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♪~~♪~
あれ松虫が 鳴いている  ちんちろ ちんちろ ちんちろりん
あれ鈴虫も 鳴き出した  りんりんりんりん りいんりん
秋の夜長を 鳴き通す
  ああおもしろい 虫のこえ

きりきりきりきり こおろぎや がちゃがちゃ がちゃがちゃ くつわ虫
あとから馬おい おいついて ちょんちょんちょんちょん すいっちょん
秋の夜長を 鳴き通す
  ああおもしろい 虫のこえ
♪~~♪~



夜風が涼しくなった縁側に座っていたら聞こえてくる小さな歌声。
つくしが翔太を抱え、秋の庭の中で唄ってる。

すっかり大人の女の声になって、甘く優しい艶がある。
少し外れた音程は相変わらずで笑いが出るが、その声が風に乗って俺の耳に届いてくる。


「おかあさま、あれはなぁに?」
「えぇ?ん~とねぇ・・・」

り~んり~んと甲高い声・・・如何にも秋を感じさせる鈴虫の声。
そう答えてやるのかと思ったら「コオロギだよ!」ってケラケラ笑ってやがる。だから「プッ!」と噴き出すと慌てて「鈴虫だった!」と言い直して翔太が「どっちなの?」って膨れっ面だ。


「翔太、今のは鈴虫。母様が間違えるのも無理はない。エンマコオロギの鳴き方は鈴虫によく似てるんだ。歌にあるキリキリってのはカマドコオロギの鳴き声だな」

「うわぁ、おとうさま、よく知ってるんだね!」
「あはは!お父様だからね~。色んな事をたーくさん教えてくれるのよ?」




今でこそ西門に受け入れられてるが嫁いだ時には苦労した。
何にも出来ないし、何にも知らないと後援会や地方支部の連中にも相手にされず、弟子達ですらそっぽを向いた。

だからって泣くような女じゃ無い。

必死に勉強して作法を覚え、俺にくっついて茶を身体に染み込ませ、俺は西門のしきたりを教えてやった。
そして笑顔を絶やさなかった。
どれだけ嫌味を言われようと、どれだけ自分の出自を蔑まれようと言い返さなかった。総ては時が解決してくれると俺の横で笑っていた。


つくしが初めて泣いたのは嬉し泣きだ。
翔太を授かった時・・・まだ男だと判らなかったが、子供が出来た時には俺の腕の中で大泣きだった。

早く会いたいと嬉しそうに涙を流したっけ・・・もう5年前か?



「あっ!おかあさま、ちがう虫の声がするよ?」
「えっ?あっ・・・本当ねぇ。ちょっとリズムが違うのね?」

「これは・・・ねぇ、おとうさま、これはなぁに?」
「あっ!翔太ったら・・・お母様にだって判るわよ!・・・ん~と、これもエンマコオロギ!ちょっとお年寄りのエンマコオロギじゃない?」

「・・・こいつは松虫だっての!つくし、やっぱり虫の声聞き分けるの下手だな!」

「あれ?間違えた?」
「あはは!おかあさま、やっぱりちがう~」



江戸時代に庶民の間で親しまれた月を愛でながら虫の音色を楽しむ「虫聴き」。

この虫の調べを聞きながら中秋の名月の時には茶会を行う。
昼間の蝉の声が止み、夜には静かに響く虫の声を聴く・・・その日本独特の文化を味わいながら月を見上げる一風変わった茶会だ。

その時には客と「虫の声」の話しもするからと、うちの庭で自然に鳴く虫の声を聞き分ける練習をしたがつくしは全然覚えなかった。
それこそ歌に有る鈴虫、松虫、クツワムシ・・・エンマコオロギやウマオイ。此奴らが一斉に鳴くと何が何やらで毎度も途中で逃げ出したっけ。

それを思い出してクスクス笑った。



「さぁ、もう寝ましょうか。翔太、お父様にご挨拶を」
「はーい!おとうさま、おやすみなさい!」

「あぁ、おやすみ。布団から飛び出るなよ?風邪引くぞ」


翔太は元気よくつくしの腕から飛び降りて自分の部屋に戻って行った。
そしてつくしは「重たかったぁ!」と笑いながら俺の横に来る・・・そして並んで座った。


秋の月が庭を照らし、茶花で使うためにそこにあるススキの穂を白く浮かび上がらせる。
それが柔らかい風に乗ってサワサワと揺れる。その付近で力も入れず、存在すらも感じさえない虫の声が響く・・・。


「思い出すね・・・」
「あぁ、そうだな」

「初めてだったもん・・・」
「ははっ!お前、照れまくってたな」

「だって虫が見てる気がしてさ」
「見せてやれば良かったんだよ・・・こうしてな」


そう言ってつくしを抱き寄せ唇を奪う・・・その時、虫たちは遠慮したのか一瞬シーンと鎮まり反った。
そして唇を離すと再び小さく奏で始める。



初めてつくしにキスしたのは秋の夜・・・この庭のこの場所だった。
そして初めてつくしを抱いたのも秋の夜、つくしの甘い声は秋の虫を黙らせた。


「俺達も戻るか。俺は虫の声よりやっぱつくしの声の方がいい・・・って事で今日も覚悟しろよ?」
「ば、馬鹿言わないで!もうっ・・・いい歳して!」

「ははっ!お前はあの頃より今の方がいい声してるぞ?」

「・・・ほんと、総二郎は変わらないわねぇ、そういうところ」




秋の夜のあくるも知らずなく虫は わがごと物やかなしかるらむ(古今和歌集 秋・ 敏行朝臣)

~長い秋の夜が明けるのにも気づかずに鳴きつづける虫はわたしのように物悲しい思いでいるのだろう~


きりぎりすなくや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む(後京極摂政前太政大臣)

~霜が降りるような寒い夜 こおろぎの鳴き声を聞きながらわたしは筵に衣の片袖を敷いてひとりで寝るのか~


人もがな見せも聞かせも 萩が花咲くゆふかげのひぐらしのこゑ(千載和歌集 秋 ・和泉式部)

~だれかいないものかしら。 萩の花が咲いて 夕日の中にひぐらしの声が聞こえるのを見せたり聞かせたりしたいのに~


来ぬ人を秋のけしきやふけぬらむ 恨みによわる松虫の声(新古今和歌集 恋・ 寂蓮法師)

~秋の景色も暮れてきたのだろう。訪れてこない人を待ちづづけた松虫の声は積もる恨みのために弱ってしまっている~




先人は秋の虫の声を切ない歌で残しているが、俺にとっては最高のBGM・・・だな。





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9月に書いたお話なので少し時季外れですね💦
気分をその頃に戻して下さいね♡
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Comments 4

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2019/10/28 (Mon) 14:38 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

もう虫も少なくなった季節にこの話(笑)
季節外れだよね~って思いながらの公開でした。

このお話を書いていたので「恋せよ乙女」に虫のネタを入れたんです(笑)
日本人の感性って素敵ですよね~。

最近は少なくなった季節行事も大事にしていきたいなぁって思いますね♡
明日のお話は類君です。宜しくお願い致します~。

2019/10/28 (Mon) 22:39 | EDIT | REPLY |   
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2019/11/03 (Sun) 15:58 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

えっ?!羽が段ボールはちょっと・・・(笑)
もう少し何かなかったの?

床下でね・・・(笑)
地下とか床下とか、下が好きなのね(笑)

私は出来たら上から覗きたいです・・・。
電気に群がるヤツで・・・あっ!消してるか💦  


ダメじゃんっ!!

2019/11/04 (Mon) 23:24 | EDIT | REPLY |   

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