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「総二郎さん、今日から1人新しい方が来るからお稽古宜しくね」

「・・・今日から?急だな」


お袋からそんな事を言われたの秋の始めの頃。
炉開きも間近だし、紅葉の茶会もあるしってんで準備やら稽古やらで忙しい時期だった。

それなのに、今度は新しい弟子?
しかもその言い方だと全くの素人・・・冗談じゃないと睨んだが、お袋は至って真面目な顔で「宜しくご指導を」なんて言ってる。
そんな事を言われて茶室に行く気もしなくなったが、何処のお嬢かぐらいは聞いておかないと心構えってもんがある。

もしかしたら名高い美人かもしれねぇし?
もしかしたら俺好みのボン、キュ、ボーン!かもしれねぇし?


「何処の企業の娘で何歳だ?」
「普通のご家庭のお嬢さんよ?総二郎さんの1つ下かしら」

「普通の家庭?お嬢じゃねぇの?」
「素敵なお嬢さんよ?いいから基本から丁寧に教えて差し上げて。判ってるでしょうけど私の判断で入門させた方です。感情的にならないようにね?」

「・・・・・・判ったよ」


企業家の娘じゃなくて一般家庭?それなのに家元夫人の判断で入門ったぁどう言う女だ?
そう思って自分の茶室に向かったら、チョコンとそこに座ってるおかっぱ娘が居た。

まさか・・・子供?いやいや、俺の1つ下って言ったよな?って事は成人してんだよな?
どう見ても後ろ姿は子供ってのが俺に背中向けていて、わざと咳払いなんてして茶室に向かったらクルリと振り向いた。

その顔・・・すげぇ童顔でデッカい目!
残念な高さの鼻にポテッとした唇、でも髪の毛は俺と一緒で真っ黒で艶やか。肌は・・・まぁ白い方か?


瞬間、何故かバクン!と鳴った心臓・・・なんだ?どうして俺がそんなになるんだ?
こんなガキみたいなの全然タイプじゃねぇし。それに手足を見ただけでこいつがガリガリだって判る。
つまりボン、キュ、ボーン!じゃねぇし。

こいつがお袋の言った新しい弟子だろ?
師匠を見ても挨拶1つ出来ないなんてホントの素人・・・でも、まぁこれも家元夫人の命令だって事で仕方なく茶室に入り、こいつと向き合った。


「・・・名前は?」
「あっ!初めまして。牧野つくしと申します」

「・・・茶をやりたいのか?」
「う~ん、出来るのかな?おばさんにやってごらんって言われたんですけどね?」

「おばさん?うちのお袋のことか?」
「そうそう!美和子おばさんでしょ?いつもお饅頭買ってくれる人!私ね、この先の角にある幸福屋でバイトしてるんですよ」

「・・・・・・・・・」


この牧野つくしはとんでもなヤツだった。
正座は出来ないし作法は勿論知らないし、帛紗そのものを知らないし、抹茶は「お菓子なら好きだ」と言いやがった。
釜に触れて火傷はするし、俺に湯を掛けやがるし、足が痺れたと言って最後には投げ出すし!
そのくせ茶菓子は「お代わり!」って叫びやがって!


「悪いがお前には茶道は無理だな!悪い事は言わないからやめておけ。はっきり言ってセンスがない!」
「うわっ・・・初めたばかりの人にそんな事言う?もしかしたら『能ある鷹は爪を隠す』ってヤツかもよ?」

「馬鹿か、そんなの見たら判るっての!お前に茶道は『猫に小判』だっ!」
「・・・・・・言ったわね?よし、やってやるわ!」

「・・・なに?」



なんだ、こいつ・・・。
俺が怒鳴ったのに怯みもしないで逆に態度をデカくして腕組みしやがって。
痺れた足を元に戻して「初めからお願いします!」と、どっちが上何だか判りゃしねぇ!

それならやってみろとばかりに茶を点ててやると、今度は大雑把で豪快な作法でグィッと飲み干しやがった。


それからが大変だった。
諦めるのかと思ったのに稽古を休むどころか回数まで増やしやがって、1ヶ月続くのかと思えば1年続けやがって、もう辞めるだろうと厳しく稽古していったらどんどん腕の方が上がっていった。

いや、それでも立ち居振る舞いがイマイチだと言えば、志乃さんを味方に付けて特別講師にしやがった。
いや、着付けも出来ねぇヤツは半人前だと言えば、事もあろうかお袋に教わっていつの間にか着れるようになっていた。
いや、茶花の1つも知らねぇで偉そうにするなと言えば、庭師のベテランを捕まえて師匠にしやがった。

くそっ・・・いつになったら辞めるんだ?と思った時には俺の弟子になって5年も経っていた。



「今度の紅葉のお茶会、半東さんはつくしちゃんね」

お袋がそう言うから今度は半東の仕事を教えることになって、気が付いたら牧野はそれまで働いていた店を辞めて西門に入り浸っていた。
お袋のお下がりの着物着て、朝から晩まで俺の横・・・気が付いたら俺の事を「総さん」なんて呼んでるし。


「誰が総さんだ!若宗匠って言え!」
「いいじゃない、総さんで。その方が言いやすいんだもん」

「言いやすいかどうかの問題じゃねぇ!いつの間に特別な存在になったんだ?!」
「あら、特別な存在になったら総さんでいいの?」

「・・・・・・そりゃまぁ・・・」
「じゃあ総さん、早くお稽古始めましょ?」


良く判らねぇけどこんな感じで何故か俺の方が負けてる?
どう言う事だ?と頭を捻りながら今日も稽古を続けた。


そして紅葉の茶会の日、俺の客は後援会長だった。
つくしはその日もお袋の着物で半東を勤め上げ、俺はいつも通りに茶を点てる・・・それにすげぇ満足した後援会長はニコリと笑ってとんでもない事を言い始めた。


「素晴らしい時間で御座いましたなぁ・・・若宗匠も随分と良いお茶をお点てになる。いや、これで西門も安心ですなぁ」
「西門が安心?それはどう言う意味でしょう?」

「そこの水屋で控えておられる半東さんが居られるからでしょう。ははは、そのおかげで若宗匠がすっかり真面目になられたのですから」
「はい?そんな事は・・・」

「儂の仲人の出番はいつ頃ですかな?楽しみじゃなぁ!」
「お待ち下さい、会長?」

「ほほほ・・・良かった良かった!」
「いや、そうじゃなくて!」



おかしい・・・どうしてこうなったんだかさっぱりだ。

気が付いたら今日は俺の婚儀で隣には白無垢の牧野が恥ずかしそうに立っていた。

何処で間違えてこうなった?
何で俺はこいつの左手薬指に指輪はめてんだ?

それでも真っ直ぐ前を見たら、これまでに見たこともない綺麗な笑顔の牧野が居た。
「総さん、幸せにしてね」なんて言われて「判った」って答える俺・・・一体何がどうなってんだ?




「なぁ?なんでお前うちに来たんだっけ?」
「えぇ?あぁ、お義母さんが急にバイト先のお店で言ったのよ。うちにはどうしようもない息子が居るけどお婿さんにしてみない?って。気に入ったらでいいからまずはお茶を習いにいらっしゃいってね」

「は?最初っから俺が目当てかよ!」
「そんな訳無いじゃん。気に入ったら、の話よ」

「・・・って事は気に入ったのかよ」
「ふふふ!まぁね・・・いいじゃない、総さん」

「・・・まぁ、いいけどよ」



結婚して1年後、大きな腹のつくしが横に居る。
何がどうなってんのかいまだに判んねぇ俺だけど、何故か今日も笑ってる。





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Comments 4

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2019/10/01 (Tue) 12:55 | EDIT | REPLY |   
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2019/10/01 (Tue) 13:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

ふふふ、負けず嫌いのつくしちゃんでしたね~♡
でもきっと2人は一目惚れだったんでしょうね(笑)

総さんもなんやかんや言いながら厳しく指導して、いつの間にか尻に敷かれる羽目に💦
あれれ?な総さんって感じで書いてみました。

5~6年間の事を1話に纏めるのは難しい・・・私はホントに長編の女だな、と思いました(笑)
(事件がないと書けない💦)

2019/10/01 (Tue) 19:11 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは。

コメントありがとうございます。
あはは!asuさんの「幼な妻」よりは上じゃないですか?(笑)
そこそこ歳は取ってる気がしますが💦総さんですからね~♡

そうそう、流されまくりの総さんです。
ここの夫婦はきっと嫁さんが前を歩いてると思います♡


えへへ!可愛かったでしょう?(可愛いのも書こうと思えば書ける!その気にならないだけで・・・)

「ほへと」・・・なんちゅう省略(笑)笑ってしまった💦

2019/10/01 (Tue) 19:18 | EDIT | REPLY |   

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