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plumeria

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<sideあきら>

3日間休暇を取ってしまったために仕事に行けば書類の山・・・これでも多少は親父が片付けてくれたらしいが、それでも夕方まで食事らしい食事も取れないほど忙しかった。

総二郎からは昼に電話があり、どうやって誤魔化したかを聞き、それが彼奴らしくて笑いが出た。
「お前の過去も役に立ったじゃないか」と言えば「あきらを使っちゃ悪いと思ってさ」の返事。それで無くても最近は俺の名前を使って牧野に会いに行ってたのに、もっと立場を悪くする気かとムカついた。

手の怪我も丁度硝子で切ったものだからその嘘を信じ込ませる事が出来たと言い、西門の主治医で今後の処置をする事になったらしい。
利き腕の右手に包帯がある状態で、暫く茶会の亭主も務めなくていいからむしろラッキーだと笑っていた。


その時に週末の那須行きの話をしてみた。

「実は仁美を那須に連れて行く時、牧野と子供達も一緒に行って向こうで1泊しようと思ってる。総二郎はどうする?お前が行けそうならうちは構わないが」

『・・・いや、俺は無理だ。今はあんまり家を空けられねぇ。ここでボチボチ仕事しとくけど、それって仁美さんの負担にはならないのか?苦しくないならいいけど』

「仁美が大丈夫だと言ってるから問題ないだろう。それよりそろそろ紫の調査も開始しないとな。先日亡くなった使用人の家族に連絡を取ってみるから、そいつが動き始めた時はどうにかして西門から抜けて来いよ?」

『あぁ、勿論だ。悪いな、あきら。おばさんにも巻き込むなって言われてるから気にはなるが、俺もこの屋敷の中じゃ動きにくいから』

「もうここまで関わったら最後まて付き合ってやる。気にするな」


何もかも知ったとは言え「嫁さん」の居る場所に戻った総二郎。
傍に紫を置くことにイライラして、もどかしさと共に孤独な世界に身を置いているのかと思うと、やったことは罪に値する仁美でも俺達は穏やかに話が出来るようになった。

ただ現在ではどっちも幸せとは言えない・・・。
総二郎はこれから残った謎を解かなきゃならないし、俺と仁美には時間が必要だ。



♪~♪~ ♪~♪~

そんな事を考えていた時、急に鳴った私用のスマホ。
忙しい時間だったから出る訳にもいかないと思ったが、相手を確認しようと画面だけ見たら「川崎純子」だった。
なんてタイミングだと、秘書が嫌な顔をするのを片手で制してその電話に出た。


「もしもし、美作です」
『あぁ、先日はどうも・・・川崎でございます』

あの時話した女性の声だった。だが年寄だからなのか電話だと声が聞き取りにくい。大声で話すもの気が引けると思い、チラッと秘書を見たら溜息をつきながら執務室を出て行った。
これで気兼ねなく個人名も出せる・・・椅子に座り直してこの通話を録音に切り替えた。


「あぁ、あの時は遅くまで申し訳ありませんでした。なにか判りましたか?」
『いえ、お話した青田喜子さんの事ですが・・・それが、その・・・』

青田喜子とは岩代の隠居と親しくしていたと言う宝生の使用人の名前だ。ついさっき総二郎と話していた、あの事件を知っている数少ない人間の1人・・・。
川崎純子には、この青田喜子が他の誰かに事件の内容を漏らしてないかを探って欲しいと頼んでいたのだが、この電話の声は歯切れが悪く少しイラッとした。


「頼んでおいて申し訳ないのですが、時間が掛かる内容でしたら夜にでもお邪魔しますが?」
『あぁ!いえいえ、それは困ります。判ったと言う訳でないのですが、喜子さんの日記があるってご家族から聞いたのです。それでご連絡を・・・』

「日記?でも随分前の事ですよ?日記が残ってるんですか?」
『えぇ、小忠実な方でしたから日記は昔から付けていたんです。その日記がどうやら広島にあるらしくて、ご親戚の方が処分していいかと聞いてきたって東京のお孫さんに聞いたんです。どうしましょう?必要なら東京に送ってくれるそうですが・・・』

「お孫さんは形見として必要でしょうか?」
『いえ、処分してくれと返事するつもりだって言ってましたから要らないんだと思いますよ?それにいつからの日記があるかも私は知りませんが・・・』

「判りました。申し訳ありませんが広島の連絡先を教えていただけますか?」


誰にも言えないことを日記に書き溜めた可能性もある・・・こんな頼りない情報でも今は貴重だ。
川崎純子に広島の電話番号を聞いた後、そこに電話して着払いでいいから日記全部を送って欲しいと頼んだ。送り先は美作の自宅・・・相手は深く考えもしなかったのだろう、すぐに送ると約束してくれた。


これを総二郎にも教えなきゃいけない・・・そう思った時、ある計画を思い付いて、俺は西門に行くことにした。




*******************




自宅に戻って離れのゲストルームで爆睡・・・目が覚めたのはもう夕方遅くで、手に持ったスマホのランプが光っていた。
誰からのメッセージかと思えば・・・あきら。

昼間に話したのに、と思ったが用件を見たら『仕事帰りに寄る』・・・?!


「はっ?あきらがここに・・・西門に来るのか?」

それに驚いて飛び起きたら、丁度飯の時間だと使用人が呼びに来た。
あいつにはここでは話しにくいと言ったばかりなのに・・・何考えてんだ?と首を捻りながらダイニングに向かった。



相変わらず葬式のような雰囲気での夕食・・・誰も言葉を交わさない時間が流れていた。

見た目には豪華な料理が並んでいるが美味いとは思わない。大人だけの食卓だからそれなりに落ち着いたメニューだし、全員で突き合うような盛り付けはしない。
呼子で紫音たちを隣に置いて大騒ぎした夕食を思い出して余計に箸が動かなくなった。


「総二郎さん、やはり手が痛いの?いつ頃治るのかしら」

俺が食わないからお袋がそんな事を言いだし、紫も親父もチラッと俺の方を見た。
別に痛くはなかったがこれも丁度いいと思い、1度箸をテーブルに戻した。この時間は所謂家族・・・師弟関係じゃないから言葉遣いは親子のそれに戻した。


「来週の終わりには抜糸出来るそうだ。ただ手の平にしては傷が大きいから少し疼くけど問題はない。まだ身体の痛みが取れなくて・・・それで食欲がないだけだ」

「そうなの?でも監禁だなんて恐ろしい!無事に帰って来られて本当に良かったわ。もうフラフラと出歩かない事ね、総二郎さん」
「・・・判ってるって」


あんたの孫は最近誘拐されたんだぞ?って言ったら流石のお袋もひっくり返るんだろうか・・・。
変な想像をしながら再び箸を手に持った。

そうして食い終わった頃、志乃さんが不思議そうな顔でダイニングに入ってきた。


「あの・・・美作様がお見えなのですが、お家元か家元夫人にお目に掛かりたいと・・・」

「は?俺じゃなくて?」
「私達に?」

「はい。何でもお茶会のご依頼だとか・・・急な事ですみませんと仰っていますが?」
「美作家が茶会を開くのか?総二郎、聞いておるのか?」

「いや、初耳・・・だが?」


兎に角美作家を無視するわけにはいかないと、あきらを客間に通して俺達は3人揃ってそこに向かった。

客間に入るといつものように穏やかな嘘くさい笑顔で親父とお袋に挨拶・・・そして俺の手を見ると馬鹿みたいに大袈裟な声出して驚きやがった。マジ、意外と役者だ、こいつ!


「どうしたんだっ!!総二郎、その手、大丈夫なのか?!」
「・・・あぁ、少し硝子で切っただけだ」

「神経とかは?指が動かせないとかないよな?」
「・・・あぁ、大丈夫だ、念入りに縫ってるし、指も動く・・・で、どうしたんだ、お前」

馬鹿じゃねぇの?ってヒクヒクしながらあきらを見ていたら、あきらも心なしか口元が笑ってる。自分で演技して自分で笑ってりゃ世話ないわ!とムカついてたら・・・

「え?あぁ・・・実は総二郎に茶会を頼もうと思ったのに・・・今度の土曜なんだけど」
「今度の土曜?」


今度の土曜って・・・昼間話した那須に仁美さんが行く日だったはず。牧野も同行させて向こうで1泊するからって言われたが俺は無理だと答えたのに今度は茶会?!
「でも、その手じゃなぁ・・・」って態とらしくため息をつくし、親父もお袋も困惑して顔を見合わせてるし。


「馬鹿か!急な茶会そのものを受け付けてねぇよ!一体どういう事だ?あきら」
「いや、実はな・・・美作の遠縁にややこしい大叔母さんが居るんだが、その人が事もあろうかお前のファンなんだよ。それで今度日光でお前の茶が飲みたいって駄々こねて五月蠅いからさ、何とかならないかと思ったんだが・・・」

「まぁ、美作家の中に総二郎さんの?嬉しいことですわねぇ、お家元」
「そ、そうだな・・・そうなのだが手の怪我が・・・」

「ですよね・・・その大叔母は目が悪いので手元なんてそんなに判らないとは思うんですが、総二郎が許せませんよね・・・適当な茶会なんて」

「勿論!やるなら本格的にするが・・・略式でもいいのなら出来なくはない・・・が?包帯しててもいいのなら・・・だが?」


全然判んねぇーーっ!俺にどうしろってんだ?
俺がどれだけ睨んでもあきらは落ち込んだ顔をするだけ・・・とうとう家元が「行って差し上げなさい」と言い始めた。
そしてその大叔母さんって人の名前を聞くと「汐見 佳乃、と申します。母の従兄弟の叔母です」・・・・・・?

しおみ・・・かの?しお・・・かの・・・・・・?紫音と花音?!


「まぁ、兎に角総二郎さんの手が動かないわけではありませんし、本人が出来る範囲でいいのでしたら・・・如何でしょう?お家元」
「そうだな。どうせ本来の茶会は少ない時期だし自分の事務的な仕事がないなら出向いて差し上げなさい、総二郎」

「・・・判りました。それでは略式点前にはなりますが勤めさせていただきます」

「ありがとう、総二郎!助かるよ!家元、家元夫人もご無理を言ってすみません。それに最近総二郎を連れ出すことが多くて申し訳ない。反省してます」


余りに唐突なこいつの訪問に2人とも笑うしかなかった。



そして帰るって言うから門前まで見送りに行った時、誰も居なくなってから川崎純子の電話の内容を聞いた。


「それを伝えに来てくれたのか?でも、よくそんなものを送ってくれる話になったな。日記だろ?」

「美作に青田喜子の親戚が働いていて、偶然川崎純子から日記の話を聞いた事にした。
その本人が昔の事を知りたいから見てみたいと言ったが、広島の実家なんて知らないから言い出せないと渋った為に代わりに俺が電話したって言えば疑わなかったぞ」

「・・・お前、いつからそんな詐欺師みたいなヤツになったんだ?それにさっきのもすげぇ猿芝居だったな!」

「そうか?上手くやっただろ?これで総二郎も堂々と土曜日に外出出来るしな。言っておくが1人で来いよ?」

「あぁ、勿論。で、この日光行きの意味は何だ?」


「・・・紫音にお前の仕事を見せてやろうと思ったんだ。
西門に引き取られることになったら茶道はあいつの職業になる。まだ全然感じないかもしれないが、父親がお前だと言ったんだ。茶道家の姿を見せてやってもいいんじゃないかと思っただけだ」


茶道が紫音の職業になる・・・そう言った時のあきらの目は真剣だった。
それなら俺は、この手が痛もうが本気で茶席を作らないといけない・・・あきらを見返す俺の目も鋭くなった。





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