FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
次の日の朝、結局ほぼ丸1日寝込んだ私は寝過ぎて頭が痛かった。
総からの着信はなかったけど、西門で酷くは怒られなかったことと「行方不明の事情」についてのメールが届いてた。

「うわっ・・・尤もらしい嘘ついちゃって!でも、それで信じられるってどうなの?ホント、ヤバいよね、総って・・・」


でもこの嘘を凄く真面目な顔で報告していただろう彼の姿を想像して笑いが出た。
兎に角そこまで怒られずに、牢部屋に閉じ込められなかったのならいいか・・・そう思って「了解!」の返事を入れておいた。



その後、寝過ぎてガチガチに固くなった身体で荷物を纏めていた。

そんなに無いと思ったのに、ここに住んで3年8ヶ月・・・想像以上に荷物が多くて驚いた。
殆ど別荘のものだから簡単に終わると思ったのに、服や本や日用品・・・自分で買い揃えたものもかなりある。


「はぁ・・・こんなものかなぁ・・・後は子供達からもらったものぐらいかな?」

掻き集めた荷物をリビングの真ん中に置いたら全部の部屋を簡単に掃除していった。
私がしなくてもメンテナンスを兼ねて業者が来るって聞いてはいたけど、自分が使ってきた部屋だから何もしない訳にはいかない。1つ1つの家具にお礼をいいながら拭いていった。

それも終わって窓から遠くの海を眺めていた。
色んな思いを抱えながら見つめた海・・・今も冬の色をしていて淋しそう。
「愚痴ばっかり言ってごめんね・・・」って海にまで謝りながら、花が咲いてない庭にも目が行った。

私が心を病んでいた時に砂で作った子供達へのケーキ・・・その場所を見ると今の自分が信じられない。もう2度と心が闇を彷徨わないようにしなくちゃ、とその何もない花壇を見て思った。

その時、表の方で車の音がした。



「こんにちは~!つくしちゃん、遅くなってごめんねぇ!」
「小夜さん・・・ううん、今日は有り難う。小夜さんも疲れ取れた?」

「うん!こう見えてまだ若いもん!じゃ、先に荷物を詰めようか!段ボール持って来るね~」

今日はいつもの軽自動車じゃなくて小さいけどワンボックスの荷物が沢山積めそうな車だった。そこからたたんである段ボールを持って来てリビングで組み立て、その中に荷物を詰めていく。
その間中、事件の事でも仁美さんに関する事でも子供の事でもない会話をして笑いながら、30分もしないうちに全部車に運び終えた。

さっきは若いって言った癖に「腰が痛~い!」ってトントンしながら言う小夜さんに、ここで最後になるお茶を入れてあげた。
それを持って窓際にいき、床に座り込んで最後のティータイム・・・。


「初めて来た日を思い出すね・・・つくしちゃん、大きなお腹だったわ」

「・・・本当ね。あの頃は自分の身体も将来も何もかもが怖かったなぁ・・・」

「そうだね。人生何が起きるか判らないね・・・」
「くすっ、お婆ちゃんみたい」

「こらっ!」って巫山戯て怒る小夜さんに「ごめんごめん!」って笑って手を合わせる私。
母親になるつもりで呼子から鎌倉に来たのに、母親にはなれなくて養子に出して、それなのに今度はまた母親になるために東京に帰る・・・本当に何が起こるかなんて判らない。
あれだけ無駄だと思っていた総の離婚も、もしかしたら可能じゃないかって思う自分がいる。

紫さんには申し訳ないと思うし、その後に私が・・・って言うのも全然想い描けないんだけど。



「そうそう、今朝ね、紫音様が起きてきて『つくしちゃんは?』って聞いたから『あなたのママは鎌倉でお引っ越しの準備よ。後で来るわよ』って若奥様が言ったの。そうしたら紫音様がね、『あっ!つくしママだった!』って・・・そうしたら今度は頷いておられたわ」

「なんか照れちゃう・・・本当にそう思ってくれるのかしら」

「あはは!焦っちゃダメだよ。1番ママに甘えたい時に交代するんだから覚悟はした方がいいわ。でも、自分も同じぐらい愛情があるのよって教えなきゃ。それは演技しちゃダメ、真剣勝負なの。叱る時には愛情で叱るのよ?仁美様と自分のやり方を同じにしなくてもいいの。つくしちゃんの育て方でいいんだよ?」

「・・・うん」


コップを洗ってゴミ出しをし、本当にこれで最後・・・私は玄関に鍵をかけた。
そして車に乗り込み逗子の研究所に向かった。


途中のケーキ屋さんで沢山お菓子の詰め合わせを買って、それを両手に抱えて研究所の中に入り、先ずは長いこと偽名で働かせてくれた所長さんに挨拶。
既に夢子おば様から話がいっていたから詳しい理由も聞かれなかったけど「淋しくなるねぇ」と穏やかな笑顔で言われた。

その後、事務室に行って退職手続きをとり、まだ勤務中だったから作業中の人達に挨拶して回った。

「お幸せにね!頑張るんだよ!」
「身体を大事にしてね。無理しないように」
「またいつか遊びにおいで!」

「・・・はい。色々お世話になりました。有り難うございました!」


・・・・・・幸せに?頑張る・・・身体を大事にね?
おば様は私の退職理由をなんだと言ったんだろう・・・?


最後に正門の守衛さんにも挨拶して、その時に振り向いて研究所を眺めた。
数え切れないほどある研究用の温室、芝生に囲まれた入り口の庭、その奥に広がる緑の植物園、もっと奥にある果樹園。
麦わら帽子、首にかけてたタオル、毎日引き摺って歩いた青いホース、慣れない肥料の配合・・・色んな事をしたなぁって思いだしていた。


「つくしちゃん、行くよー!」
「はーい!!」


バイバイ、田中 春・・・小夜さんがハンドルを持って待ってる車まで走った。



**



美作さんのお屋敷に着いた。
何故か昨日とは違う気分・・・今までで1番緊張してるのが判る。

寒いから子供達も外では遊んでないし、1年で1番庭が淋しい季節だから庭師さん達も居ない。凄く静かな美作家に車は入って行って、離れの前まで行くと言われた。


「じゃあ荷物降ろそうね!鍵もらってくるからちょっと待っててね」
「はーい!」

小夜さんは車を停めて小走りでお屋敷の中に入って行き、すぐに鍵を手に持って戻って来た。
ちょっとレトロな感じの離れなのに鍵だけは最新式のカードキー。
それでドアを開けて、車から段ボールを降ろして交互に運んでいく。あの別荘では多いと思った荷物もこうしてみれば少ないもので、数回往復したら全部を離れの入り口に降ろすことが出来た。

バタンとドアを閉めて車は駐車場に戻され、小夜さんはそのまま自分の持ち場に戻るらしい。
だからここからは1人で片付け・・・言われた部屋に段ボールを運んで、備え付けの家具にしまっていった。


「・・・ふぅ~ん、料理もここで出来るのね。大きな冷蔵庫・・・うわ!こんなに食材が入ってる!夢子おば様の指示かなぁ・・・食費払わないと申し訳ないんだけどなぁ・・・」

冷蔵庫には野菜も魚も肉類も沢山用意されてて、これだけ使い切るのに何日掛かるのかと心配するぐらいだった。
飲み物専用のクーラーもある。そこにもミネラルウォーターは勿論、野菜ジュースからフルーツ系のジュース、牛乳・・・何故かお酒もあって暫く困らない感じだった。

普通にお風呂もトイレもあるし、洗濯機もあって干す場所だって用意されていた。


「子供部屋もあるのかな?私の部屋のベッドは3人じゃ無理そうだし・・・」

幾つかある部屋を開けていったら、南向きの部屋に用意されたばかりと思われるベッドがあった。
まだ布団も置かれてないけどダブルベッド・・・一瞬ドキッとしたけど、壁や家具の感じからここが子供達の部屋みたい。可愛らしい背の低い家具で統一されていたから。

そのベッドに座って窓の外を見たら、お屋敷の南側の庭が丸見え・・・それに横の小さな窓からはお屋敷が見える。
これが暫くの間、子供達が見る景色か・・・とぼんやり眺めていた。

都内に戻って実際の距離的には西門にかなり近づいたとは言え、ここは部外者が絶対に入ることが出来ない美作邸。
でも、精神的に感じる距離感は縮まった気はしなかった。
むしろ恐怖心の方はかなり増してる。いつ何処で西門の関係者に会うか判らないから、気が休まる時がないんじゃないか・・・今日ここに来たばかりなのに、もうそんな弱気な事を考えていた。


「ダメダメ・・・何考えてんの?私にはもっと他に考えることがあるってば!」、そんな独り言を叫んだ時、ガチャ!と扉が開いた音がした。


「つくしちゃ・・・つくしママ~!来てるのぉ?」
「つくしママ、どこぉ?」

元気のいい声が入り口から聞こえてきたかと思ったら、今度はドタバタと廊下を走る足音が響いてきた。
つくしママ・・・何だか聞き慣れなくて恥ずかしかったけど、そう呼んでくれる事が嬉しくて、ベッドから立ち上がってこの部屋のドアを開けた。

そうしたらリビングから可愛らしい顔が2つ、ひょこっと現れてニコニコ笑ってる。
それを見たら昨日までの疲れは何処かに飛んで行ったみたいに私にも笑顔が戻った。


「こんにちは!もう疲れてない?お昼ご飯はちゃんと食べたの?」
「うん!今日はね、パスパだった!」
「ちがうよ、かのん。パ・ス・タ!パスタだよ」

「あはは!パスタだったの?美味しかった?」
「「うん!おいしかったぁ!!」」


私の身体にしがみつくようにして抱きついて、これまでと変わらない笑顔を向けてくれたけど、その時に入ってきた足音に双子は顔を入り口に向けた。
あぁ、仁美さんだ・・・そう思った時には私の身体から手を離して足音の方に向かってしまう。

ほんの少しのジェラシー・・・やっぱりまだ「お母さん」は彼女なのだと、判りきっていた事だけどチクッと胸に棘が刺さった。


「こんにちは、つくしさん。荷物は全部運びました?」
「・・・はい。お世話になります。あっ、鍵を・・・」

「それはお義母様の別荘のものですから直接お義母様にお願い致します。少し、話しましょうか・・・」
「は、はい・・・判りました」


紫音と花音は自分達の部屋で新しいおもちゃを発見して遊び始めた。
だから私と仁美さんはお茶を入れてリビングのソファーに座り、ドアは子供達が不安にならないように開けたままで話を始めた。

やっぱり今日も事件のお詫びから入り、仁美さんは私に深く頭を下げた。
これは一生の罪だから消えることはない・・・許して欲しいとは思わないし、美作さんとはこれまでと変わらず友人として接して欲しいと、小さく細い声で言われた。

その後にこれからの事について少し決まったからと・・・仁美さんは随分すっきりした表情で穏やかに見えた。


「ここにはあと3日間だけ居ます。丁度あきらさんもお休みの土曜日、つくしさんも一緒に那須の別荘に行きませんか?そこでみんなで1泊して、日曜日にあきらさんとつくしさんと子供達で東京に帰って下さい。西門さんが同行できたら1番良いんですけど、あきらさんに聞いたらそれは不味いだろうって言うから・・・」

「・・・そうですね。彼はこの度の事でお叱りを受けてるだろうから流石に同行できないと思います。私は仁美さんがそれでいいなら付いていきます。でも、この先どうするんですか?」

「あきらさんが離婚を考えてないって言うんですが、私はもう諦めています。まだどうなるか判りませんが、1人でも生きていかないといけないから私にも出来る仕事がないかを探してみます。
出来る仕事なんて何にもないんだけど時間はたっぷりあるだろうからしっかり考えて、紫音達にいつか会った時・・・あの子達の顔を真っ直ぐ見ることが出来るようにしたいんです」

「・・・そうですか」


「ママ~!つくしママ~!!これ、どうやるの?」

また元気な声が聞こえてきて、紫音が子供用のジグソーパズルを持って来た。ピースが大きくて、そこまで数もない動物の絵のパズルだった。
それをテーブルに置いてやり方を教えると嬉しそうに私達の真横でそれを始めた。


仁美さんはその姿を本当に嬉しそうに見てる。
同時に悲しそうに笑う・・・「紫音、そこじゃないわ」ってピースを動かしてる。


ほんの少しだけ曲がってしまった線は、もう元の位置に戻ることはないのだろうか。

数年先でもいいからもう1度この人と友達になって、今度は馬鹿みたいに笑って話が出来たらいいのにな・・・と、仁美さんの横顔を見ながら思った。




91a86da23bc7e9ab0fc7076044333c25_t.jpg
関連記事
Posted by