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plumeria

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その日の夕食、私は美作さん達と一緒に食べることになった。
いきなり3人は緊張するだろうというおば様の提案らしいけど、事実ドキドキしていた私は助かった。

美作さんも数日間のお休みで仕事が凄く忙しかったみたいだけど、彼が帰ってくるのを待ってから一緒にテーブルを囲んだ。その時に私は鎌倉の別荘の鍵をおば様に返し、これまでのお礼を言った。


「本当に長いこと有難うございました。何もかも揃えて頂いたのにお家賃も払わずに申し訳ありません。それにお仕事もこんな形で辞めることになるとは思いませんでしたが、お世話して下さったこと、感謝しています。
ほんの少しですが貯金も出来たので、ここに居る間は食費だけでも・・・」

「あらあら!嫌だわ、そんなの要らないわよ。そんな事は気にしなくていいから、折角お金が貯まったのなら子供達の為に使いなさい。総二郎君の事がいつになるか判らないんだから・・・ね?」

「・・・でも・・・」

「いいのいいの!私達にも楽しい思い出が沢山出来たんだもの、それはあの子達のおかげなの。だから私だってお礼を言いたいぐらいなのよ?」


総の事が終わったら双子とは離れ離れ・・・おば様にはそれが辛いんだろう、笑顔なのにどことなく淋しそうな雰囲気があった。


テーブルはこれまでと位置が変わっていた。
今までは仁美さんを双子が挟むように座っていたのに今日はそれが私・・・右に紫音、左に花音が座っていた。私の正面には美作さんと仁美さん。おば様は上座に座っていた。
「おじ様は?」と聞くと「今日からスペインなの」と、それもおば様が淋しい理由の1つみたい。

大学生になったばかりの双子ちゃんは誘拐事件の前から2人揃ってイギリスに留学中だったから今はいない。このお屋敷にしては少し淋しい人数だった。


「つくしちゃん、あのね・・・」
「・・・花音?」

「あっ、つくしママ、あのね、花音今度からピアノ習うの!」


花音が私の事を「ママ」と言わなかったら仁美さんが小さな声で訂正する。私は自分が注意されたような気がしてドキドキした。
紫音も目の前のお料理の中で、食べにくい物があるみたいだけど私と仁美さん、どっちに助けてもらえばいいのか迷ってる。それを見てしまっても私からも手が出ずに戸惑ってしまう。

そうしたら美作さんが紫音にお手本を見せて教えてる。
まだナイフとフォークを使う訳じゃ無いからひと口サイズに切ってあるけど、フォークの持ち方や食べる順番、口を閉じて静かに噛みなさいとか音を立てないようにするためのコツとか、パンくずを出さないようにするコツとか色々だ。

私も隣で聞いてて「成る程・・・」なんて言って慌てて口を閉じた。


「うふふ、つくしちゃんがそんなに緊張しなくてもいいじゃない」
「だっておば様、私が何にも出来ないから教えたくても教えられない・・・困ったなぁ」

「子供達と一緒に覚えていけばいいんじゃないか?うちも洋式マナーは判るけどあそこ独特のマナーは知らないもんな」
「そうだよね・・・私ももう1回作法を勉強しなくちゃ。5年も離れると忘れてるわ」

「あぁ、その事だけど・・・」


美作さんの言葉に仁美さんも手を止めた。
そして美作さんは急に決めた土曜日のお茶会の計画を話し始めた。

土曜日のお昼、鎌倉のお屋敷同様、日光にもあるおば様のご実家が所有する別荘で総が私達にお茶を点ててくれることになったと。
それはきちんと家元と家元夫人の前で依頼したから怪しまれる事はない。親戚に総のファンが居る事にして、兎に角会わせたいからと無理を言ったそうだ。

その目的は紫音と花音に総の仕事を見せること・・・総が茶道家である事を2人に見せたいという美作さんの思い付きからだそうだ。


「だ、大丈夫なの?だって彼、手を怪我してるよ?」
「あぁ、本人に聞いたら問題ないって言うからさ。双子も総二郎が怪我してることを知ってるからいいだろうし、家元にも兎に角総二郎に会えたらいいからって念押ししておいた」

「そんな無茶な!もうっ・・・バレたらどうするの?!」
「バレないようにこの俺が西門に出向いて頭下げたんだろ?問題ないって!家元、喜んでたから」

「怪しまれなかった?お2人のご機嫌は?総、大丈夫そうだった?」
「最近飲みに連れ出してばっかりで申し訳ないって謝っておいたぞ。鎌倉に入り浸る度に俺の名前を使ってたから。
機嫌かぁ・・・あの人達は自分の機嫌を表には出さないからな。総二郎も含めて普通だったぞ?」


入り浸る・・・子供達の前で言わなくてもいいじゃない!って思ったけど、その意味が双子に判るはずもない。1人で真っ赤になって俯いたら仁美さんがクスクス笑っていた。
総も普通だった、そのひと言には少し安心した。


「でも、この子達にお茶会なんて理解出来るのかしら。子供には面白くも何ともないでしょ?総の前で余計な事を言わないかな・・・こんなのキライだとかつまらないだとか・・・もし、そうなったら総がショックじゃない?」

「そんなのあいつは判ってると思うぞ?自分がそうだったんだから。それでも身体と心で感じるしかない世界だ。いきなり見せて理解しろだなんて言わないさ。茶道を知るには時間が掛かるもの、だけど早いうちが良いってだけだ」


私も総と知り合ってから知ったお茶の世界・・・。
本格的に始めたのは大学からだったけど、それでも理解なんて出来なかった。言われたとおりに動いても注意ばかりで、しかもその注意が抽象的すぎて判らなくて随分悩んだっけ。

何度総に「雑念が多い!」って怒られたか・・・その雑念すら判らなくて謝ってばかりだった。

つまり大きくなってからこの世界に入るより、意味が判らなくても小さいうちから慣れ親しんだ方が良いって事・・・隣に座ってる無邪気な紫音を見るとどうしても可哀想な気がするけど。


「私もあきら君から相談された時、それも良いかもって思って別荘の使用を許したの。確かにこんなに小さい子供に茶道なんて不安でしょうね・・・でも、どう感じるかはつくしちゃんじゃなくて紫音よ?幼くても心に響くものはあるかもしれないし、西門家に戻るのなら必要な事ですもの」

「おば様・・・」

「それに日光なら那須に行く途中だしね。雪もあるかもしれないから喜ぶかもよ?お茶会だけが目的だと思わずに、楽な気持ちで行けばいいんじゃないかしら」

「・・・はい。そうですね・・・決めつけちゃいけませんね」


那須には一緒に行かないと言っていたおば様も日光までは同行してもらい、仁美さんにも総のお茶を飲んでもらうことにした。
私は総を手伝うことになり、5年ぶりの茶道になる。「全然自信ない!」って言えば「それまでに思い出せ!」と美作さんに発破をかけられた。


「初めから西門で育てばあの家の空気が自分の家のものだと自然に覚えるだろうけど、この子達はそうはいかない。
躾はしてるけど美作家のルールで教えてるし生活スタイルは真逆だ。呼び方でさえパパとかママじゃないだろうし、爺さんと家元の区別にも時間が掛かるだろう。着物なんて着たこともないし、正座だって出来ない。お前達も大変だが双子はもっと大変だと判ってやれよ?」

「・・・うん、そうだよね」

「総二郎の事が片付くまでの間に少しずつ西門の事を教えていけばいい。それが当分の間、牧野の仕事だな」
「大丈夫よ。総二郎君も西門の改革を考えると思うわ。向こうだって少しずつ時代に合わせるべきよ」


私達がこんな会話をしていても、何の事か判っていない紫音と花音は食事に夢中だ。
私を挟んで楽しそうにしているけど、この笑顔が西門で通用するのかと思うと・・・やっぱり首を捻ってしまった。



**



仁美さんは少しずつ自分の荷物を詰めて那須に送る準備をしている。
その時にやっぱり紫音と花音は「何してるの?」って彼女の手を止める・・・そう言う光景を何度も見掛けてしまった。


「お話したでしょう?私は少しだけ病気なの。だから静かな場所で暫く暮らすことにしたの。紫音も花音も覚えてるかしら・・・あなた達の本当のママはつくしさんよ?ちゃんと言う事聞いてお利口にするのよ?」

「うん!つくしママと仲良くする!」
「でもママもママでしょ?」

「ふふっ・・・ありがとう。でもね、私はもうあなた達と一緒には暮らさないの。本当のパパとママが一緒に暮らせるようになったら、2人ともそこに行くのよ?」

「・・・ここに住めないの?」
「どこに住むの?」

「それはまだ判らないわ。大人になったら難しいことが沢山あるの。今ね、あなたのパパがその為に頑張ってるのよ」

「・・・ふぅ~ん」
「かのん、よくわかんないけど、しおんはわかる?」
「ぼくもわかんない・・・でも、パパもママも、そうちゃんパパもつくしママもみんな好きでいいんだよね?」

「そうね・・・みんなもあなた達の事が大好きよ。さぁ、つくしママの所で遊んできて?」
「「はーい!」」


今まで母親として頑張ってくれた仁美さん・・・彼女を追い越すことが出来るだろうかと考えたけど、そうじゃないのかもしれない。私も仁美さんもこの子達の母親・・・そこに順番はないのかもしれない。

この先、きっと紫音と花音は私と仁美さんを比べるだろうけど、その時は落ち込まずに前向きに受け止めよう。
言葉も表現も違うけれど、双子を愛してる事に優劣なんて無く、むしろ愛情が倍になってこの子達を包めるように・・・。




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あきらから言われた日光での茶会。
道具は総て俺が揃えないといけないから夜遅くまで掛かってそれを準備した。


濃茶と薄茶では使う抹茶碗も茶葉も違う。

会話もなく客が1つの茶碗を回して飲む濃茶では、格式高い樂焼や萩焼等の厚みのある無地の物を用いる。
それに対して薄茶は会話が許されるし、それぞれに茶碗を用意するから絵柄が入ったものでもいい。むしろその絵柄で会話をはずませることもあるからだ。

今回は当然薄茶のみ。
薄茶でさえ口にするかどうかも判らないが濃茶を飲める歳じゃない。それに濃茶に略式点前なんてない。

状況から考えて甘い菓子と薄茶・・・それでも耐えられるかどうかを考えながら準備をしていたら不思議を顔が緩んだ。

紫音には雪兎の絵柄、花音には鶯の絵柄が入ったもの。
時期的にも丁度いいし可愛らしい茶碗で少しでも興味を持ってもらえたら、と願いを込めて選んだ。あきらは何でもいいが、おばさんと仁美さんには梅の花柄。
いずれも小さめの茶碗にして丁寧に包んだ。


期待・・・と言うより少しだけ恐怖はある。


幼い時には俺も拒否したこの世界・・・紫音は何を感じるだろうか。
そして俺は紫音に何かを伝えられるだろうか。




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