなかったね」

「あぁ、アメリカの航空機製造大手企業と共同でね、大規模な航空関連事業を日本で行いたいらしくてその為の施設を建設するんだよ。花沢にとって航空産業分野のシェア拡大のチャンスなんだ」

「そうなの?大変そう・・・それの担当になるの?」
「まぁね。そのプロジェクトチームに入ったからこれから少し忙しくなるんだ」

「頑張って!応援してる!」
「ん、ありがと!」



頑張って・・・それは本当なんだけど、半分は自分に向かって言ってるような気がした。





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2019/07/02 (Tue) 13:52 | EDIT | REPLY |   
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2019/07/02 (Tue) 14:22 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんにちは!

ふふふ・・・なーんか嫌な感じでしょ?
Colorfulがおバカな話だけに、こっちの2人が想像出来ないみたいな(笑)

ふふふ・・・シリアスだから、こんな感じで。


あっそうそう!
「生獣」ってあったでしょう?あれをとある話のタイトルに使ってもいいですか?(笑)
(ここで聞いていいのかどうか💦)

2019/07/02 (Tue) 18:10 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

こう言う類君もつくしちゃんもあまりない設定ですよね(笑)

少々鈍感な類君と、怖がりなつくしちゃん・・・たまにはこう言う感じも書いてみたかったんです。
どんなラストになるんでしょうね(笑)

仕事の鬼の類君はなかなか新鮮💦
なんたって「始まりシリーズ」では働かなかったので(笑)

2019/07/02 (Tue) 18:29 | EDIT | REPLY |   
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2019/07/02 (Tue) 22:39 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、ありがとうございます❤

楽しみに待っていてください(笑)

2019/07/02 (Tue) 23:05 | EDIT | REPLY |   

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